第3章 調査研究のまとめ

第3章 調査研究のまとめ

1 今回の調査から見る国内における研修の状況・概括

 国立国会図書館では、国内における研修の現況について6年前の平成11年(1999)11月に、都道府県立図書館59館及び政令指定都市立図書館12館合わせて71館を対象として調査している。(1) 調査対象となった2800余名のうち96.3%にあたる2770名が「日常業務の中で研修の必要性」を感じている。研修の必要性を感じない人は、「勤務年数が1〜4年目または10〜14年目の男性、「他部署経験がある」人、非司書有資格者で割合が高いとされている。また、過去5年間に研修に参加したことがないと回答した人の中に、「研修の必要性を感じない」と回答した人の割合が全体より非常に高く、参加しないために研修の効果が分からず必要性を感じないままである、とまとめている。(2)

 研修そのものの必要性は、一般的に肯定されていると考えて良いだろう。

 このときの調査では、「館内研修」については、県立の72.3%、政令12市のすべてが実施している。(3)また、調査された「外部研修」は14種類で、「図書館司書専門講座(国立教育会館社会教育研修所)、新任図書館長研修(文部省)、図書館地区別研修(文部省・日本図書館協会等)、児童図書館員養成講座(日本図書館協会)、図書館情報学公開講座(国立国会図書館)、著作権講習会(文化庁)、学術情報センターで行う研修、全国図書館大会(日本図書館協会等)、日本図書館協会の委員会等で行う研究集会、全国公共図書館研究集会(日本図書館協会等)、地区公共図書館協議会主催の研修、都道府県単位の公的な研修(県レベルの図書館協会等)、図書館情報学をテーマとした大学の公開講座、図書館情報学関係研究団体の研究集会」への派遣状況が明らかにされている。(4)研修の必要性を感じようが、感じないままで日常業務を遂行していようが、ごくありふれた状態で「研修」にかかわる情報が図書館員の周りに存在していることがわかる。これらの研修には、テーマを設定して単発的におこなわれるものもあれば、受講者のレベルを特定して実施されているものもある。 また、公共図書館だけをターゲットにしていない一般的なものもある。必要性にもとづいて多くの研修が実施されていることが理解できる。これらの研修の内容は、『図書館年鑑』をひもとけばテーマだけは明らかになる。けれども「必要性にもとづいた実施された研修」がどのような意図で実施されたのか、あるいは実施にあたっての課題はどのように認識されてきたのかを知ることは非常に難しい。今回の調査研究は、それらの研修を企画し、実施している側は、どのような課題を感じているかを明らかにすることを目標としていた。

 今回は、第1章2「調査対象」に述べたように限定された範囲に対して実施したものである。平成11年(1999)の調査は、公立図書館のみを対象としたものであるのに対し、今回は「各館種の職員をカバーできること」を目指したので、大学図書館関係の情報を多く入手することができた。また、受講対象である図書館員、あるいは派遣する側の図書館に対して調査するのではなく、研修事業実施主体に対して調査をおこなったので、研修事業を実施するにあたっての課題等を把握できた点に特色をもつと考えてほしい。「研修」というプロジェクトそのものの抱え込んでいる課題を把握することができたと考えている。

 第1章1「調査の方法」で述べた「調査項目」にしたがって概況をまとめてみると、次のようになる。もちろん、それぞれの団体のもつ固有の事情が前提になるのであるが、研修事業実施にあたっての共通の課題といったものを読み取ることができる。


(1)研修事業の目的、趣旨、実施の背景

 いずれの団体においても、それぞれの構成組織の将来像を検討するなかで、共通化される部分について、その「担い手」を意識して研修事業が展開されている。今回の調査研究が「中堅職員」を対象とするものに限定したのであるから当然のことなのであろうが、図書館界全体の底上げに寄与する面は貴重なことである。

 実施の背景において特異なものとして国立大学図書館協会のものを指摘しておきたい。協会として打ち出した将来像にかかわる提言等に関して、その担い手となるであろう中堅職員の積極的な意見の吸収を図っていることである。研修受講生の協会への一体感を作り出す点においても評価することができる。


