3.2.2 電子書籍の機関利用―図書館―

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 図書館における電子書籍は大きく2種類に分かれる。第一は、所蔵資料類の自館等による電子化とそのネットワーク公開であり、図書館の館種を問わず貴重書、文庫(コレクション)の電子化は一般的である。ただし、その大半は過去の「蔵書」類のデジタル化、ネットワーク公開であり、電子展示物の公開の範囲に留まっている。大学等においてはデジタル化されたコンテンツ類を媒介として、当該大学を核とした研究プロジェクトの推進や教育素材として活用されることが肝要である(4)。また、公共図書館では地域コミュニティの活性化への寄与などが強く求められている(5)

 公共図書館では郷土資料類を中心としたコンテンツが多い。一定規模の図書館ではこうした電子化に取り組んでいるが、例えば岡山県立図書館の「デジタル岡山大百科」のようにコンテンツをオープンに募集しているといった例もある。大学図書館では、初期の京都大学附属図書館による重要文化財鈴鹿本『今昔物語集』が最初である。しかし、慶應義塾大学の『グーテンベルグ42行聖書』を核としたHUMIプロジェクトなどの一部を除いて、当該大学の教育・研究体制と有機的に結びついた電子化の事例報告は管見にして見当たらない。なお、「日本の記憶」として神戸大学附属図書館の「震災文庫」は特筆しておきたい(6)

 第二は、外部提供の電子書籍の導入・提供である。図書館では商業ベースで提供されているコンテンツの一括契約が一般的であり、多くは出版社、またはアグリゲータのコンテンツサーバへのアクセス契約であるが、例外として後述の東京都千代田区立図書館などのケースもある。ここでの問題は、コンテンツサーバへのアクセス契約はID/パスワード数単位での契約(同時アクセス数は制約される)であれ、IPアドレス単位での契約(アクセスは組織内のIPアドレスに制約される)であれ、閲覧等への制限が契約上かかり、広くネットワーク公開はもちろん、図書館間相互協力の対象とすることが困難であることである。

 なお、大学等の研究機関を中心に、組織で生産・使用・形成された教育・研究資源の電子アーカイブと公開を目的とした「学術機関リポジトリ」の構築が進んでいるが、本報告では取り上げない。

 

3.2.2.1 公共図書館における電子書籍の提供

 

 公共図書館における電子書籍の導入、提供は未だ端緒についたところである。代表的な図書館としては、東京都千代田区立図書館の活動があげられる(7)。同図書館は2007年4月、指定管理者制度を導入し、民間企業が運営している。2007年5月に開館し、オープン半年で利用者が50万人を突破、2008年5月頃には100万人を超え、注目を集めた。地域特性を活かした日本初の図書館コンシェルジュ・サービスと銘打って、「神保町古書店案内」、周辺レストランや文化施設を紹介する「街案内」などのサービスも提供している。

 電子書籍提供サービスは、2007年11月26日に稼動した。約3,000タイトルを小学館など16社の出版社から400万円で購入、提供している。利用には、「利用登録→利用券取得→千代田区Web図書館のサイトからメールで個人アカウントを作成→アカウントとパスワードを取得後、サイト内にログイン」という流れになる。利用者1人につき上限5冊を2週間まで電子的に「帯出」できる。電子書籍の画面印刷はソフトウェアによりロックされており不可能である。2週間の貸出期間過ぎるとパソコン上から自動消滅する仕組みを導入し、同時アクセスの制御を行っている。区内在住者限定でサービスを開始し、2008年7月から区内在勤・在学者にサービス拡大した。

 また、奈良県生駒市立図書館では、全国の公共図書館で初めて、新しい読書スタイルとして小説・実用書など約2,900タイトルを揃え、携帯型の電子書籍専用端末機の閲覧・貸出を実施したが、貸出用の電子書籍用専用端末の使用モデルであったため、2007年度の専用端末使用ビジネスモデルの崩壊、撤退に伴い、過渡期の電子書籍サービスのモデルとなった(8)

 なお以上は例示であり、検索エンジンやリンク集を利用して他の電子書籍提供サービスを確認できる。

 

3.2.2.2 大学図書館における電子書籍の提供

 

 大学図書館における電子書籍の提供は、学術研究資源が中心であり、例えばNetLibrary、Springer eBook、Wiley InterScienceなどが一般的な導入コンテンツである。年間契約制で、学内LANフリー(IPアドレス制御方式)での提供である。但し、大学の学部構成やさらには財政規模などによって大きな差異が見受けられる。

 また、これはビジネスモデルの視点から考えると、図書館のコレクション構築ではなくアクセス権の契約であり、従来の図書館での有料データベース契約と同様である。

以下、いくつかを素描しておく。例えば、京都大学図書館機構の蔵書検索システムで検索可能な電子書籍は、20万タイトル以上(2008年12月現在)とされているが、そのうち約13万6,000タイトルは、18世紀に刊行された英語・英語圏刊行物を収録したGaleのコレクション“Eighteenth Century Collection Online(ECCO)”であり、一般的な利用対象コンテンツは、“Ebsco host Business Source Premier”約7万5,000タイトル、“OCLC NetLibrary”約3,800タイトルほかである(9)

