IFLA/PACの防災プログラムについて / マリー=テレーズ・バーラモフ

<基調講演>

IFLA/PACの防災プログラムについて
Disaster Programs of the IFLA PAC

マリー=テレーズ・バーラモフ
(IFLA/PAC 国際センター長,フランス国立図書館)

Marie-Therese Varlamoff
IFLA PAC Director


 このセミナーにお招きくださり基調講演の栄誉にあずかりましたことを黒澤隆雄国立国会図書館長にお礼申し上げます。また、国立国会図書館及び那須雅熙IFLA/PACアジア地域センター長におかれましては、インド洋地域の多くの図書館に被害をもたらした津波後のパートナーシップの強化を図るため、このような会合の場を率先して設けられましたことを、心よりお祝い申し上げます。

 さて、自然災害や武力紛争は私たちにとって新しいことではありません。毎年、不測の事態によって、図書館、文書館、博物館で所蔵されている文化遺産が破壊され、私たちの記憶の一部が消滅しています。近年に至るまでこの間の劇的な事態を省みれば、文化遺産を脅かす危険が存在することは明らかです。イラク戦争によってイラクの重要な文化遺産が破壊されたのは文化関係者にとって衝撃的なことでした。洪水、火災、ハリケーン、地滑り等の自然災害は残念ながらなくなりません。インド洋地域の国々の海岸を襲った津波によって、私たちはみな、人間の生命のはかなさ、そして私たちが住んでいる世界のはかなさを思い知らされました。もし身の回りのものがすべて破壊されたら、皆さんの過去はすべて消え去ってしまうのです。皆さんはもはや存在しません。また、将来を描くことも大変難しくなります。経済的な損失を抜きにしても、災害は皆さんの文化的アイデンティティを奪い去るのです。

 本日、私は防災対策におけるIFLA/PACの役割と諸活動についてお話したいと思います。また、図書館、文書館、博物館等の諸機関が力を結集して武力紛争や自然災害の被害を軽減するために、どのような決断を下していったのかをお話します。次に、ブルーシールドの概念の背景と、災害の被害を軽減するために予防的措置を取ることがなぜ大切なのかをお話します。最後に、IFLAの復興開発パートナーシップへの取り組みについてご説明します。


1.IFLA/PACと防災計画に関わる諸活動
1.1. 2002年グラスゴー大会 − PACブルーシールド・セッション

 近年、頻発する多くの災害によって重要な文化遺産が被害を受けました。また、戦争や民族紛争、宗教紛争によっても、偶発的にあるいは意図的に重要な文化遺産が破壊されました。こうした事態を受けて、災害や戦争・紛争などから私たちの記憶をできるだけ永く保護し、将来世代へと継承するためのキャンペーンが必要とされたのです。忘却は将来のためになりません。図書館その他の文化機関は文書遺産の保護と保存に責任を負っていることから、IFLA/PACは2002年にグラスゴーで開催されたIFLA年次大会のすべての関連セッションをこの問題にあてることを決めました。セッションの記録は、“International Preservation Issues”No.4として英語とフランス語で刊行されました。タイトルは「ブルーシールド:危険に瀕する文化遺産の保護のために」です。この記録はIFLA/PACアジア地域センターである国立国会図書館によって日本語にも翻訳されました。また、ブルーシールドのポスターがポスター・セッションで展示されました。リーフレットも配布されました。こうした方法によって、文化財に関係するすべての人々が文化遺産の保護のために協働し、ブルーシールドに加わることの必要性を強調しようとしたのです。会議のおわりに、IFLA評議会は次のような決議を採択しました。「以下のように決議する。文化遺産を脅かす数多くの危険を考慮し、国家の重要なコレクションの保護に責任を負うすべての図書館は防災計画を策定し、検証し、また適用して定期的に更新すべきである。」この時期には、同時に、ヨーロッパ中部地域において洪水が発生し、多くの図書館コレクションが破壊されました。幸いなことに、プラハのチェコ国立図書館にはコレクションを救う時間的な余裕がありました。しかしながら、地下のIT関連設備は完全に浸水し、数週間にわたって稼動を停止しなければなりませんでした。この間、国立図書館は閉館を余儀なくされたのです。

