第2章 調査の結果 2 国立教育政策研究所社会教育実践研究センター「図書館司書専門講座」

第2章 調査の結果2 国立教育政策研究所社会教育実践研究センター「図書館司書専門講座」 文部科学省との共催で「図書館司書専門講座」を実施している、国立教育政策研究所社会教育実践研究センターの沿革は、昭和40年(1965)7月の国立社会教育研修所設置にまで遡ることができる。この…

第2章 調査の結果

 

2 国立教育政策研究所社会教育実践研究センター「図書館司書専門講座」

 文部科学省との共催で「図書館司書専門講座」を実施している、国立教育政策研究所社会教育実践研究センターの沿革は、昭和40年(1965)7月の国立社会教育研修所設置にまで遡ることができる。この国立社会教育研修所は、昭和61年(1986)6月に廃止されるが、社会教育に於ける指導者のトレーニングセンター的役割を果たしていたということができる。そして昭和61年(1986)7月に国立教育会館社会教育研修所が設置されるに至る。その後、平成11年(1999)5月に「国立教育会館の解散に関する法律」が公布されるに伴って、平成13年(2001)4月に現在の国立教育政策研究所社会教育実践研究センター(以下「社会教育実践研究センター」という。)が設置されるに至っている。

 ここに於いて研究機関へと移行(1)されることになるが、その実践研究の一環として、今までのノウハウを活用し研修事業も行っているところにその特色がある。複数の研修事業がある中で今回は「図書館司書専門講座」を対象とし、調査年限は社会教育実践研究センターが設置された平成13年度以降とし、平成16年度までの4年間とする。

 

(1)研修事業の目的、趣旨、実施の背景

1)研修の目的について

 既述の如く社会教育実践研究センターの活動は調査・研究であるが、その展開にあたっての柱(2)の1つに「社会教育指導者の育成・資質向上のための調査研究事業」がある。ここでいう社会教育指導者の育成及び資質向上は社会教育法の考え方に基づいており、同時に社会教育法に基づく社会教育施設の1つである図書館の振興施策には、より良い文化的な生活の支援という目的で職員の資質向上や図書館法に於いての司書資格があるので、その養成、資格付与、資質向上が国に求められている責務であるといえる。

 社会教育実践研究センターに於いて行われる研修事業は文部科学省との共催なので、国として全国の公共図書館の職員の資質向上を目指している。

 つまりは、図書館司書の養成・資格付与・資質向上があるが、その中の資質向上をターゲットとし、社会の変化や新しい課題に対応できるような資質を身に付け、或いは、向上させることを目的としている。

 こういった基本的な考え方と背景とに支えられて実施される「図書館司書専門講座」の趣旨は、「司書としての専門的な知識・技能についての研修を行い、図書館における指導的立場としての力量を高める」(3)ことにある。

2)研修開始のきっかけについて

 社会教育法や図書館法だけではなく、様々な生涯学習関係の審議会の答申などで指摘される社会の状況の変化に適切にキャッチ・アップできるように職員の資質向上を図ることが国の施策の重要な1つであると考える。

 例えば、昭和63年(1988)の社会教育審議会社会教育施設分科会の中間報告『新しい時代(生涯学習・高度情報化の時代)に向けての公共図書館の在り方について』では、図書館の実務についての専門的知識・技術の習得のみならず、「人々の生涯学習を援助していくためには、より広い知見が求められる」との認識に立脚し、更に「新しい情報処理能力を身につけることも必要になっている」と時代の流れ・社会の変化に対応していくことの重要性に言及している。

 更に今日では、平成8年(1996)の生涯学習審議会社会教育分科審議会報告「社会教育主事、学芸員及び司書の養成、研修等の改善方策について」では、養成体系の改善案など、生涯学習の時代に対応した図書館司書の在り方が提起されている。こういった流れに対応すべく、また「生涯学習社会における社会教育の役割は、学習機会選択援助、学習機会等の提供、学習成果の認定サービスの中にある」(4)との認識に基づき、多様化・高度化する学習ニーズに対応でき得る能力・資質の向上が求められているといえる。

