スリランカにおける図書館の津波被害:再建のプロセスと課題 / ウパリ・アマラシリ

スリランカにおける図書館の津波被害:再建のプロセスと課題
Tsunami Affected Libraries in Sri Lanka: Rebuilding Process and Challenges

ウパリ・アマラシリ
(スリランカ国立図書館長)

Upali Amarasiri
Director General of the National Library and Documentation Centre of Sri Lanka


1.背景

 スリランカは、インドの南端に位置する熱帯の島です。スリランカは美しい自然を有していることで古くから知られ、昔の旅行者が「インド洋の真珠」や「地上の楽園(Serendib)」と名づけたほどです。またスリランカは他のアジア諸国と同じく古くから文明が発達し、経済・文化が高度に発展したことでも知られています。

 スリランカの人口は約2千万人で、主なエスニックグループは、シンハリ族(70%)・タミル族(20%)・ムスリム(8%)の3つであり、その他が2%を占めます。


2.壊滅的被害

 2004年12月26日に発生したスマトラ沖地震に伴うインド洋津波は、アジアの多くの国々(すなわちインドネシア、スリランカ、インド、タイ、マレーシア、ミャンマー、モルディブ、バングラディッシュ)に甚大な被害をもたらしました。津波は、はるか東アフリカまで到達し、ソマリア、タンザニア、ケニアなどにも影響を及ぼしたのです。

 東アジアや太平洋地域で津波が起こるのは珍しいことではありませんが、これほど大きな津波が東南アジアに発生したのは記録に残る限り初めてとのことです。


3.被害の状況
3.1. 一般的な被害の状況

 津波はスリランカの海岸地域の60%に深刻な打撃を与え、死者は3万8千名以上に及びました。8万戸の家屋が失われたほか、学校(182校)・大学(4校)・高等職業訓練学校(3校)・職業訓練施設(10施設)も被害をこうむりました。道路・鉄道・通信・電力・水資源・観光・漁業に与えた影響もきわめて深刻です。また、砂丘・ラグーン・海岸付近の植生にも多大な被害を与え、深刻な環境破壊を引き起こしました。

 公的機関も人命やインフラを失っただけではなく、重要な記録・文書類の喪失という事態への対応を迫られました。人口密度が高い南部州の選挙人名簿すべてや、60万件に及ぶ土地調査部の不動産登記簿(地籍図)も、津波によって消滅してしまったのです。市民も重要な記録―不動産の契約書類や証明書、銀行関係の書類、教育・出生・結婚・死亡に関する証明書など―を失いました。

 スリランカにおいて、津波によって失われた資産やインフラ被害は、米ドルに換算して10億ドル(GDP 5%相当)に及ぶと推定されています。また雇用の喪失も27万5千人に及ぶということです。


3.2. 図書館における被害

(1)学校図書館

 国内9,790校のうち、被災した学校は182校です。学校図書館も倒壊したり、深刻な被害を受けたりしました。さらに、282の学校が被災者の避難所として使用され、被害を受けました。

 この大災害のために、学校図書館では約120万冊(図書や他の図書館資料)が失われたと考えられます。受入れ簿や図書館のカード目録も被災してしまったため、被災した図書や他の図書館資料の正確な数は確定できません。被害を受けた図書館資料は、図書、逐次刊行物、新聞、視聴覚資料などであり、学校図書館の中にはコンピューターやフロッピーディスクにも被害が及んだ館もありました。なお、いくつかの学校図書館は最近決定された学校図書館の発展・近代化プロジェクト(国際的な援助団体の支援を受けて政府が実施しているプロジェクト)の支援を受けている館でした。

(2)公共図書館

 950館の公共図書館のうち、62館が被害を受けましたが、特に28館の被害が深刻です。スリランカにおける最初の公共図書館の成立は1825年にさかのぼり、スリランカの公共図書館ネットワークは古くから発達しているといえます。スリランカの公共図書館を運営する地方自治体は、都市部(municipal council)、半都市部(urban council)、農村部(pradeshiya sabha)の3種類です。スリランカにおいては、早くも1931年に普通選挙制が敷かれ、議会制民主主義の導入も早かったのです。また政治参加も階層を問わず進んでおり、識字率も95%と高くなっています。さらに無償の義務教育制度も整備されており、1970年にはスリランカ国立図書館も創設されました。こうした条件が重なり合って、スリランカの公共図書館サービスは発展を遂げてきたのです。

(3)団体図書館

 スリランカでは、青年団・読書サークル・村落振興協会などの任意団体が各々独自の図書館を設置しています。これらすべての図書館が専門的に組織・運営されているわけではありませんが、これらの図書館は、それぞれの奉仕対象となる人々の読書振興に貢献するという形で、有意義なサービスを提供しています。こうした図書館のうち約40館が津波に襲われました。

