4. オープンアクセス型アーカイブの現状と図書館の役割 / 松林 麻実子


4. オープンアクセス型アーカイブの現状と図書館の役割


 学術情報流通の電子化が進展している現状において,従来の学術情報流通システムに制約を受けない形の「新たな」情報メディアが出現してきた。物理学分野において利用されているe-print archiveなどがその典型である。これらのメディアの特徴は,それを介することで学術情報の流通が研究者間で直接的に行われ,従来の流通システムの根幹を支えていた出版社や図書館などを想定しない情報流通が可能になるという点である。


では,そのような情報メディアの出現に対して,図書館はいかなる態度をとるべきだろうか。本章では,その点について考察するために,オープンアクセス型アーカイブの現状を概観するとともに,諸外国の国立図書館がそれらのメディアについてどのような態度をとっているのか,ということに関する調査結果を報告する。その上で,国立図書館がオープンアクセス型アーカイブに対していかなる関与の仕方をすればよいのか,について論じるものとする。



4.1オープンアクセス型アーカイブの概要


 先に触れたように,近年,学術情報流通における新しい仕組みを持ったメディアが出現しはじめている。これらは,既存の学術情報流通における問題点−価格高騰,投稿から発表までのタイムラグ−を解決するための試みとして開始されたものである。本節では,このような情報メディアの代表的な例として,e-print archive,PubMed Central,Public Library of Science,DSpaceの4つを取り上げ,どのようなメディアで,どのような利用者が,どのように利用しているのか,ということについて概観する。なお,通常オープンアクセス雑誌やオープンアクセス出版という場合には,既存の大手商業出版社を介さない新たなジャーナルの刊行を意味することが多い。しかし,ここではどのような種類のメディアであれ,結果的に誰でも自由にアクセス可能であるアーカイブ全般を「オープンアクセス型アーカイブ」と総称し,それらを対象として議論を展開する。



4.1.1 e-print archive(http://arxiv.org


 e-print archiveとは,“電子化されたプレプリント(刊行前雑誌論文)を蓄積し提供しているコンピュータのサーバー”(倉田ら,2000)のことであり,その定義には広義のものと狭義のものの二種類が存在している。広義のe-print archiveとは,特定の機関が発行したり受け入れたりしたプレプリントを電子化し,その全文を入手できるようになっているものである。これは,後ほど4.1.4で触れる機関レポジトリに通じるものだといえよう。それに対して,狭義のそれは,著者としての研究者が直接プレプリントを登録し,利用者としての研究者がサーバにアクセスすることでプレプリントの全文を入手することができるようになっているものである。ここに分類される代表的な例は,1991年にギンスパーグによって始められたarXiv である。サーバ設置当初は,米国ロスアラモス研究所によって運営されていたが(当時http://xxx.lanl.org),その後コーネル大学に移管している。arXiv は全世界にミラーサイトを持っており,日本にも,京都大学基礎物理学研究所が管理しているものが存在する(http://jp.arxiv.org/)。なお,e-print archiveは一般的にはプレプリントサーバとして認識されているが,arXiv には,一部ポストプリントも登録されている。


ISI-ThompsonはWeb of Scienceにプレプリントやe-print archiveの引用を含めるようになり,米国化学協会はChemical Abstractにおいて,選択的にではあるが,arXiv のファイルを索引の対象とし始めている(Kenneth &Carriveau, 2001)。2001年の段階ですでに,研究者集団における情報源としての認識は,ある程度確立しつつあったということが言えるだろう。


 arXiv をはじめとするe-print archiveの利用動向を調査したものは実はそれほど多くないが,調査結果を確認してみると,どれも類似した傾向にあることがわかる。例えば,日本の物理学研究者に対して倉田らが行った調査では,1999年,2003年ともに利用者は全体の3割程度にとどまっている(倉田ら,2000/松林・倉田,2003)。この割合は,欧米の研究者が行った調査においても,それほど増減していない。すなわち,e-print archive利用者は,物理学分野全体に広がっているというよりはむしろ,特定の利用者集団を想定可能である,ということである。利用者集団が持つ特徴としては,素粒子論や宇宙論,高エネルギーなど限定された研究領域に所属していることがあげられる。


e-print archiveは出現した当初,新しい形態の電子メディアとして非常に注目された。それは,このメディアがこれまでの学術情報流通システムの基盤となってきた出版社や図書館を介在させずに,研究者間の直接的なコミュニケーションを可能とする仕組みを持っていたからである。e-print archiveが数年のうちに学術雑誌を凌駕するのではないか,という推測も,少なからぬ人数の研究者によってなされていた時期があった。