 ところで、社会教育実践研究センターは、平成13年度から組織が変り、4年が経過したが、文部科学省と共に、一貫して「司書としての専門的な知識・技術についての研修を行い、図書館における指導的立場としての力量を高める」というニーズに基づき「図書館司書専門講座」が展開されている。そしてその為に初心者ではなく、司書として現場で指導的な立場に立つべき時期になった人(5)を対象として、もう一歩進んでステップアップする為の上級的な研修の必要性の認識がその”きっかけ”であるといえる。

 

(2)研修事業の実施体制

1)参加者募集体制について

 参加者募集体制についてフォーマルには、「図書館司書専門講座実施要項」(6)を都道府県及び政令指定都市の教育委員会に送付すると同時に、『図書館雑誌』に掲載することによって参加者を募っている。更に社会教育実践研究センターのホームページ、メールマガジン(7)などによっても配信される。そしてインフォーマルには、参加者の評判や職場での要望などがあるが、このことは、後の「(4)研修事業の評価」に於いて詳述する。

 参加者の募集対象は、都道府県教育委員会及び政令指定都市教育委員会が推薦する者で、「(1)図書館法第2条に規定する図書館に勤務する司書で、勤務経験がおおむね7年以上で指導的立場にある者」、「(2)その他主催者が特に認めた者」(8)としている。

 参加の手続きは、推薦方式であり、都道府県教育委員会及び政令指定都市教育委員会が、受講希望者の所属する関係機関から受講申込を受け、都道府県教育委員会及び政令指定都市教育委員会で選考した者を、文部科学大臣が各推薦に基づいて決定している。

 研修期間は12日間で、「総研修時間数の概ね5分の4以上を出席した者に、修了証書を授与する」(9)というところにその特徴がある。このことと研修内容の充実から、研修事業としては比較的長期の研修であるにも関わらず参加者にインセンティブを与えていると考えられる。その為もあってか、募集定員は各年度同じく50名であるが、平成13年度の実際の受講者数は79名、平成14年度が65名、平成15年度が69名、平成16年度が64名と想定参加定員を超える参加者があることから、この講座そのもののニーズの高さが窺える。

 

2)費用負担について

 図書館司書専門講座実施にかかる講師謝金及び講師の旅費は文部科学省が負担し、資料・教材の作成及びその教材の印刷・コピー等は社会教育実践研究センターにて負担している。資料・教材については、テキスト代等の名目に於いても参加者からは徴収していない。その他講座にかかる費用は参加者からは徴収していないとのことであった。

 「図書館司書専門講座実施要項」(10)の「受講に要する経費」の項目には、「受講に要する経費は、受講者側が負担する」と記載されてはいるが、ここでは参加者側の交通費、滞在費のことを意味しており、教材費や運営費のことではない。この意味に於いても、調査・研究活動の一環として、それまでのノウハウを社会に還元するという、社会教育実践研究センターの設立の趣旨に合致しているといえる。

 

3)講師依頼基準について

 成文化された厳格な「基準」としての講師依頼基準は特に存在しない。「図書館司書専門講座」をプログラムする際に、図書館行政の動向や図書館司書の現状、最新の今日的な課題に即したテーマ、或いは、先進事例を基に講師を選定し依頼している。

 その為、今日の図書館界を取り巻くアジェンダが何かを探ると同時に、その改善の為には何が求められているかを常に模索する必要がある。直接的なトリガーは各種審議会の答申や法改正が挙げられるが、その他の今日的なトピックに関しても、例えば、危機管理、学校教育との関連、PFI、市町村合併など、マス・コミなどの報道にもアンテナを張り巡らし、図書館現場に於けるアジェンダ、或いは今日的トピックに敏感になることで、適切且つタイムリーな講師の選定及び依頼を心がけている。また、図書館司書専門講座のプログラムの中の「研究協議」(11)、或いは、講座実施修了後の「アンケート」(12)によっても、図書館現場でのニーズ及び図書館員の”生の声”に耳を傾けることにより現場での実践活動に即した研修内容となるよう配慮された上で講師が選定されているといえる。言い換えると、研修プログラムの計画立案にあたってはボトム・アップ的にアジェンダ及びトピックが収集され、それらを研修事業を通して現場にフィード・バックしていると考えられる。

 そして、そういった意図を具現化でき得る人材を講師として選定し、最終的には文部科学省と相談の上決定しているのが実態である。

 

