第4章 まとめ (4.5 地域資料を扱う機関、4.6 全国書誌システムの構築、参考文献、地域資料コレクション一覧)

4.5 地域資料を扱う機関

 文部科学省の『平成17年度 社会教育調査』によると図書館は全国に2,955施設存在する。このなかの約2割は戦前から多様な資料を蓄積してきている図書館である。他方、市立で半数、町村立では9割が1970年代以降にできた図書館である。1970年代以降、一般書の貸出を中心とした運営方針を採用したあとでは地域に関わる資料を扱う優先順位は相対的に下がったとはいえ、古い図書館はそれなりのストックを抱えているし、古い図書館も新しい図書館も集められる範囲で、地域で発生する現代的な資料を集めて提供しようとはしている。

 ヒアリングで訪問したいくつかの図書館のように、地域資料に力を入れているところがあることは頼もしく思われた。しかしながら、全体としては、運営費はますますカットされ、正規職員には司書資格のない職員の割合が増え、また非正規職員が導入されている状況のなかで、数少ない司書職員がさまざまな兼務の仕事のなかで地域資料も合わせて担当している様子が浮かび上がってくる。地域に関わるサービス課題についてなかなか幅広く展開することができない状況はこうした構造的な問題に基づくものであろう。

 図書館は、他の類縁機関と比べて資料の取り扱いが汎用的であるという特徴をもつ。司書の養成においても特定の主題分野を超えて、広範な資料を受け入れて整理し提供するための知識技術を身につけるものとなっている。文書館や歴史博物館が設置されていない自治体でも、図書館なら基本的な対応ができる潜在的な可能性をもっている。施設、職員、予算のいずれの側面からいっても十分とはいえない状況があるとはいえ、地域資料を積極的に扱うことで図書館の新たなサービス戦略をつくることが可能であるように思われる。

 文書館は公文書や私文書のような唯一性の高い資料を中心にしているが、同時に地域的な印刷資料、行政刊行物にも力を入れているところが多い。また、アーキビストの資格の制度化が遅れているとはいえ、専任職員の配置率は高くそれぞれの館ごとで、調査研究を基盤にして資料の評価選別、保存対策、企画展示の実施のような専門的な業務が実施されている。

 最大の問題は、全国で50弱の自治体にしか設置されていない点である。つまり公文書の保存提供に関してはほとんどの市町村において公文書館がない状況があり、これについては他の機関では代替できないために問題が大きい。多くの場合、自治体の庁舎等に死蔵されている。合併などで失われる可能性もあり、そうした公文書保存の問題は大きい。他方、明治期以前の家文書などの私文書類や原稿・書簡・日記類は図書館、博物館で受け入れているし、都道府県の文書館でも対応可能である。

 行政情報センターは法的根拠が必ずしも明確ではないが、行政刊行物の閲覧・配布と情報公開の請求窓口の機能の場であるととらえられる。前者は図書館的な機能に近いものである。庁舎の便利な所にあるから利用は多いが、それを本格的に実施するための体制がつくられているところは少なかった。また、今回は都道府県の機関のみを調査したが、図書館の類縁機関調査からみると人口15万人以上の市で44%の設置率であった。それより小規模の自治体だと設置はきわめて少ない。設置されていても、都道府県よりもさらにサービス体制が限定的になるものと思われる。

 博物館の場合は、それぞれの設置目的に沿った現物資料の収集・保存・展示が中心的な業務であるが、同時に図書・雑誌等の印刷物や視聴覚資料、写真・ポスター・絵葉書類、文書・記録・原稿など、多様な資料を収集保存している場合がある。博物館は資料展示施設と考えられてきたし、現在有料施設であることからくるアカウンタビリティを求める強い圧力があり、近年は特別展の企画に力を入れている。一方では、教育普及活動に力を入れる動きもある。

