講演記録

(※「総合目録の現状と今後の方向性―第12回総合目録ネットワーク参加館フォーラム講演―」全体のpdf版はこちら。)

総合目録の現状と今後の方向性
―第12回総合目録ネットワーク参加館フォーラム講演―

北 克一(大阪市立大学大学院創造都市研究科教授)

<講演記録> (講演資料はこちら


 大阪市立大学の北と申します。どうぞよろしくお願いいたします。

 国立国会図書館(NDL)の総合目録ネットワーク事業は,その開始から7年ほどが経過しました。総合目録の構築を巡って,地道な努力と話合いを重ねてこられ,2004年12月6日にインターネット上に一般公開されたことにつきまして,NDLの関係者の方々,また,参加図書館の皆様のご努力と鋭意に敬意を表したいと思います。

 さて,本日は,最初は図書館界よりもう少し広いお話から始めて,徐々に範囲を絞って,後半はこの総合目録ネットワークを話題にしたいと思います。

はじめに

 この5,6年ほどでインターネット情報基盤の整備が徐々に進んできました。50kbほどのスピードのモデムで繋がってとても早いと感動したのがほんの4,5年前だと思います。あっという間に携帯電話,もしくはPHSで500kbぐらいで繋がる技術が出てきました。また,無線LANを使えば,街中でもモバイルで繋がる環境が徐々にできています。

 今日の主な話題ではありませんが,IPv6というインターネットの新しいプロトコルが,規格としては,概ね8割以上できあがっています。現在のプロトコルはIPv4ですが,IPv6に移行すれば,この世界のすべて,つまり今までつくってきたあらゆるものに,固有のID番号としてのIPアドレスを付与して,更に今から何千年かつくり続けるであろうすべてのものにIPアドレスを与えることができます。ネットワーク空間のすべてのものにIPアドレスを与えることができる技術空間です。

 もうひとつは比較的図書館関係に近い話題で,ICタグとか,無線タグとかいう言葉が出てきています。これも物を識別するための仕掛けです。

 簡単に言えば,IPv6はインターネットというネットワーク空間上のオープンな世界を対象としたものです。一方,ICタグは,それぞれのコミュニティ,例えば,出版流通といったコミュニティの中の閉じられた関係の世界を対象にしています。この間の繋ぎをどうするか,というのがユビキタス社会前夜の宿題です。ちなみに図書館関係について言えば,昨年度からICタグの実証実験の開始が報告されています。

 一方,図書館界では,電子情報資源への対応と利用者志向の強まりが世界的に大きくなっています。

 一つめは,「図書館ポータルの提供」と一般に言われるものです。ポータルを直訳すると,玄関とか入口とか言われます。要するに,ここへ来ていただいたら,そこから先のインターネット上やネットワーク上のすべての利用可能な情報資源への案内入口となるという程度の意味でご理解ください。

 二つめが,OPACの相互運用性,分散環境下での統合検索です。日本の公共図書館の世界においては,NDLの総合目録ネットワークは唯一にして巨大なデータベース,図書館目録の世界です。また,大学図書館等においては,国立情報学研究所(NII)が運営しているNACSIS-CAT,インターネット上ではWebcatとWebcat Plusというデータベースで提供されている総合目録があります。しかし,もう少し広く世界を見回すと,そうしたデータベースは各国にあります。さらに,より広い地域的な広がりの中で様々な総合目録が存在しています。例えば,OCLCなど,地球上のネットワークの中でいくつかの大きなデータベースが並列して存在しています。そういった状況の中で,もう一歩先の世界というのは一体どうなっていくのでしょうか。また,現在そういう世界の人たちはどちらを向いて努力もしくはチャレンジしようとしているのでしょうか。これからこういったお話をさせていただきたいと思います。そのことがひいては,NDLの総合目録ネットワークの今後を考え,議論いただくための何らかのヒントになれば幸いだと考えています。

 三つめのナビゲーション・システムというのは,例えば検索エンジンの検索結果や関心のある対象テーマのリンク集などから出発して,ホームページを構成しているHTML文書にあらかじめ埋め込んであるURL(Uniform Resource Locator)をクリックによりたどって,次々とホームページをナビゲーションしていくものです。インターネットの爆発的な普及の基礎となった技術です。

