3. 電子ジャーナル・コンソーシアムの現状 / 宇陀 則彦


3. 電子ジャーナル・コンソーシアムの現状


3.1はじめに


電子ジャーナルは1991年のElsevier と米国の幾つかの大学で実施された TULIP プロジェクト (The University Licensing Project) を出発点として,次第に拡大していく。Elsevierの電子ジャーナルはTULIPを基に1995年からEES (Elsevier Electronic Subscriptions)として商品化され,後に SDOS = ScienceDirect On Siteと改称される。Elsevierに続き,他の大手学術出版社も電子ジャーナル提供を開始し,1995年前後からタイトルが急増する。そして,1999年におけるBig Deal本格化が電子ジャーナルを決定づけたと言えよう。


 日本では米国から5年遅れの2000年前後から電子ジャーナルの提供・利用が活発になってきた。これは国立大学図書館協議会をはじめとする各種団体が,電子ジャーナルの契約交渉に関してコンソーシアムを形成し,価格の高騰や複雑な契約に対処するようになったことにも符合している。前章においてすでに明らかにしたように,もはやコンソーシアムの存在抜きに電子ジャーナルの提供を語ることはできない。


 そこで,電子ジャーナルの提供と密接に関わりを持つコンソーシアムの現状を把握するために,数年以上活動しているコンソーシアムを対象に,実際に出版社との交渉にあたっている部局に対してインタビュー調査を行った。本章では,その調査結果を基にコンソーシアムの現状を整理し,国立国会図書館が果たすべき役割について論じる。


 インタビュー調査を行った対象は,コンソーシアムに関して継続的に活動している以下の4団体である。



・国立大学図書館協議会電子ジャーナル・タスクフォース(主査,事務局)


2003年12月15日(月) 15:40〜16:30


名古屋大学附属図書館  (主査)


   2004年1月26日(月) 16:00〜18:00


   東京大学附属図書館   (事務局)


・京阪奈ライブラリーコンソーシアム


  2004年1月9日(金) 13:00〜14:20


  奈良先端科学技術大学院大学附属図書館


・NPO法人日本医学図書館協会


  2004年1月20日(火) 10:00〜11:20


  日本医科大学中央図書館


・日本薬学図書館協議会


   2004年1月20日(火) 15:00〜16:40


   昭和薬科大学図書館



 なお,本調査では「電子ジャーナルの契約・交渉に関するコンソーシアム」を対象としたが,多くの団体は,相互貸借や情報交換などの共通の利益のために電子ジャーナルの登場以前から存在しており、その活動は電子ジャーナルの契約・交渉に必ずしもとどまらない。その結果,インタビュー調査での話題は多岐に渡ったが,ここではその中から電子ジャーナルに関連する部分を抽出してコンソーシアムの現状を整理し,インタビュー対象者の学術情報流通に対する認識を明らかにする。


 以下の節では順に,3.2設立経緯,3.3交渉の推移 3.4契約の現状,3.5コンソーシアムの評価,3.6今後の発展可能性について発言を整理し,考察を行った。


3.2設立経緯


電子ジャーナルをとりまく状況は,各団体によってかなり異なっているが,設立の契機はほぼ同様であり,次の二点が共通している。一つは学術雑誌の価格高騰と電子ジャーナルの有料化への対応であり,もう一つは電子ジャーナルの重要性に対する認識が高まったことである。


国立大学図書館協議会(以下,国大図協と表記)において,電子ジャーナルに関するコンソーシアム設立の動きが表面化した直接のきっかけは,2000年に国立7大学(北大,東北大,東大,名大,京大,阪大,九大)附属図書館長が連名で提出した要望書にある。国立大学図書館協議会において,出版社が要求してくる価格に対して,図書館サイドとして何か具体的なアクションを起こさないといけないという意識が高まってきていた。“10年間に約3倍という値上げに,図書館側が何も対抗できないのは問題だという認識”[電子ジャーナル・タスクフォース・主査]があったからである。具体的なアクションとして行われたのが,先に述べた国立7大学附属図書館長による要望書の送付である。エルゼビア・サイエンス社に対して,円価格問題と並行輸入問題に関連した内容の要望書が送付された。エルゼビア・サイエンス社がその要望書に回答したところから,国大図協の電子ジャーナル・タスクフォースの活動は開始されることになる。



