4.2 生涯学習機関としての図書館 ~高齢者サービス~

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北陸学院短期大学 コミュニティ文化学科  髙島 涼子(たかしま りょうこ)

 公立図書館は他の施設と並んで生涯学習の重要な機関として認識されており、高齢者向けの学習プログラムも大学、美術館、博物館、教会、シニアセンター、病院、退職者コミュニティ、高齢者デイケアセンターなどと共に図書館でも開催されている。現在、全米の動向を知る際に、高齢者への図書館サービスについては「アメリカ図書館協会高齢者に対する図書館サービス委員会(American Library Association Library Services to an Aging Population)」や「アメリカ合衆国全国図書館情報学委員会(U.S. National Commission on Libraries and Information Science:NCLIS)」が主要な情報提供源となっている。また、AARPや「国立シニアセンター研究所(National Institute of Senior Center:NISC)」、「高齢に関するホワイトハウス会議(White House Conference on Aging:WHCoA)」なども重要な働きを担っている。

(1) アメリカ図書館協会RUSA/RSS高齢者に対するへの図書館サービス委員会(American Library Association Reference and User Services Association/Reference Services Section/ Library Services to an Aging Population)

 この委員会の目的は、継続して高齢者への図書館サービスをより効果的に実施する方法を探り、高齢者の図書館利用に関する専門職や一般の人々に対して情報と教育を提供する方法を模索することである。同委員会のホームページによれば、現委員長はクライマン(Allan M.Kleiman)で、かつてブルックリン公立図書館で高齢者サービスを担当していた。この委員会の主な活動は、高齢者サービスに関しての情報提供である。そのために高齢者関連組織との連携―国内図書館組織、外国図書館組織(現在は特に2008年に開催されるIFLAケベック大会との関連でカナダ図書館協会およびIFLA)、AARPや「高齢に関する全国会議」(National Council on Aging:NCOA)など―が提示されている。高齢に関する組織、健康に関する情報源、高齢者法・高齢者虐待、資産・退職計画、高齢者向け雑誌などについてのサイトや介護者向けのサイト情報も提供している。また、高齢に関するホワイトハウス会議のALAの窓口でもある。ALAの視覚媒体すべてで「エイジング」の視点が欠如している点が(ポスターはすべて若い人々である)議題としてとりあげられたこともある。

 この委員会は公立図書館のために「21世紀のための21の計画」を公表している。

• インターネット講習の主催

• 医療専門家による医療計画の提供

• 地方史プロジェクトの主催

• シニアセンター、介護施設、退職コミュニティなどでの高齢者「ストーリータイム」の提供

• 過去の記念となるキルト作成計画の主導

• 世代を問わない写真コンテストの主催

• バーマシェイブ(Burma-Shave;アメリカン・セイフティ・レイザー社製のシェービングクリーム:1926年から中西部の道路沿いに一見詩的な冗談交じりの文を書いた看板を大量に立てて宣伝し売り上げを飛躍的に伸ばした。『リーダーズ・プラス』研究社)の看板、地域の雑話、音楽ボックス、第二次世界大戦に関するプログラムの提供

• オーラルヒストリー計画の着手

• 音楽プログラムの開催

• 高齢者や介護者のための討論グループを開始するための有力な人物との接触

• 会合のための場所の提供

• 住居安全プログラムの主催

• 社会保障、メディケア,税に関するプログラムの開催

• 『不思議の国のアリス』お茶会の主催

• 消費者シリーズの提供

• 1930年代40年代のウェディングドレス・ファッションショーの開催

• レシピの交換

• ライブ音楽またはDJとダンス・インストラター付きの「ソックホップ」(特に1950年代に高校生の間で流行したソックス姿で踊るくだけたダンスパーティ:『リーダーズ英和辞典』第2版)の主催

• 工芸や趣味の展示、レクリエーション活動のための場所の提供

• 高齢者のための税相談サービスの主催

• 地域におけるシニア・デイの確立

このような計画は地域における情報センターとしての公立図書館の性格を如実に現している。

(2) 公立図書館高齢者サービスプログラム

 公立図書館としては、クリーブランド公立図書館(Cleveland Public Library)の「楽しく長生きクラブ」が(Live Long and Like It Club)全米で最も早く1946年11月12日に高齢者サービスを提供したといわれている。約30名の高齢者が参加して始められたプログラムで、高齢者に成人教育の機会を提供した。

 ブルックリン公立図書館(Brooklyn Public Library, New York)は1999年に高齢者サービスのためのプロモーションビデオ『喜びの贈り物』(Gift of Joy)を作成しており、1974年から高齢者サービスを提供している。この図書館における高齢者サービスの最大の特徴はシニア・アシスタントの存在である。シニア・アシスタントはわずかではあるが時給が支給される高齢者のボランティアで、高齢者向けのプログラムを企画、運営、開催する役目を担っている。高齢者へのサービスを高齢者自身が担当している。正規の図書館員である高齢者サービス担当責任者がシニア・アシスタントを掌握し、他部局との連携を図り、長期展望をもってサービスの方向を確定し、高齢者サービス全体を統括する。また、高齢者サービスは独立した部局を持っていることも特徴の一つに挙げられる。サービスの内容は多岐にわたっている。ブルックリンという地域の特性上多文化サービスの要素も強く、移民への識字サービスや、ナーシング・ホームなどの施設への資料の宅配、シニア・アシスタントの企画による講演会、コンサート、討論会、読書会などがある。

