CA1080 – ドイツの図書館と読書文化 / 小関達也

カレントアウェアネス
No.204 1996.08.20


CA1080

ドイツの図書館と読書文化

人々が本を読まなくなった,とよく言われる。そして,読書文化の衰退を危惧する声がある。本当に読書がはやらなくなったかどうか一概にはいえないが,メディアの多様化や本の値上がりなど,人が本から遠ざかる環境になってきたのも事実である。スイッチを入れておけば情報が流れてくるテレビなどと違い,読書は受け手に対し積極的な姿勢を要求する。では,公共図書館は,読書文化の振興にどれくらい貢献しているのだろうか。ドイツで行われたさまざまな読書調査の結果をもとに,考えてみる。

1989年にドイツのテレビ局が行った調査報告によると,西ドイツに住む人の10人中9人が公共図書館を普段は利用していないと答えている。図書館は,それがあることで本を読もうという気を起こさせる主要な要因とはなっていない。それでも報告は地域の文化に対する公共図書館の役割を重要視しており,「地域の文化基盤となる施設であって,その不足は他の公共施設の場合よりも影響が大きい」と書いている。まず本があって手に取れる環境であることが,読書の重要な前提となる。

子供のころ親に本屋や図書館へ連れていってもらったことが読書を始めるきっかけとなったという人は多い。だが,調査によれば,人々の意識の中で本屋と図書館に対する評価は明らかに違う。本屋には親が連れて行ってくれたという回答が多かったのに対し,図書館については親が行かせたという回答が半数近くを占めた。親たちは,図書館が子供の面倒をちゃんと見てくれることは知っているが,子供の教育上それほど大事であるとは思っていないのだ。1991年のある調査では,親に連れられて図書館へ行ったことがあると答えた者は20%に満たなかった。

1992年に読書財団(用語解説T16参照)が行った調査では,インタビューを受けた人の37%,旧西独地域に限れば46%が,過去12カ月以内に図書館へ行ったことがあると答えた。しかし同時に半数以上が,図書館がなくなっても別に困ることはないという。

家庭での本の話題は読書環境に大きな影響を与えてきた。本についての話題が家で全くないと,本に対する興味を持続することは難しい。親が本をよく読む家庭では,子供も読書を好む。しかし最近の若者にとって家での話題はあまり問題とならない。彼らは仲間内で情報を交換し合っており,家の本棚から持ってくるよりも図書館や友達から借りる方が多い。

公共図書館の役割に対する期待も以前とは変わってきている。本を借りるよりも,情報へのアクセスのために図書館を利用する人が増えている。本を借りるにしても,文学作品よりも実用書の方が最近は好まれる。図書館は仕事をし,勉強し,調査し,コンピューターでネットにアクセスするための場なのだ。休息やおしゃべり,文化的雰囲気を求めて行く者もいる。若者は友達と会ったりニューメディアを利用するために図書館へ行く。将来も人々に利用してもらうためには,図書館も近代的情報センターに変わらなければならない。

小関 達也(こせきたつや)

Ref: Kubler, Hans-Dieter. Leseforschungfur bibliothekarische Belange quergelesen. Bibliothek 19. (2) 187-206, 1995