「眠れる森の美女」の比喩の妥当性をめぐって科学計量学者と情報科学技術協会(ASIS&T)が論戦

長期間引用されていなかったにもかかわらず、ある時期から急に被引用数が増加する論文は、計量書誌学分野においてしばしば”sleeping beauty”(「眠れる森の美女」)論文と呼ばれてきましたが、この比喩の妥当性についてオランダ・ライデン大学の科学計量学者Ton van Raan氏と、米国の情報科学技術協会(ASIS&T)の雑誌編集部との間で論戦が起こっていることが、英The Guardian紙等で報じられています。

議論の契機はvan Raan氏がASIS&Tの雑誌JASISTに投稿した、医学分野における「眠れる森の美女」論文に関する研究論文が、「眠れる森の美女」という比喩が受け入れられない、という理由で却下されたことにある、とのことです。同誌の編集者はvan Raan氏に対し、この比喩の使用は特に説明を助けるものではなく、また「眠れる森の美女」という比喩が国や文化によって通じない可能性も問題であると述べました。さらに、「眠れる森の美女」という比喩の存在が、論文の引用に女性の純潔性を結びつけるニュアンスをもたらしたことが、他の研究者にも影響し、例えば出版後即座に引用されるもののその後、急激に被引用数が落ちる論文に”smart girl”というラベルを付けた例などが出てきていることも問題である、とされています。

van Raan氏はこの決定を政治的妥当性(ポリティカル・コレクトネス)に基づく判断であり、受け入れられないと述べているとのことです。

一方、ASIS&TはGuardian紙の報道に対する反論を会員向けのメール中で発表しています。この反論によれば、「眠れる森の美女」という比喩は2004年にvan Raan氏が使い始めたもので、その論文自体は他誌に掲載されたものであったものの、JASISTにも過去にはこのような比喩を用いた論文が載ったことがあったということです。しかし”smart girl”という比喩を用いた論文に対する批判が起こったことを受け、引用パターンに関する語の用法を編集長らが調査した結果、男性の優位性を示すような問題ある表現が多いことがわかったとのことです。この調査結果をきっかけに、現在のJASISTの編集方針では著者に対し、偏見と結びついた用語の使用を避けることを強く求めるようになっています。また、Guardian紙はJASISTの現編集長がコメントを返す前に本件を報道し、しかも「編集長はコメントを断った」と報じるなど、事実よりもセンセーショナルな内容とすることを優先したと批判しています。

Scientific journal snubs academic over Sleeping Beauty metaphor(The Guardian、2019/4/26付け)
https://www.theguardian.com/science/2019/apr/26/scientific-journal-snubs-academic-over-sleeping-beauty-metaphor

ASIS&Tによる反論(メールアーカイブ)
https://mailchi.mp/5a1700985dbd/whats-in-a-word-clearly-a-lot