CA1115 – NIIにおける著作権問題の動向 / 上保佳穂

カレントアウェアネス
No.211 1997.03.20


CA1115

NIIにおける著作権問題の動向

CA1045で紹介したとおり,全米情報基盤(NII)における知的所有権問題を検討したホワイトペーパーが1995年9月発表され,その勧告に沿った著作権法の改正法案(S1284, HR2441, 104th Cong, 1st Sess, 1995)が上程された。その後,数度にわたる公聴会が開かれるとともに,各方面から様々な意見が寄せられたが,その過程を通して著作権者と利用者の間の利害の対立が浮き彫りにされた。ホワイトペーパー及び法案では,現行法及び中間報告であるグリーンペーパーに比較して,著作権者と利用者間のバランスが崩れ,著作権者に有利な内容に修正されたと見られている。つまり,NIIでは著作権者の権利を守ることに重点を置いた政策を推進するという姿勢が示されたことになるが,利用者側はこの構想のこれほど早期の段階で決定的な変化をもたらしてしまう法案を導入することは拙速であるとの反対意見を表明している。

ホワイトペーパー及び法案での図書館に関係する主要な勧告及び改正点について図書館界等利用者側からの反応は以下の通りである。

1 図書館に関する制限条項について

図書館について著作権者の権利の制限を認めている合衆国著作権法108条に関し,ホワイトペーパーは,図書館がデジタル形式のコピーを3部(そのうち同時に1部のみ使用)作製することができることを勧告していた。法案は108条(a)項に「3部の」という文言を挿入している。これに対し,図書館側は図書館間貸出及び保存の目的のためであることを明確にするために,これを保存目的及び他の図書館等に貸し出すための複製を認めている108(b)及び(c)項に挿入することを提言している。

2 図書館間貸出について

ホワイトペーパーは図書館間貸出に代わり出版者の許諾出版システム(オンデマンド出版といわれるシステム)が将来の主流になるという見解を採っているが,108条(g)(2)項に規定される図書館間貸出の特例そのものは否定していない。

ただし,現在の図書館間貸出に関するCONTU(著作権のある著作物の新技術による利用に関する全国委員会)のガイドラインはそのままでは電子出版物にまでは適用できないため,新たに作成するよう勧告していた。しかし,現在でも図書館と出版者間の調整がつかず,図書館は出版側の同意なしに独自のガイドラインを作成することになると思われる。

3 送信権について

ホワイトペーパーは,送信権を,著作権者の排他的権利である頒布権の一態様であると明記するように勧告している。これを受けて,法案は用語定義を行う101条での送信と出版の定義を変更するとともに,頒布権についての規定である106条(3)項に「または送信により」という文言を挿入して改正している。図書館はこの改正により,利用者に著作物をFAXで送信する可能性も閉ざされてしまうと懸念している。公正利用(用語解説T8参照)の権利を確保する立場から勧告に反対している組織であるDFC(Digital Future Coalition)は,これに対し,「送信」という言葉を公正利用についての規定である107条に挿入することを提案している。これにより,送信が頒布の一態様として認められても,利用者の公正利用の特権には影響せず,それに基づく送信が可能となるからである。なお,1996年5月に提出されたNIIの抱き合わせ法案では,107条に,送信による頒布が公正利用に当たる場合があることが明記された。

4 ファーストセール・ドクトリンについて

ホワイトペーパーは,電子的著作物の複製には,ファーストセール・ドクトリン(用語解説T22参照)は適用されないとしている。これは,ファーストセール・ドクトリンは頒布権のみに関わり,複製権には関わらないことによる。法案ではこれについて具体的な改正は行っていない。これに対して,DFCは電子的著作物の所有権の移動は二次的なコピーが作成されない限り許されるべきだと主張している。

5 ブラウジングについて

ホワイトペーパーでは電子出版物のブラウジングは複製権の侵害にあたるとされている。これは,コンピューターの画面に表示する時のRAM(読み書き可能な記憶装置)への一時的な蓄積が複製にあたるという見解から導き出されたものである。しかし,この見解自体は判例も少なく,まだ法的に確定していないものであった。図書館側はホワイトペーパーでのこの見解が定着すると,著作権者が著作物へのアクセス及び頒布を独占することになるのではないかと危惧している。

上保 佳穂(うえぼよしえ)

Ref:Gasaway, Laura. N. Libraries,educational institutions, and copyright proprietors:the first collision on the Information Highway J Acad Librariansh 22 (5) 337-344, 1996
Schoolman, Harold M. Report of the Working Group on Intellectual Property Rights and the National Information Infrastructure. ASTINFO Newsl 11 (2) 6-8, 1996
http://www.ari.net/dfc/(1ast access1997.2.7)