デジタル時代における「場所としての図書館」の可能性:公共図書館と「公共圏」の関係(文献紹介)

ギリシャ・アテネで開催された第85回世界図書館情報会議(WLIC)・国際図書館連盟(IFLA)年次大会のサテライトミーティングとして、2019年8月21日から23日にかけて、同国サモス島のピタゴリオで開催されたサテライトミーティングの発表資料として、ノルウェーのオスロ・メトロポリタン大学アーカイブズ学・図書館情報学科のElin Golten氏による“Public Libraries as Place and Space – New Services, New Visibility”と題する文献が公開されています。

公共図書館は独立した空間(arena)として、市民の会話と討論の場となることを明記したノルウェーの2014年の図書館法改正に関連し、そのことが、場所としての図書館の正当性を再確認することになるか、また、デジタル時代の図書館を発展させる可能性をもたらすかを検討したものです。

デジタル時代におけるフェイクニュースやエコーチェンバー現象等の負の側面を、図書館の「市民の会話と討論の場」としての機能により、可能な限り均衡を保つことが必要となってきており、多文化・デジタル時代における集合場所として図書館の役割を定義することで、場所としての図書館の重要性を再生させ、図書館の存在そのものについての重要で新しい根拠を図書館に備えることに貢献することができるとしています。そして、図書館は自身と異なる価値や関心に触れる数少ない場所であり、異なるタイプの市民間のコミュニケーションを維持し、社会的関係を回復する結節点としての役割を果たすことで、政治的および社会的信頼の再構築に貢献することができるとも指摘しています。

しかし、民主主義を推進する機関としての図書館に関する研究のほとんどは規範的なもので、ある程度経験則によるものであり、図書館の民主主義への貢献やその貢献への支援の必要性を立証する証拠やデータを示すものではないことから、公共図書館と「公共圏」との関係や、図書館の民主的な役割について、さらなる研究が必要であると指摘しています。また、図書館における社会的イベントや活動が、その意図に沿って機能しているかどうかを検討するための研究も必要であるとしています。

Public Libraries as Place and Space – New Services, New Visibility(IFLA Library)
http://library.ifla.org/2708/
http://library.ifla.org/2708/1/s09-2019-golten-en.pdf
※二つ目のリンクが本文です[PDF:218KB]。