4)事務局の運営方法・体制について

 「図書館司書専門講座」は文部科学省との共催事業ではあるが、事務局そのものは、社会教育実践研究センターにあり運営を行っている。基本的な企画立案・講師交渉など総て専任の担当者が一貫して把握しつつ運営している。また、その際、外部から研究者や指導者の協力を得ることはないが、内部的な運営体制が整っているといえる。

 

5)プログラムの企画・方針の策定方法と体制について

 プログラムの企画及び方針の策定とその体制に関しては、文部科学省と社会教育実践研究センターが協議の上、図書館界の最新の動向や今日的課題に基づきプログラムの企画・方針の策定を行っている。よって提供されるプログラムは基本的に、図書館界を取り巻く今日的課題に即しているが、研修参加者からの”生の声”としてボトム・アップと現場へのフィード・バックを心がけていることが窺える。またその際にあたっては、平成8年(1996)に生涯学習審議会社会教育分科審議会報告「社会教育主事、学芸員及び司書の養成、研修等の改善方策について」に於いて提示された考え方に基づいている。即ちそれは、地方自治体が提供する研修に於いては一般的・初級的な研修内容を対象とし、一方で国が提供する研修に於いては、それ以上の専門的・上級的な研修内容を対象とするという考え方である。

 従って、研修プログラムの企画、或いは、方針の策定に於いては、今日的課題や地域社会での課題を扱いつつも専門的・上級的なものとなっている。また、社会教育実践研究センター調査研究報告書『図書館及び図書館司書の実態に関する調査研究報告書』(13)の中に於いて司書の専門性の重要性に焦点が当てられていることからも、研修の参加対象者が、「勤務経験が概ね7年以上で指導的立場にある者」とされているのは、こういった考え方の現れであると思われる。

 また、「これからの図書館の在り方検討協力者会議」(14)(生涯学習政策局)に於ける検討事項を念頭に置きつつ、より高度に専門化しつつも現場の実践で活用でき得るプログラムとなるよう企画・方針及び体制を整えている。

 

(3)研修カリキュラムの実態及び過去5年間の研修カリキュラムの変遷

1)司書課程カリキュラムとの関係について

 大学の司書課程カリキュラムについては、司書になる為の基礎的な修得内容に留まっているものだと捉えている。それに対し「図書館司書専門講座」に於いては司書として図書館業務の指導的立場となる職員を対象としている関係上、そもそも関連等は念頭に置かれてはいない。

 しかし、司書となる資格の修得科目である、図書館経営、図書館サービス、レファレンスサービス、児童サービスなどは「図書館司書専門講座」に於いても今日的な課題として盛り込まれている。また、司書課程カリキュラムの改訂・変遷に伴って、マネジメントや児童サービスの重視があるが、これらは広く図書館界の今日的な課題、若しくは求められる能力・資質として注目を集めるので当然、研修カリキュラムの内容に不可欠であると考えられる。更に、大学在学中に修得した知識・学習内容も概ね7年経過すると陳腐化してしまうことが懸念されるので、それらのブラッシュ・アップ、若しくは、リカレントという意味に於いて有意義であると考えられる。

 畢竟、大学の司書課程カリキュラムを念頭に置いて「図書館司書専門講座」の研修カリキュラムを組んでいるわけではないが、司書として求められる能力・資質に鑑みて、結果として内容的に重なる部分が多いというのが現状であると思われる。

 

2)カリキュラムの継続性について

 既述の如く、平成13年度に組織改編があり社会教育実践研究センターが発足しているが、平成13年度以来、文部科学省との共催事業として研修事業は継続している。また、その研修に於けるカリキュラム内容であるが、基本的な枠組みや研修の趣旨、メイン・テーマは一貫している。

 そこに運用するプログラムを毎年少しずつ変えながら継続して実施している。その際、研修内容の基本的な柱(15)、枠組みがあって、今日的な課題を入れながら、少しずつ変化を付加している。また具体的な科目内容を見ても「今日的課題を追う」というスタンスが踏襲されていることが窺える。カリキュラムの傾向としては、対象とする指導的立場にある者にはマネジメント能力が必要であることを意識している関係上か、柱の1つである「図書館の経営・評価」が4年間変わらず盛り込まれている。また、各科目に於いては、「まちづくりと図書館」、「学校と公共図書館の連携」、「乳幼児からの読書支援」、「PFIと図書館」、「ビジネス支援と図書館」、「市町村合併と図書館」、「情報化社会の中の図書館」など今日的な課題・トピックを織り交ぜることにより変化を付加しているのが解かる。