 
日本医学図書館協会(以下,医図協と表記)と日本薬学図書館協議会(以下,薬図協と表記)は,エルゼビア・サイエンス社の円価格問題への対応とともにそれぞれScienceDirect(当時SD-21)の有料化に直面し,高騰する電子ジャーナルに対応しなければならないという危機感から,それぞれの事務局で中心的役割を担っていた今回のインタビュー対象者2人が積極的に他の図書館に働きかけるところから始まった。医図協と薬図協は,2000年に私立大学図書館協会と連名で公正取引委員会にエルゼビア社円価格設定に関する申告を行ったが,2002年,公正取引委員会から「独占禁止法に違反する行為は認められない」という回答を得る。公正取引委員会への申告とほぼ同時期に医図協はProQuestのコンソーシアムを設立し,1年遅れで薬図協が医図協と共同歩調をとる形でコンソーシアム形成に関わっていくことになる。


最初はそれぞれ独自にやっていたが,そのうち薬図協のほうから協力依頼があった。やれるところからやるということで,電子ジャーナルを一緒にという感じで進めていった。出版社に対してはなるべくセットで考えてくれと言っている。ほとんどの提案は連名で提案している。ただし,個々の契約,具体的な執行の窓口は別になっている。[医図協]



医図協はProQuestで1年先行していたし,医図協といっしょにやったらメリットが大きいのではないかということで立ち上げることになった。基本はすべて連携を取れるところは取ろうということだ。うちにオファーが来てもあちらに知らせる。逆に,向こうで詰めた内容をこちらに知らせてもらったりする。大学同士はいいのだが,うちは企業が入っているので,企業への提案書も欲しいと出版社には言った。[薬図協]



医図協がすでに交渉を始めていたところに薬図協が連携を取ったという形である。薬図協にとってはゼロからの交渉ではなかったので,ある程度のモデルができている状態からはじめることができたというのは,薬図協にとっては大きなメリットであった。医図協のほうにしても,領域が同じところと連携したほうがやりやすいという感覚があったようである。企業が入っているという点で,薬図協は異質であるが,そのことより領域に重なりがあること,コンソーシアム参加館の規模が同程度であることがここでは重視されている。


電子ジャーナルの重要性に対する認識が高まってきたことに関していえば,“時代の方向は電子ジャーナルだという利用者の認識が少しずつ芽生えていった”[医図協]や,“電子ジャーナルが重要であるとは考えていたが,これほどまでになるとは誰も予想していなかったのではないか”[電子ジャーナル・タスクフォース・主査]という発言に見られるように,出版社から無料トライアルという形で導入されたことや学会誌を購入している図書館に対して学会が無料アクセスを許すといった動きが,急速に図書館側の意識を変えていったことがうかがえる。したがって,ScienceDirectが有料化されたとき,「有料化するなら利用しない」という選択肢はもはやあり得ない状況になっていた。結果的に,これまで学術雑誌を対象として争われていた価格高騰問題に対して電子ジャーナルという新たなファクターが加わることになった。


 もう一つ,国大図協,医図協,薬図協のコンソーシアム設立に関して重要な点は,立ち上げるのに必要な人材がいたことである。中心となる人物が積極的に動いたことで,全体として早い段階で方向性が定まったということは無視できない要因である。


 国大図協,医図協,薬図協に対して,京阪奈ライブラリーコンソーシアムは設立の経緯が若干異なっている。このコンソーシアムは2001年3月に発足したもので,関西文化学術研究都市という特殊な環境において相互に関連しあう大学や企業によって構成されている。コンソーシアムの運営主体は発足当時から変わらず,奈良先端科学技術大学院大学である。


奈良先端科学技術大学院大学は開学当初から電子図書館を志向していた点で他大学とは大きく異なる状況にあった。コンソーシアム発足当時に問題となったのは,資料の電子化に関わる利用許諾や電子的資料の共用に関する問題で,電子ジャーナルの導入以前の問題であった。この問題に対処する際の試みの一つとしてコンソーシアムという形態が使えるのではないか,という発想がそもそもの発端としてあったようである。加えて,電子ジャーナルの提供に対する認識が他の機関とは異なっている。



奈良先端科学技術大学院大学は電子図書館のために既にエルゼビアから雑誌をPDFという形で提供を受け,それを奈良先のデータベースに入れて皆が見られる仕組みを作っていた。つまり,電子図書館のための電子化が先にあって,後から電子ジャーナルというサービスが生まれた。[京阪奈ライブラリーコンソーシアム事務局]



 他機関では,電子ジャーナルの導入で初めて,電子化された資料に関して出版社と交渉することになったわけだが,奈良先端科学技術大学院大学では,すでにその種の交渉は行われており,その方法自体を大きく変更するつもりはなかった。そして,コンソーシアム形成を考えたときには,別のことを考え,学研都市という既存の枠組を活かし,企業も含めた形で運営していく形態を選択したということである。“京阪奈地域の研究所や大学の,いわば「親睦」が基本的な趣旨”[京阪奈ライブラリーコンソーシアム事務局]であると説明しているところからも,京阪奈ライブラリーコンソーシアムの性質がうかがえる。すなわち,電子ジャーナル導入という業務を核として作られたものというよりは,京阪奈地域の組織間連合の形成を模索したものだということがいえる。



