第2章 調査の結果 4 専門図書館協議会「イブニングセミナー」

第2章 調査の結果

 

4 専門図書館協議会「イブニングセミナー」

 専門図書館協議会は、官庁・地方議会・民間各種団体・調査研究機関・企業・大学その他の図書館、資料室、情報管理部門相互の連絡と図書館活動の連携をはかり、その向上と発展に資することを目的として1952年に設立された。設立の主な背景には、(1)各機関の資料担当者の多くが、調査研究のための資料収集と、他の専門分野の図書館・資料室等との連携協力によって、資料の有効活用をはかることの必要性を感じていたこと、(2)地方自治法(1947年施行)により地方議会図書室が設置され、1948年に官庁図書館間の協力組織として、国立国会図書館を中央館とする行政・司法支部図書館網が形成されたが、まだどの図書館も資料の収集・提供活動を円滑に行える状態ではなく、相互協力が求められていたことなどがある。1950年代から1960年代初めにかけて、関西・関東・中部・九州・北海道・東北・中国の各地域に地区協議会が設立され、全国組織として現在に至っている。会員には、正会員(機関会員)、個人会員、賛助会員の3種があり、現在、正会員である会員機関は専門図書館協議会のホームページによると約600である。

 専門図書館協議会の主な事業は次の通りである。(1)

 ○全国研究集会をはじめとする、専門図書館(員)の質的向上のための研修会・セミナー・研究会・講演会等の開催

 ○定期刊行物・機関誌「専門図書館」(6回/年)、「専門情報機関総覧」(1回/3年)の発行

 ○専門図書館界の最新動向、研究成果等に関する図書、資料の発行

 ○会員相互の資料の収集・保存・利用等に関する相互協力及び情報交換

 ○海外関係諸団体との資料・情報の交換及び協力連携

 ○資料センター設置に向けての活動

 ○その他、本協議会の目的を達成するに必要な事業

 このうち1番目に挙げられているセミナーには、現在以下の4種類がある。

 全国研究集会

 秋季セミナー

 地方議会図書室等職員セミナー

 イブニングセミナー

 今回は、この中で、全国の中堅図書館員を対象としている継続的な研修として、イブニングセミナーに焦点を当てた。イブニングセミナーは、主に情報専門職を対象に開催されている夜間セミナーで、平成14年度から現在までに、4シリーズ開講された。

 

(1)研修事業の目的、趣旨、実施の背景

1)研修の目的について

 専門図書館協議会の事業として、会費を払っている会員への還元、会員相互のスキルアップ、会員の共通する悩みを話し合う場の提供として、研修の場を設けている。

 専門図書館は、1人職場が多いので、OJTを含む職場研修の機会や抱えている課題の解決方法を話し合う相手がいないこともあり、そのための場を設けるという趣旨でもある。

 

2)研修開始のきっかけについて

 専門図書館協議会は、平成13年度(2001)までは国立国会図書館が事務を行っていたが、業務を独立させ、現在の場所に事務所を移した。その国立国会図書館からの独立を記念し、会員サービス拡充の目玉事業として、イブニングセミナーを開始した。

 専門図書館における養成・研修の目的・背景として、村橋は以下の5点を挙げている。(2)

 (1)採用や人員配置上の側面

 (2)組織目的追求の側面

 (3)業務の処理上の側面

 (4)新技術や環境変化への適合

 (5)ライブラリアンの意識の側面

 しかし、OJT等による養成・研修の実態は、少し古いデータだが『専門情報機関総覧1997』(専門図書館協議会)によると、OJTを重要と考える機関が60.8%(604機関のうち367機関)、実施している機関が52.6%(604機関のうち318機関)であり、約半分の職場では研修が実施されていない実態がうかがえる。

 職場研修を実施していない職場を支援したり、職場では実施されない研修を補完したりするのが、外部研修であり、そのひとつであるイブニングセミナーでは、(1)(2)のために、主に(3)(4)を中心に据えたスキルアップを図っているといえるだろう。

 