1.2. 2003年ベルリン大会 − イラクでの戦争

 2003年春、イラクで戦争が勃発し、苦痛、負傷、犠牲者など、多くの被害が生じました。とりわけ文明発祥の地であるメソポタミアで起こったため、被害は一層ひどいものとなりました。2003年8月にベルリンで開催されたIFLA年次大会では、元PAC国際センター長(1992〜1994年)のジャン=マリー・アルヌー氏がイラクの図書館・文書館の状況について報告しました。アルヌー氏は、第2次ユネスコ使節団に参加し、戦争終了直後にイラクに派遣された人物です。アルヌー氏は、ユネスコによって開催された東京の会議から戻ってきたばかりでした。この会議は、ユネスコがイラクに派遣した使節団から報告を受け、今後の方針を決定することを目的としたものでした。皆さんの中にはこの会議に参加する機会のあった人もいらっしゃるかもしれません。IFLA年次大会の終わりに、IFLA評議会はイラクの図書館に関する決議を採択しました。要点は次のようなものです。

  • ユネスコ使節団がイラク全土の図書館・文書館の破壊や大きな被害を確認したがゆえに、
  • 情報への自由なアクセスと表現の自由を唱導するものとして、IFLAは、図書館が市民社会にとって極めて重要な存在であることを支持するがゆえに、
  • 記録された歴史と文化遺産の保存を唱導するものとして、IFLAは、これらの喪失がイラクの人々や人類に対してもたらす重大な意味を世界中の図書館員に認識させるうえで主たる役割を果たしてきたがゆえに、
  • 2003年IFLA年次大会での議論によって、イラク全土の図書館専門職、図書館のコレクション、システム、建物を再構築しようとする努力をめぐる複雑さに対する理解が深まったがゆえに、

以下のことを決議する。

  • IFLAの加盟機関は、すべての国がユネスコによる武力紛争の際の文化財の保護に関する条約(1954年ハーグ条約)とその議定書、特に第二議定書(1999年)を批准するように奨励しなければならない。第二議定書は文化財の保護を一層強化し文化財に対する戦争犯罪の概念を導入するものである。
  • IFLAは、すべての国が適切かつ強力な方策を講じて文化遺産の非合法取引を取り締まるように奨励すべきである。
  • IFLAは、加盟機関に対して、ブルーシールド国際委員会を調整機関として、国際的な協働に加わるように奨励すべきである。
  • IFLAの加盟機関は、自国においてブルーシールド国内委員会を設立するように奨励すべきである。
  • イラクの図書館及び図書館員が直面している状況に対する理解を促し、図書館の喪失が、過去を学ぼうとする人々だけでなく、市民社会の再建に貢献するために図書館に頼ろうとする人々にも影響を与えるものであること、つまり図書館は必要不可欠な社会基盤であるということを世界的に認識してもらうための広報活動を強化すべきである。
  • IFLAは、すべての国がイラクの図書館の物理的な基盤、専門的な人材面での基盤、また技術的な基盤の復旧に寄与するように奨励すべきである。
  • IFLAは、イラクの図書館の再建へ向けた支援活動を一層強化するとともに、その事実を公衆に訴えかけていくべきである。そして、この決議をIFLA加盟の各国の協会に伝えなければならない。

1.3. 2003年ベルリン大会 − 防災対策に関するプレコンファレンス(2003年8月)

 ベルリンの決議は大変重要なものですが、それはベルリン大会におけるIFLA/PACの活動のほんの一部に過ぎません。IFLAの資料保存分科会とIFLA/PACの後援のもと、プレコンファレンス「最悪に備え、最良を求めて計画する−文化遺産を災害から守る」が開催されました。主催したのは科学アカデミー(Akademie der Wissenschaften)で、ベルリン国立図書館(Staatsbibliothek zu Berlin)と図書館情報資源振興財団(Council on Library and Information Resources)が協力しました。このプレコンファレンスは、管理者たちが適切に災害に備え、対処・対応し、災害から復旧できるように必要な情報を提供することを目的としたものでした。12ヵ国から16人の発表者が様々な話題を取り上げました。たとえば、全国計画の立案、災害対策のための全国政策・戦略、機関レベルの防災計画立案と災害への対処、被災事例研究、リスク評価と救助方針策定のためのモデル、様々な種類の資料の救助方法等の話題です。また、ブルーシールド国際委員会委員長でIFLAの事務局長を務めるロス・シモン(Ross Shimmon)氏が基調講演を行い、防災計画の重要性を語るとともに、文化財の領域における赤十字ともいえるブルーシールド活動について紹介を行いました。