(2)研修事業の実施体制

 複数の構成員をもつ協会は、委員会を組織して実施しており、単独の組織が研修を実施しているところでは専ら実施を担当する係が存在する。後者についてはそれぞれの組織における位置づけが問題になる。前者については、委員会の組織原理が課題となる。研修事業の目的・趣旨等を具体化できる適切な原理が発動される限りにおいては、順調な事業実施が可能となっている。委員会に参加組織の意向が十分に伝わっているか否かは、研修事業に受講生が確実に集まるかどうかで判断する以外はないようである。委員会に上部組織があって、そこに対して実績等を報告する形をとっている組織では、事業の評価について自己判定を出すことが求められる。評価を積極的に実施するなかで、事業そのものの発展・展開が期待される。


(3)研修カリキュラムの実施及び過去5年間の研修カリキュラムの変遷

 図書館に対する社会から寄せられる期待が変化するなかで、将来の図書館の担い手である中堅職員に求められる内容も変化している。通信技術を駆使したネットワークの形成と展開を求める時代から、そうしたシステムを適切に使いこなす利用者の支援体制を充実する方向が明らかになった。さらに図書館そのものの「運営体制」を、社会の期待に応える流れのなかで考えることのできる職員の能力を向上させることも目指されている。このことは大学図書館についても「大学および大学図書館の社会的貢献」を求める動きのなかで言えるようになっていることは注目すべき点である。

 研修カリキュラムの変遷は、受講生の受け身的態度を許さなくなっている。グループ討議やレポート作成を課題のなかに組み込み、「受講生自らが考える」研修の実現が模索されている。こうした変化が、一方では研修事業そのものの役割を「受講生のレベルアップ」にとどめてしまい、受講生を送り出しているそれぞれの職場全体のレベルアップにつながりにくくしている点を見落としてはならないと考える。


(4)研修事業の評価

 調査対象とした研修事業のすべてにおいて評価は積極的に実施されていることを確認した。ただ評価の主体において必ずしも十全になされているとは言い切れない。受講生から為される評価も、「受講生」という立場にとらわれた評価に終わっていることが多い。折角実施されている評価が適切に生かされない理由は、それらが内部での材料としてしか利用されていないからであろう。主観的なものであっても、内部あるいは外部から為される評価を公表することが重要である。図書館界全体の動きのなかで実施した研修そのものの意義を積極的に発言する評価を期待してゆかなければならない。


(5)研修事業の今後の展開

 調査研究の対象としたいずれの組織においても研修を継続的に実施する必要を明言している。また、それぞれの背景にある図書館等の動きを正確に認識し、その中での研修のあり方を真剣に求めている。けれども、その「動き」そのものが、これまで経験したことのないものである場合は、多くのとまどいがある。例えば、国立大学図書館協会の場合、独立法人として動きはじめて1年を経過しようとしているが、各大学における図書館の位置づけがさまざまになりつつあり、今後とも同じようなスタンスで進めることについての危惧を持っているようであった。公共図書館においては、指定管理者制度にどう対応するかによって異なった見解が生まれて来そうである。中堅職員として期待をかけようにも、その人たちが今後とも図書館に在職することが保証されているわけではなくなりつつある。私立大学図書館でもこのことは顕著となっている。専門図書館についても「専門職員」であることが保証されない企業等の実態についてのおそれがある。

 研修事業を中長期的に実施してゆくにあたり、それぞれの団体等から国立国会図書館に寄せられる期待は強まっていると考えるべきである。講師陣を考えるにあたって有用となる「ひと」情報によって構成する「人材データベース」を求める声は多かった。研修テーマの設定や調整を可能とする「研修情報」の流通に一定の役割をもつことを期待する声も多い。国立国会図書館は、単に研修事業を実施する主体としてだけでなく、研修事業全体を見渡すことを通して、わが国の図書館界の中核としての役割を果たすべく動くことが必要となっている。


2 「研修」とはなにか

 今回の調査研究の過程で気づいたことに「研修」概念の「ズレ」がある。研修事業を実施している側にも、研修を受講する側にも二つの概念が存在し、それが研修事業の評価において微妙に反映されている。

 「研修」の目的には、当然のこととして受講生の「個人」としてのレベルアップが含まれる。研修事業を実施する側も、このことは明確にしているが、併せて「受講生の背景にいる人たちのレベルアップ」も期待している面が強い。「背景」には同じ職場で働く多くの同僚もあるが、それとともに「図書館界」とでもとらえるべきものも含まれている。

