第2章 調査の結果 6 日本私立大学協会「大学図書館司書主務者研修会」

第2章 調査の結果6 日本私立大学協会「大学図書館司書主務者研修会」(1) 日本私立大学協会(以下、「私大協」と記す)は、私立大学の振興と教育・学術の進歩発展への貢献を目的として、昭和21年(1946) 12月に設立された、全国の私立大学の経営者団体である。発足当初は「全国私立大学…

第2章 調査の結果

 

6 日本私立大学協会「大学図書館司書主務者研修会」(1)

 日本私立大学協会(以下、「私大協」と記す)は、私立大学の振興と教育・学術の進歩発展への貢献を目的として、昭和21年(1946) 12月に設立された、全国の私立大学の経営者団体である。発足当初は「全国私立大学連合会」と称していたが、昭和23年(1948) 3月に現在の名称に改称された。会員数は324法人344大学(平成16年(2004) 5月現在)、全国の私大の6割以上が加盟している。(2)

 標記の「大学図書館司書主務者研修会」(以下、「司書主務者研修会」と記す)は、私大協におかれている6つの業務研究・研修委員会が実施する6種類の研修会(3) のひとつで、「大学図書館研修委員会」(4)(以下、「図書館研修委員会」と記す)が企画・運営を担当しているものである。ただし、本研修会の主催は(他の研修会も含めて)「私学研修福祉会」であり、私大協自体は「協力」ということになっている。

 私大協が実施する研修事業はすべて業務研修であり、しかも部課長相当者や主務者などのミドルマネジメント層を対象とした中堅および幹部職員研修に特化されているところに特色がある。初任者研修は基本的に行われていない。その趣旨は、「私立各大学が健全な経営を目指すためには経営者を支える専門的な人材(職員)を養成していくことが重要である」(5)との認識にもとづいているからである。

 以下、「司書主務者研修会」について、ヒアリング調査と関連資料をもとに述べる。

 

(1)研修事業の目的、趣旨、実施の背景

1)研修の目的について

 「司書主務者研修会」は、3年以上の実務経験を有する職員を対象とするもので、大学図書館職員の資質向上を目的としている。上に述べた私大協の他の研修会と同一の趣旨のもとに実施されているが、他の研修会が管理職対象であるのに対し、「司書主務者研修会」の場合は必ずしも管理職に限らない。図書館長と司書等の図書館職員が参加対象となる。

 

 2)研修開始のきっかけについて

 「司書主務者研修会」は、もともと「大学図書館司書研修会」として昭和36年(1961)に開始されたもので、平成16年度で通算44回を数える息の長い研修会である。ただし、その出発点は、昭和33年(1958)までさかのぼる。

 昭和33年、私大協は、「大学教育と学術研究に果たす大学図書館の役割の重要性」をふまえて「大学図書館委員会」を設置した。委員会では、私立大学図書館のあり方と充実方策の研究を行うとともに、「図書館長並びに主務担当者研修会」を開催して、図書館長と主務担当者の資質向上を図ることとした。(6) 昭和36年、私大協は「大学図書館研修委員会」を「大学図書館委員会」の下部組織として常設し、そこで大学図書館職員(司書)の資質向上を目的とする「大学図書館司書研修会」を並行して実施したのである。(7)

 その後、昭和38年(1963)に「大学図書館委員会」は、私立大学図書館のあり方と改善充実に関する研究成果を『私立大学図書館運営要項』としてまとめる。そしてその『運営要項』にもとづき、「大学図書館研修委員会」はいわゆる「大学司書」の養成と資質向上を研修会の目標として前面に押し出していくのである。(8) 「大学司書」の養成とは、公立図書館を対象とした(図書館法上の)「司書」ではなく、大学の教育・研究活動に対して大学図書館の機能を発揮できる資質を備えた、大学図書館の専門的職員である「大学司書」の養成を意味している。また、図書館職員としての資質向上も、私立大学の職員であるという前提の下に図られる必要がある、とも考えられていた。(9) 当時の私大協加盟校は、設立間もない小規模大学が多く、教育・研究活動を支える大学図書館員としての専門的知識も十分ではなかったという。

