国際図書館連盟資料保存コア活動(IFLA/PAC)アジア地域センターの最近の活動 / 那須雅熙

国際図書館連盟資料保存コア活動(IFLA/PAC)アジア地域センターの最近の活動
Recent activities of the IFLA/PAC Regional Centre for Asia

那須 雅熙
(IFLA/PACアジア地域センター長、国立国会図書館収集部司書監)

Masaki Nasu
Director of the IFLA PAC Regional Centre for Asia, National Diet Library


1.防災活動について
1.1. スマトラ沖地震・津波について

 IFLA/PACアジア地域センター長として、今年の初めは、スマトラ沖地震と津波のことで頭が一杯でした。今、パキスタンの地震が大変気になっております。

 当時、アジア地域センターは、先ず被災状況の情報収集にとりかかりました。東南アジア地域を一緒に担当しているIFLA/PACオセアニア・東南アジア地域センター長(オーストラリア国立図書館)のコリン・ウエッブ氏に相談したところ、彼は被災地の国立図書館にいちはやく連絡をとり、調べた被災状況を知らせてくれたのです。私は、インドに連絡をとりました。国内的には、関係機関との意思疎通に努めることとし、五人委員会や日本図書館協会と連絡を取り合い、また定期的に行っている「資料保存懇話会」で、国立公文書館等の代表の方々とも懇談しました。集めた情報は当館ホームページ、当館が編集しているアジア・オセアニア国立図書館長会議(CDNLAO)ニューズレター等を通じて関係者と共有を図りました。その後、IFLA本部は「復興開発パートナーシップ」を作成し、各国の図書館協会に協力を要請しました。

 しかし、図書館や文書遺産の復興活動は、まだ広く展開されるところまでにいたっておりません。その理由としては、何人もの死者やけが人が出ているなかで、人命救助やライフラインの整備が文化的な復興よりも優先されざるを得なかったこと。図書館の被災は、施設、サービスシステムといった基盤そのものの崩壊が大半であり、資料の保存・修復という枠組みをはるかに超えたものであったこと等でありました。

 現地ではようやく文化的な復興支援活動も始まりましたが、前のお三方の報告にもありますように、文書遺産、図書館、文書館、教育施設の復興はまだまだこれからなのです。日本からは5億ドルを投じた国の復興支援活動が行政府や国際協力機関を通じて実施されましたが、国際協力機構(JICA)による坂本勇氏たちの活動や学校建設を除いて図書館や文書遺産の復興支援協力はまだかと思います。本日のセミナーを梃子に、支援活動が広がり活発になってくれればと願っております。


1.2. パキスタン大地震について

 10月8日に起きたパキスタン大地震から、2ヶ月が経ちました。インドネシアのラフマナンタ館長からメールをいただきまして、このセミナーのテーマにスマトラ沖だけでなくパキスタンも加えるべきではないかというご意見をいただきました。私もパキスタン国立図書館長にお見舞いのメールをお出しして、被災状況などがわかったら教えてくれるように申し上げましたが、今のところ、何のご連絡もいただけません。恐らく、今はそれどころではないということでしょう。被害にあった人々の救済が先決ですが、貴重な文書遺産や図書館、文書館の被害が少ないことを祈りたいと思います。

 アメリカのハリケーン被害といい、世界のいたるところで、災害が頻発しています。かけがえのない貴重な文書遺産を護るために、私たちができることは何でしょうか。復興はどのようにしていったらよいでしょうか。被災はいつ何時起きるかもしれません。アジアで起きた二つの大きな災害から、私たちが学ぶべきことはとてつもなく大きいと言わざるを得ません。


1.3. アジア地域センターの防災活動

 アジア地域センターは、先ほどバーラモフ国際センター長が報告されたようなIFLA/PACの防災プログラムに協力し活動することを要請されています。センターの任務は、以下のようなものだと思います。


(1)防災に関する知識・情報を地域内に広め、防災意識を高めること

(2)地域の国立図書館を中心にその国の防災計画をたてることを推奨し、災害に対する日常的な備えを行うよう指導すること

(3)ひとたび災害が起きれば、被災した国の国立図書館や被災した保存機関と連絡をとり、情報を収集するとともに、適切な処置が行えるよう復旧の方法や技術について知識・情報を提供することです。

