3. 平成16年度 調査報告 3.4. 再生確認

3.4.再生確認

3.4.1.エミュレーションおよびファイル形式変換の概要

 電子資料の長期的な再生手段を確保するための対策といわれているエミュレーションとファイル形式変換を実施し、その効果と問題点を調査した。

 電子資料に含まれるプログラムは、特定のOS上で動作することを前提に作成されている。このOS自身も、特定のハードウェア上で動作することが前提となっている。ここで、電子資料の長期保存を考える際、ハードウェアの寿命を考えることが極めて重要である。仮に電子資料のプログラムを数十年から数百年の間保存することができるとしても、ハードウェアがなければ再生することが不可能だからである。このような問題を回避するためには、エミュレーションという作業を行うことが有効であると一般に考えられている。

 エミュレーションとは、エミュレータと呼ばれるアプリケーション・ソフトウェアをハードウェアに搭載することによって、別のハードウェアと同等の環境を擬似的に再現することである。すなわち、エミュレータを搭載することによって、新しいハードウェアに古いハードウェアの真似をさせるということである。この調査では、最新のハードウェアにエミュレータを搭載し、その環境下でプログラムを含む電子資料を動作させ、正常な再生が可能であるかどうかを確認した。

 一方、データのみの電子資料は、特定のOS環境ではなく、特定のアプリケーション・ソフトウェアで再生されることを前提として作成されていることが多い。このアプリケーション・ソフトウェアが将来、販売やサポートの中止により、最新環境で稼動しなくなると、それにともなってデータのみの電子資料も再生できなくなってしまう。この問題を回避するためには、別のアプリケーション・ソフトウェアでも再生ができるように、あらかじめファイル形式を変換しておくことが有効である。この調査では、データのみの電子資料には、ファイル形式の変換、およびこれと同等の技術であるマルチファイルビューワによる再生を試みた。

 この調査では、プログラムを含む電子資料を、該当の電子資料を再生するためにその電子資料もしくは同一シリーズの電子資料に限定したアプリケーション・ソフトウェアが必要な電子資料とした。

 一方、データのみの電子資料を、頒布されているもしくは頒布されていたアプリケーション・ソフトウェアを用いて再生する前提で作成された電子資料(26)とした。

 

3.4.2.エミュレーションによる再生確認

3.4.2.1.再生確認方法

 市販のエミュレータ(27)を使用して旧式OSが稼働するためのゲストOS環境(28)をOSの種類ごとに用意した。ここに旧式OSをインストールし、電子資料の再生に必要な旧式のOS環境を構築した。

 再生確認を行うサンプルとして、マイグレーションによりハードディスク上に作成された電子資料から、プログラムを含むものを100点(29)選んだ。

 再生確認の方法は、電子資料毎に実際に起動させることで、以下のような機能種類の有無を調査し、それぞれの機能ごとに再生結果を確認(30)した。

 

表3.4-1 エミュレーション再生確認内容
表3.4-1 エミュレーション再生確認内容

※ No.1のインストールが正常に終了できなかった電子資料については、No.2の起動画面の確認は実施していない。また、No.3〜No.10に関する機能の有無調査は、No.1のインストールならびにNo.2の起動画面が再生確認できなかった電子資料については実施していない。

 

3.4.2.2.再生確認結果

 対象の電子資料100点での再生確認結果を以下に記述する。一部不完全とは、音声に雑音が混ざるなど、再生はできるものの一部の機能に問題がある資料である。また、再生不能とはインストールが失敗する、または起動画面も表示されない資料である。

 

図3.4-1 エミュレーションによる再生結果
図3.4-1 エミュレーションによる再生結果

 

3.4.2.3.OS別の再生結果

 各電子資料の稼働OSは、対象の電子資料の取扱説明書などに記載された情報から決定した。複数のOSが稼動OSとして記されている場合は、以下の基準で稼動OSを選択した。

(1) より新しいOSを選ぶ
 たとえば、Windows95、Windows98という記述があるときはWindows98とする。

(2) より一般的なものを選ぶ
 たとえば、Windows9x系とNT系の双方の記載があるときは、Windows9x系とする。

 

 この結果、調査においてプログラムを含む電子資料が動作するOSの分布状況は以下の通りとなった。

 