 このプレコンファレンスは、25ヵ国90名の参加者にとって、世界の国々の経験や専門的知識から学ぶ貴重な機会となりました。総括の議論では、次のような認識が示されました。すなわち、この数年間における防災や防災計画の進展には目を見張るものがあるが、実効性のある分野横断的な協働を推進し、文化遺産を十全に保護し保存していくことの必要性を認識してもらうためには、今後とも持続可能で効果的な戦略や技術に関する情報を集め、そして広めていくことが必要である、というものです。

1.4. 国立図書館の防災計画に関するPACの調査

 世界の国立図書館の防災計画に関する調査が、2004年に行われました。IFLA/PACが質問票を作成し、177の国立図書館に送付しました。質問は次のような領域に関わるものです。過去5年間及び10年間に発生した災害とその数、種類、また、各機関はその所在地が自然災害の恐れのある地域か否か、どのような災害が予測されるかについて報告することが求められました。建物は質問の一項目に過ぎず、多くの部分は防災計画そのものに当てられました。73館(41%)が回答し、うち39館(53%)が防災計画をもっていました。28館(38%)は防災計画をもつ意図があり、関心がないのは6館だけでした。リスクとして多く挙げられたのは火災(61%)、洪水(41%)、地震(32%)でした。最終的な調査結果は昨年のIFLAブエノスアイレス大会で報告されました。IFLANET< http://www.ifla.org/IV/ifla70/papers/142e_trans-Varlamoff_Plassard.pdf >や“International Preservation News”No.34でもご覧になれます。予想されたことではありますが、地理的な条件や経済状況によって回答が分かれました。私にとって驚きで予想もしなかったのは、主要な国立図書館の中に防災計画のない図書館があったことです。防災計画の立案が困難な理由として、図書館長はお手本とするモデルを見つけるのが難しいことを挙げています。この理由に私は大変驚きました。モデルは数百とは言いませんが、数十はあります。その中には大変洗練されたものもあります。ただし、その多くは西欧の図書館で作成されたものであり、英語で書かれています。また、財源が乏しい図書館では簡単には適用できません。

1.5. 防災計画に関するPACのマニュアル

 防災計画については既に数多くの出版物が出されていますが、調査の結果とカリブ地域でPACが開催した3つのセミナーでの議論を踏まえて、私は新たに防災計画に関する刊行物を作成することを決めました。『IFLA図書館資料の予防的保存対策の原則』(“IFLA Principles forthe Care and Handling of Library Material”)をお手本とした基本的で実用的なマニュアルがもうすぐ完成します。このマニュアルでは、文書遺産を脅かす様々なリスクや防災計画を立案する際に考慮すべき問題などが取り上げられています。また、災害の被害を軽減するための実用的な方法も示されています。このマニュアルは、図書館員だけでなく文書館員も対象としたもので、2006年に3ヵ国語(英語、フランス語、スペイン語)で刊行されます。マニュアルの刊行を宣伝した途端に、イタリア語、ギリシャ語、アラビア語、ポルトガル語への翻訳の依頼がきました。その他の言語のPAC地域センターも、それぞれ日本語や中国語、ロシア語へと翻訳してくれるだろうと私は確信しています。

1.6. 防災に関するワークショップ

 PACの刊行物とIFLA大会でPACが開催したセッション以外にも、防災計画の領域とブルーシールドの枠組みの領域において特別な成果があったことについて強調しておかなければなりません。ラテンアメリカとカリブ地域においては、地震とハリケーンが主要な災害です。これはまさしく日本と同じです。こうしたことから、PACは防災に関する一連のワークショップを開催しました。3つのワークショップは大きな成果をあげ、すぐれた発表のいくつかは“International Preservation News”に掲載されました。

 最初のワークショップは2003年10月にメキシコで開催されました。様々な文化機関や市民社会の関係者が100名ほど参加して、地震被害に関するあらゆる問題を取り上げました。2つめのワークショップはトリニダード・トバゴで2004年5月に開催されました。地震や火山、ハリケーンなどカリブ地域を脅かす様々な災害に焦点を当てました。そして、2005年2月には、3つめのワークショップが、主にハリケーンを焦点としてハバナで開催され、キューバのすべての文化財に関連する領域から参加者を集めました。これらのワークショップでは、同一言語を話す参加者を、近隣の限定された地域から集めることを意図しました。災害発生時に相互に助け合える専門家・専門職のネットワークを、参加者が作り上げてくれることを私たちは期待しています。


