3.2 IMLS(博物館図書館サービス振興機構)の動向

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愛知淑徳大学文学部 図書館情報学科  菅野 育子(すがの いくこ)

(1) IMLSの概要

1) IMLSの沿革

 Institute of Museum and Library Services(博物館図書館サービス振興機構、以下IMLS)は、米国の博物館・図書館サービス法(Museum and Library Services Act,以下MLSA)によって制定された連邦行政府内の独立行政機関としての地位を有しており、全米人文科学基金の下に設置された助成機関である。

 米国政府は、電子政府法(Implementation Guidance for the E-Government Act of 2002)において、市民への情報やサービスの電子的な提供を具体的な方針として掲げており(1)、その情報拠点として図書館が期待されたことは、図書館が潤沢な予算を確保するためにも重要なことであった。そのため米国の図書館界は、公共図書館振興政策への予算がゼロ査定されたこと(2)を教訓に、1996年に制定されたMLSAの2003年改正に対してはたらきかけ、図書館への助成継続に成功した。このMLSA制定において、まず図書館は学習支援機関として位置付けられただけではなく、MLSA2003年法においては特に、「高度情報化への対応と情報格差の是正」(3)という課題を博物館界と共に持つこととなり、その課題達成のためにIMLSから多くの支援を受けることができるようになった。

2) IMLSの使命

 IMLSの使命は、米国国民が情報と知識をそこから得ることができるような健全な図書館と博物館を作り上げることである(4)。また、IMLSは国家レベルで、州や地方の機関と連携しながら、(I)国民の文化遺産や知識を支え、(II)学習とイノベーションの機会を拡大し、(III)知識職業人や技術専門家を支援することを目的としている。そのため、IMLSは連邦政府が図書館と博物館に対して助成する財源の主たる部分を担当しているのである。

 助成の対象となるのは、連邦図書館と有料図書館を除くあらゆる種類の図書館(公共図書館、学校図書館、大学図書館、研究図書館、専門図書館そして私立の無料図書館)と図書館コンソーシアムや図書館協会であり、博物館の場合も歴史資料館、植物園や水族館を含む広義の博物館すべてが対象である。

3) IMLSの組織

 IMLSは、米国国内の約12万2,000館の図書館と約1万7,500館の博物館を支援するために、以下のような組織構成で活動している(5)。丸括弧内の数字は2006年度の職員数である。

Office of the Director(局長1名、副局長2名+1)

Office of Strategic Partnerships(局長+1)

Administration Division(5)

General Counsel Division(3)

National Museum and Library Services Board

Public and Legislative Affairs Division(4)

Research and Technology Division(6)

Office of Library Services(副局長1+2)

Discretionary Program Division(10)

State Program Division(7)

Office of Museum Services(副局長1+14)

 IMLSの局長とともに、下部組織である図書館サービス局と博物館サービス局の各代表が副局長となって全体を統括している。組織内の“National Museum and Library Services Board”は、局長及び2名の副局長と、外部から選出された20名から構成される諮問委員会である。

4) IMLSの連携プログラム

 IMLSは、毎年新たな支援プログラムを設けて公募しているが、2001年度から2004年度までは“Library Grant”の中に“Library-Museum Collaboration”という部門を設けて図書館・博物館連携プロジェクトへの支援を積極的に行った。この間に18の連携プロジェクト(6)への助成が行われた(表1参照)。ほとんどのプロジェクトが2年計画で実施されている。表1にはプロジェクトの中心的な役割を果たした図書館と博物館のみを記載した。プロジェクトの内容を見ると、地域内の図書館と博物館の連携や同じテーマに関するコレクションを所蔵する館の連携が多く、また、博物資料の画像と書誌情報が一体となった検索システムや教材作成が図書館と博物館間協力の典型的な実施事例となっていることがわかる。

 このような連携プログラムは、2005年以降プログラムの名称としては見られなくなるが、その代わりにIMLSによる支援プログラム全体に“Partnership”という必須項目が設定されるようになった。

表1. 米国の図書館ー博物館連携プロジェクト

表1. 米国の図書館ー博物館連携プロジェクト

(2) IMLSの最新の動向

 IMLSは、2006年度に“IMLS National Leadership Grants”として次の3つのカテゴリを設定し、2006年開始の3年間支援プログラムを公募した(7)

1. Advancing Learning Communities

 教育機関や市民団体と協力しながら、あらゆる世代の学習者に、教育上の、あるいは経済的、社会的な要求に対して支援するプログラムを対象としている。具体的には9歳から19歳を対象とした青少年、高齢者、移民者への学習支援、あるいはInternet2のような新しい技術を用いて図書館や博物館の資料提供による学習支援などであった。