(4)寺院図書館

 海岸付近の多くの仏教寺院もまた津波の被害を受け、貴重な寺院図書館のコレクションも失われました。パームリーフ(貝多羅葉)文書やアーユルヴェーダ(Ayurvedha)と呼ばれるこの地域固有の伝統医学に関する珍しい資料が津波で消えてしまったのです。

(5)その他の図書館

 上記の他に研究図書館数館も被災しました。スリランカ水資源研究機構(National Aquatic Research Agency)、スリランカ港湾局(Sri Lanka Harbour Authority)、スリランカ海軍・海事博物館(Sri Lanka Navy and National Maritime Museum)付属の図書館が、津波の被害を受けました。さらに、多くの私設図書館も津波に流されました。


3.3. 被害の特徴

 津波を目撃した人の話によれば、2つの大波が数分の間に海岸を襲ったということです。波の速度は大変速く、波は建物を地面になぎ倒したり、激しく損壊させたりしました。最初の波では倒れなかった建物も第二の波に破壊されました。第二波のほうが、威力があったからです。

 津波のもうひとつの特徴は、陸に向かう波と、海に向かう波の両方が起こったことです。海から陸へと押し寄せた波は、陸から海へ向かう波を起こすほどのエネルギーで引いていきました。引いていく水は、単にすでに弱った建物や地盤にダメージを与えただけではなく、本をはじめ他の多くのものを海に流し去ってしまいました。津波の当日海から戻った漁師は、膨大な数の遺体や家具や瓦礫が海に浮かんでいるのを目撃した、と語っていました。


4.再建と復興

 「図書館・文書館のためのスリランカ災害対策委員会」(The Sri Lanka Disaster Management Committee for Library,Information Services and Archives:SL DMC for LISA)が、この予期せぬ非常事態に対応するために結成されました。この災害対策委員会には、スリランカ国立図書館、国立公文書館、スリランカ図書館協会、スリランカ科学財団(National Science Foundation)、その他図書館関係の主要教育機関や、関係団体などが参加しています。


4.1. 特別チーム

 災害対策委員会を支援するため、多くの特別チームが設立されました。たとえば救急支援、図書館設備・建設計画、IT計画、教育・訓練計画、保存修復、選書、学校図書館振興、公共図書館振興、一般図書館部門、さらに相互協力といったチームです。各チームは、8〜12名の図書館関係者・IT関係者・政府・関連分野の人々からなり、災害対策委員会への助言や担当の課題の計画立案をチームで行います。これらの特別チームを通じて、図書館や関連分野の専門家が、より広く参画できるようになっています。


4.2. 諸団体の参加

 国立図書館は、図書館に関する計画の立案や再建活動において、つねに草の根レベルと連絡をとっており、すべての図書館委員会、読者サークル、その他の図書館の付属団体などが再建に参加できるよう呼びかけてきました。図書館委員会が機能していない場合には、図書館員や自治体は緊急に新しい組織をつくるよう指示されます。以前の委員会メンバーを津波で何人か失ったため新しい委員会を作らなければならない図書館もあったそうです。国立図書館と災害対策委員会は、関係公務員や図書館員などとともに、復興対策を計画するため多くのセミナーを開催しました。


4.3. 復興の進捗状況

 政府とNGOは、3つの段階をとって津波災害に対応しました。津波直後、非常時からの転換期、長期的な復興期です。

 津波直後の段階での主な活動は、当座の避難場所・食料・医薬品・医療施設の確保や、心理的なケア、被害状況の把握です。第二の段階では、仮設住宅の提供や、インフラの回復(道路、鉄道、電気、水)などの対策がとられました。第三の段階では、より長期的な復興を扱うことになり、住宅の建設、学校や病院、道路の再建のほか、被災者の生計の回復などが計画されています。現時点で、すでに被災から約1年が経過しており、スリランカは目下第二、第三の段階にあるといえます。


5.再建への課題
(1)土地の不足

 土地の不足は、再建プログラムの実施にあたって政府・地方自治体の両方にとって大きな障害のひとつです。住宅、学校、図書館、病院、その他必要性の高いインフラ設備の建設には広大な更地が必要なのですが、安全性の観点から、政府は海岸から100メートル以内の住宅建設を法令で禁じており、このことが土地不足に拍車をかけています。特に土地不足が深刻なのは、人口が密集している西部州・南部州です。というのも、緩衝地帯の外の土地の大部分にはすでに建物が建ったり、大規模農地として作付け済みであったりするからです。また、避難者たちも元の居住地から遠くには移りたがりません。さらに、緩衝地帯の外部の土地所有者が価格をつりあげ、その価格高騰のため状況が悪化しています。政府だけでなく、外国人支援者もこの状況に不満を募らせています。