2.ブルーシールドとハーグ条約

 皆さんの中には、ブルーシールドについてご存知でない方もいらっしゃると思います。手短に言いますと、ブルーシールドとは赤十字が人道的な目的のために行っていることを文化遺産のために行おうとするものです。

2.1. 「失われた記憶」

 1996年に、ユネスコは「世界の記憶」プログラムの一環として、20世紀に破壊された図書館と文書館の調査を行い、「失われた記憶」というタイトルで報告書を刊行しました。完全に、または部分的に破壊された図書館のリストは恐ろしいものです。

  • 1939年から1945年の間に、チェコスロバキアでは、すべてのコレクションが押収され、破壊・消失しました。これにはカード目録も含まれます。損失は全体で200万冊に及ぶと推測されました。
  • ポーランドでは、ワルシャワの国立図書館が完全に破壊され、70万冊が失われました。また、ソビエト連邦では、1億冊の図書が破壊されました。
  • サラエボ国立図書館の窓から燃え上がる炎の衝撃的な映像を皆さん記憶されていると思います。こうしてボスニア文化の文書遺産の90%が破壊されました。
  • 最近では、バグダッドの国立図書館と国立文書館の破壊を思い起こさなければなりません。これは放火されたものです。

2.2. 1954年ハーグ条約と第一議定書

 第二次世界大戦の破壊によって世界の文化遺産は重大な被害を受けました。これに鑑み、ユネスコは武力紛争の際の文化財の保護のための条約を作成し、1954年にハーグで採択しました。条約に署名した国々は次のようなことに同意しました。

  • 戦争時のみならず(それでは遅すぎるのです。)平時から文化遺産を保護するための予防的措置を講じる。
  • (国際紛争でなくても)武力紛争時には文化遺産を保護し、尊重する。
  • こうした保護を保証する仕組みをつくる。(特別な保護下にある文化財の国際登録制度が創設されました。)
  • 重要な建築物には特別な標識をつける。
  • 文化遺産の保護を担当する特別な部署を軍隊の中に設置する。

 条約は議定書とともに採択されました。議定書は占領地域からの文化財の輸出を禁じ、持ち去られた文化財についてはもとの国へ返還することを求めています。また、戦後補償に文化財をあてることも明確に禁じています。2005年10月現在、114ヵ国がこの条約を批准しています。また、91ヵ国が第一議定書を批准しています。

2.3. ハーグ条約第二議定書

 文化財に対する野蛮な行為が1980年代から1990年代初めにかけて繰り返されたことから、条約の見直しが1991年に開始され、条約を改善する新たな同意がなされました。そしてハーグ条約第二議定書が1999年3月にハーグで開かれた外交会議で採択されました。第二議定書では文化財の保護が以前よりも強化されています。人類にとってとりわけ重要な文化遺産について強化された保護という新しいカテゴリーが設けられ、国レベルでの適正な法的保護と軍事目的での利用禁止が規定されています。また、文化財の重大な破壊に対して罰則を科すことや個人の刑事責任が適用される要件が規定されています。最後に、条約と第二議定書の適用を監視する12人の委員からなる政府間委員会を設立することになっています。この議定書の中で、ブルーシールド国際委員会(ICBS)は政府間委員会の任務に対する諮問機関のひとつとして公式に認められています。第二議定書は2004年3月9日に20ヵ国が批准し、発効しました。2005年10月現在、33ヵ国が第二議定書を批准しています。

2.4. ICBS − ブルーシールド国際委員会

 近年勃発している新しい形の紛争(チェコスロバキア、ルワンダ、アフガニスタン、東ティモール)や深刻な自然災害(1966年のフィレンツェや1997年のポーランドの洪水、サンクト・ペテルブルグやロサンゼルスの火災、神戸の地震)を受けて、4つの非政府組織がICBSを設立しました。1996年に設立されたブルーシールドは文化財の赤十字に相当するものです。ブルーシールド(青い盾)は1954年ハーグ条約でシンボルに指定されたもので、武力紛争時の攻撃から歴史的文化史跡を保護することを象徴したものです。

