4. 関西文化学術研究都市内研究機関に属する研究者の情報行動パターンに関する調査 / 松林 麻実子

4. 関西文化学術研究都市内研究機関に属する研究者の情報行動パターンに関する調査


4.1. はじめに

 本章では,学研都市内研究機関に属する研究者の情報行動パターンを探るとともに,関西館がそのプロセスの中にいかに位置づけられるかを考察することを目的とする。

 これまで,日本では大学に所属する研究者を中心に調査研究が進められてきたが,海外では企業に所属する研究者に関しても同様の調査が行われ始めており,そこではいくつかの興味深い結果が報告されている。特筆すべきは,キャロル・テノピアがエンジニアに対して行った実態調査で報告されている,企業研究者は大学研究者に比べて学術雑誌を利用しない傾向にある,というものであろう1)。もし,企業研究者が学術雑誌を利用しない傾向にあるのであれば,彼らと従来型の図書館との関係はそれだけ希薄なものになってしまうことになり,彼らと関わる図書館は新たなサービス・モデルを持たざるを得ない。ここでは,そのような研究成果を意識しながら,大学以外の研究機関に所属する研究者は情報提供機関とどのような関係を構築しているのかということについて実態調査の結果をもとに考察していくものとする。


4.2. 研究機関の資料提供の実態

4.2.1. 調査目的及び方法

 研究者と関西館との関係を探る際に,考慮しなければならないのは,彼らが日常的にいかなるチャネルに接しているかということである。言い換えるなら,彼らがいかなるチャネルを使って情報へアクセスしているか,そのときのチャネルとは大学研究者と同じ印刷版学術雑誌及び電子ジャーナルであるのかどうか,ということを把握する必要がある。

 本調査では,事前調査として学研都市内に存在する研究機関のうち大学を除いた95機関(具体的な機関名については付録Bを参照)に対して,資料提供の実態をたずねた。調査期間は2004年12月から1月である。質問紙調査の形式をとっており,具体的な質問項目は,1) カバーする研究領域,2) 研究者数,3) 資料提供を担当する部署の有無,4) 資料提供数の4点である(質問紙については付録C参照)。結果として,34機関から回答を得た。


4.2.2. 研究機関における資料提供の実態

 一組織に所属する研究者数の最大値は320名,最小値は1名,平均は53名である。資料室や資料提供を担当する部署を持っているところは34機関中14機関と決して多くない。ただし,所属する研究者数の多い機関ほど資料室を持っている傾向にある。資料室を持っている14機関に所属する研究者は総計1,484名,平均106名/機関であるのに対して,資料室を持たない20機関に所属する研究者は総計329名,平均16名/機関となっている。このように資料室の有無でカテゴライズしたとき,組織規模は大きく異なる。したがって,学研都市内の研究機関に所属する研究者は,その多くが資料室及び電子ジャーナルやデータベース等の環境を利用可能な状況にいることになる。

 資料提供状況として,印刷版学術雑誌,電子ジャーナル,データベースの3種類を導入しているかどうか,導入している場合にはおおよそのタイトル数を回答してもらった。具体的な資料提供状況は表4.1に示す通りである。なお,表中の機関数とは,タイトルを回答した機関の数を意味している。

 電子ジャーナルについては26機関が導入している。資料室を持っている機関はそのほとんどが電子ジャーナルを導入しており,資料室を持たない機関であっても数機関は電子ジャーナルを導入しているという状況である。

表4.1 資料提供状況
 印刷版雑誌電子ジャーナルデータベース
機関数241918
最大9,0002,0005,800
最小121
平均587222340
単位:タイトル

4.3. 研究者の情報行動パターンに関する調査

4.3.1. 調査方法・対象

 2005年2月に学研都市内研究機関に所属する研究者1,695名に対して調査票を送付した(調査票については付録Dを参照)。調査票の内容は2つに大別される。1つは個人の研究活動における情報行動を明らかにするものである。具体的には,個人の属性,研究開発に必要な情報源とそれに対する評価について,の2項目についてたずねた。もう1つは,研究者が日常的に接しているチャネルを明らかにするものである。具体的には,所属する研究機関の資料提供実態,関西館の利用状況について,の2項目についてたずねている。2005年3月31日時点で回収数696(回収率41.1%)である。