 『平成17年度 社会教育調査』によれば、全国に登録博物館1,196施設、類似施設が4,518施設あるが、そのうち、総合博物館418施設(登録156、類似262)、歴史博物館3,200施設(登録405、類似2,795)である。数は多いが、ほとんどの類似施設は設置目的と扱っている資料の点で最初から限定されているため、地域資料の受け入れ機関となりうるところは多くないと考えられる。本調査で明らかになったのは都道府県レベルの登録博物館の状況であるが、その状況から類推すると、市町村レベルになると職員や施設の面から現物資料以外の地域資料を扱う条件が整っていないところが多い。

 以上のことから、次のことが言える。歴史資料については文書館や博物館が担い、行政刊行物については行政情報センターが担っている。とくにこれらがそろっている都道府県や政令都市、県庁所在市あたりでは機能分担が進んでいる。また、文学館と呼ばれる施設が地域にゆかりの作家や文学者の原稿ほかの一次資料を含めた資料を収集している例もある。市町村レベルの歴史的な資料や現物資料については、博物館だけでなく、資料館と呼ばれる施設や自治体史の編纂室のような施設があって担っている場合がある。

 しかしながら、こうした施設にそれほど大きな資源を投入できない基礎自治体では、図書館をとりあえずの地域資料の担い手として位置づけることはできるし、多くの場合そうなっている。本報告書は、図書館がこのような事業を行うための基盤を持ち合わせていること、とくに1960年代までそうした事業が行われており、コレクションの蓄積があること、また、その後も現代的な資料の収集とサービス提供が十分とはいえないまでも継続されている面があることを確認することができた。


4.6 全国書誌システムの構築

 図書館の重要な役割は、非商業出版物を含めて一定の地域で発行された出版物の書誌を作成することである。とくに全国的なMARCに収載されない地域出版物は、当該地域の図書館しか書誌作成の担い手はないので、その役割は重要である。

 図書館調査の図書館業務システムへの書誌データの入力について聞いた質問において、ほとんどの図書館が独自にデータ入力を行っていると回答し、入力しているのは司書資格をもつ正規職員であるとの回答があった。多くの図書館でこの業務についてきちんと対応していることがわかる。

 また、地域資料のみを絞り込んで検索できるかどうか質問した。これによって、図書館システムが地域書誌(県書誌、市書誌など)の検索システムとして使えるかどうかを確認するためである。かつて冊子体の郷土資料目録がよくつくられ、また県によって県内書誌の作成が行われたが、電算化によって図書館システムに吸収されたとする図書館が多い。しかしながら、地域レベルの絞り込みができないままに検索をかけるとノイズが大きすぎるから、検索システム上で絞り込みを可能にすることが必要である。その結果は、対応している図書館は全体の7割程度あったが、業務システムのみで使用できるものが多く、利用者が館内で利用可能なものが8%、インターネットで検索可能なものは15%にすぎなかった。

 インターネットはさまざまな情報発信のために有効であるが、このような地域書誌情報の発信は優先度が高い事業である。ほとんどの図書館では書誌データに地域(郷土)資料を他の資料から区別するフラグが入力されているから、検索システムに組み込むことは容易に実現可能なはずである。その実現を望みたい。

 OPAC以外でもこういう地域書誌を地域資料の所蔵目録や総合目録として別途編集したり、新着地域資料案内として編集したりする場合もある。また、雑誌や新聞について総合目録や書誌を編集する例もある。さらに地域担当の担当者がいる場合には、地域に関わる主題書誌、人物書誌の編集が行われ、資料集が編纂され、さらに地域に関わる出版物の編集が行われてきた。今回の調査では、こうした書誌を冊子体、デジタルのいずれかの形態で編集している図書館が計画しているところを含めて、2割近く存在していることがわかった。人口15万人以上の市で15%、15万人未満で10%、町村で6%である。