 九州大学附属図書館の渡邊は、「大学図書館における電子リソース・サービスの推進―九州大学附属図書館のコンテンツ整備・きゅうとサービス・組織再編―」(10)で、電子情報資源提供の現状報告と今後の展開考察を実践的な立場から行っている。著者抄録の抜粋で要点を紹介する。ただし、年々減少傾向にある各図書館の人的資源を考えるとき、個々の図書館単独でのリンクリゾルバの常時維持は困難な課題である。

 

 大学図書館が電子リソース・サービスを推進するために必要なことについて、九州大学附属図書館の事例に基づき提案する。コンテンツの整備では、コレクション構築のための財政基盤の確立とそれに伴う図書館の責務を自覚することが重要である。利用環境の整備では、ナレッジベースを構築し、リンクリゾルバ、電子ジャーナル集、OPACといった電子的サービスを相互に連携させることで、電子ジャーナルの視認性を向上させることが可能になる。

 

 主題分野を絞った電子書籍の導入にはネットアドバンスのJapanKnowledgeによる『東洋文庫』シリーズや丸善による「化学書資料館」などがある。例えば高知大学総合情報センター(図書館)では、「化学書資料館」を導入している(11)。また、実践女子大学では、「青空文庫」、「Project Gutenberg」各官公庁ウェブサイト上の白書、オープンアクセス雑誌などの公開コンテンツの統合検索ができるOPACを提供している(12)

 電子書籍導入後の利用実態については、慶應義塾大学の報告がある(13)。短信であるが、「電子ブック増加の背景」、「契約モデルと価格」、「利用動向」などが素直に語られており参考になる。なお、同図書館は2007年7月6日、Gooleブック検索の図書館プロジェクトに参加を表明した。プロジェクトにおいて慶應義塾図書館が提供するのは、著作権保護期間の満了した約12万冊である(14)

 

(4) 例えば、慶應義塾大学のHUMIプロジェクトや、メリーランド大学「プランゲ文庫1945-1949: The Gordon W. Prange Collection」などがある。
“HUMI Project, Keio University”.
http://www.humi.keio.ac.jp, (参照 2009-01-15).
“The Gordon W. Prange Collection, University of Maryland”.
http://www.lib.umd.edu/prange/html, (参照 2009-01-15).

(5) 例えば、デジタル岡山大百科などがある。
岡山県立図書館. “デジタル岡山大百科”.
http://www.libnet.pref.okayama.jp/mmhp/index.html, (参照 2009-01-15).

(6) 神戸大学附属図書館. “神戸大学附属図書館 デジタルアーカイブ【震災文庫】”.
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/eqb/, (参照 2009-01-15).

(7) 東京都千代田区立図書館. “千代田区立図書館”.
http://www.library.chiyoda.tokyo.jp/, (参照 2009-01-15).

(8) 生駒市図書館. “電子書籍”.
http://lib.city.ikoma.lg.jp/ebook/index.html, (参照 2009-01-15).
 なお奈良先端科学技術大学院大学が、東京大学出版会の一部書籍の電子化を行い、館内アクセスに限定して提供しているが、デモンストレーション的な状況にある。

(9) 京都大学図書館機構. “京都大学図書館機構「KULINE」で検索可能な電子ブック”.
http://www.kulib.kyoto-u.ac.jp/modules/bulletin/article.php?storyid=404, (参照 2009-01-15).

(10) 渡邊由紀子. 大学図書館における電子リソース・サービスの推進:九州大学附属図書館のコンテンツ整備・きゅうとサービス・組織再編. 情報管理. 2007, 50(6), p.343-353.
http://hdl.handle.net/10.1241/johokanri.50.343, (参照 2009-02-02).

(11) 高知大学総合情報センター(図書館). “デジタル図書館閲覧サイト「化学資料館」の利用開始について(2007.10.1)”.
http://www.lib.kochi-u.ac.jp, (参照 2009-01-15).

(12) “実践女子大学図書館、OPACから『青空文庫』等の書誌データを検索可能に”. カレントアウェアネス-R. 2007-10-31.
http://current.ndl.go.jp/node/6761, (参照 2009-01-15).

(13) 保坂睦. 電子ブック導入その後:メディアセンターにおける利用と展望. MediaNet. 2007, (14), 2007, p11-13.
http://www.lib.keio.ac.jp/publication/medianet/article/014/01400110.html, (参照 2009-01-15).

(14) 慶応義塾. “慶應義塾が「デジタル時代の知の構築」にむけたGoogleとの連携による図書館蔵書のデジタル化と世界にむけての公開を決定”.
http://www.keio.ac.jp/ja/press_release/2007/kr7a43000000a5sr-att/070706.pdf, (参照 2009-02-11).