 以下,回答者の属性,研究者の情報行動パターン,研究者における電子ジャーナルの利用と評価,研究者をとりまく環境,関西館の利用という5項目に分けて結果を報告する。


4.3.2. 回答者の属性

 本調査では,属性として「研究タイプ」「研究領域」「年齢」「学会への所属」の4項目を設定した。「研究タイプ」「研究領域」「年齢」は,大学研究者を対象としたこれまでの調査研究において,情報メディア利用に影響を与えるとされてきた要因である。本調査では,それに加えて「学会への所属」をたずねている。学会に所属している研究者は大学研究者との交流もあることから,彼らと類似した情報行動をとる可能性が高いが,所属していない場合には,全く異なる情報行動をとる可能性のほうが高くなるのではないかと予想したからである。

 それぞれの結果は表4.2〜表4.5に示す通りである。

 「研究タイプ」では「理論と実験の両方」と回答した研究者が54.2%と全体の半数以上を占めた(表4.2)。次に多かったのは「実験中心」の25.9%であり,「調査中心」の10.2%が続いている。「理論」のみと回答した研究者は5.6%と低い数値にとどまった。

 「研究領域」では,「工学一般」が圧倒的に多く42.2%,次に続いているのが「計算機科学」の17.2%である(表4.3)。ここから,本調査の回答者はその半数以上が「エンジニア」と呼称される領域に属していることがわかる。「医学・薬学・生物学一般」の15.9%がそれに続いており,「分子生物学」の2.4%も合わせると2割弱となる。その他,少数ながら「物性・物理学一般」「人文・社会科学」に属する研究者からも回答を得た。


表4.2 回答者の研究タイプ (N=696)
理論395.6%
実験中心18025.9%
理論と実験37754.2%
調査中心7110.2%
その他162.3%
無回答131.9%

表4.3 回答者の属する研究領域 (N=696)
人文・社会科学284.0%
計算機科学12017.2%
工学一般 (2を除く)29442.2%
分子生物学172.4%
医学・薬学・生物学一般 (4を除く)11115.9%
物性・物理学一般649.2%
その他334.7%
無回答294.2%

 「年齢」では,「30歳代」が45.4%,「40歳代」が25.4%,「20歳代」が18.7%といった分布になっており,若手から中堅と呼ばれる研究者が圧倒的に多かった(表4.4)。「学会への所属」をたずねたところ,「所属している」という回答は67.2%であった(表4.5)。学会への所属率はかなり高いと見てよいだろう。


表4.4 回答者の年齢 (N=696)
20歳代13018.7%
30歳代31645.4%
40歳代17725.4%
50歳代568.0%
60歳代以上152.2%
無回答20.3%

表4.5 回答者の学会への所属 (N=696)
はい46867.2%
いいえ22632.5%
無回答20.3%

4.3.3. 関西文化学術研究都市における研究者の情報行動パターン

 学研都市内の研究機関に所属する研究者は,研究開発に関連して,どのような情報メディアを必要とし,それをどのようなパターンで入手しているのだろうか。本調査では,前者を「研究に必要な情報をどのようなメディアから入手するか」,後者を「勤務先での情報利用のパターンはどのようなものか」という形でたずねた。

 企業研究者が研究に必要な情報を入手するメディアとして挙がったのは表4.6に示すようなものである。彼らが日常的に利用しているのは,「印刷版学術雑誌」であり,それも74.9%と圧倒的多数である。それに続くのは「国内の学会・研究会」(61.1%),「電子ジャーナル」(59.6%),「特許」(50.6%)というような情報源である。大学や研究所,研究者個人が作成しているサイトは多いものでも4割弱の利用であり,決して多くはない。ここから,回答者は伝統的な学術コミュニケーションモデルにほぼ沿った形で,フォーマル/インフォーマル・コミュニケーションを行っていることがわかる。すなわち,彼らは学術雑誌を非常によく利用しているし,逆に電子化の進展によって出現したネットワーク情報源をそれほど多用しているわけではない。

 これらの情報源について,最も頻繁に利用するものとその利用頻度を確認した(表4.7)。

 「印刷版学術雑誌」と「電子ジャーナル」が最も多く,両者共に26.5%であった。それ以外の情報源に関してはどれも1桁台にとどまった。ここから,印刷版・電子版を問わず,学術雑誌を主要な情報源だと認識している研究者が多いことがわかる。しかし,その利用度を読む本数でたずねたところ,最も多いのは「プレプリント・サーバ」の月平均30.3編,次いで「特許」の25.2編という結果となった。それ以外にも,大学や研究所,個人が作成するサイトなどのネットワーク情報源の利用度のほうが概して高い傾向にある。また,「印刷版学術雑誌」と「電子ジャーナル」は内容的にはほぼ同様のものであるが,利用頻度に関しては「印刷版学術雑誌」が月平均10.2編であるのに対して,「電子ジャーナル」は14.0編と多くなっている。さらに,ネットワーク情報源を主要なメディアと捉えている研究者は割合としては決して多くないが,主要なメディアとして利用している研究者を見ると,その頻度は印刷媒体に比べて高い。すなわち,研究者は「学術雑誌」を主要なメディアと考えており,実際に利用している。しかし,量という面から見たときには, アクセスしやすいネットワーク情報源のほうを多く利用しているという意識があるように思われる。