 四つめの「リンキング・テクノロジーの活用」というのは,技術的には,OpenURLのような仕掛け,技術標準のことです。主に学術情報の世界で普及・定着しつつあります。この技術を活用することによって,例えば,二次情報データベースの書誌から電子ジャーナルの記事本体へ飛んだり,更にはその電子ジャーナル中の引用文献から,引用された文献本体へ飛んだりといったことが,ナビゲーションのクリックだけで可能になります。そういう仕掛けを後ろで支える仕組みを,ここではリンキング・テクノロジーの活用と呼んでいます。

1.いくつかの枠組み

1.1 いくつかの枠組み(1) 

さて,図書館の世界に戻って来たらどうなのか,ということで,4つのトピックスを挙げました。

 一つめは,FRBR(Functional Requirements for Bibliographic Records)と呼ばれるものです。これはネットワーク環境下の目録レコード,書誌レコードの機能要件といった,基本的かつ原理的枠組みを考察したものです。これについて細かく触れる時間がございませんが,2,3の紹介文がこの1年半ぐらいの間で出ています。

 二つめが,2003年にフランクフルトで決議された国際目録原則覚書です。1961年に国際目録法の著者標目に関する国際会議で決議されたパリ原則と比較して,約40年ぶりの基本原則の改訂です。内容は,電子情報資源とネットワーク環境下における目録のあり方をどう考えたらいいのかということを扱ったもので,今後の世界を律していく基本的な仕組みになるだろうと思われます。

 三つめは,JAPAN/MARCやMARC21などMARCと呼ばれる機械可読目録をもう少し広いメタデータの世界へマッピングしようという試みです。図書館に閉じられていたMARCの世界とメタデータの世界との間を,もう少し相互にデータの行き来ができるようにしようというのが,基本的な考え方です。

 MARCというのは,まずルールブックであるMARCのハンドブックをしっかりと読んで理解し,それに対応したプログラムを書いて初めて使えるものです。一方,メタデータの世界は,そのメタデータを設計するのに準拠した標準規格の種別や入手先のURLなどがメタデータそのものの中に実装されています。こうしたメタデータの定義要素をシステムが自動解釈して,処理ができる世界がメタデータの世界と考えていただければと思います。

 四つめは他の情報資源とのリンクということで,ONIXとか,H-Net Reviewをあげました。これらは出版流通業界の図書の内容情報です。例えば,日本で言えば,『これから出る本』がありますが,それよりも詳しい内容情報を自動的にリンクする仕組みや,OPACの書誌レコードといくつかの定評あるサイトの書評をリンクする仕組みなどが既に実用的に動いています。

1.2 いくつかの枠組み(2)

 こういうものを動かす仕組みとして,コンテンツとのリンクの基盤,すなわちこの総合目録に関わってくることですが,ひとつの書誌レコードに対して一意の識別子,統一ナンバーをしっかり持てるのか,という問題があります。

 また後で出てきますが,当該書誌レコードは一体どの単位の書誌レコードなのか,という課題もあります。仮に,ある著作,例えばシェイクスピアのハムレットを例にすれば,著作というのは抽象概念ですから,ハムレットを見せなさいと言っても見られません。重さも実体もありません。その下に具体的な表現形式を持っているわけです。例えば,英語版,日本語版,ドイツ語版,といったものです。それから,同じ日本語版でも翻訳者が違えば異なるものですし,同じ翻訳者であっても,文庫本もあれば単行書もあります。豪華な革装本もあるかもしれない。そういうものをどの段階でうまく捉えることができるかが議論されています。

 その意味では現在,この総合目録でも,NACSIS-CATのWeb版でも,書誌単位,物理単位のものの考え方には違いがありますが,提供されているデータは基本的にはその図書館で持っている所蔵単位等をベースに考えています。こういう階層構造を今後どこまで追求していけるのか,という課題があるかと思います。

1.3 いくつかの枠組み(3)

 米国議会図書館(LC)では2001年6月からLCアクションプランというのを動かしています。平たく言いましたら,とても宣伝がうまいんですね。例えば冒頭に,21世紀に向けての我が館の国民への約束のようなものを提示して,そのための5つの基本戦略といったものが次にきます。そして,この公約を具体化するための年次計画がある。よって私たちに人とお金をください,と「バーン」とアピールしている。