(2)研修事業の実施体制

1)参加者募集方法について

 会員へのサービスの一環と考えているため、研修の対象は会員を中心に考えている。しかし、シリーズによっては実際には非会員の受講者も多い。(図表<4.1>参照)

 1.同報ファックスで、全国の会員(約600機関)に送付。

 2.機関誌に掲載またはちらし同封。

 3.他機関のメールマガジンや機関誌に掲載を依頼。

 

図表<4.1> イブニングセミナー参加者数一覧(専門図書館協議会提供)

テーマ 時期 会員 非会員 学生 合計 うち連続受講者 連続受講者の割合
ビジネス情報探索講座・基礎編 2003年1〜3月 54 33 2 89 23 25.8%
科学技術情報探索講座・基礎編 2003年6〜7月 28 24 3 55 8 14.5%
ビジネス支援情報講座 2004年1〜2月 49 24 2 75 17 22.7%
ネット時代の情報リテラシー 2004年10〜11月 42 5 0 47 8 17.0%
 

2)費用負担について

 1回3,000円(会員・学生)、3,500円(非会員)を徴収し、研修費は、その参加費用でまかなっている。研修会場は、会員である機関の施設を借りることで会場費等を安く押さえ、1人あたりの研修費を低くするなどの工夫もしている。なお運営経費は専門図書館協議会の予算で措置されており、参加費用は収入となる。

 参加者が、公費・私費のいずれで参加しているかは、調査していないので、実態はわからない。しかし、アンケートの自由記述などの中に見受けられる、「研修は夜間開講の方が参加しやすい」などのコメントから推測すると、ほとんどが勤務時間外に私費で参加していると考えられる。その理由として、専門図書館の場合、『専門情報機関2003年』(専門図書館協議会)によると、専門図書館のうち19.7%が1人、13.2%が2人の職場であり、開館時間に研修に参加することは研修に参加することが非常に困難であることが想定できる。

 

3)講師依頼基準について

 文書化した厳格な基準はない。テーマと講義内容を決めた上で、研修委員で分担して、講師選定と依頼をおこなっている。具体的には、担当する研修委員の裁量に任せることが多いが、テーマを決めた段階で講師の候補がいる場合は、その人を中心に交渉を進めている。

 

4)事務局の運営方法・体制について

 セミナーは、全て協議会の職員とボランティアの研修委員で運営しており、外部委託はおこなっていない。担当する研修委員が司会を行い、1名の委員が補佐している。

 

5)プログラムの企画・方針の策定方法と体制について

 協議会内部の研修委員会を定期的に開催し、その中でイブニングセミナーなど、研修の内容や運営についても決定している。委員は、主に企業内の図書室などの専門図書館及び大学図書館の関係者等によって構成されている。専門図書館だけでなく、大学図書館からも委員を選出しているのは、大学図書館も、その大学の学部構成等によって専門分野をもつところが多く、意見を聞けることが有意義であると考えているからである。

 具体的な研修テーマ・内容は、研修委員の問題意識や受講者の希望をもとに決めていく。システマティックなテーマ決定方法があるわけではないが、研修委員の問題意識や受講者の希望をもとにすることによって、より差し迫ったテーマやニーズの高いテーマを設定するよう努めている。

 以前は、別のセミナーでテーマの公募も実施したことがあるが、なかなか提案が出てこないので、現在は公募を実施していない。

 

(3)研修カリキュラムの実態及び過去5年間の研修カリキュラムの変遷

1)司書課程カリキュラムとの関係について

 司書課程そのものは、図書館司書の基礎的な養成課程として評価しているし、専門図書館員の中にも図書館司書資格を所有している職員は多いので司書課程で学んだことは役に立っていると思う。しかし、イブニングセミナーは実務ですぐ使えるテーマの選定に努めており、直接司書課程を念頭において、研修カリキュラムを組むことは考えていない。

 司書課程との深い関連性が考慮されない背景には、司書課程が本来公共図書館の司書養成を目的としており、専門図書館に勤務する場合、基礎教養としては役だっても、なかなか即戦力には結びつかないことがある。村橋は、専門図書館員研修の内容については、(1)情報管理の知識、(2)主題知識、(3)新技術への適応、(4)人的資質であるとしているが(3)、現在の司書課程カリキュラムにおいては、(2)(3)に深く踏み込んだ養成は実施されていないのが現状である、と述べている。