表4.6 研究に必要な情報の入手媒体 (N=696,複数回答)
印刷版学術雑誌52174.9%
電子ジャーナル41559.6%
プレプリント・サーバ334.7%
特許35250.6%
テクニカル・レポート16623.9%
会議論文サーバ8011.5%
大学や研究所が作成しているサイト27739.8%
研究者個人が作成しているサイト17324.9%
国際会議24034.5%
国内の学会・研究会42561.1%
その他446.3%
無回答50.7%

表4.7 最も頻繁に利用する情報源及びその利用頻度 (N=691)
 利用頻度平均
※( )内は頻度回答者数
印刷版学術雑誌18326.5%10.2 編/月(N=176)
電子ジャーナル18326.5%14.0 編/月(N=171)
プレプリント・サーバ71.0%30.3 編/月(N=7)
特許527.5%25.2 編/月(N=49)
テクニカル・レポート142.0%14.0 編/月(N=13)
会議論文サーバ111.6%6.8 編/月(N=11)
大学や研究所が作成しているサイト547.8%15.0 編/月(N=52)
研究者個人が作成しているサイト355.1%16.1 編/月(N=33)
国際会議81.2%22.9 回/年(N=8)
国内の学会・研究会395.6%9.8 回/年(N=35)
その他233.3%  
無回答8211.9%  

 次に,研究者がこれらの情報メディアにアクセスする際の行動パターンについて調べた。結果は表4.8に示す通りである。

 「自席のパソコンを使ってネットワーク情報源を探索・利用する」と回答した研究者が86.9%で,圧倒的多数である。「自席からどこか他の場所(共有スペース及び資料室)へ移動して資料を読んだり,調べものをしたりする」と回答した研究者は1割程度に過ぎなかった。

 これに加えて,研究開発に必要な情報検索の頻度をたずねたところ,「毎日」が最も多く39.9%,「2〜3日に一回程度」が26.9%,「週に1回程度」が23.4%とそれに続いている(表4.9)。実に9割に上る研究者が頻繁に文献検索を行っており,研究における情報行動が重要かつ習慣に近い行動となっていることがうかがえる。


表4.8 勤務先での情報源の利用パターン (N=696)
自席のパソコンを使ってネットワーク上の情報源を探索し,入手する60586.9%
自席の近くにある共有スペースで雑誌などを読んだり,簡単な調べものをしたりする223.2%
資料室に出かけて行って,雑誌などを読んだり,調べものをしたりする537.6%
特に情報源を利用しない50.7%
無回答111.6%

表4.9 情報検索の頻度 (N=696)
毎日27839.9%
2〜3日に1回程度18726.9%
週1回程度16323.4%
ごくたまに598.5%
ほとんどしない71.0%
無回答20.3%

 これらの情報行動がどのように関連しているかを見るために,「学術雑誌論文へのアクセス方法」をたずねた。結果は表4.10に示す通りである。

 アクセス方法について最もあてはまるもの1つを答えてもらったところ,「データベース検索を行い,検索結果をもとに印刷版学術雑誌を見る」が最も多く31.5%,「データベース検索を行い,検索結果をもとに電子ジャーナルを見る」が次いで多く25.4%であった。「雑誌(印刷版・電子版を問わず)」の決まったタイトルを定期的に読む」と答えた研究者は20.7%であり,一定の割合存在しているものの支配的ではない。企業研究者は,自席のコンピュータを使って各種データベースを検索し,検索結果をもとに文献の現物にあたるというアクセス方法をとっている。