 ICBSは博物館、美術館、文書館、史跡、図書館を包含しています。ICBSは、国際文書館評議会(ICA)、国際博物館会議(ICOM)、国際記念物遺跡会議(ICOMOS)、そして国際図書館連盟(IFLA)という4つの専門職組織の知識、経験を結集して、国際的なネットワークを構築しています。これらの組織はいずれも、イラク戦争やカリブ地域のハリケーン被害のような事態に際して、助言や支援を行う比類なき専門職集団です。ICBSは国際的な独立した専門職組織なのです。

2.5. ICBSの目標

 ICBSの主要な目的は次のようなものです。

  • 脅威や緊急事態に対する国際的な対応を、ICBSと国内組織との協働により促進すること。
  • 専門的見地からサービスを提案すること。
  • 文化財の保護と尊重を促進すること。特に、リスクの予防のための標準化を推進すること。
  • 災害の予防・管理・復旧に関する専門家を国・地域レベルで訓練すること。

2.6. ICBS憲章

 先ほど述べましたように、ICBSのビジョンは、赤十字が人道的な保護において果たしている役割を、ゆくゆくはブルーシールドが文化遺産の保護において果たそうとする、というものです。ICBSは2000年4月にストラスブールで憲章を練り上げ、次のような原則を尊重することを決定しました。

  • 協働
  • 独立
  • 中立性
  • 専門性
  • 文化的アイデンティティの尊重
  • 非営利活動

2.7. 活動領域

ICBSの活動は3つの局面からなります。すなわち、紛争や災害の発生前、発生時、発生後の活動です。これまでのところ、ICBSの行動計画の中では予防面のことが最も進んでいます。その中には次のようなことが含まれています。

  • リスクを評価し、脅威に対する政府・専門家・市民の意識を喚起する。
  • リスクに対する備えを改善する。
  • 災害発生時・被災後に活動する専門スタッフを訓練する。また、ワークショップを開催する。
  • 防災計画立案を推進する。特に、国の機関において推進する。

ICBSは、予防的措置が災害発生時のみならず日常的な管理運営においても有益であり、コレクションの保護に寄与するという事実を強調していきたいと考えています。

2.8. ブルーシールドのネットワーク

 ブルーシールドの最も大きな強みは分野横断的な組織であることです。文化に関わる様々な領域の専門家や機関を結集しています。専門知識を持ち寄り、軍当局や緊急事態担当省庁を巻き込むことによって、ブルーシールドは災害リスクを国レベルで管理するための強力なモデルとなり得るものです。ICBSは赤十字国際委員会(ICRC)や文化財保存修復研究国際センター(ICCROM)などの組織を主要なパートナーとして活動を進めています。また、リスクへの備えや災害対応に関心をもつ様々な人々の関与も必要です。災害が起こったときだけでなく、その前に関与することが求められています。

2.9. ブルーシールド国内委員会

 国内委員会を設置すればICBSの活動が一層効率化されるということは、ICBSの創設時からわかっていました。国際的な活動は地域的な活動によって支持され、支援されなければなりません。ブルーシールド国内委員会は多くの国々で設立されています。また、現在設立されつつあります。ベルギーがブルーシールド国内委員会を設立した最初の国で、それにオーストラリア、ベニン、チリ、キューバ、チェコ、フランス、イタリア、マケドニア、マダガスカル、ノルウェー、オランダ、ポーランド、イギリス、ベネズエラが続きました。設立中の国々は、オーストリア、アゼルバイジャン、ボリビア、ブラジル、カナダ、コロンビア、韓国、ハンガリー、インド、メキシコ、ナミビア、ペルー、スロベニア、スウェーデン、ベネズエラです。

 ブルーシールドの大きな強みは、リスクへの備え、緊急対応計画の立案といった問題について、文化遺産に関わるすべての専門家や専門機関の力を結集し協力を推進できることです。武力紛争の恐れが小さい国においても、ブルーシールドの活動は有益です。なぜなら自然災害への備えのために活用できるからです。


3.IFLA復興開発パートナーシップ
3.1. 津波災害

 2004年12月26日のインド洋地震と津波によって広範囲に引き起こされた破壊は悲惨なもので、世界に衝撃を与えました。多くの国の人々や組織と同様に、図書館職員や図書館、情報サービス機関、図書館協会は津波被害を救援し、特に図書館情報サービスの再建を支援する意向を表明しました。