 一方、「図書館長並びに主務担当者研修会」は、主たる参加対象である図書館長が2〜3年の任期で交替してしまうため研修の継続性が維持できず、また参加者も減少していったため、昭和50年(1975)に廃止される。そして「大学図書館司書研修会」との統合・再編が行われ、昭和51年(1976)からは「大学図書館司書主務者研修会」と改められて実施されるようになったのである。

 

(2)研修事業の実施体制

 1)参加者募集方法について

 募集案内を、1通は加盟校の理事長・学長あてに、もう1通を各大学図書館長あてに送付する。参加対象が加盟校の図書館職員に限定されることから、私大協のホームページ上での募集は行っていないということである。

 

 2)費用負担について

 私大協における研修事業の財源は、①協会予算からの拠出金、(2)日本私立学校振興・共済事業団からの助成金、(3)参加費、の3つである。6研修会全体の費用総額は約9100万円(平成15年度)、そのうち「司書主務者研修会」は約550万円であった。(10) 

 参加者側の費用は、研修会参加費(30000円〜35000円)のほかに交通費・宿泊費などが必要となるが、これらは基本的に所属大学の負担(公費)により手当てされる。ただし、参加費のうち懇親会費は個人負担(私費)という大学が増えてきているようである。そのため、個々の大学の経営事情とこれら費用負担の大きさによって、参加者数が左右されてしまう。職員を研修に参加させる余裕のある大学と、そうでない大学との二極化傾向も見られる。

 

 3)講師依頼基準について

 特に依頼基準を設けて講師を選考しているわけではない。ヒアリングでは、「要は研修会参加者の心を触発し、仕事に役立つ内容を話せる人物であればよいわけで、そういう人物を委員会において選考している」との回答であった。

 また講師の選定は、基本的には「図書館研修委員会」が行うが、私大協事務局でもチェックしている。というのは、講師謝礼が極めて高額な作家・著名人には依頼できないなどの事情をふまえる必要があるからである。著名人でも、10万円程度の謝礼で構わないという方であれば講演を依頼するという。

 

 4)事務局の運営方法・体制について

 「司書主務者研修会」の企画・運営は、次の5)で述べるように「図書館研修委員会」の役目であるが、委員会の運営には私大協事務局の職員も加わり、連携して行われる。事務局員の総数は、現在21名。そのうち2名が「図書館研修委員会」および「研修会」業務を担当(兼務)しているということである。

 

 5)プログラムの企画・方針の策定方法と体制について

 「研修会」プログラムの企画および方針策定は「図書館研修委員会」によって行われる。委員会の構成は、担当理事(私大協理事会から)1名、委員長1名、副委員長2名、委員8名の計12名(平成16年度)。委員会は年6回開催され、その中で研修方針の策定、研修会日時・会場の決定、プログラムの企画、講師の選定、研修会当日の運営と研修会後の反省などについて、事務局との連携・協力のもと、対応が図られているそうである。

 委員の任期は4年。委員の選出は、大学の所在地域・学問分野・規模等をふまえた偏りのない委員会編成を念頭に候補者を選出するが、最終的には所属大学の承認・推薦を得て委員に就任することになる。研修事業を維持するためには、よい委員会をつくることが長続きする秘訣であるとのコメントもいただいた。

 

(3)研修カリキュラムの実態及び過去5年間の研修カリキュラムの変遷

 

 「司書主務者研修会」は、年1回(8月下旬)、2泊3日の宿泊研修の形で実施される。<図表6.1>「大学図書館司書主務者研修会 過去5年間研修課題通覧(平成12年〜平成16年)」(11) に概要がまとめられているので、参照していただきたい。

 開催地は東京または地方の主要都市で、それらを隔年交代で組み合わせている。平成16年度の開催地は東京で、参加者は143大学168名、平成15年度は京都で、参加者は110大学132名である(例年の平均参加者数は130〜140名)。なお、遠隔地は交通費がかさむため近年は敬遠される傾向にあり、仙台から神戸あたりまでが開催地としては適当ではないか、と話されていた。

 研修プログラムの構成は例年一定しており、「Ⅰ.全体研修」「Ⅱ.班別研修」「Ⅲ.視察研修」の3つで構成される。

 「Ⅰ.全体研修」は、主に私立大学全般あるいは図書館以外の大学内各部署に関わる講演と、大学図書館の事例研究発表からなる(初日午後から2日目昼過ぎまで)。平成16年度は、「総論」1および2、「記念講演」、「主要研修課題」の1〜5、の計8本の講演・発表が行われた。平成15年度は「全体報告(私大情勢の解説)」「記念講演」「特別講演」および「主要研修課題」の1〜3、の計6本の講演・発表があった。