表4.10 学術雑誌論文へのアクセス方法 (N=613)
データベース検索を行い,検索結果を基に印刷版学術雑誌を見る19331.5%
データベース検索を行い,検索結果を基に電子ジャーナルにアクセスする15625.4%
データベース検索を行い,検索結果のリンク機能を使って電子ジャーナルの全文にアクセスする6110.0%
出版社・学協会のAlertサービスからリンク機能を使って電子ジャーナルの全文にアクセスする122.0%
雑誌(印刷版・電子版を問わず)の決まったタイトルを定期的に読む12720.7%
出版社のサイトにある論文検索機能を使って電子ジャーナルの全文にアクセスする172.8%
その他142.3%
無回答335.4%

表4.11 学術雑誌論文の読み方 (N=613)
印刷版の雑誌のまま15224.8%
印刷版の雑誌から論文だけ複写コピーをとって16927.6%
HTMLファイルをディスプレイ上で50.8%
PDFファイルをディスプレイ上で6911.3%
PDFファイルを紙に印刷して19632.0%
無回答223.6%

 「文献の現物をどのような形態で読んでいるか」についてたずねた結果を表4.11に示す。最も多いのは,「PDFファイルを紙に印刷して」読むという回答で32.0%である。そして,「印刷版の雑誌から論文だけ複写コピーをとって」が27.6%,「印刷版の雑誌のまま」が24.8%と続く。ここで,印刷版か電子版かという差異はあるものの,「複写コピー」と「PDFファイルを紙に印刷」という行動は,どちらも学術情報の論文単位の流通を意味している。

 これらの結果から推測される研究者の行動は次の通りである。彼らは,研究開発に必要な情報検索をかなり頻繁に行っており,そこで得られた結果をもとに,電子ジャーナルないしは印刷版学術雑誌から論文を入手し,利用している。メディアの形態としては印刷版・電子版を問わず「学術雑誌」が主要なメディアとして認識されており,利用度も高い。そして,学術情報の多くは論文単位で流通している。


4.3.4. 研究者における電子ジャーナルの利用と評価

 前節において,研究者は学術雑誌を主要な情報メディアとして利用していることが示された。ここでは,電子ジャーナルに特化した形で,その利用と研究者のメディアに対する認識を見ていく。

 電子ジャーナルの利用頻度をたずねたところ,表4.12のような結果となった。

 「週1回以上」との回答が29.0%と最も多く,「毎日利用」の9.9%と合わせると,ほぼ4割の研究者がかなり頻繁に利用していることがわかる。この数値が「利用しない」という回答者(24.9%)をはるかに上回っていることからも,電子ジャーナルは大学以外の機関に所属する研究者の間でもかなり普及していると見て間違いないだろう。


表4.12 電子ジャーナルの利用頻度 (N=696)
毎日699.9%
週1回程度20229.0%
月1回程度9012.9%
ごくたまに15422.1%
利用しない17324.9%
無回答81.1%

 電子ジャーナルの利用と関係があったのは「学会に所属しているかどうか」という要素である。両者の関係を図4.1に示す。なお,表4.12に示した通り,調査では電子ジャーナルの利用頻度をたずねているが,ここでは回答者を電子ジャーナルの利用者(N=505)と非利用者(N=173)という2つの集団に分割しなおした上で,学会所属との関係を見ている。

 学会に所属している回答者のほうが電子ジャーナルを利用する傾向にある。これは,学会に所属していることで,所属機関の資料室が提供していない電子ジャーナルを利用することが可能になるからという解釈ができる。


図4.1 学会への所属と電子ジャーナル利用との関係
図4.1 学会への所属と電子ジャーナル利用との関係


表4.13 電子ジャーナルへのアクセス方法 (N=515)
資料室が作成する電子ジャーナルリストから9318.1%
ブラウザに登録してあるURLから16732.4%
電子メールのリンクから直接418.0%
サーチエンジンで雑誌名を検索して8115.7%
学会や機関のサイトからリンクをたどって6713.0%
Webで偶然見つけたURLから(定期的には見ない)5911.5%
無回答71.4%

 電子ジャーナルへのアクセス方法としては,「ブラウザに登録してあるURLから」が最も多く32.4%,次いで「資料室が作成する電子ジャーナルリストから」が18.1%,「サーチエンジンで雑誌名を検索して」が15.7%という結果となった(表4.13)。1位と2位の数値に開きがあることからも,研究者は資料室のサイトを経由して電子ジャーナルにアクセスするというよりは,各自で所属している学会等の提供する電子ジャーナルに個別にアクセスしているようである。情報検索において得られた結果をもとに,該当する電子ジャーナルを探してアクセスする,もしくは所属機関の資料室が提供するリストを利用してざっと眺めるということはせずに,あらかじめ決まっている特定のタイトルにダイレクトにアクセスしていることが推測される。そしてこの結果と図4.1に示した結果を合わせて考えるなら,ここで言う「特定のタイトル」が所属学会の発行する電子ジャーナルを指すということも推測可能である。資料室の利用実態に関しては後ほど詳述するが,電子ジャーナルの利用という側面において「各機関の資料室」という要素がそれほど強く関連していないことだけは, この結果から読み取ることができる。