 しかし,e-print archiveの利用実態を見ると,このメディアが急激に普及するということはどうもないようである。先に触れた日本国内の利用実態調査でも,利用者の割合は全く変化していなかった。そして,利用者のメディア利用行動を詳細に分析しても,彼らはやはり学術雑誌の利用(読み・投稿)を前提としてe-print archiveを利用しているように見える。e-print archiveが学術雑誌に取って代わる,というような事態は,少なくとも現段階では想定できない。また,時期的に少し古いものではあるが,1997年段階でのarXiv登録論文の学術雑誌受理率をみると,最低18.1%,最高では81.0%もの論文が学術雑誌に受理されている(高島,2000)。特に,arXiv の中核を成すhep-ph,hep-thでそれぞれ6~7割が受理されている。すなわち,arXiv に登録されている論文のかなりの割合は,学術雑誌にも掲載されている,ということである。


このように学術雑誌への受理率や利用者の行動を見てみると,e-print archiveは学術雑誌の代替メディアというよりむしろ,学術雑誌と類似した内容をより早く,よりオープンな形で見ることができるもの,という位置づけであることがわかる。


 


4.1.2 PubMed Central (http://www.pubmedcentral.nih.gov/index.html)


PubMed Centralは,国立医学図書館が作成している医学・ライフサイエンス関係の学術雑誌を対象としたデジタル・アーカイブである。参加できるのは,MEDLINEやEMBASEなどの主要な索引サービスの採録誌であるか,編集委員会にNIHなどの主要な非営利機関が助成する研究プロジェクトの主査が3人在籍しているような雑誌のいずれかである。出版社は,雑誌の最新号をデータの状態で納付する。データ提出の形式も厳密に決定されている(論文テキストはSGMLないしはXMLのタグつき,図については解像度の高いオリジナルの画像ファイル)。出版社は,一定期間(通常1年以内)コンテンツのアクセスを制限することができるが,その期間を過ぎれば半永久的に誰でも利用可能な状態になる。PubLinkとラベル付けされた論文に関しては,閲覧に制限があり,当該の雑誌が運営するサイトのみで見ることができる。ただし,これも一定期間を経過すれば,PubMed Centralのサイトで直接見ることができるようになる。2003年5月の時点で,120誌以上の雑誌論文およそ10万件が収録されている。PubMed/MEDLINEデータベースの利用者は,PubMedの抄録から直接PubMed Centralのフルテキストページに飛ぶことができる。



4.1.3 Public Library of Science(http://www.publiclibraryofscience.org/


Public Library of Science(以下,PLoSと表記)とは,学術情報に対するオープンアクセスを主張する医学・ライフサイエンス領域の研究者の集団である。2000年8月に,学術出版社に対して,彼らのコンテンツを出版後6ヶ月で一般に公開するように促した。この行動は,PubMed Centralへの支援という形で位置づけられる。さらに,研究者に対してはそれらの要求を満たさない学術雑誌ボイコットを呼びかけることも行った。Web上で署名を呼びかけ,2001年半ばの段階で172ヵ国から28,000以上,最終的には175ヵ国30,000人近い署名が集まったと言われている(Brower,2001;Albanese,2002)。


それに加えて,PLoSは学術研究を無料で流通させるための非営利出版イニシアティブの開始を発表した(2001年8月)。これは,自ら電子ジャーナルを創刊するということを意味しており,これは,先のPubMed Centralへの支援とは明らかに違う方向性を持っている。この時期に,PLoS内部において方針の転換が行われたといっていいだろう。この新たな活動は,2003年10月のPLoS Biologyの創刊で具体化している。さらに,2004年秋には2冊目の雑誌であるPLoS Medicineが刊行される予定となっている。