 「Ⅱ.班別研修」は、文字通り参加者を1班30名程度の複数の班に分けて実務上の問題点の協議・意見交換を行うもので、私大協の研修会の大きな特色をなす部分である。班は、参加者の所属先の大学図書館の主題分野(人文系・社会系・自然科学系)や各種テーマ、または管理者と実務者、などの種類に分かれ、参加者に選択してもらう(2日目午後120分)。実際には、次のような班が設定されていた。「第1班 大学図書館の管理運営」「第2班 大学図書館の管理運営」「第3班 大学図書館の実務(総合系)」「第4班 大学図書館の実務(人文社会系)」「第5班 大学図書館の実務(人文社会系)」「第6班 大学図書館の実務(自然科学系)」(平成16年度・15年度とも)。(12) なお、参加者には班別研修で話し合いたいテーマを事前に出してもらい、当日はそれらのテーマにそって意見交換が行われる。

 「Ⅲ.視察研修」は施設見学で、最終日の午前中がこれに充てられる。見学施設の実際は<図表6.1>参照。

 

 1)司書課程カリキュラムとの関係について

 ヒアリングでは、特に意識してないということで、特段の回答はなかった。

 

 2)カリキュラムの継続性について

 研修会プログラムでは、「私立大学を取り巻く諸情勢に関する研修」および「大学図書館の根本問題に係る講演」の2つのテーマが、開始当初から継続して実施されていた。

 さらに昭和38年度から、図書館資料に関する専門知識の習得・向上のため、「書誌(参考図書)解題」の研修に取り組んだ。これは、当番大学による書誌(参考図書)の研究および発表という形式であり、それぞれの分野ごとに主要な参考図書を取り上げて、その特徴について研究した成果を、研修会当日に班別研修で発表・討議するというものであった。昭和55年度まで継続して取り組まれ、大きな成果を上げるとともに、外部からも高い評価を受けた研修であった。(13) 

 その後も、大学図書館の機能の充実(図書館の管理運営や資料の運用について)、私立大学図書館が当面する諸問題(機械化、AV資料、ネットワーク化など)を、研修会の主要課題(メインテーマ)に継続して取り上げている。

 過去5年間では、平成13〜15年度にかけて「個性輝く大学図書館を目指して」というメインテーマが3年連続で取り上げられている。ただし、研修プログラムにはそれほどの継続性はうかがえない。「電子情報」や「インターネット」「デジタルアーカイブ」「電子ジャーナル」など電子図書館に関わるテーマが共通項として見られるくらいである。

 

 3)他の研修プログラムや他団体の研修プログラムとの関連について

 これについては、他団体の研修プログラムを調べて内容や日程が重ならないように配慮する程度、とのことである。私立大学図書館職員を対象とした研修機会は多数あるが、委員が他団体の研修の情報を提供してくれるので、情報収集のために特段努力しなくても、他団体の情報は自然と入るという。

 また、ヒアリングでは「少人数に絞って継続研修を行う「日本私立大学連盟」とは異なって、私大協としては大規模研修の形で研修を実施し、できるだけ多くの人に研修を受けてもらいたい」というお考えも示された。

 

 4)研修プログラムの担当講師について

 基本的に、テーマにふさわしい内容を話せる人物を委員の人脈を活用して依頼することになるが、たとえば「全体研修」の部分で私立大学全般あるいは図書館以外の部署に関わる講演を担当する講師は、テーマ設定を含めて、事務局サイドから提案することも多いという。平成16年度のプログラムで言えば、総論の「1.学生の多様化とその対応策〜学生生活指導の観点からの私見〜」と「2.多様化する学生に対応した教育改革〜学力問題と学習意欲」の講師は、二人ともある私立大学の理事であるが、それぞれ私大協の学生生活指導研究委員長と大学教務研究委員長を務めている。また、平成15年度の記念講演「大学図書館への期待」は、私大協副会長で金沢工業大学学園長・総長にお願いしたものであった。

 