 回答者の電子ジャーナルに対する認識は,表4.14及び表4.15に示す通りである。表4.14は電子ジャーナルの持つ重要な特質についてたずねた結果である。


表4.14 電子ジャーナルの持つ重要な特質 (N=515)
24時間いつでも入手できること31761.6%
自宅など好きな場所から入手できること19638.1%
印刷物よりも早く入手できること19537.9%
論文や内容が電子的に検索できること32362.7%
画面でも読みやすいこと6011.7%
鮮明に印刷できること7715.0%
引用文献のリンクなどから他の電子情報源へ簡単にいけること14928.9%
印刷物と同じ内容が入手できること9017.5%
印刷物では入手できない情報が得られること316.0%
無回答30.6%

表4.15 電子ジャーナルを利用しない理由 (N=173,複数回答)
多数の論文をブラウジングしたい116.4%
紙の方が読みやすい8046.2%
アクセスに時間がかかる137.5%
印刷版学術雑誌が手近にある3620.8%
よく読む雑誌が電子ジャーナルになっていない2615.0%
勤務先の資料室が電子ジャーナルを導入していない3822.0%
その他2313.3%
無回答42.3%

 「論文や内容が電子的に検索できること」が最も多く62.7%,「24時間いつでも入手できること」が61.6%とほぼ同じ割合で続いている。3位は「自宅など好きな場所から入手できること」で38.1%である。情報入手における時間的・空間的制約からの解放,情報探索が容易であることなどが電子ジャーナルのメリットとして比較的強く認識されている。

 それに対して,電子ジャーナルを利用しない研究者に対して利用しない理由をたずねたところ,表4.15に示すような結果となった。最も多かったのは「紙の方が読みやすい」という回答で46.2%である。「読みにくい」ということが電子ジャーナルのデメリットとして比較的明確に意識されていると言えるだろう。また,「勤務先の資料室が電子ジャーナルを導入していない」という回答が22.0%に上っていることから,環境面での不可抗力も大きな理由の1つになっていると思われる。


4.3.5. 研究者をとりまく環境

 勤務先の資料提供形態についてたずねた結果を表4.16に示す。9割を超える回答者が勤務先に資料室があると答えており,データベースや電子ジャーナルの提供も7割程度行われている。「全く何も提供されていない」という回答は,わずか2.2%にとどまった。

 さらに,何らかの資料提供が行われていると回答した研究者のうち80.4%が自らの所属機関に情報提供や入手に関する専門部署(職員)を持っていると回答している(表4.17,ただし%は回答者全体に対する割合)。


表4.16 勤務先の資料提供形態 (N=696)
資料室(コーナー)があり,データベースや電子ジャーナルも提供されている46466.7%
資料室(コーナー)はあるが,データベースや電子ジャーナルは提供されていない18226.1%
部屋やコーナーはないが,データベースや電子ジャーナルが提供されている263.7%
何も提供されていない152.2%
無回答91.3%

表4.17 勤務先における専門部署(職員)の有無 (N=696)
存在する54080.4%
存在しない12518.6%
無回答71.0%

表4.18 勤務先の資料提供形態への評価 (N=672)
必要な情報源はほぼ揃っており,特に不自由しない25437.8%
中には使えるものもあるが,十分とは言えない34951.9%
大いに不満である406.0%
無回答294.3%

 しかし,これだけ高い数値が出たにもかかわらず,回答者は勤務先の資料提供に対して決して満足していない。表4.18は「勤務先の資料提供形態への評価」をたずねた結果である。「中には使えるものもあるが,十分とは言えない」という回答が51.9%で,「特に不自由しない」の37.8%を大幅に上回った。