図3.4-2 エミュレーション対象OS分布状況
図3.4-2 エミュレーション対象OS分布状況

 

 次に稼働OS別の再生結果を記述する。

 

(1)Windows98

 ゲストOS環境にWindows98をインストールして再生環境を構築し再生確認を行った。Windows98は、比較的に新しいOSであることもあり、再生不能なものは1点もなかったが、一部不完全なものが1点あった。

 

図3.4-3 Windows98の再生結果
図3.4-3 Windows98の再生結果

 
表3.4-2 Windows98・電子資料毎の再生結果
サンプル ID インストール 起動画面 指示に対する動作 静止画像 動画 音声 計算、判定 検索抽出 データ記録 その他 再生結果
P01            
P02          
P03      
P04            
P05      
P06      
P07        
P08          
P09      
P10          
P11          
P12            

○: 再生OK、△:一部不完全、×:再生NG、−:機能有無未確認、空白:機能なし

 

表3.4-3 Windows98の不具合状況
表3.4-3 Windows98の不具合状況

 

図3.4-4 Windows98の不具合状況
図3.4-4 Windows98の不具合状況

 

(2)Windows95

 ゲストOS環境にWindows95をインストールして再生環境を構築し再生確認を行った。Windows95では音声の問題が最も顕著であった。再生不能の資料は、すべてオープニング画面表示のタイミングでエラーが発生した。一部不完全なものはほとんどが音声の問題(雑音、再生速度の乱れ)であった。

 

図3.4-5 Windows95の再生結果
図3.4-5 Windows95の再生結果

 
表3.4-4 Windows95・電子資料毎の再生結果
サンプル ID インストール 起動画面 指示に対する動作 静止画像 動画 音声 計算、判定 検索抽出 データ記録 その他 再生結果
P13        
P14          
P15          
P16      
P17          
P18          
P19          
P20          
P21            
P22            
P23          
P24          
P25          
P26 × ×
P27          
P28          
P29            
P30       × ×
P31        
P32      
P33    
P34          
P35        
P36          
P37        
P38          
P39        
P40          
P41 × ×
P42        
P43          
P44          
P45          
P46          
P47          
P48 × ×
P49          
P50      
P51        
P52      
P53            
P54        
P55          
P56          
P57 × ×
P58            
P59     ×  
P60          
P61          
P62          
P63        
P64          
P65        
P66 × ×
P67        

○: 再生OK、△:一部不完全、×:再生NG、−:機能有無未確認、空白:機能なし

 

表3.4-5 Windows95の不具合状況
表3.4-5 Windows95の不具合状況

 

図3.4-6 Windows95の不具合状況
図3.4-6 Windows95の不具合状況

 

(3)Windows3.1およびDOS

 ゲストOS環境にDOS(J6.1/V)とWindows3.1をインストールして再生環境を構築し再生確認を行った。Windows3.1およびDOSでは再生環境を構築するときに以下の問題が発生したため、完全に再生できた電子資料が極端に少ない結果となった。

(1) 画面の問題
 Windows3.1およびDOS用のゲストOS環境ではエミュレータがVGA(640×480ドット、16色)のみをサポートしている。そのため、正常に再生させることはできなかった。

(2) 音声の問題
 ゲストOS環境のサウンドボードに対応したWindows3.1およびDOS用のドライバーが入手できなかった。そのため、音声を再生することはできなかった。

 

図3.4-7 Windows3.1 & DOSの再生結果
図3.4-7 Windows3.1 & DOSの再生結果

 
表3.4-6 Windows3.1 & DOS・電子資料毎の再生結果
サンプル ID インストール 起動画面 指示に対する動作 静止画像 動画 音声 計算、判定 検索抽出 データ記録 その他 再生結果
P68 × ×
P69          
P70 × ×
P71 × ×
P72 × ×
P73   ×        
P74   ×        
P75   ×      
P76 × ×
P77 ×        
P78 ×        
P79 ×        
P80 × ×
P81 × ×
P82 ×      
P83 ×        
P84 × ×
P85          
P86 ×        
P87 ×      
P88 ×        
P89 ×        
P90 ×        
P91 ×        
P92 ×        
P93 ×        
P94 × ×
P95 ×    
P96 ×    
P97 × ×
P98   ×        
P99      
P100 × ×