(4)研修事業の評価

 1)実行主体の評価について

 「研修会」の参加者にアンケートを実施して意見を集め、その分析を通じて、次年度の研修に反映させている、ということであった。

 『平成15年度(第43回)大学図書館司書主務者研修会報告書』に「研修会アンケート集計結果」が掲載されているので、参考のため、アンケートの設問項目と、集計結果の抜粋を<図表6.2>「平成15年度(第43回)大学図書館司書主務者研修会 アンケート概要」としてまとめておく。

 アンケート調査では、その年度の「研修会」の運営全般と研修課題(テーマ)設定の適否について、および次年度の「研修会」で取り上げてほしいテーマや、各大学図書館の現場で問題になっていること、などを具体的に把握しようとされていることがわかる。ヒアリング担当者は、「『評価』というよりも『反省』であるが、『今自館では何が問題になっているか』『次回何を取り上げてほしいか』などの質問も設けているので、アンケートの中から研修に対するニーズを把握することができる。しかし、さまざまな制約を抱えての委員会活動および研修事業なので、やはりマンネリ化批判は避けられない」と、自己評価されていた。

 また他にも、講師の選定が研修の成否(満足・不満足)を左右する重要なポイントである、ということを述べられた。

 

 2)参加者の評価について

 やはり「研修会」参加者に対するアンケートによる。

 平成15年度は、運営全般について、回答者の4分の3以上が「良かった」と評価しており、研修課題についても7割以上が「良かった」と答えている。プログラムの中では、事例報告「利用者サービスにおけるアウトソーシングの功罪」が好評であったようだ。現場の図書館員には事例研究が例年好評であり、このアンケートでも「2.(5)その他の希望事項」に「事例研究を多くして欲しい」という希望が出されている。しかし、専門的な内容の研修課題になると、評価が分かれるそうである。

 また、他にも「全体研修も実務者と管理者に分けてはどうか」「管理職担当者の研修会の実施」、班別研修では「テーマ別の班編成」「同一規模の大学による班編成」などの要望が出されている。(14) 参加者の職務や大学間の状況の違いは、研修の目的やニーズを左右する問題であり、研修の在り方が問われるが、このような大規模研修では実現が難しい点でもある。運営者側の苦慮するところであろうが、私大協でもこの点は認識されていると、筆者には感じられた。

 

(5)研修事業の今後の展開

 1)現在の研修プログラムの課題について

 近年の私立大学の経営環境の悪化によって、「司書主務者研修会」の研修課題も「私立大学の図書館経営」や「効率的な図書館運営」などに偏りつつある。その結果、現場の図書館員が必要とする最新スキル修得(たとえばIT関連)のための研修がおろそかになってきている、との指摘があった。

 

 2)今後の研修事業の中長期的方針について

 大学図書館職員に求められる資質と能力、経営状況の悪化による図書館への影響、私大協の研修事業の見直しなど、今後の方針・課題について、多岐にわたる指摘があった。

1.マネジメント能力と、学生への教育支援能力の育成

ヒアリングではまず、私大協の研修事業全体に関わるものとして、「今後はマネジメント(業務の効率的な管理運営)能力の育成と、学生への教育支援に特化していくことを考えている」との見通しが示された。ただし、図書館員研修については「『司書主務者研修会』の場合は、主務者が対象なのでこの2点に特化することはないが、図書館員であっても、たとえばカウンターや窓口で図書館以外のことでも学生にわかりやすく説明対応できる能力(教育者的対応能力)が必要と考えている。図書館員はレファレンスとマネジメント能力は絶対必要だが、そのバランスが問題であろう」と話されていた。

2.経営状況の悪化による図書館への影響

私大経営の悪化は、図書館資料費の削減のみならず、業務委託や派遣職員の導入(アウトソーシング)によって、大学の正規職員としての図書館員を大きく減少させている。研修対象である図書館員そのものの減少に加え、現場の人手不足(3日間も職場を留守にできない)と研修経費の削減(参加費用を公費で負担してもらえない)によって、研修に参加する機会が奪われてしまう。

私大協では、各種研修会への参加者数はいずれの研修会とも漸増傾向にあり、一見順調に思えるが、参加大学率は減少傾向にあることがわかっている。つまり、研修会に参加できる余裕のある大学、また複数の職員を派遣できる大学と、参加する余裕のない大学とに二極分化しつつあるということである。