 

3)他の研修プログラムや他団体の研修プログラムとの関連について

 他団体が実施する研修プログラムや社会教育実践研究センター内で実施する他の研修プログラムとの関連性については、特に意識されていない。既述の如く、国が実施する研修はターゲットや趣旨が絞られているので、関連性は希薄になる。今後は、地方自治体が実施するであろう一般的・初級的な研修内容との関連性という意味で連携協力の必要性、或いは、その要請が出てくるものと考えられる。

 しかしながら、日本図書館協会が実施する「中堅職員ステップアップ研修(2)」(16)が受講生のターゲット・ゾーンとしている、「中堅職員」及び「勤務経験7年以上」と同一であり、また同時に、この研修の参加基礎資格条件の1つとして、文部科学省と社会教育実践研究センターが共催して実施している、「図書館司書専門講座」の修了が求められている。このことから、他団体の研修プログラムとしては日本図書館協会実施の「中堅職員ステップアップ研修」との関連があるといえる。

 また、社会教育実践研究センターが文部科学省との共催事業にて行う社会教育研修事業には次の5つがある。「公民館職員専門講座」、「博物館職員講習」、「社会教育主事専門講座」、「新任図書館長研修」、そして「図書館司書専門講座」であるが、それぞれが独立した講座・講習であるのでスコープの重複やマスター・コンセプトの設定などの関連性は持たせてはいない。しかしながら、側面的には関連があるということができる。というのは、『社会教育』、或いは、『生涯学習』という基本的な枠内では動向を意識し、その中で図書館はどうあるべきかに特化させていくという性質を帯びさせている。また、「新任図書館長研修」に於いては、同じく図書館に特化したものという意味では側面的に関連があるが、直接的・意図的には関連性を帯びさせてはいない。

 

4)研修プログラム担当講師について

 研修プログラムを担当する講師に関しては、研修の趣旨及び目的を実現できるような人材の登用を心がけている。また、社会教育実践研究センターに於いては、当該センターの講師検索データベースなどから図書館界を含む社会教育全体の動向を探りつつ担当講師を選定している。この講師検索データベース(17)の収録範囲は、各研修及び研究セミナー等を担当した講師の氏名、所属、担当講義名、専門分野であり、講義で使用したレジュメや教材は収録されてはいない。現在、約260名が登録(18)されている。

 この講師検索データベースの目的は、各地方自治体の研修の支援にある。講師検索データベースの利用に際しては、IDとパスワードが必要となり、一般公開はされていない。IDとパスワードは都道府県教育委員、政令指定都市教育委員会、都道府県・政令指定都市生涯学習・社会教育センター等に配布されており、行政担当者のみの利用となっているが、同時に、講師個人の情報の保護・管理という視点が窺える。

 このような講師検索データベースのみならず、様々な人脈などを通じて新たな課題、或いは、今日的な課題に対応するトピックに適した講師を選定するが、その為のソースのアンテナを如何に敏感にするかにかかっている。

 今後、レジュメや講義で使用した教材・資料も収録すると、より有用なデータベースになると考えられる。また、期を図って一般公開して行く方向性も有効であると思われる。都道府県教育委員会と研修を必要とする各機関との繋がりや連携が必ずしも確立されているわけではないという状況に鑑みて、積極的な情報発信という意味に於いて、また同時に他機関との情報交換や連携という意味に於いても、この講師検索データベースは有用且つ重要な試みであるといえる。

 

(4)研修事業の評価

1)実施主体の評価について

 「図書館司書専門講座」の企画・運営等に関して第3者評価まではやっていない。参加者には、講座の運営、内容、プログラムなどについて、アンケート(19)を実施することで、そこから浮き彫りになる評価結果を反省材料にして、次回以降の講座の参考にしながら繋げている。また講座科目の「事例研究」でのトピックからも今日的課題として参考にしている。

 更に既述のように、研修プログラムに於ける「研究協議」などを通じて参加者の”生の声”を積極的に取り入れ反映している。また、参加者同士のコミュニケーションを図る為の「ネットワーク支援カード」などの導入によりフィード・バックを図っている。

 