 トーピーカおよびショーニー・カウンティ公立図書館(Topeka and Shawnee County Public Library, Topeka, Kansas)は「赤いじゅうたんサービス」(Red Carpet Service)を提供している。3万冊以上の大活字本、350種以上の拡大鏡、補聴器などを貸し出している。アウトリーチ宅配サービスでトーピーカおよびショーニー・カウンティ全域に図書館資料を提供している。外出不可能な利用者に資料を提供している。この高齢者サービスの特徴は地域全体が協力している点である。個人としてまた市民組織として、このサービスに必要な備品や消耗品の購入資金を提供することで、このサービスを援助してきた点である。広報に関しても地元のメディアが大きく貢献しており、コミュニティからの多大なサポートがあって運営されている。来館できない利用者にも来館可能な利用者と同等で同質のサービスを提供するというのがこのサービスの基本方針である。

 他にも多くの図書館が高齢者サービスを提供している。ユニークなアイディアに満ちたプログラムが多い。資金源も図書館予算は当然のこととして、財団などの組織からの補助、連邦政府からの補助、地域からの補助など多岐にわたっている。補助金以外に、宅配に欠かすことのできない車の保険料や維持費、集まりで配布する参加記念品といったものの寄付なども受けている。様々なアイディアと工夫に満ちた運営が高齢者サービスでは見られる。担当者も正規の職員に加えて、パートタイム職員、アシスタント、ボランティアと多様である。傾向の一つとして、ボランティアの採用時には正規雇用者の採用と同じ前歴の審査を行う図書館が増えていることがあげられる。これはボランティアが高齢者との親密な関係にいたるサービス提供者となることを考えれば当然の処置といえる。また、担当部局もブルックリン公立図書館のように単独の高齢者サービス担当を設置している図書館、アウトリーチ部局、成人サービス部局が担当など、それぞれの図書館の歴史や地域の特性を活かして様々である。

(3) 高齢に関するホワイトハウス会議

 ホワイトハウス会議は全米規模での諸問題に関して大統領が招集する全国会議であり、20世紀中に約35回開催されている。これまでに複数回開催された会議は高齢に関するホワイトハウス会議のみである。1961、1971、1981、1995、2005年とほぼ10年ごとに開催されてきた。主要テーマは各年代の特徴を現している。1961年ホワイトハウス会議は増大する高齢者の医療費が主要なテーマであった。この会議の勧告を受けて高齢者の医療制度高齢者医療健康保険(Medicare)が制度化され、アメリカ高齢者法(Older Americans Act)が制定されている。採択された勧告は立法措置が取られるかあるいは既存の法律の改正となって、規範力を持つものとして具体化される。

 2005年ホワイトハウス会議の特徴の一つとして、初めてベビーブーマーの高齢化が視野に入れられたことがあげられる。参加者は50の勧告を作成し、21世紀に向けてのエイジングの問題と取り組む姿勢を明らかにした。

 ALAはこのホワイトハウス会議に第1回の1961年から関与している。2005年会議にはNCLISと協力してホワイトハウス会議の準備のために会合を開き、勧告案を作成している。この会議は全米における高齢者政策を決定する重要なものである。図書館政策も当然含まれるので、高齢者サービスや生涯学習プログラムを考える際の基盤となっている。



 

Ref.

遠藤克弥編著. 最新アメリカの生涯学習:その現状と取組み. 東京, 川島書店, 1999, 94p.

The Booming Dynamics of Aging: From Awareness to Action. Washington, 2005-11-11/14, White House Conference on Aging. 2006.

Mates, Barbara T. 高齢者への図書館サービスガイド:55歳以上図書館利用者へのプログラム作成とサービス. 高島涼子ほか訳. 京都大学図書館情報学研究会, 2006, 233p. (KSPシリーズ, 4).

Reference and User Services Association. “Library Services to an Aging Population”. http://www.ala.org/ala/rusa/rusaourassoc/rusasections/rss/rsssection/rsscomm/libraryservage/libraryservices.htm, (accessed 2007-01-10).

“U.S. National Commission on Libraries and Information Service”. http://www.nclis.gov/news/pressrelease.html, (accessed 2007-02-05).

U.S. Department of Health and Human Services.; U.S. Administration on Aging. “2005 White House Conference on Aging (WHCoA)”. http://www.whcoa.gov/about/whcoa_events.asp, (accessed 2007-01-15).

AARP. “Lifelong Learning, Education for Men and Women over 50”. http://www.aarp.org/learntech/lifelong/, (accessed 2007-01-11).