 最も優先度が高いのは言うまでもなく負傷者や悲嘆に暮れる人々、避難民を助けることですが、重要な資料(たとえば、パームリーフ(貝多羅葉)の手稿、コーラン、地域コミュニティや州の記録文書)を将来の保存修復処置に備えて、可能な限り安全で安定な状態に保護することもまた重要なことです。こうした初動処置のほかに、建物やインフラ、コレクションを再建し、サービスを再開することや、また職員に助言を与えたり、研修を施すことも必要です。こうした活動はより効果的なサービスを構築する機会ともなります。それによって、コミュニティの基盤が強化され、21世紀の情報社会に応える能力を高めるのに役に立つでしょう。

3.2. 困難な課題と機会

 IFLAにはそうした災害に効果的に応える仕組みが限られています。現在ある仕組みは主として、PACやALP(第三世界における図書館振興コア活動)やIFLA内のほかの下部組織によって提供される助言や研修、そして、ICA、ICOM、ICOMOSとのブルーシールドにおける連携を通じ、限られた範囲内ではあるものの、プリンス・クラウス基金の支援によって提供される緊急時優先割り当てです。プリンス・クラウス基金による限られた資金援助を除けば、被害の調査、被害への対応、復旧に必要とされる資金を提供する手段はありません。

 多くのIFLA構成機関とその職員やメンバー、同僚たちは、もちろん、国内の救援機関や国際的な救援機関、たとえば赤十字などに寄付をしたことでしょう。しかしながら、そうした資金が図書館や情報サービス機関のニーズに振り向けられることはほとんどありません。コレクションやサービスの再興を手助けし、同僚を支援しようとする多くの情報専門家の望みはかなえられないのです。

3.3. 提案されているパートナーシップ

 よって、IFLAは次のような仕組みをつくるのが望ましいのではないかと考えています。つまり、津波後の復興において図書館情報部門を支援し、来るべき災害への備えを充実させ、またIFLAやそのパートナーが取り組んでいる図書館開発プログラムに資するような仕組みです。

 IFLA復興開発パートナーシップ(IFLA-RDP)は津波被害からの復興ニーズを支援し、今後のニーズに応えるための枠組みとして提案されているものです。この仕組みの本質をなすものが、図書館情報サービスに対する支援を集め分配する国内IFLA基金等の資源です。それらの資源ができるだけ効果的・効率的に利用されるように、IFLAの下部組織を推進役として協働します。ALPとPACの事務局が、認可された組織からプロジェクトの申請を受け付け、基金に照会します。そして、両者に助言を与えて、基金が最大の成果をあげ、乱用を最小限にするようにします。ALPとPAC、地域センター、その他のIFLA下部組織は技術的な助言を行います。評価・研修・技術的助言といったプロジェクトが承認されて、それに対して基金の一部がIFLAの下部組織にあてがわれることもあるかもしれません。しかし、基本的には、説明責任を確保し各国の関連法規を遵守するために、国内IFLA基金の運営委員会で意思決定がなされるということが前提です。

3.4. 国内IFLA基金の創設

 国内IFLA基金を設けることは、寄付者に対して十分な説明責任を果たし、また寄付に対する税控除を可能にするうえで大変望ましいことです。税控除は国レベルで取り扱われなければならないからです。IFLAは図書館振興のためにALPまたは他の下部組織を通じて基金に申請することはできますが、多数の小額寄付を受領しお金の流れを記録するだけの余力はありません。津波被害を受けた国々の要請は緊急を要するものであったため、新しい基金を設立することはできませんでした。基金を設立するためには、多くの国々において長く複雑な過程を経る必要があるからです。したがって、IFLA年次大会を支援するために設立されている既存の国内IFLA基金の目的を変更して、国内IFLA復興開発基金を創設することが提案されているのです。

 国内IFLA復興開発基金の目的は、災害(手始めに津波被害から)に対応し、また再建を支援し、そして長期的には世界の図書館情報サービスの発展を支援するための財源を提供することです。

最後に、皆さんが文化財に関連する場でご活躍の同僚の方々に働きかけてブルーシールド日本委員会を設立するようにお願いしたいと思います。また、日本政府にはハーグ条約と2つの議定書を批准するようにお願いしたいと思います。そして、IFLA復興開発パートナーシップ日本基金を創設するようにお願いしたいと思います。ご清聴ありがとうございました。