2)参加者の評価について

 「図書館司書専門講座」は、修了証書は発行するが、資格付与というコースではないので、テストをしたりレポートを課したりはしてない。

 また、参加者のその後の活躍に対する追跡調査までは行っていないので、そういったところの評価が図られてはいないというのが現状である。しかし、参加者のその後の活躍や職場へ帰ってからの本人に対する評判、或いは、参加者本人からの講座に対する評価などはインフォーマルな宣伝効果があることに鑑みて、調査の必要性に関して意識はしているし、話題や議論の対象にもなってはいるが、現状では手が回らないといった状況である。

 

(5)研修事業の今後の展開

1)現在の研修プログラムの課題について

 受講者の参加費用は一般的に地方自治体の予算に頼っているのが現状であり、昨今、地方自治体の財政悪化問題に絡んで、講座そのものの参加が厳しくなっているように思われる。特に地方からの参加が困難な環境にあることが大きな課題であるといえる。

 そこで、衛星通信を活用したエル・ネット(20)やe-ラーニング、インターネットを使った講義やプログラムの配信などといったことを検討していかないといけないと考えている。しかしながら、エル・ネットに関しては、番組放送は既に配信されてはいるが、その反面、地域に於ける受信先のインフラが必ずしも十分ではないことが懸念される。今後の課題として受信する側のインフラ整備ということも念頭に置く必要があると考えられる。また、e-ラーニング及びインターネットの活用に関しては、研究成果やノウハウの蓄積を有効に活かす方向性での活用が望まれる。

 将来的に地方自治体で研修に対する予算が極めて厳しい状況になってしまったとしても、こういった遠隔学習の機会を提供出来れば、国の研修事業の趣旨及び目的を維持でき得るものと考えられる。しかしながら同時に、演習など参加型の学習の有効性もあるのでそれらの兼ね合いを図ることにより、一層の研修の充実化を図る必要があると考えられる。

 

2)今後の研修事業の中長期的方針について

 「図書館司書専門研修」そのものの成文化された中長期的方針は特に存在しない。しかし、上記「現在の研修プログラムの課題について」で明らかになったように、今後の動向への対応という意味に於いては明確なビジョンを持っているということができる。

 また、国の施策としてこれから公共図書館はどうあるべきかを平成16年(2004)7月から、月1回のペースで「これからの図書館の在り方検討協力者会議」(前掲)を設けて検討している。メンバーは、学校関係者、県立図書館、大学の先生、図書館関係、生涯学習関係、日本図書館協会など多岐に渡っている。社会の変化に伴って、図書館の果たす役割は何かといったこれからの新しい図書館像・方向性の模索という「古くて新しい課題」に取り組んでいる。

 ここには当然、そこで働く職員の問題も内包している。新しい図書館機能の模索と同時に、そういった機能を担う職員の資質はどうあるべきかということが浮き彫りになれば、当然、「図書館司書専門講座」の在り方もシフトしていくはずである。そういった意味に於いて、今後の社会の流れに敏感に対応していく体制を整えている。

 

(6)図書館職員の研修に関して国立国会図書館に求めること

 「図書館司書専門講座主要研修事項等」(資料2)にあるように、平成16年度に於いては、「主要研修事項:豊かな図書館サービスの展開」の項目の下、「講義・演習・現地研修」という形態で「国際子ども図書館のサービス」の題目の下、「児童サービスについて」及び、「国際子ども図書館の児童書と図書館サービス」という研修内容が国際子ども図書館児童サービス課及び国際子ども図書館資料情報課の協力の下実施(21)されている。立地条件も社会教育実践研究センターに隣接していることは都合のいいことである。同時に児童サービスそのものが、子どもの読書活動の推進に関する法律制定前後から急速に社会的関心を集めていることからも、図書館界と取り巻く重要な課題であると考えられる。そこで、今後とも国際子ども図書館との更なる連携協力体制の強化があれば、研修内容の一層の充実を図ることができるものと期待される。

 また、この「図書館司書専門講座」は、日本図書館協会が実施する「中堅職員ステップアップ研修」との関連がある。その意味でも、この研修講座の修了証書を授与された者が、更に専門的・上級的な研修・講座を受講でき得るような機会を国立国会図書館が提供できれば、図書館界全体として巧く活性化できると考える。

 