3.3交渉の推移


コンソーシアムの中心となる電子ジャーナルの契約・交渉に関連して,彼らが一様に言及したのは,電子ジャーナルの市場を成立させるまでにかなりの時間を要したということである。例えば,日本医学図書館協会では,世界に先駆けてProQuestのコンソーシアム契約を行っているが,その交渉プロセスにおいて,アメリカと日本とでは「コンソーシアム」の定義そのものが違っているということが明らかになった。すなわち,アメリカでは価格交渉も実際の契約もコンソーシアムが行うのに対して,日本では価格交渉はコンソーシアムが行うが,実際の契約はコンソーシアムに参加している個々の機関がそれぞれ別個に行うという差異を言ったものである。交渉を行う場合には,そのレベルから話し合いを始めなければならなかった。この例では,医図協側の説明や要求を理解してもらうのに1年近い時間を費やしたそうである。これ以外にも,交渉の困難さに関する発言があった。



交渉回数は14回以上,数え切れないほど行ったが,当初はどのレベルでどんな内容をコンセンサスとして得ることができるのか,そのすりあわせだけでずいぶんと時間がかかった。会社の経営状態などは資料としてわかっていたのだが,窓口となっている交渉相手がどれぐらいの権限があるのかということは,話をするうちにしかわからない。また,出版社によって来る人のレベルが異なる。[電子ジャーナル・タスクフォース・主査]



最初は全てが手探り状態で,出版社によって提案が違った。例えば,サイトの数を言ったりFTEを言ったり。アメリカの状況をベースに言ってくるから,日本では該当しにくく,同じ発想で考えると高いものになり,日本の図書館は明らかに参加できない。そういう環境の違いからまず説明しないといけなかった。例えば,3つにキャンパスが分かれている大学があったとして,50万ですむはずなのに「3サイト150万」と言ってきたりする。そうした日本の状況を繰返し説明しないといけなかった。[日本医学図書館協会]



日本側としては,交渉相手の権限の範囲,決定すべき項目などを知らなければならなかったし,出版社側に対しては日本の大学のサービス規模を理解してもらう必要があった。そのような項目の整理を行うだけで,困難を極める交渉であったようである。


医図協ではさらにコンソーシアム内部での意見調整が必要であった。コンソーシアムが価格交渉を成立させても,そこで決定された価格表に基づいて実際に契約を行ってくれる図書館が存在しないことには,コンソーシアムの活動自体が先に進まないからである。電子ジャーナルの契約を行うためには,予算がまだついていない段階で契約を行わざるを得ない状況であり,それを学内の委員会等で通せるかどうかという点において図書館員の調整能力が問われることもあった。



3.4契約の現状


 日本のコンソーシアムの特徴は,交渉と契約が分離している点にある。すなわち,出版社との交渉はコンソーシアム事務局が担当し,その結果設定された条件に基づいてコンソーシアム参加館が個別に契約を行う。この形態は4つのコンソーシアム全てに共通である。


国大図協では,電子ジャーナル・タスクフォースが出版社と交渉し,契約のテンプレート化を行っている。どのような項目を持つべきかをタスクフォース内で議論をして出版社に示し,それをもとに出版社から提案させることを行っている。現在の交渉相手は30〜40社に上っており,特に積極的に働きかけなくても増加傾向にある。価格という面で言えば,個別大学向けとコンソーシアム向けでは違う定価が設定されており,後者のほうが安い。


医図協・薬図協は出版社からの提案を受けて交渉を行っている。そのほとんどが1年契約で,少数ではあるが3年契約が含まれている。どの出版社も契約するたびに少しずつ値上げしているという印象がある。ただし,契約する大学のほうも単年度予算でやっており,多年度契約は保証ができないというのが現状である。薬図協は加盟機関に製薬企業が入っていることと、加盟機関以外からのコンソーシアムへの参加を認めるオープンコンソーシアムの形態をとっているという2点が特徴的である。オープンコンソーシアムの扱いについては次のような発言があった。



薬図協加盟館以外の大学,企業の参加を認めたかった。薬図協がコンソーシアムをつくり参加できるようにしてくれれば助かる,という加盟館以外からの声を反映した。価格が安いから,加盟館からは正会員よりコンソーシアムだけに入るほうが,会議や委員会に出たりするノルマがないからそちらのほうが楽という話もあって,困った。そこで会費に差をつけることにし,会費をそれぞれ一万ずつ上げた。その額が適切かどうかは微妙なところだ。製薬会社や薬学部を持っている大学はオープンコンソーシアムには入れないようになっている。正会員になるには10万円の入会金が必要で,それはコンソーシアム会員にはないものだが,その程度でいいのかな,と思っている。[薬図協]