 受講生たちは、日常の業務の展開に直ちに有用な「ハウツー」をターゲットとしたテーマを求める傾向がある。しかし「ハウツー」は、どちらかというと「個人」のレベルアップに有効ではあっても、適切な伝達手段のないところでは「受講生の背景にいる人たち」のレベルアップに着実にはつながらない。その結果、研修事業を実施する側に対して、繰り返して同一のテーマを求めるという事態が生まれてくる。受講生たちの拠って立つ職場が多人数であると、この傾向はますます強まる。研修参加の経費を、受講生の個人負担とせず職場において負担するような事例においては、「個人」のレベルアップにとどまっていてはならないはずであるが、「ハウツー」を体得してもらうことが職場そのものにおけるサービス内容の展開に有用であるがゆえに、こうしたことを求めてしまう。多人数の職場において順番に研修への参加を決めているようなところでは、ひとわたり全員が同じテーマについて受講できるようなことを期待してしまう。

 「ハウツー」を内容とするテーマは、一般的に受講生からは「受け」が良いことを研修事業実施主体は認識している。それは1回限りで完結する「単発」であり、先に述べたように順繰りに参加するような受講生集団を背景とする場合は、それぞれで一定の成果を期待することができるからである。けれども、こうした研修事業は、中長期的なビジョンを作り出すことは難しい。常に、最新のテーマをとらえることと、日常的な業務に最も有効なテーマを探すことが求められ、「受講生の背景にいる人たち」を意識した内容を盛り込むことも、研修参加によって得られたものを職場に還元するという役割の必要性を小さいものとしたままで終わってしまう。

 「受講生の背景にいる人たち」を意識する研修としては、「企画力」を創る研修が最たるものである。受講生が研修で得られたものを核にして、それぞれの職場において固有の課題をも含めて新たなテーマを見出し、その発展的解決を目標にして取り組めるようになるならば効果は大きくなる。いくつかの研修において組み込まれている「事例研究」や「事例を素材にしたグループ討議」などは、こうした方向性をもつ研修事業として評価されるべきである。


3 「研修」を受ける人

 研修を受ける人たちの意識についても検討すべき課題の多いことが明らかになっている。先に述べた「受講生の背景にいる人たち」を意識しながら受講するにしても、職場において順繰りで受講を決められた人と、受講希望を自ら申し出て認められた人との間には差があるだろう。年齢としては「中堅」にあたるとして受講を認められていながら、その職業経験に図書館現場でのものが希薄な人もいる。これらの傾向は、図書館の位置づけがそれぞれの組織においてどうなっているかによって大きな違いがある。採用段階で司書資格の有無を問われないような組織においては、図書館以外の職場経験を長く積んでから図書館に配属される例もある。中堅と想定される「係長」レベルになるには、複数の異なった性格をもった職場経験を求める組織もある。これらの要素が研修を受ける人に微妙な影響を与えてしまう。将来の図書館を担うべく「中堅」としての役割を研修実施側は期待しているにもかかわらず、受講生の側に「担う」覚悟がなければ、研修内容の正確な理解もできないこととなるだろう。効果が高いと考えられるグループ討議などにおいても、 図書館以外の職場における体験を素材にして論議が展開されるならば、図書館にとっては効果を期待できなくしてしまう。

 受講資格を厳格にし、事前に公表して受講生を募集し、出てきた申し込みを適切に評価して受講の可否を決定する方法をとることが、このような「受ける人」の意識のばらつきを予防することになる。とともに、そうした厳格な研修実施が、研修そのものの評価を高めることにつながり、さらには受講生ないし受講修了生に対して一定のステータスを確保することにつながってゆく。研修の内容を高めるには、テーマ等の企画面も重要であるが、こうした実施にあたっての効果を確実にする方策も積極的に取り入れる必要がある。


4 国立国会図書館の役割

 中堅職員を育てる研修事業を実施している組織から、国立国会図書館に求められている役割は種々のものがある。

 研修事業そのものではなく、研修を担当できる「講師」に関する人材情報の提供、国立国会図書館の内部に抱えている有能な人材を研修事業に役立てたいとの希望、研修内容に関わるニーズを把握するための動向を知る情報の提供、国立国会図書館にしか蓄積されていないと思われる日常の図書館業務に役立つノウハウ、サブジェクト・ライブラリアン養成に向けての研修事業、などが目立つ。

 今回の調査研究は「中堅職員」対象の研修事業を実施している組織としたが、それらの研修事業の「続編」とでも位置づけることのできる「より上級の研修」を期待しているところは多い。そこでは公共・大学・専門といった館種にかかわらずに実施できる研修事業を期待しているようである。このような研修は、先に述べた「個人のスキルアップ」に重点を置くことになってしまうだろうが、「受講生の背景にいる人たち」に何を還元するのかが大きな課題となるだろう。今後の研修事業は、「個人のスキルアップ」と「受講生の背景にいる人たち」の双方を射程においたプログラムを実施する必要がある。