(7)まとめ

 文部科学省及び社会教育実践研究センター実施の「図書館司書専門講座」を各観点から考察してきたが、プログラム全体としてはマネジメント的側面を重視しているということができる。これは添付資料1「図書館司書専門講座実施要項」にもあるように、参加対象者に指導的役割を期待するからであろう。

 その為、実際のプログラムの中には講義のみならず、「研究協議」や「現地研修」、「事例研究」、「演習」など自館への適応・活用へと繋げるよう参加型の学習形態の充実が特徴であるといえる。またその際、参加者のアイス・ブレイクを意識したり、KJ法を用いるなど工夫が見受けられる。その演習に際しては、5〜6人のグループに分け、受講生の主体的な参画を図ると同時に、その参加者には市町村・都道府県など所属の位相が存在するが、同種がいいのか、或いは、敢えて異種がいいのか、更には男女共同がいいのかなど扱うテーマによって適宜グループを編成することによってより効率の良い学習効果が得られるよう配慮されている。

 社会教育の専門的職員としては、社会教育主事、公民館主事、博物館学芸員、図書館司書など種々であるが、広く生涯学習、或いは、社会教育という枠組み及び理念に於いては、社会教育指導者が果たすべき役割として一致している。即ちそれは、「学習者が学習活動を展開するにあたって、学習の目標の設定、内容・方法・教材等の選定にさまざまな影響力を与える」という側面及び「人々の学習要求を啓発し、学習が自主的に行われるための条件を整えるとともに、学習活動を展開するにあたっては、学習効果が高まるように支援する」(22)ことにあるといえる。こういった認識に立脚し「図書館司書専門講座」を含む各種講座・研修(23)を実施してきており、過去に作成された各種教材や資料の蓄積(24)もある。それらを基礎として、その内容の充実を図る方向で今後事業展開することが指摘(25)されている。今後の在り方に於いては、そういった教材や各種資料をサーバーに蓄積し、各地の受講協力者へネット上で配信するWBT(Web Based Training)形態を目 指す方向(26)も考えられる。最近は社会変化のテンポが速まり、社会教育関係の知識・技法もその影響で陳腐化する速度が速まっている。その為、絶えず知識・技法を更新していかなければならなくなっている。しかし、職員が研修に参加するのは、回数にも自ずと限りがあるので、寧ろ機関や施設に専門的な知識・技法を蓄積することを考えていかなければならないであろう。また、職員の人事異動により、専門的な知識・技法をある程度修得しかけた頃に異動してしまうこともある。アウト・ソーシングや司書資格を持たない図書館員の配置などの現実に対して、組織そのものに専門的な知識・技法を蓄積し、それを運用して独自に研修を組み立てる能力が今後一層求められると考えられる。

 

添付資料1 図書館司書専門講座実施要項(抄)

添付資料2 平成13〜16年度 図書館司書専門講座 主要研修事項等

添付資料3 アンケート(抄)

添付資料4 「これからの図書館の在り方検討協力者会議」設置要綱(平成16年7月30日 生涯学習政策局長決定)


[注]

(1)国立教育政策研究所社会教育実践研究センター所掌事務事項、①社会教育指導者及び社会教育に関する事業に関する政策に係る基礎的な事項の調査及び研究を行うこと。等

(2)調査・研究の実施にあたっては以下のように5つの柱が存在する。

1.社会教育活動の実態に関する基本調査事業:社会教育事業の実態や諸課題、学習者の動向などを調査・分析して、施策や諸研究の基礎的資料とするために、毎年テーマを定めて実施する。

2.社会教育事業の開発・展開に関する調査研究事業:地域での充実した社会教育事業の展開を支援するため、事業プログラムや遠隔社会教育事業の手法の開発を行う。

3.社会教育事業の検証・評価に関する調査研究事業:社会教育事業の計画立案から事業実施まで、それぞれの過程に着目して検証・評価を行っていくためのモデル指標を研究開発する。

4.社会教育指導者の育成・資質向上のための調査研究事業:社会教育主事等の養成・資質の向上に資する資料を、今日の社会情勢の変化や情報化、学習活動の多様化に対応するように改訂を行う。

5.奉仕活動・体験活動の推進・定着のための研究開発:社会教育実践研究センターに設置している「全国体験活動ボランティア活動総合推進センター」が担う役割のうち、奉仕活動・体験活動に関する国内外の情報収集や情報提供機能の充実を図るとともに、魅力的な活動プログラム、NPOとの連携方法等の研究開発を行い、その成果を都道府県・市町村に設置されている各支援センターに普及していくことで、奉仕活動・体験活動に関する事業の推進と全国的な定着を支援する。