 専門図書館の立場から、司書課程のカリキュラムに次のような要望が出されている。

 

図表<4.2> 司書課程への要望

サンプル数(回答機関数)=1329

 出典:専門図書館協議会ホームページ(http://www.jsla.or.jp/index.html

 

 この調査によると、「コンピュータ等の新技術」を身につけることを求める声が圧倒的に多く、「現場に即したカリキュラム改革」「外国語教育の充実」「図書館学の基礎知識の徹底教育」と続く。

 2000年に出された都道府県立図書館及び政令指定都市立図書館の職員を対象に実施された調査結果においては、職員が研修の必要性を感じているのは、初級研修では、「レファレンスサービス」(54.7%)、「図書館関連法規」(47.8%)、「DBを利用した情報検索」(44.2%)、「目録・分類」(35.5%)、「児童サービス」(32.2%)、「コンピュータ利用技術」(26.8%)の順であり、中級研修は、「レファレンスサービス」(49.3%)、「図書館運営技法」(38.7%)、「DBを利用した情報検索」(34.4%)、「コンピュータ利用技術」(33.4%)、「図書館関連法規」(32.6%)、「資料保存」(31.0%)の順である。(4) 専門図書館のニーズは、この結果と比べると、公共図書館とは違う傾向にあることが窺え、また、現在の司書課程カリキュラムと違っているならば、専門図書館向けの研修はより重要性を増すといえるだろう。

 

2)カリキュラムの継続性について

 開始して、まだ2年(4シリーズ分)しか経っておらず、これから検討を継続していく予定であるが、現段階でいくつか明らかになっていることがある。現在までに実施したイブニングセミナーは図表<4.3>の通りであるが、その研修をおこなった結果、次の3つの課題が浮かび上がってきた。

 第一に、レベル分けした研修を順に行うことの難しさである。イブニングセミナー開始当初の構想としては、1年目:初級→2年目:中級→3年目:上級と数年サイクルで、毎年レベルごとに開催することを考えていたが、1年のうちにレベル別の講習を何度も開催できるわけではなく、何年にもわたってやっとサイクルが完成する現在の方法だと、連続して参加することも難しく、また、受講できる対象も限られてしまう。そのため、初回の「ビジネス情報探索講座」と「科学技術情報探索講座」は基礎編として開催したが、2004年1〜2月の「ビジネス支援情報講座」からはレベル分けをやめ、2004年10〜11月に実施した「ネット時代の情報リテラシー」では、副題を「その基礎から応用まで」とし、1シリーズの中で、初級から上級までを学べるようにした。初級〜上級までの研修をどのようなスタイルで行うか、現在試行錯誤の段階である。

 第二に、シリーズで研修を行うことの難しさである。過去2年間は、1シリーズにつき、4〜6回の講座を開催し、シリーズごとに連続受講することが、ひとまとまりの研修を受けることであると想定していた。しかし、実際には、1シリーズ中すべての講座を連続受講する割合は低い。図表<4.1>にあるように、過去4シリーズのイブニングセミナーにおける連続受講者の割合は、14.5〜25.6%、多くても全体の約4分の1であり、連続講座を実施することの難しさが窺える。その背景には、仕事の終了時間などの関係で、時間的にすべての回に参加することに無理があるのではないかと推測される。都道府県立及び政令指定都市立図書館の職員を対象にした調査でも、参加しやすい研修方式について、もっとも選択者の割合が高かったのは、「一日で終了する単発のもの」(71.0%)であった。それに対し、同じ集合方式では、「何日か連続で行われる集中的なもの」(35.7%)、「断続的に行われるもの」(29.9%)であり、集合方式では、イブニングセミナーのように断続的に実施される研修がもっとも参加しにくいという結果が出ている。(5)その背景には、 通う回数が増えるほど、皆出席が難しいだけでなく、遠方からの参加者には、時間面・交通費などの費用面からも、参加が難しくなることは想像に難くない。館種の違いはあっても、その点は変わらないであろう。専門図書館協議会でも、その点を考慮して、地区別講習会で同じ内容の研修を実施したり、新任研修や集中講座などの単発の研修会の実施を検討したりしている。