1.4 いくつかの枠組み(4)

 最近ではBates Reportと呼ばれる報告書が出ています。単純に言えば,LCの目録,特に社会に提供している検索システムの次世代の姿について,押さえた方がいいポイントをまとめた報告書です。Batesというのは,委員長さんの名前です。NDLの橋詰秋子さんが,『現代の図書館』にとてもわかりやすく,詳しく書いておられるので,興味のある方はご参照いただければと思います。

 項目を簡単に見ていきますと,1番目は主題検索機能をもう少しうまくできないかという話です。これはLCSHと言われるLCの件名標目の世界ですが,日本ではNDLのNDLSHや民間MARCに付いているBSHに置き換えて読んでいただいたらいいです。例えば,BSHの件名標目の例ですが,「日本―歴史―江戸時代」や「大阪市―教育―統計書」などという件名標目は,この主題がこうした形で統制されているということは,一般の利用者の理解の外です。書誌レコードの件名標目としてこれが付与されていたり,件名典拠ファイルとして維持されていることはいいのですが,OPACにおけるユーザ・サポートシステムとしては,利用者が普通の常識を働かせたら,8,9割がた推測ができるような,わかりやすい主題検索の仕組みを提供する必要がある,というのが第一です。なお,念のためですが,この指摘は件名標目を個々の単語単位に分解して,フリーキーワード検索の対象索引にする,という意味ではありません。

 二番目はログを解析して,エンドユーザが主題検索に用いる言葉を集めたら,主題検索のアクセスを補完するいい材料が手に入るのではないかということです。多くの収集した利用者の検索語をクラスター化して,主題検索の補助ツールを作成しようとしています。わかりやすい主題検索の仕掛けを考えるという点では同じことです。

 三番目は,要約を含む内容情報が必要という話です。すでに例えば,オンライン書店の多くが実施を始めています。

 四番目の階層,版次,書誌ファミリーというのは,先ほど申し上げたように,著作から始まって,そのレベルに応じたいろいろな階層構造をどこまで下りて来られるのかという話です。ただし,このことを十全に実現するためには,典拠コントロールが行われていないとだめです。幸いNDLは,長らく著者名の典拠コントロールを行っていて,内部データベースとして維持している。また,電子図書館の構築の中で,著者に電子化の許諾を得る作業の結果として作られた,著作権データベースとでもいうようなものもお持ちです。典拠が書誌ときちんとリンクされ,検索システムとしてもうまく使えるようになっていくといいですね。そうでなければ,17人のスティーブンスンという悲惨な問題がでてきます。

 17人のスティーブンスンというのは,15,6年前だったと思うんですが,ある民間MARC会社のニュースレターに掲載された短い談話です。R.L.スティーブンスンという,『宝島』を書いたイギリスの作家のカタカナ形の著者表記が,ティーとかイーとかブとかを組み合わせると17通りあるという話です。著者標目形が典拠コントロールされていなければ,日本の図書館で所蔵されているこの人の著作物を全部見つけようとしたら,17回著者検索しなければ見つけられません,ということになります。総合目録は,原則はNDLのJAPAN/MARC書誌を基本書誌として中心に統合されていますので,基本的にはJAPAN/MARCの著者典拠コントロールがなされています。ただ,同定識別ができなかった参加館書誌が散見されますが,こうした書誌レコードの著者典拠はどのようになっているのでしょうか。

2.OPAC相互運用性とそのモデル

2.1 検索エンジンとOPAC

 検索エンジンが概ね第一世代から第二世代と来て,今第三世代が来ました。第三世代として挙げたいくつかの規格については,後で「次世代の検索プロトコル」で取り上げます。

また,固有名詞については,NDLさんの事務局で作成いただいた用語解説にございますので見ていただければと思います。平たく言えば,今のキーワード検索だけではやはりだめです。何万何千件出てきたものを端から端まで見る人はいません。もうちょっといい工夫はないか,と,それぞれの検索エンジンを提供しているシステム側がいろいろ独自にやっているという話です。