 さらに、最近は、ブルーシールドの理念や「IFLA復興開発パートナーシップ」により、

IFLA/PACコア活動に対して、

(4)被災状況や復興支援ニーズに関して専門的な評価や査定を行い、基金等の財政支援を得て、修復・保存専門家を斡旋し、派遣するなど、復旧支援活動に関与し、指導的役割を担うこと等が期待されるようになっています。しかし、地域センターの役割についてはまだ明確ではありません。

 アジア地域センターは、あの神戸大震災を境に、毎年開いている「保存フォーラム」でずっと災害問題を取り上げてきました。さらに現在、順次、当館の資料防災計画を策定し、国のガイドラインとして他の図書館の参考にしてもらうべく努力をしています。また、スマトラ沖・津波に関しては、先ほど述べたような活動を行いましたが、坂本勇氏がIFLA/PAC発行の「International Preservation News」の最新号に、「地域センターが情報収集・提供を行い、支援ニーズを理解し、緊急支援をスタートするための救援基地として機能していたら、現地でうろたえている図書館や文書館の職員を元気付け、役に立ったであろう。」と述べておられるように、被災国とのコミュニケーション、情報提供の面で課題を残しました。

 国内では、今年になって、文化庁と外務省で、戦後署名したハーグ条約の批准と国内法整備に向けて国会への法案提出をめざして検討が進められております。国内法に基づき、近くブルーシールド国内委員会が設置され運営されるものと思われます。「IFLA復興開発パートナーシップ」については、日本では、図書館や文書館における国際協力に関する予算が、その活動主体に直接配分される構造にはなっていませんので、IFLA基金を樹立することは現状からすれば極めて困難であろうかと思われます。しかし、少なくともJICAや国際交流基金等の国際協力機関や民間の各種財団により、途上国開発支援や災害被災国への救済支援が実施されており、一定のメカニズムはすでに形成されています。

 要は、関係者の文化財保存や文化財の災害復興に対する理解と意識の向上、諸外国との日常的、積極的なコミュニケーション、災害支援に関して緊急対応できる組織の確立、イニシアチブをとり調整できる機関の存在とネットワークの形成が必要なのだと思われます。たとえば、行政府の方でも、2004年8月に策定された「文化財の国際協力の推進方策について」(文化財国際協力等推進会議)(文化庁文化財部伝統文化課、外務省大臣官房文化交流部)において、文化財の保存修復に関する文化財国際協力コンソーシアム(仮称)の構築が提言されており、さまざまな活動を調整する役割の重要性が指摘されています。

 アジア地域センターとしては、今後、広くこのようなコンソーシアムと協働する仕組みを考えていくことが大事であるように思います。


2.アジア地域センターの最近の活動

 では、この機会と場をお借りしまして、アジア地域センターのその他の活動について、簡単にご報告させていただきます。

 PACの地域センターは、現在世界各地の12か所に置かれています。各地域センターはPAC国際センター長との間で協定書を取り交わし、それに基づいて運営されています。

 国立国会図書館が、1989年にアジア地域センターに指定されてから既に16年になりました。アジアには、現在、当館と同時に指定されたオーストラリア国立図書館のオセアニア・東南アジア地域センターと、昨年指定された中国国家図書館の中国地域センターの3つの地域センターが活動しています。また、近年は東南アジア、南アジアにも地域センターの必要性が指摘されているところです。


2.1. 役割・機能について

 アジア地域センターの機能・役割は、具体的には、その時期のIFLA/PACの戦略計画や協定書、これまでの活動による経験、地域内の保存ニーズや要望等によって定まります。現在の機能・役割は、以下のようなものだと思っています。また、数年前に各センターに得意分野が設けられ、アジア地域センターは、紙資料の保存の分野における貢献も求められています。