○: 再生OK、△:一部不完全、×:再生NG、−:機能有無未確認、空白:機能なし

 

表3.4-7 Windows3.1 & DOSの不具合状況
表3.4-7 Windows3.1 & DOSの不具合状況

 

図3.4-8 Windows3.1 & DOSの不具合状況
図3.4-8 Windows3.1 & DOSの不具合状況

 

3.4.3.ファイル形式変換、マルチファイルビューワを使用した再生確認

ハードディスクへマイグレーションを実施した電子資料からデータのみの電子資料をサンプルとして100点(31)を選択し、ファイル形式変換プログラムを用いた変換と再生確認およびマルチファイルビューワを用いた再生確認を行った(32)

 

3.4.3.1.再生確認

(1)電子資料の種類

サンプルとしたデータのみの電子資料100点の内容を調査すると、以下の4つに大別されることが判明した。

(1) 素材集など
 多種多様なファイル形式を含むが、それぞれのファイルの関連性がなく、個別に再生するもの。電子資料に含まれる多数のファイルから、利用したい1ファイルを取り出して使用する。

(2) ブラウザで再生するHTML文書
 HTML形式のファイルは、HTMLファイル単独ではなく、様々な形式のデータファイルを組み合わせて、関連付けて再生される。HTML形式ファイル同士のハイパーリンクによる関連付けのほか、画像・動画・音声・その他アプリケーション・ソフトウェアのデータも組み合わせて使用するものが少なくない。

(3) 電子書籍・辞書
 電子書籍類は、データ本体とその制御情報によって構成されている。付随する制御情報によって、データの内容に合わせた表現が行われたり、データの検索を行えるようになっている。EPWING(JIS-X4081「日本語電子出版検索データ構造」)や、J-BISC(国立国会図書館蔵書目録)が該当する。

(4) その他
 上記いずれにも当てはまらないもの。たとえば、PDFデータに動画ファイルが付随しているものなどがあった。

 

図3.4-9 データのみの電子資料の分類
図3.4-9 データのみの電子資料の分類

 

 ファイル形式変換プログラムによるファイル形式変換は1ファイルごとに行われる。そのため、「(2)ブラウザで再生するHTML文書」は、ファイル形式変換すると連携している他ファイルとの関連が失われ、1ファイルごとに変換することはできても、元のコンテンツの形で再生することはできなくなる。また、「(3)電子書籍」は、制御情報を参照しながらデータ本体を再生するという、密接なデータの連携があるため、いずれかのファイルを取り出して利用することができない。つまり、「(2)ブラウザで再生するHTML文書」と「(3)電子書籍」についてはファイル形式変換を行うことは困難である。

 マルチファイルビューワも1ファイルごとに表示が行われる。そのため、ファイル形式変換と同様の理由で「(2)ブラウザで再生するHTML文書」と「(3)電子書籍」は再生することができない。

 

(2)電子資料に含まれるファイル形式の種類

 ファイル形式には様々なものがあるが、規格化された形式と規格化されていない形式とに分けることができる。規格化され、仕様が公開されているファイル形式のものであれば、これに対応するアプリケーション・ソフトウェアが複数存在し長期的な再生も比較的容易に達成できると思われる。したがって規格化された形式のものであればファイル形式変換を行う必要性は低い。ファイル形式変換を行うことが相応しいファイルが含まれている電子資料を特定するために、全ての電子資料について、それが含むファイル形式を調べた。

 電子資料に含まれる全てのファイル形式を列挙することは困難であるために、下表ではファイル形式をHTML、画像、動画、音声、マイクロソフト・オフィス文書(以下、オフィス)、テキスト、電子書籍、その他に分類し、さらに分類毎に規格のあるファイル形式と規格のないファイル形式に分けている。規格の有無については、データの形式や書式が公開され、データを作成するための規格が存在するものとした。