2.1.1 メタデータ

 この4,5年,メタデータという言葉が頻繁に出てきます。メタというのは,「超」とか「ウルトラ」というふうに考えてもいいです。構造化されたデータについてのデータです。目録もメタデータのひとつであり,基本的には目録と同じです。抄録もそのひとつです。ただ,従来のカード目録の場合は入力と出力が一緒ですね。書いた瞬間に物ができあがっている訳で,要するに入力と出力が一緒です。MARCやコンピュータ目録では入力と出力の間でシステムの違いができて,入力システムと検索システムとの間が切れているみたいですが,実際には入力と出力は繋がっています。表示されるデータというのは,結局は人間が解釈する,人間が意味的に読み取ることを,無意識のうちに前提として提供されているデータです。

 一方,メタデータ自身は,それぞれのコミュニティによって設計が様々ですが,基本的には人間も読んでわかるけれども,機械が自動的にわかり,ネットワーク空間にあるお互いの約束事を参照して,ある時にはデータのエントリーだったりロードだったり,またある時には検索の要求をしたりその結果を返したり,といったデータ交換ができるという世界です。例えば,図書館と美術館,文書館等々類縁機関との間で,情報の相互可搬性を高めて,お互いにほしい情報を相互交換をするという仕掛けですね。

 繰り返しになりますが,図書館については,著者名,統一タイトル等の典拠コントロールと,統制された主題索引体系との整合性ということが,やはりメタデータとしての質を問われる話なのだろうと思います。

2.1.2 図書館目録とメタデータ

 ちなみに先ほど著者名典拠だけを申し上げましたが,現在の日本目録規則では,音楽作品を除いては,無著者名古典と聖典以外はコントロールしていません。コントロール対象が任意になっています。例えば,『岩窟王』と『モンテ・クリスト伯』は2回引かなければなりませんし,『十五少年漂流記』,『二年間の休暇』,『二年間のバカンス』も3度引かなければ見つかりません。複数回,検索しなければいけないことを知っている人だけが,全体資料を見つけられるという仕掛けです。そういうことを知らなくても検索できる仕掛けを考えたいですね,というのがここまで述べてきたお話です。

2.2 目録の検索モデルとOPAC

 ここで少し角度を変えて,現在ネットワーク上で提供されている,様々な目録の仕組み,目録検索の仕組み,というのを駆け足で見ておきたいと思います。

2.2.1 Web-OPAC横断検索

 俗に言う横断検索です。仕組みはとても単純です。横断検索の対象となる相手方の図書館システムの検索画面の作りを解析して,自分のところにテーブルを組んでいるわけです。相手はいくつでも構いません。A図書館に行く時にはNo.1のプロトコルで調べに行く,B図書館はNo.2,CはNo.3,DはまたNo.1…。日本のシステムはそう無限に多くあるわけではありません。概ねメーカとソフトウェアベンダーの数ぐらいですから,よほど特殊な改造をされていたら別ですが,たかだか数十の範囲です。通常,システムメーカが用意しているプロファイルを使って,とりあえずは検索できる仕掛けです。例えば,大阪府下の横断検索,東京都立図書館の横断検索等,実際にいくつかのものがネットワークに出てきています。

 この場合とても悩ましいのは,A館の答え,B館の答え,C館の答え,とそれぞれ別々に帰ってくる検索結果を,エンドユーザにどのように表示するかという点です。方法は,大きく2つあります。1つは,来た順番に並べてしまう。そのかわり同じ物が何回も出てきます。A館,B館,C館,同じものを持っていたら3回出てきます。100館横断検索した場合は100回出てくるかもしれません。それではやはり見づらいということで,同定・識別して表示するのがもう1つの方法です。同定・識別には,何をもって一緒というのかという仕掛けの問題があり,NDLの総合目録と同じ悩みを持ちます。

 もう1つ悩ましいのは,この仕掛けは最後の人が答えをくれるまで答えが出せない点です。クイズ10人に聞きました,10人のうち一番遅くに答えてくれた人に合わせて答えが出てくる。その辺のことをどう考えるかという問題があります。

 それから,この仕組みの小さな欠陥としては,一度作ったらそのまま使えるのではなく,相手のA館なりB館のOPACが更新されたら,自分のプロファイルも書き換えなければならない点があります。平均5年ぐらいでシステム更新をしていますから,仮に100館を対象とした横断検索システムを作ろうと思ったら,毎年平均20のプロファイルをそのまま使えるかチェックしなければなりません。良いようで結構手間のかかるものです。