2. Building Digital Resources

 電子情報源の作成、利用、保存、提供の支援と、それらに関連するツールの開発を支援するプログラムを対象としており、具体的には電子情報源を青少年、高齢者、移民者の各要求に合わせて準備し提供することや、電子情報源を通して図書館や博物館の利用者拡大を進めること、単一の州レベル、複数の州レベルあるいは特定テーマによる大規模共同プロジェクトなどであった。

3. Research and Demonstration

 図書館と博物館がより強力な学習支援の場となる方法、また図書館・博物館の利用者が効果的に資料を利用する方法を研究するためのプロジェクトを対象としており、具体的には利用者の情報要求や利用行動に関する研究、タクソノミーやオントロジーといった知識組織化システムの構築や、高品質のデジタル・データの保管(data curation:データの認証、記録、保存、検索、表現の一連の作業)の運用実験が求められていた。

 助成額は、各カテゴリあたり図書館を対象に総額5万ドルから最高10万ドルまで、博物館を対象に総額2万5千ドルから最高10万ドルまでを用意した。また、各プロジェクト実施にあたっては、図書館、博物館、文書館間の連携は元より、市民団体、公共メディア、学習支援機関との連携を推奨している。

 前述の(1)4)で紹介した過去の支援プログラムが図書館資料と博物館資料の電子化に重点を置いていたのに対して、2006年度の支援プログラムは学習者の電子情報源利用行動や利用促進の検討に重点を置いている(8)。IMLSは、図書館と博物館が電子情報源に基づく情報拠点として強力な学習支援機関となるように支援を継続していることがわかる。

(3) IMLSの図書館に果たしている役割

1) 学習支援機関としての図書館への支援

 図書館の運営や活動費用に対する助成を得るためには、継続する課題設定が必要である。その課題達成を理由とする助成金獲得を継続することで、図書館界もまた存続できるのである。課題の中でもっとも広く国民サービスを展開することができるものは、学習支援である。IMLSは、アメリカ全体を老若男女を問わず国民すべてが学習者である「学習者の国」(a Nation of Learners)とするという立場をとり、図書館が学習支援することで個々の国民が情報を批判的に評価することができ、その結果として変化に対応する能力を持つことができるようになることこそが、米国の民主国家としての成功につながるとしている。このような確固とした使命を図書館が持つことができるのは、IMLSの使命とそれに基づく支援プログラムの達成目標によるものである。

2) 情報拠点としての図書館への支援

 2002年に制定された電子政府法を背景とした国家予算配分が、IMLSの支援プログラムにも大きな影響を与えていることは、各年の支援プログラムの内容でも明らかである。そのため図書館は電子コンテンツを充実させ、それを国民すべてにネットワークを通して提供し、さらに利用者の電子コンテンツ利用の促進のための研究も求められるようになった。

図書館が紙媒体資料の収集と提供から、電子コンテンツを作成、収集、提供する情報拠点として、その使命を大きく変える機会を与えたのもIMLSである。

3) 図書館と類縁機関との連携の推奨

 IMLSはその名称のとおり図書館と博物館両者の支援機関であり、IMLSによって両者は常に同じ使命と課題が与えられ、両者間の連携は両者のサービス拡大に繋がるとされている。先に紹介したように、両者の連携はまず、電子コンテンツの共同開発から始まった。これまで紙媒体の資料を収集し提供していた図書館は、画像を含む電子コンテンツの作成と提供機関としてもサービスを拡大することとなった。また学習支援機関や公共メディアとの連携も支援プログラムの要素となっていることから、それまで連絡を取ることもなかった機関との情報交換の機会も得ることとなった。このような類縁機関との連携は、図書館の使命や意義を改めて見直す契機ともなったと言えよう。



(1) 兼子利夫. 世界各国のIT政策(1):米国. 情報管理, 2005, 48(3), p.176-184.

(2) 秋山勉. LSCAからLSTAへ: 米国公共図書館政策の転換. カレントアウェアネス. 1998, (222), p.2-3. http://www.dap.ndl.go.jp/ca/modules/ca/item.php?itemid=582,(参照 2007-02-05).

(3) 平野美惠子. 2003年博物館図書館サービス法. 外国の立法. 2004, (221), p.87-96.

(4) “Institute of Museum and Library Services”. http://www.imls.gov/, (accessed 2007-02-05).

(5) Federal Yellow Book: Who’s who in federal departments and agencies. 2006, 60(2), p.962-964.

(6) IMLS公式サイト上で,“Library Grant”の“Library-Museum Collaboration”部門のプロジェクトを検索し,その結果のうち図書館と博物館の連携を中心としたプロジェクト18件を選んで掲載した。

(7) “Institute of Museum and Library Services”. http://www.imls.gov/, (accessed 2007-02-05).

(8) 古賀崇. 優れたデジタル・コレクション構築のための指針の枠組み. 第2版, 情報管理. 2005, 48(1), p.48-49. http://www.jstage.jst.go.jp/article/johokanri/48/1/48_48/_article/-char/ja/, (参照 2007-02-05).