表3.4-8 電子資料に含まれるファイル形式の種類
サンプルID 分類 HTML 画像 動画 音声 オフィス テキスト 電子書籍 その他
規格あり 規格なし 規格あり 規格なし 規格あり 規格なし 規格あり 規格なし 規格なし 規格あり 規格なし 規格あり 規格なし 規格あり 規格なし
D01 電子書籍                            
D02 素材集                            
D03 素材集                          
D04 電子書籍                            
D05 素材集                          
D06 素材集                          
D07 素材集                          
D08 素材集                          
D09 電子書籍                          
D10 素材集                          
D11 電子書籍                        
D12 ブラウザ                        
D13 ブラウザ                            
D14 ブラウザ                        
D15 電子書籍                          
D16 ブラウザ                            
D17 電子書籍                        
D18 電子書籍                        
D19 素材集                      
D20 その他                            
D21 ブラウザ                          
D22 ブラウザ                        
D23 ブラウザ                        
D24 その他                        
D25 その他                          
D26 その他                          
D27 ブラウザ                          
D28 その他                          
D29 ブラウザ                
D30 その他                      
D31 その他                        
D32 ブラウザ                      
D33 ブラウザ            
D34 ブラウザ                        
D35 ブラウザ              
D36 ブラウザ                        
D37 その他                        
D38 ブラウザ              
D39 電子書籍                        
D40 電子書籍                            
D41 ブラウザ                          
D42 その他                          
D43 ブラウザ                        
D44 その他                    
D45 ブラウザ                      
D46 ブラウザ                        
D47 素材集                          
D48 電子書籍                  
D49 その他                      
D50 電子書籍                          
D51 ブラウザ                          
D52 ブラウザ                          
D53 ブラウザ              
D54 電子書籍                    
D55 その他                            
D56 ブラウザ                      
D57 その他                      
D58 電子書籍                          
D59 ブラウザ                            
D60 その他                          
D61 ブラウザ                        
D62 その他                        
D63 電子書籍                          
D64 素材集                      
D65 ブラウザ                          
D66 ブラウザ                    
D67 その他                          
D68 その他                      
D69 電子書籍                        
D70 その他                  
D71 ブラウザ            
D72 ブラウザ                
D73 ブラウザ                            
D74 その他                        
D75 ブラウザ          
D76 ブラウザ                    
D77 その他                        
D78 その他                          
D79 ブラウザ                      
D80 ブラウザ                          
D81 その他                        
D82 その他                        
D83 ブラウザ                        
D84 ブラウザ                          
D85 その他                            
D86 ブラウザ                        
D87 ブラウザ                          
D88 電子書籍                      
D89 ブラウザ                    
D90 電子書籍                          
D91 ブラウザ                            
D92 ブラウザ                  
D93 その他                        
D94 ブラウザ                        
D95 ブラウザ                      
D96 ブラウザ                        
D97 その他                          
D98 その他                            
D99 素材集                      
D100 その他                          

○:対象ファイル形式が含まれることを表している。

 表3.4-8における、ファイル形式と分類の対応を下表に示す。

表3.4-9 ファイル形式の分類
分類 規格の有無 ファイル形式の種類 左記形式を含む電子資料の点数
HTML 規格あり HTML(33), CSS, VRML, JavaScript, MIDI(34)など 45
規格なし Director(35), Flash, QuickTime(36)など 9
画像 規格あり BMP, GIF, JPEG, WMF, アイコン, PhotoCD, PostScriptなど 33
規格なし AI(37), PCX, sgi 4
動画 規格あり AVI, MPEG 7
規格なし QuickTime, Director(38), ScreenCamなど 18
音声 規格あり WAVE, AU, MIDIなど 13
規格なし EUP, FMB, PMB 1
オフィス 規格なし DOC, XLS, PPT, PPS, MDB(39) 21
テキスト 規格あり TEXT, C, CSV, SQL, TeXなど 69
規格なし VBP, FRM 4
電子書籍 規格あり 電子ブック(40), EPWING 12
規格なし エキスパンドブック(41), DTONIC, J-BISC 5
その他 規格あり FONT(42), CAB, HELP, ZIP, Rich Text Format, GZ, BinHex, 航海用電子海図(43)など 41
規格なし PDF, AutoCAD, 一太郎, 花子, Lotus123など 36
 

(3)変換・再生対象の検討

 PDF形式のデータについては、電子文書のデータ形式として一般に広く普及しており、再生が容易で中長期的には問題が出にくいと考えられるために、規格化されたファイル形式と同様に扱うことが適切であると思われる。以上を踏まえ、ファイル形式変換を行う対象は、素材集とその他の電子資料のうち、規格化されていない形式のファイル(PDF形式を除く)で構成される電子資料とした。マルチファイルビューワでの再生対象も同様のものとした。

