匿名の研究者により続けられる「ハゲタカ出版」の監視(記事紹介)

2018年3月16日付けでオンライン公開されたNature誌記事”The undercover academic keeping tabs on ‘predatory’ publishing”において、単なる“金もうけ”の疑いのある、いわゆる「ハゲタカ出版」のリストを更新し続けている研究者に取材した様子や、研究者らの間でのリストへの需要の高さが紹介されています。

「ハゲタカ出版」のリストは元々、米国コロラド大学デンバー校図書館のJeffrey Beall氏が自身のブログで公開・更新していましたが、2017年1月に突如、削除されてしまいました。雇用主である大学からなんらかの圧力があったことが理由とBeall氏は述べています(大学当局は否定)。

Beall氏のリストの公開停止直後から、リストのコピーはインターネット上に複数、公開されていますが、1年以上が経った現在において、そのうち少なくとも1件は元のままではなく、新たな出版者・雑誌を加える等、更新されています。更新されているリストを公開しているサイトの運営者は明かされていませんが、Nature誌はこの匿名の運営者に取材を申し込み、運営者はハラスメントへの懸念から名前を明かさないとしつつも、取材に応じました。

取材結果によれば、サイト運営者は当初は自分で使うだけのつもりでBeall氏のリストのコピーを公開したものの、サイト公開直後から他の研究者から雑誌の信ぴょう性に関する質問がよせられるようになり、現在では毎週4~6時間をこれらの質問への対応にあてているとのことです。リストになかった雑誌については、雑誌の方針等をBeall氏の基準に則って精査するとともに、DOAJ等のいわゆる「ホワイトリスト」への掲載状況も確認して、リストに加えるか否かを検討するとのことです。2018年3月までに、Beall氏のリストにはなかった27の出版者と85の個別雑誌を追加した、とされています。

同誌記事ではそのほかに有料の試みもあること等も紹介しています。また、識者のコメントとして、Beall氏のリストの更新を匿名で行う理由について理解はできるものの、説明責任の欠如につながっている等とする、ユタ大学図書館のRick Anderson氏の言葉も掲載されています。

The undercover academic keeping tabs on ‘predatory’ publishing(Nature、2018/3/16付け)
https://www.nature.com/articles/d41586-018-02921-2

参考:
「ハゲタカ出版」のリストとブログの内容が削除される
Posted 2017年1月20日
http://current.ndl.go.jp/node/33292

ハゲタカ出版等に対抗する企業間連合CRPR立ち上げへ
Posted 2016年5月17日
http://current.ndl.go.jp/node/31609

学術出版の世界で成長を続ける闇経済 DOIを模した識別子”SOI”まで登場(記事紹介)
Posted 2016年1月26日
http://current.ndl.go.jp/node/30545

ラテンアメリカにおけるオープンアクセス Jeffrey Beall氏への反論(記事紹介)
Posted 2015年9月1日
http://current.ndl.go.jp/node/29331

「そのメーリングリストから私を外せ」と繰り返し書かれているだけの論文が受理される
Posted 2014年11月25日
http://current.ndl.go.jp/node/27497

単なる“金もうけ”の疑いのあるオープンアクセス出版社のリスト(2014年版)
Posted 2014年1月7日
http://current.ndl.go.jp/node/25205

単なる“金もうけ”の疑いのあるオープンアクセス出版社のリスト(2013年版)
Posted 2012年12月10日
http://current.ndl.go.jp/node/22481