2.2.2 Z39.50プロトコルによる基本的システム

 日本の図書館ではあまり普及していませんが,Z39.50というアメリカの情報検索に関する標準規格があります。このプロトコルで検索しようというOPACがいくつか出ています。例えば,早稲田大学図書館などがそうです。

 この仕掛けは,Z39.50のクライアント,つまり,このプロトコルが使えるブラウザがないと素直に動かないのですが,それでは普及しないということで,Webの通常のブラウザからZ39.50のプロトコルに自動変換,自動翻訳してくれる,ゲートウェイと呼ばれる繋ぎ目のシステムがネットワーク上で公開されています。例えば早稲田大学図書館のホームページにゲートウェイの紹介がありますから一度お試しください。

 簡単に言えばとても強力な検索プロトコルです。検索キーは柔軟ですし,わかりにくい時には典拠や索引をブラウジングすることができます。オプション機能や拡張機能もあります。とても便利なのですが,機能があり過ぎるために具体的に実装するのが大変です。この機能を使うか使わないか,使うとしたらどこまでどう使うか,それぞれが取捨選択をしたら,結局はバベルの塔ができあがるんですね。このプロファイルで行く,参加する人はこれに合わせてくれ,といったかたちで,誰かが理解を得ながら強力なリーダシップを取れるようでないとなかなかうまくいかないという仕掛けです。

2.3 次世代の検索プロトコル

 もう少し簡単な仕掛けとして,現在,ZING/SRW,ZING/SRUというプロトコルが後継候補として検討されていますが,どこまで普及するかは今のところ不明です。このプロトコル自身は,昨年頃から,画像データをどう扱うかといったOPACとは違う世界へ動き出しています。

2.4 分散データベースと統合索引モデル

 NIIと千葉大学が,OAI-PMHプロトコルと呼ばれる仕掛けについて,昨年から実証実験を始めています。OAI-PMHは,Open Archive Initiativeのメタデータ・ハーベスティング・プロトコル(メタデータ収集のためのプロトコル)です。索引だけでなく,コンテンツごと収集することも可能です。電子図書館向きです。

 ただ,このプロトコルには,クライアント側からデータ更新をする仕掛けがないという問題点があります。集めるだけの一方的な仕掛けです。逆に返すレスポンスの仕掛けはありません。

2.5 総合目録モデル

 統合目録モデルと呼ばれるのは,皆さんおなじみの総合目録を作りましょうという仕掛けです。

 総合目録を作るにあたって,書誌ユーティリティとして,主としてオンライン処理によってデータベースを維持・更新しているのはNIIが運営するNACSIS-CATです。これがWeb上に公開されているのが,WebcatとWebcat Plusという仕掛けです。

 現在のところオンライン処理ではなくバッチ処理の仕掛けでやろうとされているのが,NDLの総合目録だと思います。この総合目録はNDLのデータベースとして維持されているという仕掛けです。

2.6 複数の総合目録とリンクした集中型索引モデル

 複数の総合目録とリンクした集中型索引モデルというのは,2年ほど前から複数のヨーロッパの書誌ユーティリティとOCLCが共同して追及している仕掛けです。

 このモデルの基本的な考え方は,索引のみを集中して持とう,書誌の実体はそれぞれの総合目録にあるというものです。対象となる総合目録が,例えばOCLCのような巨大な総合目録であっても,もう少し小さな地域の総合目録であっても,ある単独の図書館の総合目録であっても構わない。また,総合目録のタイプにもいろいろありますが,Z39.50タイプでもそうでなくても構わない。通信プロトコル上は別に問題ないという考え方です。

 オランダのPICAが昨年ぐらいからお世話役で,現在は汎西ヨーロッパの「総合目録の総合目録」を作ろうという構想でプロジェクトが進んでいます。この次は太平洋をまたいで,OCLCとウルトラ総合目録を作ろう,という動きですね。

 この辺りが,約半年ぐらい前までの状況で,様々な組織やグループ,団体が,様々なことを考えて,様々なことをやってます。

3.NDL総合目録の現状と課題

3.1 書誌データベースの構築(1)

 書誌データベースの構築はおおむねftp,ファイル・トランスファーのプロトコルを用いてバッチ式で更新されています。フロッピーディスクやCD-Rのような媒体で送っても,基本的には同じことです。