表3.4-10 電子資料の点数およびファイル形式変換対象
分類 点数 規格ありまたはPDF形式の点数 変換・再生の対象点数
素材集など 11 9 2
その他の電子資料 28 15 13
 

 以上により、ファイル形式変換プログラムおよびマルチファイルビューワを適用する対象の資料点数は、15点となった。

 

(4)再生確認結果

 対象となった電子資料についてファイル形式変換プログラムおよびマルチファイルビューワを適用した結果は以下の通りである。

表3.4-11 ファイル形式変換・マルチファイルビューワによる再生結果
分類 変換・再生の対象点数 形式変換およびマルチファイルビューワ再生成功点数 いずれも失敗した点数
素材集など 2 1 1
その他の電子資料 13 1 12
 

 ファイル形式変換およびマルチファイルビューワによる再生に成功した電子資料はいずれも同じ電子資料で、含まれていたファイル形式はDOC(Microsoft Word 文書)形式およびXLS(Microsoft Excel ブック)形式であった。ファイル形式変換プログラムで変換した形式はPDF形式で、問題なく再生することができた(44)

3.4.3.2.アプリケーション・ソフトウェアの入手可能性

 ファイル形式変換、マルチファイルビューワを使用した再生確認では適用できる電子資料自体が少ないことが判明した。デジタルコンテンツの再生は前提としている環境で再生することが、最も作成側の意図した結果を得られる方法である。そこで、サンプルとして選定したデータのみの電子資料100点について、再生に必要なアプリケーション・ソフトウェアを調査し、その入手可能性を調査した。再生アプリケーション・ソフトウェアが指定されていない、あるいは不足している電子資料も存在したが、電子資料の内容を確認することでアプリケーション・ソフトウェアを特定した。

 

(1)調査方法

 データのみの電子資料100点について、再生に必要なアプリケーション・ソフトウェアを電子資料に付随する取扱説明書などの情報、および電子資料の内容から確認し、入手可能性を調査した。再生アプリケーション・ソフトウェアが指定されていない、またはその情報が記されていない電子資料も存在したが、電子資料の内容を確認することでアプリケーション・ソフトウェアを特定した。

 アプリケーション・ソフトウェアの入手可能性は、メーカーのホームページの情報を元に判断した。メーカーのホームページ上にて販売・配布が確認できたアプリケーション・ソフトウェアは、入手可能とした。メーカーのホームページ上に情報がない、または販売終了となったものは、入手不可とした(45)。フリーウェアや汎用的なファイル形式を使用したものについては、オンラインソフト配布サイト(46)にて再生アプリケーション・ソフトウェアを検索し、入手可能性を調査した。

 

(2)調査結果

(1) 指定バージョンの入手可能性

 指定されているバージョンのアプリケーション・ソフトウェアの入手可能性は次の通りである。

 

図3.4-10 指定バージョンの入手可能性
図3.4-10 指定バージョンの入手可能性

 

 およそ3/4のアプリケーション・ソフトウェアが入手可能であった。この内には、CD-ROMに該当アプリケーション・ソフトウェアを収録している物も含まれる。

 

(2) 最新バージョンの入手可能性

 指定されているアプリケーション・ソフトウェアの最新バージョンの入手可能性についても調査した。アプリケーション・ソフトウェアの場合は上位互換性が保たれることが多いためである。結果を下図に示す。最新バージョンであれば、ほとんど全てのアプリケーション・ソフトウェアが入手可能であった。

 

図3.4-11 最新バージョンの入手可能性
図3.4-11 最新バージョンの入手可能性

 