さらに、大学図書館が大学の中でも利益を生まない部署(いわゆる「コストセンター」)であるという見方から、「大学設置基準」の見直し如何によっては、図書館そのものを廃止する私立大学も現れるのでは、との危惧を抱いている、とも述べられた。

3.私大協の研修事業の見直し

私大協内部でも、各研修事業の問題点が指摘され、見直しが図られようとしている。

研修事業全体の問題点として指摘されているのは、

(1)研修事業に対する事務局の負担が過重である。

(2)私大協として、研修事業以外にも、対外折衝業務や政策立案業務への素早い効果的な対応が求められている。

(3)私学振興・共済事業団からの助成金が不安定なため、研修事業を現状どおり維持できなくなる可能性がある。(実際問題、平成17年度の助成金はゼロになるとのこと。)

(4)研修会を企画・運営する委員会の委員について、地方の加盟校が派遣要請を断るなどにより、結果的に都心部の大学や特定の大学に集中してしまう。(15)

などである。

これらの指摘により、私大協は、近々「司書主務者研修会」を含む研修事業の見直しを行うことになっている。具体的には、研修会の再編成、研修期間の短縮化(2泊3日から1泊2日へ)、または研修会の隔年化、などの検討である。その他、加盟校からの要望として、初任者研修(新卒または実務経験3年以下の者または役職初任者)の実施、複数地域での同一研修の実施(東京と大阪で同一内容の研修を行う)などが寄せられているとのことである。

なお、私大図書館職員の研修の機会について付言すれば、私大協以外にも、日本私立大学連盟、日本私立短期大学協会、私立大学図書館協会、日本図書館協会などの諸団体が全国規模の研修会や地区別の研修会をさまざまに実施しており、図書館職員の研修の機会は豊富であると言われる。このことが、「司書主務者研修会」への参加者数が、私大協の他の研修会の参加者数に比べて少なく、規模が小さいことへの理由のひとつと捉えられていた。

 

(6)図書館職員の研修に関して国立国会図書館に求めること

 国立国会図書館がどの館種の職員を対象に研修を行うのかはわからないが、私大協としては、どの館種にも共通の課題として、以下のようなことがらについての研修が得られればと考えている、とのことであった。(16)

 (1)IT全般の通暁と電子図書館

 (2)著作権を中心とした知的財産権の通暁

 (3)個人情報保護対策

 (4)輸入洋書問題対策

 これらはいずれも私大協では実施が難しいもの((1)(2)(4))、あるいは大学全体としての研修は実施しているが図書館に特化した内容では行っていないもの((3))、ということである。

 

(7)まとめ

 今回のヒアリング調査を通じて、私立大学のおかれている厳しい状況と、図書館職員を対象とした研修の難しさがあきらかになった。しかし、私大協が私立大学全体の将来像をきわめて明確に把握しておられることについては、ある意味での安堵感を持った。

 私立大学の図書館職員研修ということでまとめてみると、ひとつは、経営環境の悪化とアウトソーシングの導入による、図書館経費および図書館職員の削減、という二重の削減がある。このことによって、大学図書館の現場は、人手不足と出張にかかる経費不足のため、研修会に参加したくともできないという事態に陥っている。私大協の研修会に参加する大学数の減少が、それを裏付けている。

 ふたつ目には、大学図書館員に求められる資質・能力についてである。資料に関する専門知識やレファレンス能力のみならず、マネジメント能力や学生への指導力が重視されるようになってきている。図書館員としての専門知識や技能の獲得だけでなく、大学職員として必要な資質を身に付けることが求められている。それにあわせて私大協の研修も、マネジメント能力や学生への指導力向上のための研修内容に、その比重を高めていこうとしている。

 しかし一方では、IT化や電子図書館的サービスの進展により、コンピュータやネットワーク関連の知識やスキルなど、きわめて高度な知識と技能が要求される時代でもある。これらは急速に発展を遂げており、したがって陳腐化しやすいという特徴がある。研修でのすばやい対応が必要なところであるが、私大協では、この方面の研修は不十分と捉えておられた。