 NDLさんを始め,多くの参加館の方々が,ここ何年もの間の討議や実証実験とその評価を積み重ねてこられて,総合目録の書誌レコードの共通フォーマットを作成し,総合目録構築における一つの規範の基盤ができた,というのがまず第一歩になろうと思います。もう一つは,共通の書誌フォーマットを規範として現実の公共図書館界を中心とした総合目録が,希望の一歩を踏み出したということが重要であろうと思います。ともかくも,全国公共図書館界の相互協力推進の大きな情報基盤が形成されたという意味でしょう。

 書誌レコードの同定処理は,MARC番号,ISBN,タイトル等をキーに,プログラムで機械的に行っています。細かい点では,ISBNの13桁化にどう対応するか,対応するといっても参加図書館のシステム更新は4,5年サイクルですので,タイムラグの問題が細かい点で出てくるかもしれない,という課題があります。

 初期の困難をクリアされたようですが,各データ提供館で遡及入力された,もしくは自館の独自資料や市販資料でないものを入力されたデータの番号と,MARC番号が重なったために,違う資料に関するデータが同定されるトラブルも結構あったようです。これはほぼ落ち着いたのでしょうか。

3.2 書誌データベースの構築(2)

 次に,今後総合目録をどうするのかという話です。横へ繋がっていくのか?という話がまずあります。

 仮に公共図書館等,都道府県域の単位で今後の発展性の単位を考えていくとしたら,もう少しデータ提供館が増えて行くでしょう。市区町村立のデータについては,増えることはうれしいことですが,増えてくればだんだんと同定・識別が困難になってくる。重複書誌がどうしても増えてしまったり,逆に誤同定で違うものを一緒にくっつけてしまったりすることが考えられます。データエントリーという仕掛けを考えていない現在の仕組みの中でどこまでシステムで補うことが可能なのか,もしくは運営上ここは皆さんが現実的に妥協されるか,という話なのだろうと思います。

 もう一つは,日本にはNDLの総合目録の他にNIIの書誌データベースがあります。2つ大きいものがあるというのは,やはり不自然です。強引に一つにする必要はありませんが,先ほどより駆け足で見てきたいくつかの総合目録のモデルの技術を何らかの形で導入して,少なくともアクセスしてくるエンドユーザにできるだけスルーに,その間の垣根が見えない形でうまく提供できないかというのが,もう1つの課題です。

 また,海外の総合目録との連携の課題もあります。日本の公共図書館界の総合目録の範囲のみを維持していけばよいのかどうか,という設問です。CJK言語資料を始め,利用者の要求は多様化しているのではないでしょうか。

 それから,今のところ図書館の図書を対象にされていますが,本体が電子化されていた場合は,対象として扱われるのかどうか。

 現在,日本中に電子図書館が乱立している状態になってきました。これはこのままでいい,という割り切りなのか,これをポータルにしてアクセスできるような仕掛けを設けるのか。このあたりではOAI-PMHプロトコル採用の是非の問題が出てきます。

 ただし何度も繰り返しますが,参加図書館のシステム更新は平均5年に1回ぐらいですから,仮に,行政的に合意が得られても実際の切替えにはそこから最低5年はかかる,その過渡期をどう運営していくのか,という問題が想定されます。

 NIIの場合は,古いプロトコルと新しいプロトコルとの併存が確か4,5年ぐらいありました。現実的な問題としては,参加館のシステム更新のサイクルが最近では,5,6年ではないでしょうか。最も最後の更新グループが,新しいプロトコルに対応するのにこの時間がかかります。一方では,新しいプロトコルの方が,早くて機能も大きいから,可能な範囲で新しいプロトコルに移行するほうが,個別の参加館にとってもメリットがある,という誘引も必要です。

 この総合目録ではどういう仕掛けを作ったら参加図書館の皆さんに喜んでいただけ,かつ大きな負荷がかからず,比較的簡単にできるか。ユーザインタフェース・プログラムを作って,それをフリーソフトとしてコミュニティに出さなければ,無理かもしれません。それほど高いものではありません。欧米では大規模図書館を動かせるオープンソフトのパッケージシステムが昨年ぐらいから出てきています。まだ欠けているところはたくさんありますが,その意味ではあと5年か6年したらひょっとしたらメーカーの値段のついたOPACや図書館システムが世の中から消え失せているという可能性もなきにしもあらずです。