(3) 入手可能性が低いもの

 最新バージョンのアプリケーション・ソフトウェアであっても入手が困難であり、再生もできなかったファイル形式を含む電子資料は4点あった。

表3.4-12アプリケーション・ソフトウェアの入手が困難なファイル形式
ファイル形式 名称 アプリケーション・ソフトウェア 説明 サンプルID
Bamba Video Bamba インターネット・ビデオ Bamba Player IBM社が開発した、インターネット上でビデオ配信をするための動画ファイル。Bamba PlayerやPlug-In等で再生する。 D33
PAN Panoram File PanoramIX Plug-In IBM社が開発した、360度パノラマ画像を作成・表示するソフトPanoramIXのパノラマデータファイル。PanoramIX Plug-Inを使用することで、Web上でパノラマ画像を表示することができる。 D33
sgi Silicon Graphics Image 不明 米Silicon Graphics社が開発した、同社製ワークステーション用画像形式。 D75
FMB(47) 不明 不明 FM-TOWNSで使われる音声形式。FM音源用。 D71
PMB(48) 不明 不明 FM-TOWNSで使われる音声形式。PCM音源用。 D71
C4 CANDY4ファイル CANDY4 (株)アイフォーのCADソフト「CANDY4」で作成された図面データ。 D53
CWJ クラリスワークス文書 クラリスワークス ワープロソフトのクラリスワークスで作成された文書ファイル。 D53
 

3.4.4.考察

(1) エミュレーション

(1) エミュレーションの効果

 長期的にはエミュレーションは必須だと思われるが、調査により、現時点ではエミュレーションが特効薬とはならないことが明らかになった。

 

(2) エミュレータのエミュレーション能力

 調査ではWindows98、Windows95では音声に雑音が混ざるなどの問題が顕著であり、更に、Windows3.1およびDOSでは音声に加えて画像の問題が発生し、結果として完全に再生された割合は約3割となった。これは調査で使用したエミュレータ特有の結果であるかもしれないが、音声などを完全に再現することの難しさを表しているといえる。現時点では、完璧なエミュレーションは困難だと考えざるを得ない。

 また、市販のエミュレータは、より需要の高い環境を再現するように開発される傾向があり、同じエミュレータでもバージョンが上がると旧式OS用のエミュレーション能力が下がる可能性がある。今回の再生結果でも、より古い世代のOSの方が再生できた割合が少ないことにその傾向が現れている。

 

(3) 長期的アクセス維持手段としてのエミュレータの要件

 電子資料への長期的アクセスを確保するためには、エミュレータは、以下の要件を備えていることが必要である。

● ハードウェア環境やOS環境に依存しないで旧式ハードウェア環境を再現できること

● 各ゲストOSに対応した各種デバイスドライバが入手可能で、旧式ハードウェア環境を再現できること

● エミュレータがバージョンアップされても、旧バージョンがサポートしていた旧式OS環境が新バージョンにおいてもサポートされ続けること

 しかし、通常はエミュレータ自体も特定のOSで動作するために、そのままでは長期的に使いつづけることはできない。このため、エミュレータ上で旧式のエミュレータを動作させることや、多くのハードウェア上で比較的容易に実装可能な仮想マシン上で動作するエミュレータを開発することなどが必要と思われる。

 

(4) 旧式環境維持の必要性

 長期的にはエミュレーションは避けられないが、ハードウェアやOSなど再生に必要なもの一式を維持しつづけることが、はるかに容易であり、完璧なエミュレータの登場までは必要だと言える。

 

(2) ファイル形式変換、マルチファイルビューワ

(1) ファイル形式変換の対象

 データのみの電子資料のサンプル100点について調査したところ、ファイル形式変換およびマルチファイルビューワの適用対象となった電子資料は15点と予想外に少なかった。更に変換および再生確認ができた資料は2点と少なかった。対象外となった電子資料の大多数がHTMLなどの複数のファイルが関連性を持ちながらコンテンツとして再生する資料であった。

 

(2) 電子資料単位の変換

 HTMLなどの複数ファイルが関連性をもつ電子資料に対しては、ファイル単位の変換ではなく電子資料単位で、複数ファイルの関連性が維持されるように変換を行う必要がある。この場合、例えば始点となるファイルを指定するなど、電子資料単位での判断が必要となる。

 

(3) ファイル形式変換によらないアクセス維持の方法

 現時点では、コンテンツの再生に必要なアプリケーション・ソフトウェアの入手は容易であり、調査では最新バージョンを使用するならばサンプル100点中96点までがそのアプリケーション・ソフトウェアを入手可能であることが分かった。再生に必要なアプリケーション・ソフトウェアは、そのファイル形式の仕様を所有しているメーカーから販売されている場合がほとんどであり、より完全な再生を行うことができると予想される。しかし、上位互換が保たれることが多いと思われるが、最新バージョンのアプリケーション・ソフトウェアで旧バージョンのデータが正しく再生されるかどうかは不明である。また、アプリケーション・ソフトウェアはそれが動作するための環境を必要とするが、この環境を維持しつづけることも課題となる。