 これらの編集事業はかつて図書館の重要な事業とされ、図書館員が専門性を示す場面として認知されてきた。資料の価値を理解してそれを活用する技術をもって地域の専門家と関わりながら仕事を進めることが必要なのである。デジタル図書館の構築という課題は、こうしたコンテンツに関わる実践の延長上に位置づけられる。利用者が特定の専門家好事家に限定されるといった理由で軽視されてきた面もあるが、むしろ特定化された利用者の利用がコミュニティに還元されることで、図書館がもつ地域文化や教育における機能が評価されると考えるべきなのである。博物館や文書館の職員と違って、主題専門性の根拠が不明確な図書館員にとってはこのような地域に関する主題内容を踏まえた図書館活動を行うことで専門性を主張すべきである。こうした実践は、すでにビジネス支援や行政支援のような実践活動で一部行われ始めている。


参考文献

(図書館の地域資料サービスに関する主要単行書のみを挙げた。詳しい文献目録は7の巻末に掲げられている。)

  1. 青木一良. 地域図書館活動:その歴史・実践・理論. 黒田書店, 1972, 266p.
  2. 東京都公立図書館長協議会編. 地方行政資料の収集とその利用について. 1974, 6p.
  3. 日本図書館協会図書館の自由に関する調査委員会編. 情報公開制度と図書館の自由. 日本図書館協会, 1987, 209p.,(図書館と自由, 第8集).
  4. 三多摩郷土資料研究会編. 多摩地域郷土資料業務実態調査報告書:昭和61年4月現在. 1986, 165p.
  5. 廣瀬誠. 図書館と郷土資料. 桂書房, 1990, 253p.
  6. 三多摩郷土資料研究会編. 多摩地域郷土資料・地域資料業務実態調査報告書:平成7年7月調査. 1996, 127p.
  7. 三多摩郷土資料委員会編. 地域資料入門. 日本図書館協会, 1999, 287p.,(図書館員選書, 14).
  8. 三多摩地域資料研究会編. 多摩地区公立図書館地域資料業務実態調査報告書:平成17年7月調査. 2006, 174p.
  9. 渡部幹雄. 地域と図書館:図書館の未来のために. 慧文社, 2006, 235p

地域資料コレクション一覧

  1. 国立国会図書館参考書誌部編. 全国特殊コレクション要覧. 改訂版, 1977, 217, 46p.
  2. 書誌研究懇話会編. 全国図書館案内. 改訂新版, 三一書房, 1990, 2vols.
  3. 地方史研究協議会編. 歴史資料保存機関総覧. 増補改訂版, 山川出版社, 1990, 2vols(東日本編、西日本編)
  4. 日本図書館協会公共図書館部会全国参考事務研究集会実行委員会編. 特色ある地域資料の収集と提供:都道府県立図書館・政令指定都市立図書館からの報告. 1990, 51p.
  5. 書誌研究懇話会編. 全国図書館案内:文書館・資料館・博物館を中心に. 補遺, 三一書房, 1992, 546p.
  6. 全国歴史資料保存利用機関連絡協議会編. JSAIデータブック:全国歴史資料保存利用機関連絡協議会機関会員総覧;1994. 第一法規出版, 1994, 239p.
  7. 日本図書館協会編. 公共図書館の特別コレクション所蔵調査報告書. 1997, 127p.
  8. 日本博物館協会編. 全国博物館総覧;全国編. [ぎょうせい], 1999.(CD-ROM).
  9. 日本博物館協会編. 全国博物館総覧;東日本編. [ぎょうせい], 1998.(CD-ROM).
  10. 日外アソシエーツ編集部. 個人コレクション美術館博物館事典. 1998, 398p.
  11. 日外アソシエーツ編集部編. 人物記念館事典;1:文学・歴史編. 2002, 530p.
  12. 日外アソシエーツ編集部編. 人物記念館事典;2:美術・芸能編. 2002, 488p.
  13. 全国文学館協議会編. 全国文学館ガイド. 小学館, 2005, 207p.
  14. 日外アソシエーツ編集部編. 個人文庫事典;1:北海道・東北・関東編. 2005, 516p.
  15. 日外アソシエーツ編集部編. 個人文庫事典;2:中部・西日本編. 2005, 532p.
  16. 市民・住民運動研究会編. 市民活動資料の保存・整理・公開に関する全国調査報告. 2006, 127p.