 大学職員としての資質と、図書館員としての専門性、この両方を高める研修を実施することは、私大協単独では難しいかもしれない。私大協が今後も継続して研修会を実施するのであれば、その企画・運営を担当する図書館研修委員会が研修内容・研修カリキュラムに対する明確なヴィジョンを持ちつつ、その中で私大協ができる部分とできない部分を分けていく必要がある。そして、できない部分については、たとえば国立国会図書館や私立大学図書館協会などとの連携のもとに、その部分の研修を実施することを検討すべきである。そうすることで、私立大学職員としての資質と大学図書館の専門職員としての能力を備えた人材の養成が可能になるだろうし、何よりも、私立大学全体の発展につながっていくと思われるからである。


[注]

(1) 本稿をまとめるにあたり、以下の資料を参照した。これらはいずれも私大協事務局が作成または準備くださったもので、ヒアリング調査の際受領したものである。私大協事務局にあらためて御礼申し上げる。

(1) 「「図書館職員を対象とする研修の国内状況調査」ヒアリング 対応資料」平成17年2月22日付,4p.

(2) 小出秀文「日本私立大学協会のFD活動」『IDE:現代の高等教育』No.412,1999.10,pp.45-50

(3) 「平成16年度各種研修会の主要研修課題総括表」1枚

(4) 「日本私立大学協会:大学図書館司書」の項 『私立大学図書館協会50年史 本文篇』 私立大学図書館協会,1993.3,pp.212-216

(5) 「各種研修会の財源について」2004年5月26日作成,1枚

(6) 「日本私立大学協会 平成16年度事業計画実施要領 進捗状況」平成16年11月26日付,9p.

(7) 「大学図書館司書主務者研修会 過去5年間研修課題通覧(平成12年〜平成16年)」平成17年2月21日付,3p.

(8) 「日本私立大学協会の研修事業について―現状・問題点・改善策等―」平成15年12月8日付,3p.

(9) 『平成16年度(第44回)大学図書館司書主務者研修会 日程・参加者名簿・研修課題関係資料』日本私立大学協会,2004.8,57,13,[5],3p.

(10) 『平成15年度(第43回)大学図書館司書主務者研修会報告書』日本私立大学協会,2004.3,105p.

(2) 以下を参照した。

日本私立大学協会ホームページ「協会のご案内[協会の概要]」 http://www.shidaikyo.or.jp/profile/outline.html

なお私立大学が加盟する団体としては、私大協の他に「社団法人日本私立大学連盟」(私大連)がある。私大連は、昭和26(1951)年7月設立。日本の大学法人全体の約25%が加盟し、学生数および財政規模においては、約50%を占める。(「社団法人日本私立大学連盟」ホームページ http://www.shidairen.or.jp/ 参照 )

(3) 6つの業務研究・研修委員会による6つの研修会とは、次のものを指す。(前掲(1)の(3)参照)

・大学教務研究委員会——–大学教務部課長相当者研修会

・大学図書館研修委員会―――大学図書館司書主務者研修会

・学生生活指導研究委員会—-学生生活指導主務者研修会

・就職委員会――——–――就職部課長相当者研修会

・大学経理財務研究委員会――大学経理部課長相当者研修会

・大学事務研究委員会――—-事務局長相当者研修会

(4)  「大学図書館研修委員会」は、本来「大学情報図書館研究委員会」の下部組織に位置づけられている。「大学情報図書館研究委員会」の事業目的は「私立大学における学術情報への対応と大学図書館の充実に関わる調査・研究・研修」となっており、研修と並行して大学図書館充実のための調査・研究活動が行われるのであるが、その活動は事実上「図書館研修委員会」が担っている。

(5) 前掲(1)の(1),p.1

(6) その理由は、「当時の私立大学は国立大学の影響が大きく、国立大学では図書館長は学長に次ぐ名誉ある地位ということもあって、早々に研修会が開かれた」 という。(前掲(1)の(1),p.1)

(7) 前掲(1)の(4),p.212

(8) 日本私立大学協会大学図書館研修委員会編『大学図書館の理論と実践』雄松堂出版,p.4

(9) 前掲(1)の(4),p.213

(10) 前掲(1)の(5)参照。

(11) 前掲(1)の(7)をそのまま掲載。

(12) 前掲(1)の(9)(10)参照。

(13) 前掲(1)の(4),p.213-214

(14) 前掲(1)の(10),p.90

(15) 前掲(1)の(8)参照。

(16) 前掲(1)の(1),p.4