 

(4) 長期的アクセス維持手段としてのファイル形式変換

 データのみの電子資料を再生するためには、必要なアプリケーション・ソフトウェアを入手することが、最も多くのコンテンツの再生を行え、更に完全な再生を行う有効な手段である。ファイル形式変換プログラムやマルチファイルビューワは、今回調査の長期保存の観点では適用可能な対象が非常に限定的であり、長期的なアクセス維持のための手段としては有効性が低いと考えざるを得ない。

 

(26) 素材集などは、再生専用の固有のアプリケーション・ソフトウェアを収録しているものであっても、一般的なアプリケーション・ソフトウェアで問題なく再生可能であるため、データのみの電子資料に分類した。また、検索用プラグインなどの付随機能のプログラムが同梱されている電子資料も、付随的な機能を除けば一般的なアプリケーション・ソフトウェアで問題なく再生可能であるためデータのみの電子資料に分類した。

(27) 「VMware Workstation 4.5.2」(米国ヴイエムウェア社)を使用した。製品の評価ではなく一般論としての結果を導くことを目的とした。

(28) エミュレータによって再現された各OSが稼働する擬似的なハードウェア環境のこと。

(29) マイグレーション時にサンプルと予備を含めて126点を無作為に選択済である。その中からプログラムを含む電子資料(後出「P」で始まるサンプルIDのもの)を対象として選択した。

(30) 正しい再生のされ方は非エミュレーション環境で確認可能であるが、この調査ではエミュレーション環境でのみ確認した。

(31) マイグレーションした352点の電子資料のうち、データのみの電子資料は110点存在した。この中から無作為に100点(後出「D」で始まるサンプルIDのもの)を選択した。

(32) ファイル形式変換には「リッチ・テキスト・コンバータ2004 for Windows」(アンテナハウス(株))を使用した。また、マルチファイルビューワには「Multi File Viewer自在眼8」(アンテナハウス(株))を使用した。製品の評価ではなく一般論としての結果を導くことを目的とした。

(33) リンクしているGIF, JPEGを含む。

(34) ブラウザ上で再生するもののみを含む。Windows Media Playerなどで再生するものは、音声の分類とした。

(35) Directorの動画のうち、プラグインを使用してブラウザ上で再生するDCR形式のみを含む。

(36) QuickTimeの動画(MOV形式)のうち、Webブラウザ上でQuickTimeプラグインを使用して再生するもののみを含む。QuickTimeプレイヤーなどで再生するものは、動画の分類とした。

(37) AI形式の画像は、内部はEncapsulated PostScriptと同じものであるが、拡張子が異なり、Adobe Illustratorで使用することを前提としているため、別形式とした。

(38) Directorの動画のうち、Director本体やShockwaveプレイヤーなどで再生するDIR,DXR形式のみを含む。

(39) MDBファイルは、読取専用だと使用できないため、ハードディスクなど書き込み可能な場所にコピーし、ファイルのプロパティより読取専用の設定を外す必要がある。

(40) 一般的に「電子ブック」と言われるが、この名称はソニーの商標である。規格名は、EB, EBXAとなる。

(41) エキスパンドブックは、ボイジャー社独自の規格だが、青空文庫で使われるなど、広く普及している形式である。

(42) Windowsフォントは、Windowsシステムフォルダ内にコピーして、他のアプリケーションなどから使用するもので、通常はフォントデータファイルのみを再生することはない。しかし、素材集などには含まれることが多い。

(43) 国際水路機関(IHO)が規定したS-57フォーマット。

(44) 今回変換を行ったファイルには、マクロなどは含まれていなかった。もし、マクロなどが含まれたデータファイルであれば、データ変換を行った場合には、マクロは動作しなくなると考えられる。

(45) 流通在庫および中古市場は考慮していない。

(46) Vector(http://www.vector.co.jp/)を使用した。

(47) FM-TOWNS用のファイル形式であるが、サンプルD71は平成11(1999)年に刊行されたWindows95/98用の電子資料である。

(48) 同上。