3.3 書誌データエントリー

 書誌データのエントリーはここ(パワーポイント「3.3」)に書いてあるかたちで,現在動いている訳であります。

3.4 総合目録の機能

 皆さんの方が日々お使いになっていて詳しいと思いますが,私が拝見した範囲でいくつかのコメントをしておきたいと思います。

 主題検索機能として,ここでは件名標目と分類を挙げました。

 件名標目については,NDLSH,BSH,全国学校図書館協議会(全国SLA)の小学校件名標目表,中学校・高校の件名標目表と数多く存在します。そろそろNDLにNSH(日本件名標目表)とでもいうべきものを構築していただけたらいいなあ,と個人的には思います。

 分類記号については,総合目録データベースを見た範囲では,書誌分類記号がついているのか書架分類記号(排架記号)がついているのかよく分かりませんでした。主題検索のNDCがついているのか,そうではなく単に書架分類が1個だけ付いているのか,統合されてしまっているのでよくわかりません。しかし,どうも主題検索の機能を提供する書誌分類検索の機能という面では,分類重出付与や,複数の書誌レベルに対応した分類付与はされているようにはみえませんでした。NDLの単独OPACと比べて,元々のデータの問題もありますし,システムだけの責任ではないと思います。

典拠コントロールについては,先ほど申し上げたところであります。

3.5 ILLシステム

 第一に,ILLシステムというのはメッセージ交換機能の範囲ではないかと思います。依頼のメッセージを交換していますが,ステータスの管理は多分されていないだろうと思います。ステータスの管理というのは,例えば,A館がX館に頼んだ,Xが断ったら自動転送でYへ回してくれる,Yも断ったらZへ回してくれる。もう1つは,受け付けました,今資料探してます,発送しました,ありがとう届きました,返却しました,確かに返却受け付けました,こういう依頼処理のステータスの管理です。こういう機能をどうしていくのかという課題があります。

 ILLの今後ですが,参加図書館の更新タイミングがあるので,NDLだけで単独に進められる話ではありません。過渡期,移行期の問題があります。

3.6 運営方針:全体と個別図書館(群)

 運営方針は各図書館で異なってもよいのですが,参加館の数が多くなると,参加図書館と個別の図書館,もしくは個別図書館の中の分館も入れた図書館群との間と,全体の擦り合わせがだんだんと難しくなってきます。とても悩ましい話です。

 それから,収録対象範囲が現在は図書の範囲,となっておりますが,これを他のものにどこまで広げていくのか,広げていかないのか。

 データベースが充実し,対象範囲が増えれば増えるほど利用者は増えます。事業拡大という意味では万歳ですが,昨今の財政事情,行政改革等を見ると,増えましたと言っても即,人や金にはつながらない。その辺りのところをどう考えるのか。

 同じ事ですが,ネットワークで公開するということは,従来,公共図書館が想定していた職・住・学といった利用者の範囲をあっという間に越えていきます。

 既にご承知の方もあると思いますが,確か昨年には,OCLCが「OCLC WorldCat Pilot」として,書誌レコード200万件,所蔵レコード約5,300万件,というOCLC参加図書館の100以上に所蔵されているポピュラーなタイトルの資料を検索エンジンに提供しました(http://www.oclc.org/worldcat/pilot/default.htm)。日本でも,とある書誌ユーティリティに引き合いが来ているやに聞いています。出すという答えはまだ公表されていませんし,すぐに出せるかもまったくわかりません。

 米国の例を見ると,Googleに載せると,アクセス数はあっという間に跳ね上がります。1日のアクセスが数十万件の世界です。その中の千人に1人がリクエストしてきたらどうするの?という話です。一般公開向けの総合目録の1日のアクセス数が千回という数値でしたから,全アクセス数よりも多いリクエストがくることになります。