 第三に、主題をいくつか選んで、研修を行うことの難しさがある。イブニングセミナー開始当初は、ビジネス情報と科学技術情報に関するセミナーを交互に開催する予定で、3回まで実施した。しかし、求められる主題知識は幅広く、この2種類では網羅できないし、個々の主題知識をテーマに研修を行うと参加できる人が限られてしまう。そのため4回目のシリーズでは、主題別ではなく、より一般的だが情報専門職の役に立つようなテーマを選んだ。その背景には、専門図書館では、図書館司書と情報専門職の分かれ目はどこか、という課題があること、専門図書館協議会のPRも含めて、会員以外の情報専門職のニーズに応えるようにしようとしたことなどがある。しかし、主題ごとの研修に対するニーズも多く、どのように実施していくかが今後の課題である。

 

図表<4.3> イブニングセミナーのテーマ・内容一覧

ビジネス情報探索講座・基礎編(2003年1〜3月)

日 時 テーマ 講  師
1月22日(水) 第1回 統計情報 宮本 光一郎氏((財)機械振興協会)
1月29日(水) 第2回 行政情報 林 聖子氏((財)日本立地センター)
2月12日(水) 第3回 海外一般・研究情報 五十嵐由美子氏(慶應義塾大学三田メディアセンター資料サービス担当)
2月19日(水) 第4回 マーケティング情報 菊池 健司氏((株)日本能率協会総合研究所マーケティング・データ・バンク)
2月26日(水) 第5回 特許情報 馬場 淳子氏((株)日本電気特許技術情報センター特許情報サービス事業部特許調査第一部)
3月5日(水) 第6回 企業・金融・財務情報 菊池 哲也氏(A.T.カーニー IRCマネージャー)
各回とも18時〜20時
 

科学技術情報探索講座・基礎編(2003年6〜7月)

日 時 テーマ 講  師
6月25日(水) 第1回 科学技術情報概論 川村 剛氏((有)川村テクノサーチ)
7月2日(水) 第2回 規格情報 藤井 雅之氏((財)日本規格協会)
7月9日(水) 第3回 IT・情報通信系情報 篠本 有希氏(日経BP社)
7月16日(水) 第4回 化学情報 時実 象一氏(CAS事務所)
7月23日(水) 第5回 エレクトロニクス情報 猪瀬 恵氏(パナソニック モバイルコミュニケーションズ(株))
7月30日(水) 第6回 医学情報 諏訪部 直子氏(杏林大学医学図書館)
各回とも18時30分〜20時30分
 

ビジネス支援情報講座(2004年1〜2月)

日 時 テーマ 講  師
1月21日(水) 第1回 「ビジネス支援概論とライブラリーでの実践」 林 聖子氏((財)日本立地センター)高土 正巳氏(東京商工会議所)
1月28日(水) 第2回 「法律情報探索」 石川 万里子氏(龍谷大学法科大学院設置事務室)
2月4日(水) 第3回 「情報専門職が知っておくべき法律・法務情報」 一色 正彦氏(松下電器産業株式会社)
2月18日(水) 第4回 「マーケティング情報収集におけるフレームワーク思考法」 矢納 大氏((株)NTTデータ経営研究所)
各回とも18時30分〜20時30分
 

ネット時代の情報リテラシー−その基礎から応用まで−(2004年10〜11月)

日 時 テーマ 講  師
10月13日(水) 第1回 ネット時代の情報リテラシー概論 池田 剛透氏(多摩大学メディア&インフォメーション・センター)
10月20日(水) 第2回 デジタルネットワーク時代の著作権 藤田 節子氏(専図協著作権委員会委員長、川村学園女子大学)
10月27日(水) 第3回 情報専門職とコミュニケーション−その意味と手法− 真鍋 解子氏(東レ(株)東京資料室)
11月10日(水) 第4回 図書館ホームページの役割とあり方−図書館員に必要な情報リテラシー− 長谷川 豊祐氏(鶴見大学図書館)
11月17日(水) 第5回 情報入手・読み方・提供方法入門−企業財務情報リテラシー− 矢納 大氏((株)NTTデータ経営研究所)
各回とも18時30分〜20時30分
出典:専門図書館協議会HP(http://www.jsla.or.jp/index.html
 