(1)保存情報サービス

  • 保存関連情報の収集・管理・提供
  • レファレンス・サービス
  • 保存問題に関する刊行物の作成・配付

(2)調査研究の奨励

  • 保存科学
  • 各種メディアの保存
  • 製本・修復技術
  • アジア特有の保存問題

(3)教育・研修活動

  1. ワ−クショップ・セミナー・シンポジウム等の開催
  2. 研修事業(保存技術者・管理者の養成)
  • 受託保存研修事業
  • 講師派遣事業
  • 館外の保存技術者・管理者の斡旋、紹介

(4)得意分野(紙資料の保存)における活動


2.2. 最近の主な活動

 アジア地域センターは、この2〜3年、収集部資料保存課と連携して以下のような活動を行ってきました。

(1)アジア諸国の保存機関とのコミュニケーションの強化

 地域内の保存機関のダイレクトリー、メーリングリストの整備を図るため、各機関に情報提供を依頼したり、CDNLAO会議で呼びかけをしたりしていますが、なかなか情報が集まらないので、今後もありとあらゆる方法や機会を利用していきます。

(2)ネパール国立図書館への保存協力

 国際協力機構(JICA)シニア・ボランティアとしてネパール国立図書館で協力活動をなさっておられた山田伸枝氏からの要請と、ネパール国立図書館長の依頼に基づき、現地調査を行ったうえで、JICAのご協力により2004年10月18日から12月1日まで同館職員のバッタライ氏に資料保存を中心とした研修を行いました。主な研修内容は、保存・修復方針の策定指導及び技術指導、国立図書館の役割・機能・活動について、ならびに公共図書館及び保存関係機関での研修や見学でした。また今回の研修が国立図書館だけでなく国全体に継承・定着できるように、国際交流基金の助成を得てカトマンズのアサ古文書館で巻物型パームリーフの修復・電子化を行なっている「アジア文化財保存修復会」が保存に関するセミナーを開いてくれるなど、現地の保存協力活動と連携し継続的支援を行っています。国際的な保存協力はこのように単発的なものでなく、現地でのさまざまな支援協力活動と連携する総合的、計画的、継続的な活動が必要であると認識しています。

(3)日中韓の保存協力

 当館における韓国からの研修グループの受入れに引き続いて、2004年11月に韓国国立中央図書館主催の「韓中日資料保存会議」が開催され、発表、懇談を通じて、東アジアにおける保存協力の推進に向けた第一歩を印しました。中国国家図書館は、昨年からIFLA/PAC中国地域センターを引き受けておりますが、センター間の協力のみならず、今後、韓国国立図書館を加えた3か国で、共通する保存問題について連携協力をしていきたいと思っています。

(4)資料保存懇話会

 資料保存懇話会は、文書遺産を次世代に残すという課題に応えるため、情報交換を通じて知識・経験の共有を図るとともに、併せて、資料保存の全国的推進とIFLA/PACアジア地域センターの活動に資する目的で一昨年度から開催しています。図書館の枠を越えて公文書館、博物館、美術館、大学、企業に所属する資料保存に関する専門家及び研究者が集まり、既に3回の会合が重ねられました。

 第1回の懇話会では、資料の保管要件、専門職員の養成、それぞれの機関の保存対策や直面している問題など実質的な意見交換を行ないました。第2回においては、文書遺産保存の最近の国際動向を中心テーマとして取り上げ、IFLAの資料保存関係会議、国際文書館評議会(ICA)大会の報告や「紙資料保存における湿度の影響と促進劣化法」の最新研究情報について報告があり、懇談しました。第3回では、昨年起きた新潟県中越地震及びスマトラ沖地震・津波による図書館等の資料の被災状況とその対応に関する問題を取り上げ懇談しました。被災した側がどこに資料救助を要請したらいいのか知らない状況も問題であり、緊急時に適切な情報収集・情報発信を行える、資料保存に関する総合的な窓口の必要性が指摘されました。