 調査では,「勤務先の資料提供形態への評価」(表4.18)において「十分とは言えない」もしくは「大いに不満である」と回答した研究者(389名)に対して,不満を具体的に述べてもらうよう求めた。結果として291名(74.8%)からコメントを得た。コメントの7割強は「資料が不足している」という指摘である。もう少し具体的に見ていくと,特に多かったのは「電子ジャーナルを見ることができない」という不満である。次に多かったのは「所蔵資料に偏りがある」というものである。ここで言う「偏り」は様々な意味を含んでいる。例えば,「所蔵している資料が古い」であるとか,逆に「(学術雑誌などの)バックナンバーが見られない」というような時間的な偏り,「専門分野の資料がない」といった領域的な偏り,「会議録や学位論文などの資料が見られない」というようなメディアの形態に関する偏りなどである。どの偏りも複数の研究者から指摘されていた。それ以外に,資料室に資料入手を依頼すると"時間がかかり過ぎる","手続きが煩雑で面倒"といった資料室の使いにくさに関するコメントも複数見られた。

 しかし,研究者は捜し求めている情報源が見つからなかった場合には,それであきらめてしまうわけではない。必要とする情報が自分の所属機関にないことがわかった場合に他の情報提供機関を利用するかどうか,についてたずねたところ,「利用する」と答えた研究者は78.6%に上った(表4.19)。

 他の情報提供機関の利用形態は表4.20に示す通りで,「勤務先の資料室等を経由して」が最も多く60.9%,次いで「自分で直接来館/webを経由して依頼」が36.9%となっている。研究者と外部の資料提供機関との結びつきは,そのうちのかなりの割合が所属機関の資料室・資料提供部署を通してのものであることが推測される。


表4.19 他の情報提供機関の利用 (N=696)
はい54778.6%
いいえ13920.0%
無回答101.4%

表4.20 情報提供機関の利用形態 (N=547)
自分で直接来館/(Web等を経由して)依頼20236.9%
勤務先の資料室等を経由して33360.9%
無回答122.2%

 表4.21は「最も頻繁に利用する依頼先」についてたずねた結果である。最も多かったのは「国立国会図書館」の31.7%である。次いで「科学技術振興機構」(15.3%),「大学図書館」(14.9%),「資料作成機関に直接」(13.4%)が挙げられているが,1位のNDLとの間には数値的にも開きがあることから,研究者にとっての主要な依頼先はNDLであると言ってよいだろう。

 依頼先を選択する理由としては,「探している情報源がありそうだから」が最も多く43.7%,次いで「いつも使っているので習慣で」(25.3%),「他機関と比べて手間がかからないから」(20.0%)となった(表4.22)。

 表4.21で示した依頼先と表4.22で示した選択理由との関係を調べたところ,NDLに関しては「探している情報源がありそうだから」,JSTに関しては「いつも使っているので習慣で」という理由が若干多かった。それ以外に特徴的な傾向は見られなかった。


表4.21 最も頻繁に利用する依頼先 (N=202)
科学技術振興機構3115.3%
国立国会図書館6431.7%
British Library Document Supply Center10.5%
資料作成機関に直接2713.4%
府県立図書館199.4%
大学図書館3014.9%
その他188.9%
無回答125.9%

表4.22 依頼先を選択する理由 (N=190)
探している情報源がありそうだから8343.7%
いつも使っているので習慣で4825.3%
他機関と比べて情報源を早く入手できるから3216.8%
他機関と比べてコストがかからないから2211.6%
他機関と比べて手間がかからないから3820.0%
その他2312.1%
無回答157.9%

4.3.6. 関西館の利用

 本調査では,関西館の利用についていくつかの側面から質問している。関西館の利用経験をたずねたところ,図4.2のような結果となった。「利用している」という回答は15.2%にとどまっており,非常に少ない。また「以前利用したことがある」という回答が利用者を上回る17.5%となっている。

 関西館の利用に影響を与える要素として,所属企業における資料室(コーナー)及び専門部署(職員)の有無を想定し,二者間の関係を見たところ,図4.3及び図4.4のような結果になった。


図4.2 関西館の利用経験 (N=696)
図4.2 関西館の利用経験

図4.3 所属機関の資料提供形態と関西館利用との関係
図4.3 所属機関の資料提供形態と関西館利用との関係

図4.4 職員の有無と関西館の利用経験との関係
図4.4 職員の有無と関西館の利用経験との関係


 図4.3は所属機関の資料提供形態と関西館利用との関係であるが,相関は見られない。それに対して図4.4の専門部署(職員)の有無と関西館利用との関係のほうでは,わずかであるが,専門部署(職員)の有無によって利用経験に変化が認められる。すなわち,職員のいる企業に所属している回答者より,いない企業に所属している回答者のほうが関西館を利用するという傾向にあるということである。ただし,今回の調査では,所属企業に専門部署(職員)があると回答した研究者が非常に多く,それに対して関西館の利用者が非常に少ないという状況において計算している数値であり,この関連性はごくわずかなものである。