3)他の研修プログラムや他団体の研修プログラムとの関連について

 他団体の研修プログラム等については参考にはしているが、現在進んでいる連携はない。情報科学技術協会との間には、合同事業の話が持ち上がったこともあるが、事務局体制をどうするか、など、現実的な課題がいくつもあり、実現には至っていない。

 研修プログラムそのものに関連性は持たせていないが、会員のニーズに合う他の研修があれば、テスト運用中のメールマガジンなどを通じて会員に知らせている。(6)

 

4)研修プログラムの担当講師について

 テーマを設定して、シリーズで研修を行うには、講師選定が難しく、もっとも適切な担当講師を見つけることが今後の課題である。

 

(4)研修事業の評価

1)実行主体の評価について

 具体的な評価方法は設けていない。参加者からの評価を積極的に取り入れることによって、実行主体の評価としている。主に、アンケート結果を参考にし、また、懇親会で、研修委員ができるだけ参加者の生の声を聞くように努めている。

 

2)参加者の評価について

 1回ごとにアンケートを実施している。各アンケートの集計はしているが、まだ、全体傾向の精緻な分析はおこなっていない。

 すぐに実践に結びつく内容は、比較的評価が高く、参加者のニーズの一端がうかがえる。

 セミナーの開講自体を評価する声も多く、専門図書館に勤める人の研修の重要性が感じ取れる。平成16年(2004)10〜11月に開講されたセミナーのアンケート集計結果(7)を見ると、図書館員としてのコミュニケーション技術という図書館員の基本的能力から有価証券報告書の読み方という主題別の専門知識まで多岐にわたって評価されている。また、今後のセミナーのテーマに対する要望は、資料保存・著作権・盗難対策・電子ジャーナルの契約や運用など現場への即戦力となりうる能力の育成と、フォーラムや意見交換会など会員同士のネットワークのための場の提供が主であった。

 

(5)研修事業の今後の展開

1)現在の研修プログラムの課題について

 現在の課題は主に以下の3点に集約することができる。

 

1.継続的なカリキュラムの実現可能性

 (3)−2)で述べたように、断続的に実施されるシリーズものの研修や数年にわたってレベルアップを図るタイプの研修に、継続的に参加することは、時間などの都合上、困難が大きい。体系的なカリキュラムを組むためには、継続的な研修の実施が欠かせないが、このような困難を伴うため、今後どのようなカリキュラムが実現可能か、検討を重ねていく必要がある。

 

2.全国的な研修実施の可能性

 現在のイブニングセミナーは東京で開催しており、夕方に断続的に開講する方式なので、地方からの参加が困難である。しかし、地方の専門図書館員の研修ニーズも高く、しかも、地区協議会だけで研修を行うのは人手等の点から困難なので、中央の専門図書館協議会でできることをもう少し幅広く考えていく必要がある。e-ラーニングや出前の研修などを通して、地方の会員も専門図書館協議会に加盟しているメリットを実感してもらえる方策を検討していきたい。

 

3.専門図書館の存在意義

 企業などに所属している図書館の場合、不況の際の経費削減の波を真っ先にかぶる傾向がある。これは、企業が専門図書館の機能をあまり重要視していないことのあらわれであり、ひいては、専門図書館の存在意義を問われる事態になりかねない。存在意義は、単にアピールするだけではなく、経営者に重要性を実感してもらうことによって発揮できるものであり、そのためには、専門図書館に勤める図書館司書や情報専門職の能力をレベルアップしていくことが必要である。そのために研修は欠かせないが、同時に、資格付与など外から目に見える形でレベルアップの証明をしていく方法も考えられる。しかしながらその具体化は難しい。

 