(5)新刊資料pH調査と中性紙使用普及のためのマニュアル

 当館では、国内の新刊資料の中性紙使用率調査を1986年以来行っています。調査結果を公表することで、出版界、製紙業界に保存性の高い中性紙やパーマネントペーパーの生産、使用を呼びかけてきました。現在、第18回調査を実施中で、調査結果は今年度中に公表する予定です。ちなみに、2003年10〜11月にかけて行った第17回調査では、中性紙使用率は調査開始当初民間出版物で51%、官庁出版物で32%であったものが、全体で91.4%と初めて9割を超え、内訳は、民間出版物91%、官庁出版物92.3%、図書が94.6%、逐次刊行物では86.9%でした。調査対象のなかで再生紙の割合は7.4%と再生紙利用が増えておりますが、再生紙の中性紙使用率も93.3%と上昇しています。強度など再生紙のもつ問題点については、調査研究中です。

 アジア地域センターとしては、これまでの成果に基づき、中性紙使用普及のためのマニュアルを作成し、アジア各国で参考にしてもらいたいと思っています。

(6)広報活動

 広報活動としては、2003年に「IFLA Principles for the Care and Handling of Library Material」の日本語版「IFLA図書館資料の予防的保存対策の原則」を日本図書館協会から刊行し、電子版を国立国会図書館のサイト、及びIFLANETに搭載しました。また、「International Preservation Issues」の4、5号を邦訳し、今年度は、「写真の保護、取扱い、保管」を来年度には「ブルーシールド―危機に瀕する文化遺産の保護のために」を刊行し、国立国会図書館のサイトやIFLANETでも見られるようにします。また、「International Preservation News」に時々論文を発表しております。最新号の36号には坂本勇氏に『文化財を含むスマトラ沖大地震・津波の被災』を寄稿していただくため編集協力をしました。その他、 NDL Newsletter (139)や CDNLAO Newsletter にも発表しています。また来年3月マニラで開催される予定の第13回東南アジア図書館人会議(CONSAL)資料保存セッションで私がペーパーを発表する予定です。


3.今後の活動について

 明日、当館において、本日講演していただいた方々にも出席していただいて「アジアIFLA/PAC地域センター長等会議」を開くことになっています。そこで議論されたことを踏まえて、今後の活動方針を定めることにしております。が、アジア地域センターは、その役割・機能に照らして、今後さらにアジアにおける国際的諸活動の強化を目指す必要があります。

 アジアの国々に対し、ホームページを通じて、保存情報サービスを展開できたらと思います。そのために、保存関連情報の収集に努め、保存に関する調査研究を奨励しその成果を蓄積しておく必要があります。また、資料保存対策が必要な国々が主体的に保存ニーズを調査し、資料保存方針を定め、実行できるように、研修生の受入や職員派遣を通じて、それらの国々に対する支援協力活動を行っていく考えです。得意分野の紙資料の保存については、伝統的な紙に関する共同研究を実施するなどアジアの国々との連携協力の強化を図ります。災害対策とその復興に関しては、やはり、日常的な活動、日常的なコミュニケーションがあってこそ、緊急時の支援活動ができるのだと思います。

 言うまでもなく、国際的な保存協力活動には予算や保存専門家といった相応の資源と関連する活動との調整が必要になります。アジア地域センターは、これまで、国立国会図書館の資源のなかでやりくりをし、加えて国際交流基金、JICA、民間の各種財団等のご協力により活動してまいりました。今後、さらにその活動を強化し効果的に展開していくためには、ODAによる文化協力、JICAによる技術協力、国際交流基金の文化財保存助成、ユネスコの活動、民間の国際的保存協力活動、各種民間財団、NPOといった諸活動と、もっと連携協力する必要があると考えています。

 なお、来年の第72回IFLA大会は8月20日から24日まで隣国のソウルで開催されます。その直前の8月16日と17日に、この講堂におきまして、IFLAの資料保存分科会、アジア・オセアニア分科会、PACコア活動および当館のアジア地域センターが共催して資料保存に関するプレコンファレンスを開催する予定です。テ−マは、「アジアにおける資料保存」で2部構成とし、第1部はアジアの資料保存をめぐるさまざまな問題、第2部はアジアの文書遺産のマイクロ化、電子化を取り上げ世界各地からその分野における代表的な講師をお招きすることになっています。危機的な状況にあるアジアにおける資料保存の実態を把握し、保存ニーズを明確にして、現在の保存活動を調整するとともに将来の保存協力のあり方について論議したいと思います。引き続き、アジア地域センターの活動についてご支援をお願いいたします。