(2)図書館員のトラウマ

 図書館そのものやコレクションを失ったり、よく知っている図書館利用者、そしてときには親類や友人を失ったりしたことで、被災した図書館でサービスにあたる図書館員は心理的に大きな衝撃を受けました。臨時の開館場所を探して一から図書館サービスを始めなければならなかった者もいれば、被災した建物を復旧させたり、被災したコレクションや、家具、設備を修理したりする必要に迫られた者もいました。学校や地方自治体など図書館の上部機関は、津波による無数の課題に動揺しており、図書館員は図書館サービスの復興にあたり、非常に苦労しました。救い出された図書館資料も利用者や図書館員の健康に害を与えることがあり、このこともさらに重荷となったのです。

(3)被災した図書館資料の保存修復

 津波特有の事情として挙げられるのは被災資料の保存や修復が難しいことです。津波で海底が崩れたため、海水には泥、砂、ミネラル、その他多くの物質が混ざっています。スリランカ国立公文書館の保存修復室で行われた実験によれば、津波に被災した紙は通常の海水で濡れた紙と比べて酸性物質をより多く含んでいます。ですから、津波に被災した資料の保存という未開拓の課題をさらに研究し、津波被災資料に対する特別な処置を模索していかねばならないのです。

(4)官僚との連携

 復興活動の目下の課題のひとつは、政府官僚との連携や交渉です。津波の直後は、被災地近辺の公務員は、精力的に働かざるをえませんでした。そして彼らの多くは、世間からも国際的な団体からも高い評価を得ました。しかしながら、この未曾有の再建計画において決定や救済措置が必要になると、まさに同じ公務員が障害となってしまうのです。というのも、規則や規定に杓子定規に従おうとするからです。こうした状況を克服するために、政府は再建活動を調整し、再建を円滑に進める特別機関「国家再建のための特別チーム」(Task Force to Rebuild the Nation : TAFREN)を設置しました。それでも、一方で草の根レベルの公務員は、実質的な役割を果たしています。

(5)NGOとの連携

 安全と復興活動に取り組むNGOにも、多大な支援が寄せられています。諸外国の政府援助に広く不信感があるため、災害以後NGOが激増しています。政府の機構は、しばしば非能率的で、官僚的で、堕落していて、そしてあまり親切ではない、と思われてきました。スリランカで必ずしもあてはまるわけではないにせよ、一般論としてはそうかもしれません。しかしNGOの中には、この機会を資金集めに利用し、しかも集めた資金を自分たちのために使った団体もあります。NGO活動に対する規則や規制は皆無であり、不届きなNGOは、被災者の苦労につけこみ続けているのです。

(6)政治家との連携

 国会議員や地方議員は、復興や、再建活動に重要な役割を果たしています。国会議員(特に与党議員)は政策決定のプロセスで発言権を有しているからです。時には野党議員から、自分たちの地域は継子扱いだという不満が出ることもあります。

(7)図書館対策の優先順位

 津波直後には、政府、国際団体、NGOなどはまず最優先の課題として、必需品の供給やインフラの回復に集中していました。そのため、われわれは図書館の発展や復興の優先順位は相対的に低いのだと痛感させられました。こうした状況において、国立図書館と災害対策委員会は、図書館の復興がより長期的な展望の中で位置づけられるようにするべく、粘り強く働きかけを行いました。

(8)国内の紛争

 現在、復興活動にあたって最大の障害となっているのは20年来のスリランカ内戦です。この紛争によって国内は二分してしまい、ひとつの国家としてまとまって計画を推進することが難しかったのです。政治的な問題がクリアできていれば、この緊急時に外国からの援助がもう少し速やかに得られたでしょう。


6.再建へ
(1)学校図書館の再建

 当然のことながら、被災した学校の再建は最優先課題とされており、この努力は政府と支援団体との間で締結された163の覚書に沿う形で、国内外の組織によって実施されつつあります。教育省の計画によると、ひとつの学校につき少なくとも4千万スリランカ・ルピー(40万米ドル相当)がかかり、この費用には理科実験室、マルチ・メディア教室、最新のコンピューター学習センター、大きな図書館、体育館が含まれているとのことです。これらのすべての学校は、独立した学校図書館を持つか、あるいは新しい建物の一部を図書館として使う形で設計されています。

(2)公共図書館の再建

 学校図書館部門と異なり、公共図書館はそれぞれの自治体に所属しているため被災図書館の再建にあたって中心となる計画や復興のためのメカニズムを持っていません。その一方で自治体が被災者に住宅を供給するといったより切実な問題を抱えている場合、図書館再建の優先順位は低くなります。こうした事情を考慮し、スリランカ国立図書館は、現在公共図書館部門の支援に特に力を入れています。多くの外国のNGOが、その支援の対象を公共図書館の再建や施設・設備にまで広げました。スリランカ国立図書館は、数館に対しては図書館家具だけでなく図書館資料も供給しており、残りの図書館に対してもこのような支援を始めています。