 そうしたプログラムの実施にあたって、国立国会図書館が東京本館なり関西館なりに一定期間受講生を集める「集合方式」の研修方法だけでなく、発達した通信技術を利用してe-ラーニングを展開することが期待されている。自学・自習・時と場所に制約されないというe-ラーニングの特徴は、「個人のスキルアップ」を主たるターゲットとする研修事業においては効果が高いだろう。e-ラーニングはコンテンツに左右されることは明らかであるが、そうした形態をとった適切なプログラムの提示が、研修事業一般の展開に一つのモデルを与え、他の研修実施組織に対しても貢献することとなるだろう。

 国立国会図書館には、図書館界で実施されている研修実態を精確に把握したうえで、それらと競合することの無い形での事業展開が期待されている。今回の調査研究では、全国展開をしている研修事業実施者を対象とした。前にも触れた平成11年(1999)の調査では、都道府県レベルで実施されているものの実態を把握している。テーマの継続性や事業主体が提示する受講条件等をさらに詳しく把握し、それらと協調しながら研修事業を実施することが期待される。


5 今後の検討課題

 今後の研修事業を考えるために検討しなければならない重要な積み残し課題がいくつか存在する。それは、図書館という職場をめぐる外部要因が急速に変化していることに拠るものである。

 公共図書館について言えば「指定管理者制度」が影響してくる。受託した指定管理者をも包み込んだかたちで図書館界の発展を目指そうとするならば、指定管理者となった民間企業の従業員に対して研修をしなければならない。しかし民間企業の従業員の研修は、それぞれの企業の責任であろう。契約時点における従業員の能力を契約書等で明記したとしても、その後の図書館界の変化・展開にともなう新たな技能・知識の獲得を明らかにできることはない。その従業員が「個人」として研修参加を申し出た場合、中堅職員として今後の図書館界の展開に責任を果たせると判断できる可能性も低い。先に述べたように研修事業実施者側が「厳格なレベル」を設定し、研修プログラムの質の維持・展開を目指すことは重要であるが、受講する側の変化を見過ごすことがあってはならない。機に応じた適切な対応をしないと、研修事業の目的そのものが問われる事態となる。

 大学図書館についても厳しい状況がある。大学設置基準が見直されて「図書館を大学に附属する必要がない」事態も予測される。大学そのものの経営基盤が危うくなっている中でこれまでのような大学図書館運営そのものが危機に瀕しているという見方も存在する。「図書館職員である」よりも前に「大学職員である」ことを求められ、図書館員としての専門性も中堅図書館職員として図書館の将来を考える責任も問われなくなる事態もある。一部の私立大学においては、この事態は顕在化しており、独立法人化された国立大学についても追随するところが生まれてくるだろう。また、大学において重要なものは「学術情報」であるとの認識のもとに大学図書館と情報センターを合一させる機運も多い。そこでの職員の専門性は果たしてこれまで図書館界が主張してきたところのままとなるであろうか。専門性の認識が変化すれば、研修事業への動機も変化するだろう。

 同様な事情は専門図書館においても生まれてきている。バックとなる企業等の動向が変化するなかで、図書館職員の専門性に疑問が呈されたり、図書館の機能そのものを否定するようなものも出てくる可能性がある。図書館職員としての役割だけでなく「情報専門職」をも主張できる能力をもった職員を育てる研修事業が必要になっている。専門図書館員として重要なサブジェクト・ライブラリアンという面と併せて、業務毎のアウトソーシングが当たり前となってゆくなかで、そうした業務の管理が図書館職員の責務とされるようになってくる。研修の内容は図書館業務のマネジメントをも包み込んだ幅広いプログラムが期待されるようになるだろう。

 これらの図書館を巡る外部要因の変化は、研修事業に求められる内実を変化させることは疑いがない。今後、こうした変化を見極めたうえで、それらを凌駕する研修事業のあり方について検討を加える必要性が高まっている。

[注]

(1) 国立国会図書館図書館研究所編『都道府県立及び政令指定都市立図書館における研修のニーズと実態:平成11年度図書館情報学調査研究プロジェクト最終報告書』 日本図書館協会 2000.06 75,10.7p

(2) 同上 p.56

(3) 同上 p.13

(4) 同上 p.11 なお第2章で述べたように「主催組織」等は変遷しているが、ここでは典拠資料のままで述べた。