学術雑誌論文の利用半減期とエンバーゴの長さを巡る議論

2013年12月18日に公開された学術雑誌論文の利用傾向に関するレポートについて、出版者と大学図書館の関係者にインタビューを行った記事が2014年1月6日付けでLibrary Journalオンライン版に掲載されています。

同レポートは米国出版社協会(Association of American Publishers:AAP)の資金提供を受け、Philip Davis氏が行った調査に基づくもので、2,812の学術雑誌について、掲載論文の利用データに基づき利用半減期(当該雑誌に掲載された論文の累積ダウンロード数が総ダウンロード数の半分に達するまでの期間の平均値)を算出し、分野ごとの状況等を示しています。調査結果によると、利用半減期が12カ月以下の雑誌は全体の3%程度で、最も利用半減期の短い医学分野でも利用半減期の中央値は25-36カ月、最も長い人文学、物理学、数学分野では利用半減期の中央値は49-60カ月であったとしています。なおDavis氏は学術情報流通分野で研究活動も行っていた元大学図書館員で、現在は独立してコンサルティング会社を立ち上げています。

Library Journal誌の記事ではこの結果について、Oxford University Press(OUP)の編集者であるDavid Crotty氏と、米デューク大学Office of Copyright and Scholarly CommunicationのDirectorで、米SPARC運営委員でもあるKevin L. Smith氏にインタビューを行っています。

OUPのCrotty氏はDavis氏の調査の結果に基づいて、2013年に米国大統領府科学技術政策局(OSTP)が発表した公的助成研究成果のオープンアクセスを命じる指令の中で、エンバーゴ期間を12カ月とするよう求められていたことを批判しています。この期間は米国国立衛生研究所(NIH)の支援を受け、PMCに収録されていた医学分野の論文のデータに基づいて決められたものでしたが、Davis氏の調査結果によれば医学分野は最も利用半減期の短い特殊な分野であり、それに基づいて利用半減期に比べ短すぎるエンバーゴ期間が設定されてしまうことで、読者は雑誌を購読するのではなくオープンになるのを待つようになるのではないかとCrotty氏は懸念しています。

一方、Smith氏はこのCrotty氏の懸念を一蹴しています。Smith氏はそもそも利用半減期と雑誌を購読するかキャンセルするかの間に関係があるかも疑わしいと述べた上で、仮に両者の間に関係があったとしても、OSTP指令の主旨は連邦政府の支援を受けた研究の成果は公に公開されるべきであるという点であって、出版者の利益を考慮する必要はないとしています。

New Study Identifies Half-Life of Journal Articles(Library Journal、2014/1/6付け)
http://lj.libraryjournal.com/2014/01/publishing/new-study-identifies-half-life-of-journal-articles/

NEW REPORT RELEASED TRACKING USAGE PATTERN OF ACADEMIC JOURNAL ARTICLES (AAP, 2013/12/18)
http://publishers.org/press/124/

Journal Usage Half-Life (PDF)
http://www.publishers.org/_attachments/docs/journalusagehalflife.pdf

参考:
米国出版社協会(AAP)、学術雑誌論文の利用傾向に関するレポートを公表
Posted 2013年12月19日
http://current.ndl.go.jp/node/25122