4.1.4 DSpace(https://dspace.mit.edu/index.jsp


 機関レポジトリとは,特定の機関が組織内部において生産された各種学術情報を収集し,蓄積,索引作成,保存,再頒布を行うシステムのことを指す。機関レポジトリがどれくらい存在しているか,という全体像や規模を知ることは難しいが,一つのデータとして,e-prints.orgが公開しているInstitutional Archives Registryを見てみると,2004年4月現在,155のレポジトリが登録されている(日本では,北海道大学理学研究科数学専攻と東京工業大学理工学研究科情報通信システム講座ネットワーク構成分野のものが登録されている)。


DSpaceとは,マサチューセッツ工科大学がヒューレット・パッカード社と共同で開発したアーカイビングのためのソフトウェアである。同種のソフトウェアは複数存在するが, DSpaceはそれらの代表的存在と言えるだろう。2002年11月に稼動を開始しており,マサチューセッツ工科大学をはじめ,コロンビア大学,コーネル大学,オハイオ州立大学などが利用している。前出のInstitutional Archives Registryではソフトウェア別のカテゴリ分けがされており,DSpaceのカテゴリには最も多い26機関が登録されている。


DSpaceでは,収集対象となる学術情報に,学術論文だけでなく,講義用資料や個人のホームページで公開している資料のアーカイビングなどまで,多種多様な形態のものを含んでいる。アーカイブされた資料はGoogle等のサーチエンジンでも検索可能なので,ここにアーカイブされた資料は,ある意味全世界に対して開いているということもできる。



4.1.5 学術情報メディアとしての新奇性


前項までで紹介した各種のオープンアクセス型アーカイブは,それぞれ多様な仕組みや性質を持っているが,そのどれもが既存の学術情報流通システムを変容させるか否かという点において注目されてきた。中でも近年最も注目されているのは,PLoS Biologyに代表されるオープンアクセス型雑誌であり,学術情報流通に際して発生する費用を著者が負担するという形態が成功するか否か,というところに焦点があてられている。


しかし,ここでは,これらのメディアの性質や将来性を議論するのではなく,新たに出現してきたこれらのメディアに対して国立国会図書館がとるべき態度について考察する。「態度」という語には,利用者に対してメディアの存在をアナウンスし,同時にアクセスを保証する,ということと,アーカイビングを行う,という二つの意味を持たせている。すなわち,国立国会図書館はオープンアクセス型アーカイブの存在をアナウンスすべきか否か,アーカイビングを行うべきか否か,という点について考えていくということである。この点について考える際に重要であるのは,これらのメディアが形式的及び内容的な側面から見たときに「新しいメディア」であるかどうか,である。


本章で着目している情報メディアは,どれもオープンアクセスを可能にしているものである。その意味ではこれまでの学術情報メディアとは異なる「新しいメディア」である。言葉を換えれば,「形式」の側面において新しいメディアである,ということができるだろう。これらのメディアは,インターネットを利用できる環境さえ確保すれば,図書館サービスを経由することなく利用可能なものである。したがって,一見,その利用プロセスに国立国会図書館が関与する必要性はないかのように見える。しかし,オープンアクセスという性質を持つものであるからこそ,国立国会図書館は利用者に対してその存在を知らせていく必要があると考える。大学や大規模な研究所に所属する研究者でなければ,これらのメディアの存在を知る機会はそれほど多くないはずである。そうだとすれば,利用者は,国立国会図書館のサービスを通してはじめて,新たなメディアに対する知識,情報入手の手段を獲得できることになるからである。


それに対して,次にそれらをアーカイビングする必要性があるかということについて考えたい。この場合,今度はそれらのメディアが「内容的に」新しいメディアであるかどうか,ということを考えなければならない。これは,既存の図書館資料(=学術雑誌)から独立しているものであるかどうか,と言い換えてもよい。