 関西館を「利用している」と回答した研究者に対して,利用頻度,利用形態,利用目的をたずねた。結果は,それぞれ表4.23,表4.24,表4.25に示す通りである。

 表4.23から,利用頻度では「ごくたまに」が圧倒的に多く7割を超えることがわかる。週1回以上定期的に来館する研究者はほとんどいない。ただし,表4.24から利用している研究者の利用形態はほとんど(84.9%)が直接来館であることがわかる。そして,利用目的は「必要な資料を入手するため」が最も多く76.7%となっていることから,文献入手が主たる目的であることがわかる(表4.25)。「その場で調べものをするため」という理由も47.8%と半数近くの回答を得ており,来館して一定時間滞在していくという利用形態がとられていることがわかる。逆に,「館内で提供されている電子ジャーナルやデータベースを利用するため」と答えた研究者は18.9%にとどまった。電子ジャーナルやデータベースの提供は来館を促進する要因にはなり得ていない。


表4.23 関西館の利用頻度 (N=106)
週1回以上21.9%
月に1回以上2523.6%
ごくたまに7671.7%
無回答32.8%

表4.24 関西館の利用形態 (N=106)
関西館に自分自身で直接出かける9084.9%
Web経由で複写依頼を出す1110.4%
その他32.8%
無回答21.9%

表4.25 関西館の利用目的 (N=90,複数回答)
必要な資料を入手するため6976.7%
その場で調べものをするため4347.8%
原稿書きなどの仕事をするため77.8%
館内で提供されている電子ジャーナルやデータベースを利用するため1718.9%
その他22.2%
無回答11.1%

 利用しない(もしくは以前利用したことがある)研究者に,来館しない理由をたずねたところ,表4.26のような結果となった。

 「どのような資料が入手できるのかわからない」が最も多く48.9%,次いで「出かける時間がない」が48.7%でほぼ同数となっている。それ以降はかなり差があり,「勤務先からの交通の便が悪い」「利用したい資料はすでに勤務先の図書室(資料室)に揃っている」「情報を探したり入手したりするのに,わざわざ他の機関に出かけようとは思わない」の3項目が続いている。また,「その他」において自由記述を求めたところ,複数の回答者から類似したコメントが得られた。具体的には「手間がかかる」(3.9%,23名),「所属企業の資料室・職員を経由して入手できている」(2.5%,15名),「どういう特徴があるのか知らない」「必要としている資料がない」「休館日・開館時間が合わない」(それぞれ1.9%,11名)などである。ここで言う「手間がかかる」とは,入館手続きや複写依頼などの手続きのことを指している。"時間がかかり過ぎる""手続きが面倒!"という表現が多く見られた。これらに加えて特徴的な傾向として認められたのは,伝聞形の表現が散見されたことである。"東京の国会図書館のあまりものしかおいてないと噂に聞いている"であるとか, "とても不便だと聞いたことがある"というように,利用した人からマイナスの評価を聞いたまま,結局利用していないという回答者が少なからず存在している。


表4.26 関西館に来館しない理由 (N=589)
国立国会図書館関西館の存在を知らなかった213.6%
どのような資料が入手できるのかよくわからない28848.9%
勤務先からの交通の便が悪い8614.6%
出かける時間がない28748.7%
国立国会図書館が提供しているWeb上のサービスで十分である213.6%
他の情報提供機関を利用することにしている467.8%
利用したい資料はすでに勤務先の図書室(資料室)に揃っている9115.4%
情報を探したり入手したりするのに,わざわざ他の機関に出かけようとは思わない9115.4%
その他9416.0%
無回答40.7%

4.4. 関西館の位置づけ

 関西館が学研都市内研究機関に属する研究者を対象として行うサービスには,次のようなものが考えられる(ただし,これはあくまでも周辺機関に属する研究者を対象としたサービスに限定したものであり,関西館の行っている全サービスについて言及するものではない)。