 最後はレンディング方針についてのお願いです。現在の総合目録では書誌と所蔵は見られますが,その図書館の基本運営方針,つまり,図書館に行って入れてくれるのか,貸してくれるのか,地元の図書館から頼まなければいけないのか,その時に制約はあるのかないのかなどは,もう一つブラウザを立ち上げて,皆さんの個々の図書館のホームページを見て,あちこち探さないと見られないですね。開館日時とか,運営方針とか,資料にアクセスするにはこの範囲の人はどうしたらいい,この範囲外の人はこうしてください,といったいろいろな方針があると思います。技術的にそう難しくありませんので,是非,総合目録ネットワーク参加図書館,少なくともデータ提供館のディレクトリをできるだけ早急に立ち上げて公開していただけたら,エンドユーザから見たら大変ありがたいと思います。

 どのようにアクセスしてよいかわからなければ,総合目録ネットワークに参加されている図書館が近くにない地域の人にとっては,単に飴がぶら下がっているだけのようなものです。システムとしてはおもしろいのですが,メリットがありません。総合目録ネットワーク参加館全体としてもお考えいただけたらありがたいと思いますし,せめてディレクトリを作ってほしい,とお願いしておきたいと思います。

 また,図書館間で依頼される場合には,できれば3階層ぐらいで,同一地域に同じ書誌があれば,自動的にシステム転送するような仕掛けも,市町村コードIDを使えば立地や距離を計算できますし,そんなに難しくないので,工夫していただければすぐできるかなと思います。

3.7 ユニバーサル・デザイン

 今後は,アクセシビリティの保障に敏感であるべきだろうと思います。それは個々の図書館のOPACについてもそうですし,NDLの総合目録,NDLのホームページそのものもそうです。W3C(World Wide Web Consortium)のアクセシビリティガイドラインなり,米国のリハビリテーション法508条修正等からざっと拝見すると,逸脱がたくさんあるのではないか。Javaがあちこちにありますが,例えば視覚障害の方の読み上げソフトにとってはさまたげになります。画像があったりボタンで次に進むようになっているところで,ボタンや画像に関して説明がありません。画像が認識・識別できない人が,代替でその説明文をクリックしたら同じ所に飛んで行ける仕掛けがない部分が相当多いのではないでしょうか。

 例えば,大阪府の図書館の方が,ユニバーサルデザインの考え方等を個人としてネットワークに公開されています。また,いくつかの項目で評価し,相当辛らつな点数表を配分されています。一度お時間がある時に自館の評価がどの程度か見ておくことも必要ではないかと思います。

最後に

 これから先は,200年の経験を蓄積した近代図書館とは違う環境下,違う世界の中でどちらに行くかを考えなければいけません。NDLから見れば,施策の重点的課題をウェート付けして,実現に向けた3年から5年の工程表を作成し,それに従って順次施策を動かしていくということになるのでしょう。マニュアル等が作成されているようですので,後は誘引手法ですね。それはNDLだけで考えるのではなく,むしろフォーラムや研修の時に,こうしてくれたらもっと私たちはコミットできる,というようなところの話合いもされればよいのではないかと思います。

 後は,コミュニティーの範囲をどのようにするのか。現在の公共図書館の参加図書館,つまり,データ提供館と参加図書館という範囲で当面維持するのか,県単位でもう少し館種を広げている総合目録と繋ぐのか。都道府県でおやりになるのか,総合目録自身が何かもう一歩踏み出されるのか。この辺りは参加図書館の合意も必要になりますので,どちらに向いて行くのか。

 いずれにしても,現在,ようやく海図のない旅に入ってきたのかなと思います。インターネット上の,もしくはデータベース上の道具はほとんど揃っています。相当多くの道具が無料で提供されています。後はそれをどう組み合わせて何をするのかというビジョンと技術がしっかりあるかどうかです。技術はお金で買えますが,ビジョンは自分たちでつくるものです。代わりに作ってはくれません。とても大変な世界だと思うか,何百年に1回のとても面白い時代だと考えるか,どちらでも現実は変わりませんから,それならばせめて気持ちだけでも気を楽に,面白い時代だと思ったほうがいいのではないでしょうか。

 時間となりましたので,このあたりで終わりたいと思います。ご静聴ありがとうございました



書誌事項:北克一. 総合目録の現状と今後の方向性―第12回総合目録ネットワーク参加館フォーラム講演―. デジタル環境下におけるILL,ドキュメント・デリバリーとその運用基盤. (図書館研究シリーズ No.38). 2005. 87-99.