その観点から見たとき,結論としては,ほとんどのデータが学術雑誌を前提としたものであり,内容という側面から判断したときには,新しいメディアではないということになる。例えば,e-print archiveは,学術雑誌に投稿する前段階の原稿を登録したものという位置づけができる。もちろん,学術雑誌に掲載される前に査読等を経ることで内容に変更が加えられる可能性も高い。しかし,正式な科学技術情報として流通しているのが変更後の学術雑誌のほうである以上,その前段階のe-print archiveについて図書館がアーカイビングすることに,緊急性や重要性があるとは言いがたい。また,ポストプリントを登録しなおす例もあり,それまで含めれば,さらに既存の学術雑誌と内容的に重複することになる。さらに言えば,e-print archiveは数多くのミラーサイトをすでに持っており,国立国会図書館があらためてアーカイビングを行う必要性は限りなく低い。PubMed Centralの場合は,さらにその傾向が顕著である。なぜなら,PubMed Centralが行っているのは,新たな情報を生み出すことではなく,既存の学術情報をオープンアクセス化すること,すなわち「形式」を変換することだからである。ただし,米国医学図書館は他の非営利アーカイブが自らの環境と設備を活かしてPubMed Centralのアーカイブをコピーすることを推奨している,という言及もあり(Sequeria et al., 2003),医学・ライフサイエンス領域のアーカイブとしてミラーサイトを持ちたいという希望があるようである。


「内容」の側面で「新しいメディア」であると言えるのは,PLoSが新たに刊行したオープンアクセス雑誌のPLoS Biologyである。これは,新たな学術雑誌としてとらえることができるだろう。必要に応じてアーカイビングを行い,ミラーサイト的な役割を担うことができれば,利用者の助けになるのでないかと思われる。テクニカルレポートなどはこれまできちんとした形で提供されてきていないため,機関レポジトリも一部の内容に関しては新しいということができる。しかし,機関レポジトリがネットワーク上にどのくらい存在しているのか,という全体像が明らかになっていない以上,どの機関レポジトリを収集対象とするのか,というアーカイブの基準を定められない。したがって,機関レポジトリをアーカイビングの対象とするのは難しいだろう。


以上から,近年次々に出現している新たなメディアと呼ばれるものは,アクセスの保証という点においては,国立国会図書館が積極的な態度をとるべきであるが,アーカイビングという観点から言えば,慎重な議論が必要であることがいえる。オープンアクセスのアーカイブはどれも発展途上であり,全面的に依拠してサービスを展開するには基盤が弱いという印象がある。だとすれば,既存の学術雑誌を切り捨ててオープンアクセスのものに全面移行する,という発想は採用しにくく,結果的に新しいメディアも意識にはとどめつつ,既存のメディアとのバランスをとって収集・提供していくほかない,ということになる。さらに,アーカイビングを行う場合であっても,イメージとしては,まとめて全部持ってくる,というWebアーカイビング的発想ではなく,それぞれのメディアに対するミラーサイトを作成するという方向性が支持されるものと思われる。それぞれのメディアを提供している組織との交渉が必要となるであろう。



4.2諸外国の国立図書館のオープンアクセス型アーカイブに対する姿勢


 国立国会図書館がオープンアクセス型アーカイブに対して果たす役割を考えるために,本節では,諸外国の国立図書館及び科学技術文献を専門に扱う機関が,電子メディアのアーカイビングに関して,どのような態度をとっているか,ということに関して報告する。ここで問題にしているメディアは,既存の学術情報流通システムにのらないものであるという点とともに,電子メディアである点においても,従来の図書館が扱ってきた資料とは異なる性質を持つ。ここでは,両方の観点を同時に議論するために,電子メディアの典型である電子ジャーナルについて,諸外国がどのように取り扱っているか,をまず明らかにし,それとの比較を通じて,オープンアクセス型アーカイブに対する姿勢を論じるものとする。



4.2.1調査方法・対象


 2004年2月に,欧米及びアジアの国立図書館・科学技術情報を扱う機関に対して,質問紙調査を行った。回答機関は12機関であり,具体的館名は以下の通りである。



(1) 米国医学図書館(Natinonal Library of Medicine)


(2) 米国農学図書館(National Agricultural Library)


(3) カナダ国立図書館(National Library of Canada)


(4) カナダ国立科学技術情報機関


(Canada Institute for Scientific and Technical Information)


(5) 英国図書館(British Library)


(6) ベルリン国立図書館 (Die Staatsbibliothek zu Berlin)


(7) フランクフルトドイツ図書館(Die Deutsche Bibliothek)