2)今後の研修事業の中長期的方針について

 まだ、2年を経過したばかりであり、試行錯誤の段階なので、5〜10年スパンの長期的方針を考えるのはこれからである。ただし、研修の結果を外部から見える形で示せる資格付与については、常設委員会以外の委員会のひとつとして、資格検定試験準備委員会を設置し、検討を始めている。情報科学技術協会(INFOSTA)では、「情報検索基礎能力試験」「情報検索応用能力試験」(旧「データベース検索技術者認定試験」)などサーチャーの技術を認定する試験制度を設けており(8)、本協議会でも、それにあたるような認定試験を検討中である。専門図書館の存在意義を社会に認識してもらうためには、資格認定試験は大きなメリットがあるだろう。ただ、専門図書館は主題が分かれすぎているので、協議会がひとつの検定試験をするのが望ましいかどうかはわからず、その点が難しい。

 中期的方針としては、イブニングセミナーは、現在のシリーズ方式をやめ、3回程度に分けて、対象者を限定し、実践的なテーマで開催する方法を検討中であり、現在イブニングセミナーの転換期であると考えている。

 

(6)図書館職員の研修に関して国立国会図書館に求めること

 国会図書館には、できるだけ人材・資料両面から全面的に支援をしてほしいと考えている。

 現在、研修委員には国立国会図書館からも加わってもらっているし、国立国会図書館は議会図書館なので、専門図書館である地方議会図書室の元締めのような存在であり、すでに国立国会図書館とは深いつながりができている。

 これからの希望としては次のようなものがある。

1.大学図書館や議会図書館との懇談会があるように、他の専門図書館との懇談会を設けて、コミュニケーションを図りたい。

2.国立国会図書館が実施する研修に、専門図書館で役立つ資料保存などの研修をもっと増やして、専門図書館員が参加できる環境をつくってほしい。

3.国立国会図書館は人材も資料も豊富に持っているので、積極的に他の図書館や図書館関係団体へ提供して欲しい。研修への人材の派遣はノウハウの還元につながり、また豊富な情報の中には、他の団体では入手しにくい海外の情報も入っており、非常に有意義だと思う。

 

(7)まとめ

 今回のヒアリングで、専門図書館員対象の研修に関するいくつかの課題を示唆された。それは、簡単にまとめると以下のようなものである。(1)スタッフ数の少ない職場が多いこともあり、仕事時間中の研修は難しく、夜間などオフの時間帯に実施せざるを得ないが、断続的な時間設定だと、継続研修が困難であり、単発研修にならざるをえない。(2)専門図書館は、それぞれ中心としている主題が違い、また多岐にわたっているので、主題知識をテーマとした研修をしていくのが困難である。あまり少人数だと採算がとれないので、実施が難しいが、主題知識に対する研修のニーズは高いので、どのように実施していけばよいかが今後の課題である。

 また、専門図書館員の研修のニーズが高い背景には次の2点がある。(1)1〜2人の職場も多く、職場でのOJTが不可能なので、その分協議会や国立国会図書館などが実施する研修へのニーズが高い。(2)大学等における司書養成教育は公共図書館の司書を想定しているので、専門図書館の養成ニーズに合致していない。

 これらの課題・背景をもちながら専門図書館向けの研修を実施している専門図書館協議会が、国立国会図書館の研修支援に寄せる期待はかなり大きいようである。



[注]

(1)専門図書館協議会の概要については、専門図書館協議会のHPを参考にした。(http://www.jsla.or.jp/index.html

(2)村橋勝子「専門図書館員の研修 特集:問われる養成/求められる研修」『図書館界』49(3),1997.9,p.195-196.

(3)前掲(2),p.196.

(4)国立国会図書館図書館研究所編『都道府県立及び政令指定都市立図書館における研修にニーズと実態:平成11年度図書館情報学調査研究プロジェクト最終報告書』p.57-58.

(5)前掲(4),p.61-62.

(6)http://www.sentokyo.jp/mailmag/index.htmlで、バックナンバーを読むことができる。

(7)専門図書館協議会からデータをご提供頂いた。

(8)両検定試験の情報は、情報科学技術協会のHPに掲載されており、過去数年分の試験問題も入手することができる。(http://www.infosta.or.jp/