(3)平成15年度及び平成16年度「図書館司書専門講座実施要項」の「趣旨」より抜粋。因みに、平成13年度及び平成14年度の「趣旨」は「図書館司書としての職務を遂行する上で必要な専門的な知識・技能についての研修を行い司書としての力量を高める」となっている。

(4)国立教育政策研究所社会教育実践研究センター『社会教育主事のための生涯学習概論』平成15年度版、p.8

(5)「図書館司書専門講座実施要項」によると、「勤務経験が概ね7年以上で指導的立場にある者」となっているが、それまでの知識・経験をビーフ・アップするという意味合いと、社会の変化に対応させてフレッシュ・アップするという意味合いが窺える。

(6)添付資料1(「図書館司書専門講座実施要項」)を参照されたい。

(7)メールマガジン「社研通信」は、社会教育実践研究センターに於ける研究セミナーや研修事業の実施予定、研究成果の紹介、その他の様々なニュースを定期的に配信している。

(8)添付資料1(「図書館司書専門講座実施要項」)より抜粋。

(9)平成13年度及び平成14年度は「総研修時間数の概ね3分の2以上を出席した者に、修了証書を授与する」とある。平成15年度以降は既述の如く5分の4以上と基準が厳しくなっている。

(10)添付資料1を参照されたい。

(11)「研究協議」のテーマは年度によって異なっているが、どれも今日的課題に則しているといえる。平成13年度のテーマは、「図書館司書の課題」及び「図書館司書のリーダーシップ」、平成15年度は「これからの図書館経営」、平成16年度は、「生涯学習社会における図書館をめぐる課題」及び「図書館サービス計画の企画・立案」となっている。参加者が自由に討議する時間を設け、そういった活動の中で自館の問題、或いは、地域社会での課題も浮き彫りになるので、そういった問題意識や”生の声”も次回のプログラム立案や講師選定に反映させている。詳細に関しては、添付資料2(「図書館司書専門講座主要研修事項等」)を参照されたい。

(12)添付資料3を参照されたい。

(13)国立教育政策研究所社会教育実践研究センター編『図書館及び図書館司書の実態に関する調査研究報告書:日本の図書館はどこまで「望ましい基準」に近づいたか』(平成15年度社会教育活動の実態に関する基本調査事業)2004

(14)「今日の図書館の現状や課題を把握・分析し、生涯学習社会における図書館の在り方について調査・検討を行う」という、この会議設置の趣旨と「図書館司書専門講座」の趣旨とが概ね一致していることからも、こういった協力体制が窺える。なお、詳細に関しては、添付資料4(「「これからの図書館の在り方検討協力者会議」設置要綱」)を参照されたい。

(15)平成13年度から平成15年度までの柱は以下の4つである。「生涯学習社会における図書館の役割」、「図書館の経営・評価」、「新しい情報通信技術と図書館資料」、「図書館サービスの充実」。また、平成16年度に於いては以下の4つになっている。「生涯学習社会おける図書館」、「図書館の経営・評価」、「情報化と図書館」、「豊かな図書館サービスの展開」。なお、詳細については添付資料2(「図書館司書専門講座主要研修事項等」)を参照されたい。

(16)「中堅職員ステップアップ研修(1)」は、参加対象者は勤務経験3年以上である。なお、詳細については、本調査研究報告の日本図書館協会の項目を参照されたい。

(17)講師検索データベースは、都道府県・政令指定市教育委員会及び都道府県・政令指定市生涯学習・社会教育センター等が県下市町村の生涯学習・社会教育関係職員の各種研修会・講座等における事業計画立案を支援するためのシステムである。なお、詳細に関しては、http://www.nier.go.jp/homepage/syakai/kensakutop.htmを参照されたい