(8) ハノーヴァー大学技術情報図書館


(German National Library of Science and Technology / University Library Hannover)


(9) スウェーデン王立図書館(Kungl. biblioteket)


(10) オーストラリア国立図書館(National Library of Australia)


(11) 中国国家図書館(National Library of China)


(12) 韓国国立中央図書館(National Library of Korea)



 調査項目は,(a)電子ジャーナルの扱いについて(提供,目録,全国書誌への掲載,法定納本制度との関連,アーカイビング),(b)SPARCについて,(c)PLoS Biology及びe-print archiveについて,(d)機関レポジトリについて,(e)PubMed Centralについて,である(付録E参照)。



4.2.2電子ジャーナルに対する姿勢


 近年の電子ジャーナルの普及は著しいものがある。ここでは,国立図書館などの諸機関の電子資料への親和性を確かめるために,電子ジャーナルに対して,冊子体の資料と同じ扱いをしているのかどうかということを確かめた。結果としては,電子ジャーナルの提供に対しては,ほぼ冊子体の資料と同様の発想で業務が進められていることがわかった。ただし,電子媒体の資料を扱うためには,法律的な側面などクリアすべき問題が山積している状態であり,彼らが問題に対処している様子を回答から読み取ることができる。その問題はここでの本題から離れてしまうため,触れないでおく。回答に関しては,付録Fに添付するので,参照願いたい。



4.2.3オープンアクセス型アーカイブに対する姿勢


オープンアクセス型アーカイブについて,(1)既存の流通システムにのらないアーカイブ,(2)機関レポジトリ,(3)既存の流通システムの下で一旦出版されたアーカイブをオープンアクセス化したもの,に分類し,それぞれに対して,収集対象だと考えているか,実際に提供を行っているか,アーカイブを自館で作成しているか,という観点から各図書館の対応を整理する。



4.2.3.1既存の流通システムに基づかないアーカイブ


ここでは,e-print archiveやPLoS Biologyのように,研究者間の直接的コミュニケーションに基づく情報メディアを想定し,それらを各図書館が図書館資料として認識しているのかどうかについて明らかにした。


 新しいシステムに基づく学術情報を収集対象だと考えるか,という設問に対して,12機関中5機関が「収集対象である」と回答した。「収集対象ではない」と答えたのが6機関,「無回答」が1機関であった。収集対象である,とした5機関のうち,米国農学図書館,フランクフルトドイツ図書館,ハノーヴァー大学技術情報図書館及びスウェーデン王立図書館の4機関は,“職務の中にそのようなイニシアティブに関する情報流通が含まれている”ないしは“メディアのタイプに関わらず,利用者に適した主題分野であれば収集する”といった言及をしていた。英国図書館のみは,“従来の価格モデルで出版されたジャーナルの収集と同じように,オープンアクセス・ジャーナルを収集できるよう,オープンアクセス出版社と交渉中である。”という表現をしていた。カナダ国立図書館はPLoS Biologyのような学術情報は「収集対象ではない」と答えたが,その代わりにカナダの全てのオンライン出版物を自らのレポジトリで収集・保存し,出版社が無料(もしくは条件付)アクセスを許可しているものについて,アクセス可能な状態にしてあることを述べていた。


 実際に収集しているものと提供形態をたずねたところ,それぞれ次のような回答であった。米国農学図書館では,フリーアクセスのジャーナルであれば,それらをデジタル図書館DigiTopのインターフェース上でリスト化して提供している。フランクフルトドイツ図書館では,1998年以降,オンラインの学位論文とポスト博士論文を収集している。2001年9月以降は,学位論文の永続識別子(Persistent Identifier)を授与し管理するサービスを構築している。これは,むしろ機関レポジトリに近いシステムではないかと思われる。ハノーヴァー大学技術情報図書館は,アーカイブに対してリンキングをしている。スウェーデン王立図書館では,学術コミュニケーションの範囲内(会議発表,webページ,電子メールリストなど)で興味深い重要な開発を扱ったものは全て扱っているとのことである。