(3)図書館の再建計画

 国立図書館と災害対策委員会は、建設コストが安く、魅力的で、かつ機能的な新しい図書館を建築することを切望しています。津波に耐えられるような図書館建築(たとえば多くの柱に支えられた設計)を検討している図書館員もいます。すでに、沿岸地域の建物のデザインは、津波の影響を考慮に入れて変わってきています。こうしたわれわれの努力を支援するべく、ユネスコは図書館建築専門の建築家の派遣を承諾してくれたところです。


7.実行中の支援活動
(1)図書や図書館資料の提供

 被災した図書館は図書等の図書館資料を緊急に必要としていますが、さまざまな支援者(学校の生徒、出版社、書店、篤志家、支援団体)のおかげで、この需要の一部は満たされました。スリランカ国立図書館も多くの図書を提供し、さらに海外在住のスリランカ人や、海外の関係団体からも古本が寄せられています。

(2)貸出図書ボックスの提供

 国立図書館は、鍵のかかる貸出図書ボックスに貸出サービスのガイドを添えて、避難所や仮設住宅に図書類を提供しています。このサービスは、そうした場所の住民に読み物を提供するための一時的な対策と考えられています。図書館員の役割を果たす人は、各避難所等の住民の中から選ばれています。

(3)図書館家具・設備の提供

 先述したとおり、図書館の家具のかなりの量も津波の損害を受け、図書館家具については、館種を問わずあらゆる図書館から強い要望があります。図書館の建物がすでに崩壊したり、波に流されたり、津波の後の混乱や盗みによって家具がなくなったりしてしまったのはやむをえないとしても、学校の家具を薪にしてしまった被災者がいたことさえ判明しているのです。

 この7ヶ月間、国立図書館は、閲覧机、椅子、各種の書架といった基本的な図書館家具を数多くの図書館に提供することに努め、基本的なサービスを再開できるように援助しました。また、次回配布分として700万スリランカ・ルピー(7万米ドル相当)の図書館家具が発注済です。

(4)セミナー、ワークショップ、トレーニングコースの開催

 スリランカ国立図書館は、図書館員・校長・地方公務員向けに、既に多くのセミナーや、ワークショップ、ミーティング、訓練プログラムを実施しました。これらの活動の目的は、この未曾有の状況に立ち向かうための必要なノウハウの伝達だけでなく、精神的な援助を与えることにもあります。図書館資料の保存・修復のためのワークショップやセミナーは、被災した資料の修復に取り組んでいる図書館員の助けとなりました。

(5)図書館間の協力

 長期的な持続可能性を保証することを目指して、各被災図書館がそれぞれ2つの図書館と連携することが検討されています。ひとつの被災図書館がひとつの海外図書館及びひとつの地域の図書館と連携するのが理想型といえるでしょう。私たちはこの新しい三角協力モデルが、グローバルなレベルでの緊密な図書館協力につながることを望んでいます。支援にあたる2館には、専門的・物質的な援助を行ったり、状態を調査したり、一般的な支援を行ったりと可能な限り被災図書館を援助することが求められます。

(6)出版プログラム

 津波で被災した子供たちのために良質な児童書を出版することを目的とした多くの計画も進行中です。最近、国立図書館は「津波被災児童のための本のプロジェクト」(Tsunami Children’s Book Project)という名前で、15冊の良質な児童書(シンハリ語7冊、タミル語5冊、英語3冊)を刊行する計画を立ち上げました。執筆者は、支援目的にふさわしい原稿の提出を求められています。このプロジェクトの目的は、勇気、決断、そして人生の障害の克服といったテーマの良質な児童書を世に送り出すことにあり、既に相当量の原稿が届いています。


8.結論

 概してスリランカはまだ津波の被害に懸命に取り組んでいる最中です。再建のための取り組みは、住宅の供給や、被災者の生計の回復、学校・病院・道路・その他のインフラ施設の再建に対して重点的に行われています。学校システムに不可欠なものとして学校図書館の再建は優先度が高いですが、他の館種の図書館も、スリランカ国立図書館やその他の支援者から実質的な援助を受けています。図書館界の再建というプロジェクトの成功のためには、都市や地域の再生、社会基盤の整備を含めた政府の復興目標全体が達成されなくてはなりません。その成否は、国際的な援助をいかに円滑に分配できるか、またこの援助をいかに有意義に利用できるか、そして安定した、物事を進めやすい環境が国内に広く行きわたるか、にかかっているでしょう。