(18)登録に際しては、各講師の賛同によっている。

(19)添付資料3(「アンケート(抄)」)を参照されたい。

(20)「エル・ネット」は、衛星通信を活用して、教育・文化・スポーツ・科学技術に関する情報を直接全国に発信する文部科学省の教育情報衛星通信ネットワークである。平成11年7月より稼働しており、全国の社会教育施設、学校等約2,200か所が受信局として整備されている。放送局は、文部科学省、国立科学博物館、全国の教育センター等35か所に整備されており、「子ども放送局」、「オープンカレッジ」、「文部科学省ニュース」、「研修プログラム」などの番組が放送されている。社会教育実践研究センターでは、社会教育情報番組「社研の窓」を制作・放映しており、地域に於ける社会教育事業を支援する目的で全国の特色ある実践事例などを紹介する番組を制作・配信している。配信プログラムは、例えば、実践事例シリーズ「子どもの居場所づくり」、「まちづくり」、「ボランティア活動」などがある。詳細に関しては、下記URLを参照されたい。
http://www.nier.go.jp/homepage/syakai/el-Net/H15/H15-syakenmado-yokoku.htm

(21)平成15年度にあっては、「主要研修事項:図書館サービスの充実」の題目の下、「講義・演習」の形態に於いて、国際子ども図書館資料情報課による「図書館サービスの実際」が実施されている。同様に、平成14年度にあっては、「主要研修事項:図書館サービスの充実」の題目の下、「事例研究」の形態に於いて、国際子ども図書館児童サービス課による「これからの児童・青少年サービス」がカリキュラムの中に組み込まれている。など、詳細に関しては、添付資料2(図書館司書専門講座主要研修事項等)を参照されたい。

(22)国立教育政策研究所社会教育実践研究センター編『社会教育主事のための生涯学習概論』(平成15年度研修資料)2004、p108

(23)研究セミナー・資質向上事業の実施の項目の下、以下の3つが展開されている。1つ目は、「研究成果の検証・分析等のための研究セミナー等」であり、その中には「生涯学習機関等の連携に関する実践研究交流会」、「全国生涯学習センター等研究交流会」、「生涯学習の情報化に関する研究セミナー」、「全国体験活動ボランティア活動推進研究セミナー」、「学習プログラム研究セミナー」、「社会教育事業の評価に関する研究セミナー」、「体験活動ボランティア活動支援センターフォーラム」がある。2つ目は、「社会教育研修事業(文部科学省との共催事業)」であり、その中には「公民館職員専門講座」、「博物館職員講習」、「社会教育主事専門講座」、「図書館司書専門講座」、「新任図書館長研修」がある。そして3つ目は、「社会教育主事講習(文部科学省委嘱事業)」であり、その中には「社会教育主事講習[A]」及び「社会教育主事講習[B]」がある。

(24) 平成15年度調査研究報告書・基礎資料集等には以下のものがある。まず「調査研究報告書等」としては、「図書館及び図書館司書の実態に関する調査研究報告書」、「インターネットを活用した社会教育研修プログラムの研究開発報告書」、「生涯学習センター等と市町村との連携の方策に関する調査研究報告書」、「青少年の体験活動ボランティア活動のコーディネーター養成研修プログラムの開発報告書」、「社会教育調査ハンドブック」、「体験活動ボランティア活動支援センター活動事例集」がある。また、「基礎資料等」としては、「生涯学習・社会教育関係文献目録」、「博物館に関する基礎資料」、「公民館に関する基礎資料」、「学習プログラム立案の技術」、「生涯学習・社会教育事業事例集」、「図書館サービス計画立案の技術」、「都道府県・指定都市等における生涯学習・社会教育に関する答申・建議等」、「社会教育主事のための生涯学習概論」、「社会教育主事のための社会教育特講」、「社会教育主事のための社会教育計画Ⅰ」、「社会教育主事のための社会教育計画Ⅱ」、「社会教育計画立案の視点と手順」がある。

(25)国立教育政策研究所社会教育実践研究センター編『インターネットを活用した社会教育研修プログラムの研究開発報告書』(平成15年度社会教育事業の開発・展開に関する調査研究事業)2004、p28

(26)国立教育政策研究所社会教育実践研究センター編『インターネットを活用した社会教育研修プログラムの研究開発報告書』(平成15年度社会教育事業の開発・展開に関する調査研究事業)2004、p77.「第4章 提言 〜これからのインターネットを活用した社会教育研修・学習支援の在り方〜」の項目の下、「4.1 社会教育に関する専門的な知識・技法蓄積の必要性」に於いて「社会教育関係の機関や施設に社会教育に関する専門的な知識・技法を蓄積すべきである」と言及されている。