4.2.3.2機関レポジトリ


 機関レポジトリを収集対象と考えるかどうか,という質問に対しては,回答が二手に分かれた。12機関中,「収集対象である」と回答したのは5機関,「収集対象ではない」と回答したのが6機関,無回答が1機関であった。その理由として,「収集対象である」と回答した機関は,そのほとんどが“フォーマットやメディア等に関わらず,収集対象とする学術情報についてアクセスを提供する責任がある”ということをあげていた。スウェーデン国立図書館では,機関レポジトリのアーカイブ機能を担う計画が進んでいるようである。逆に,「収集対象ではない」と回答した機関では,“法定納本によって全てのカナダのオンライン出版物を収集することは,機関レポジトリのようなものとはパラレルな関係にある独自のシステムで動いている”(カナダ国立図書館)であるとか,“機関レポジトリはOpen Archive Initiativeのもとに自由なアクセスが提供されるべきである”(カナダ国立科学技術情報機関),“機関レポジトリは,構築した大学がレポジトリ内の資源を保存しアクセスを提供する責務を負うことになるのではないか”(オーストラリア国立図書館)などの理由があげられた。


 具体的な収集範囲をたずねたところ,回答があったのは2機関のみであった。フランクフルトドイツ図書館では“約2万件の学位論文と博士論文”,ハノーヴァー大学技術情報図書館では,“6,770,000電子文献へのアクセス,11,000電子文献(レポート,学位論文)の所蔵”という回答であった。




4.2.3.3一旦出版されたものをオープンアクセス化したアーカイブ


 ここでは,PubMed Centralのようなアーカイブを想定し,彼らが米国医学図書館と同様の活動を考えているかどうかについて確認をした。


12機関中3機関が「構築している」,8機関が「構築しない」,1機関が無回答であった。「構築している」と回答したのは,米国医学図書館,カナダ国立図書館,ハノーヴァー大学技術情報図書館,の3機関である。米国医学図書館はPubMed Centralを構築している主体である。カナダ図書館・公文書館では,“相互貸借プログラムによって,オンラインコレクションを含む全コレクションの文献を流通させている”とのことである。ただし,あくまでもカナダの国レベルのネットワーク内に限定される。また,相互貸借可能かどうかは,(1)多様なデータベースやオンラインジャーナル,オンライン出版物の購読・収集に関するライセンス契約の内容,(2)カナダ図書館・公文書館に納本したオンライン出版物を完全に無料で提供するか,あるいはアクセスを制限するか,ということについての出版社の決定,という二つの条件による。ハノーヴァー大学技術情報図書館では,ドキュメントデリバリーによる提供を行っている。オンラインドキュメントは,ライセンス契約で可能な場合に提供している。カナダ国立図書館とハノーヴァー大学技術情報図書館が行っているのは,どちらも自国の図書館ネットワーク内におけるデータレベルでのドキュメントデリバリーであり,PubMed Centralのような提供形態,すなわち利用者が自由にアクセスできるという意味でのオープンアクセス化が行われているわけではないようである。


 このような流通システムの構築が任務に含まれているかどうか,についてたずねたところ,「含まれる」が3機関,「含まれない」が3機関,残りの6機関は無回答ないしは「わからない」であった。無回答には,先の質問で「構築している」と答えた3機関も含まれている。この設問で「含まれる」と回答したのは,米国農学図書館,フランクフルトドイツ図書館,オーストラリア国立図書館,の3機関である。米国農学図書館では,“AGRICOLAデータベースの利用者が索引のとられた文献の全文に,可能な限りシームレスに到達できるようにしたい”と考えている。理想的には,URLリゾルバーのようなツールを使って,他の出版機関が作成した全文をわが館が蓄積する必要がないようにするつもりだ”という将来の方向性が語られた。フランクフルトドイツ図書館でも,やはり将来的な展望が述べられており,“今まで,「動的な頒布」や「二次的出版」は第一目的ではないとみなしてきた。2006年の稼動を予定している長期アーカイブは,配布とアクセスのための共同で協力的な基盤のバックボーンに向かって,徐々に開発していくべきである”という意見である。現段階である程度やっている,と答えたのはオーストラリア国立図書館である。ある程度という表現を用いたのは,“PANDORAアーカイブは,その中に商業的に出版された資料をいくつか含んでおり,元の出版社との契約期間の後に利用できるようになっている”からである。まとまった形でオープンアクセス化をしているわけではない。なお,同図書館では“Monashプロジェクトの一部として,オーストラリア国立図書館は無所属の学者のために機関レポジトリを開発する予定である。この機関レポジトリ中の資料は,レポジトリへの登録に加えて,他のチャンネルから紙媒体で出版される”という構想もあるようである。予定をしている,という表現を用いている3機関は,どれもPubMed Central的なオープンアーカイブをイメージしているようであることがわかる。