 先に触れたように,学研都市内研究機関に属する研究者は,次のような情報行動をとることが明らかになった。

(1)学術雑誌(印刷版・電子版を問わず)を中心的な情報源と捉えている。

(2)電子ジャーナル以外のネットワーク情報源をそれほど多用しているわけではない。

(3)自席のPCから検索を行い,結果をもとに情報入手を行う。

(4)(資料室を持っている機関に属する研究者は)資料室を媒介として外部の情報提供機関と結びついている

 本調査より,扱う資料としては,学術雑誌の優先順位を圧倒的に高くする必要があることが明らかになった。そして,彼らは電子ジャーナルをかなりの頻度で利用しているが,その利用には個人単位のものも少なからず含まれているように見える。さらに,彼らは電子ジャーナルの提供という側面における資料室の現状には満足していないことも明らかになった。したがって,関西館が(周辺諸機関に属する研究者に対して)電子ジャーナルを提供することには大きな意義が認められる。ただし,電子ジャーナルを館内閲覧という形でしか提供しかできていない現状では,彼らの要求に応えられていないこともまた確かである。これは,来館目的に関する質問で「電子ジャーナルの利用」とした回答が少なかったことからも明らかである。

 次に,書誌データベースの整備と学術雑誌論文の全文を電子的に入手できるシステムの整備が挙げられる。研究者はかなりの頻度で情報検索を行っており,そのほとんどは自席のコンピュータを使ったものである。したがって,学術雑誌論文の検索に利用できるデータベースが整備されていることは彼らの行動及び要求に合致している。そして,彼らは可能な限り自席にいながらにして情報を入手したいと思っていることから,学術雑誌論文が電子的に入手可能な形態になっていることも彼らの要求に合致していると言えるだろう。電子ジャーナルのみならず,冊子体のみで提供されている学術雑誌についても,可能であれば電子化し,自由にアクセスできるようになっていることが望ましい。

 第三に,研究者と関西館の関係についてである。研究に必要な情報が自らの所属する機関にないとわかったときに,多くの研究者は何とかしてその情報を入手しようと努力する。彼らは情報入手を外部機関に依頼することを考えるのである。そう考えたとき,研究者にとって関西館は決して遠い存在ではない。しかし,そのときの利用形態はあくまでも資料室を通したものであって,直接来館ではない。研究者が関西館に行かないのは「出かける時間がないから」であり,「どのような資料が入手できるのかわからない」からである。関西館の利用が伸びない理由の1つには,確かに「交通の便が悪い」という地理的要因が関係している。これは表4.26に示す「関西館に来館しない理由」の結果からも明らかである。しかし,それはあくまでも理由の1つに過ぎない。それ以上に大きく影響していると考えられるのは,研究者が勤務時間内に資料入手のために外出するという行動パターンをとらないということである。彼らは自らの所属機関に設置されている資料室に行くことさえ「手間がかかる」と感じている。だからこそ,自席から情報検索・入手ができる電子ジャーナルの導入を切実に願い, 電話一本で情報入手を代行してくれる専門職員を必要とするのである。すなわち,研究者の多くは,自ら行動するのではなく,資料室等の部署を経由して外部の資料提供機関と結びついている。したがって,関西館が強く意識すべきは,研究者個人及び直接来館という行動パターンよりむしろ企業の資料室の実態の把握とそこに対するケアである。学研都市という具体的な地域をサービス対象として意識するのであれば,彼らの要求に具体的に応える努力をする必要がある。本調査において明らかになった所属機関の資料室に対する不満のほとんどは,所蔵資料の不足に関するものであった。そのような不満を解消させられるような方策を考える必要がある。また,その際に研究者の直接来館を想定するのではなく,あくまでも資料室を媒介とした情報提供システム,利用者が直接来館でなくとも享受できるサービスの拡大を考えなければならない。

 最後に,もう1つ大きな問題として浮き彫りになったのは,関西館の学研都市内研究機関へのアピール不足である。これは関西館を利用するにあたって「探している資料がありそうだ」という期待を持つ研究者が多い一方で,「どのような資料が入手できるのかわからない」から行かない,という回答が半数近くになっていることからも明らかであろう。「評判があまりよくないから行かない」という回答が少なからず存在しているのも無視できない結果である。要するに,関西館のサービスの実態を(潜在的)利用者が把握し切れていないのである。調査結果を見る限り,来館するメリットのアピールが圧倒的に不足していると断じざるを得ない。関西館が今後どのようなサービス展開を目指していくのだとしても,単にサービスを行っているだけでは潜在的利用者は潜在的利用者にとどまる。もし,周辺機関に属する研究者を具体的な(顔の見える)サービス対象として考えていくのであれば,関西館の利用にどれだけのメリットがあるのかということを,彼らに対して具体的かつ直接的にアピールしていく必要があるだろう。


注・参考文献

1) Tenopir, C. Donald King. Communication patterns of engineers. John Wiley & Sons, 2004