学術出版におけるスパム:ある研究者に届いたスパムメールの分析(文献紹介)

Journal of the Association for Information Science and Technology誌に掲載予定の論文、”Spamming in scholarly publishing: A case study”の早期公開版が2015年5月13日付けで公開されています(本文は有料)。著者はポーランド・University of Information Technology and Management in RzeszowのMarcin Kozak氏らです。

この論文では2012年8月6日から2013年8月31日までにKozak氏の持つ4つのメールアカウントに届いた、学術雑誌もしくは出版者による論文投稿を促すメール1,024通について、それらの雑誌のビジネスモデルやどこに本拠地を置いているか、DOAJやJeffrey Beall氏による単なる”金もうけ”の疑いのあるオープンアクセス雑誌リストへの収録状況等を分析しています。

分析結果によれば、これらのメールの多くは雑誌の責任著者として掲載しているメールアカウントに届いており、スパムメール送信元は大学ウェブサイト等の研究者紹介ページよりも出版された論文に掲載されているメールアカウントをターゲットにしているようである、としています。また、ほとんどの雑誌はAPCを徴収するオープンアクセス(OA)雑誌であり、それ以外の雑誌もなんらかの料金を著者に課すものがほとんどであったとされています。また、スパムメールを送ってきた出版者のうちOA出版者とされているものは34あったものの、そのうち27社はDOAJのメンバーにはなっていませんでした。一方で、スパム送信元の雑誌・出版者はいずれも70%異常がBeall氏のリストに掲載されていました。

Kozak氏らは論文の末尾で、かつて論文投稿の誘いが届くことは評価されていることの証であったが、今ではただのスパムであると述べています。また、APCによるOAモデルが悪いわけではないものの、学術出版で安易な金儲けを企む人々に悪用されていると指摘しています。

Kozak, M., Iefremova, O. and Hartley, J. (2015), Spamming in scholarly publishing: A case study. Journal of the Association for Information Science and Technology. doi: 10.1002/asi.23521
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/asi.23521/abstract

研究者にスパムメールを送りつける出版社の多くは「ハゲタカ出版社」 / ポーランドの研究者が、自分が受け取った約1千通のスパムメールを分析(ワイリー・サイエンスカフェ、2015/5/18付け)
http://www.wiley.co.jp/blog/pse/?p=32216

参考:
「そのメーリングリストから私を外せ」と繰り返し書かれているだけの論文が受理される
Posted 2014年11月25日
http://current.ndl.go.jp/node/27497

ハゲタカ出版の雑誌に論文を発表しているのはどんな人?(文献紹介)
Posted 2014年11月11日
http://current.ndl.go.jp/node/27409

単なる“金もうけ”の疑いのあるオープンアクセス出版社のリスト(2014年版)
Posted 2014年1月7日
http://current.ndl.go.jp/node/25205