 現状では,PubMed Centralのようなシステムを実際に作っているところはない。しかし,今後の方向性という観点からいえば,いくつかの館では考慮していないわけではないという状況であった。



4.3オープンアクセス型アーカイブに対する図書館の役割


 前項において,諸外国の国立図書館及び科学技術情報を扱う機関がオープンアクセス型アーカイブに対して,どのような取り組みを行っているかということについて整理した。電子ジャーナルについてはどの館も等しく積極的に導入し,印刷版の学術雑誌とほぼ同様の扱い方をしているのに対して,オープンアクセス型アーカイブに関しては,様々な側面で意見が分かれることが明らかになった。また,電子ジャーナルについては実際に導入しているため,多くの問題が表面化してきているが,オープンアクセス型アーカイブに関しては,現段階で導入しているところが少ないために,導入に関する問題がまだ明確化していないという印象がある。


オープンアクセス型アーカイブの収集・提供という側面からいえば,それほど問題はない。アクセスの保証をしようとする傾向は,どの館にも等しく見られる傾向であった。それに対して問題視されていたのは,アーカイビング機能である。「アーカイブのアーカイブ」を行う方向性をとる,という立場がある一方で,それはナンセンスである,という立場も見られた。これは,それぞれのメディアを図書館がどうとらえているか,という意識につながる問題であり,それぞれの図書館によって考え方は異なっているようである。これは,オープンアクセス型アーカイブがまだ普及しきっていないということの表れだと考えられる。


しかし,4.1.5で論じたように,学術雑誌との差異がそれほどないものに対して,アーカイビングを行うということは緊急性,重要性を持たないこともまた確かである。それぞれのメディアを,図書館がどうとらえていくのか,ということについてさらなる議論が必要であり,一つ一つのメディアに関して,個別の状況に応じた議論を続けていく必要があるだろう。


 一方,米国医学図書館が行っているPubMed Centralのような活動は,近年のオープンアクセス雑誌の刊行という流れとは方向性が異なるものであるが,日本においては十分検討の余地のあるものだと考える。米国医学図書館はPubMedというデータベースを基盤として,PubMed Centralを成立させている。他機関が作成したアーカイブのアーカイブについてその是非を議論するのとは別の観点から,国立国会図書館のオープンアクセス型アーカイブとの関わりを考えるとき,米国医学図書館と類似したサービス展開の方向性があるのではないだろうか。利用度の非常に高い雑誌記事索引データベースを基盤にして,自国の文献をネットワーク上で提供できるようにする,という方向性は国立国会図書館が能動的なサービスを行っていくうえで,意義ある活動であると考える。




引用文献



Albanese A. Can public library of science grow? Scientists not following pledge, but librarians hope for attitude change. Library Journal. 127 (6), 2002, 20,22.


Brower V. Public library of science shifts gears. Embro Reports. 2 (11), 2001, 972-973.


Kenneth L. Carriveau, Jr. A brief history of e-prints and the opportunities they open for science librarians. Science and Technology Libraries. 20(2/3), 2001, 73-82.


Sequeira E, McEntyre J, Lipman D. PubMed central decentralized. NATURE. 410 (6830), 2001, 740.


松林麻実子,倉田敬子.“電子ジャーナル・e-Print archiveに関する物理学研究者の利用動向と評価”.2003年度日本図書館情報学会春季研究集会発表要綱.日本図書館情報学会,2003,55-58.


倉田敬子,松林麻実子.“第4章 物理学分野における傾向”.電子メディアは研究を変えるのか.倉田敬子編,東京,勁草書房,2000,99-138.


高島寧,倉田敬子.“第5章 E-print Archive”. 電子メディアは研究を変えるのか.倉田敬子編,東京,勁草書房,2000,139-171.