 企業が含まれている点に関しては,海外の出版社からは理解されないので,薬図協発足当時から一緒に活動しているという現状を理解してもらうよう努力している。提案書は大学と企業は同一のものを提示することを前提にしているが,企業プライスがアカデミックプライスよりかなり高かったとしても,企業が単独で契約するより安くすることができれば,企業にとってもプラスになるので問題はないと考えている。交渉の仕方で決まってくる部分だという認識があるようである。


 薬図協と同じく企業が含まれる京阪奈ライブラリーコンソーシアムは,事務局である奈良先端科学技術大学院大学が企業に対して提案し,参加を表明したところに関して交渉を引き受けるということをやっている。現在契約している電子ジャーナルはACSのみである。ACSにはアカデミックという制約がなく,企業が入っている京阪奈でやる意義があると判断したからである。金額も,大学・企業の区別がなかった。契約の更新は1年ごとである。


企業からもそれなりに希望は出てくるが,なかなかうまく実現しないようだ。企業と大学が一体となって交渉・契約を行っていくのは,なかなか難しいことだという感触がある。理由の一つは,価格に対する考え方が企業と大学ではだいぶ異なり,事務局にそれに対処するだけのノウハウがない,ということである。もう一つは,研究所ではどういった種類の資料を必要としているかということが,企業秘密に直接的に関わってしまう可能性があるということである。交渉・契約の際にオープンにできない部分が多いというのは,やりにくいと感じる大きな要因となっている。



3.5コンソーシアムに対する評価


3.2において述べたように,コンソーシアムによる電子ジャーナル契約交渉の目的は,冊子も含む雑誌の価格高騰問題への対処にあった。学術雑誌出版は完全に出版社主導で行われており,今日に至るまで驚くべきスピードで学術雑誌の価格は上昇し続けている。コンソーシアムはその動きに歯止めをかけるべく図書館側が一丸となって交渉するという構図に基づいて形成されたものである。価格高騰に対する危機感は以前から認識されていたが,コンソーシアム設立当時,その意識がピークに達したということであろう。


しかし,実際には価格高騰を食い止めるまでには至っておらず,インタビューでは,彼らもそのことを意識している様子がうかがえた。そのことは,“結果的に価格上昇を食い止められていないのは残念なことであるが”であるとか,“価格上昇には,いろいろ問題がある”[電子ジャーナル・タスクフォース・主査]といった発言から読み取ることができる。


彼らが共通に感じているのは,現状の学術情報流通制度の下で価格上昇を食い止めることの難しさである。“ページ数の大幅増加や内容充実を伴わない単なる値上げにはついていけない”[電子ジャーナル・タスクフォース・主査]という意識に基づいて,それに歯止めをかけるべく形成されたコンソーシアムであるが,現状では,価格高騰はとどまるところを知らず,印刷版・電子版の両方の形態を持つ学術雑誌については,印刷版のほうを切らざるを得ない状態になりつつある。すなわち,価格高騰への対処という当初の目的に基づいて評価した場合には必ずしも成功しているとは言えないということである。


しかし同時に,この価格高騰について,“SPARC など新しい動きによっても,これを止めることは不可能ではないか”[電子ジャーナル・タスクフォース・主査]という意見も表明されている。SPARCはコンソーシアムの活動と連動して始まった活動であり,新たな学術情報流通を変化させるものとして期待されている。そのことは十分認識したうえで,それでもなお,価格高騰問題は解決されないのではないか,という危機感があるということだろう。言い換えれば,既存の学術情報流通制度の抱える問題は予想以上に根が深い,ということに気づいているということである。それはすなわち,コンソーシアムに価格高騰に対する抑制という目的を持たせようとしたこと自体に無理があった,ということをコンソーシアムの活動を通じて気づいたということがいえるのではないだろうか。


価格高騰を食い止める手段として有効であったのはむしろ,電子ジャーナルの契約をきるという実力行使である。例えば,医図協のコンソーシアムに参加しているある大学では,資料購入の予算が削減されたことを受けて,エルゼビア・サイエンス社の雑誌を1,000万円分カットしたそうだ。すなわち,コンソーシアムにおいて一定の価格を設定した上で,各大学が契約を行う際に予算に応じて契約を解消するという形になる。アメリカでも例えばコーネル大学などが行っている方法であり,契約する側が意識的に実行していけば,価格高騰に歯止めをかける有効な手段になりうるのではないか,という手ごたえのようなものも表明されている。


 電子ジャーナルと価格高騰問題の関係については,現在の価格モデルは図書館の支出額抑制に対する回答にはなり得ていないが,パッケージ契約による利用可能タイトルの増加によってサービス向上の効果は現れてきている。さらに,今回の調査で明らかになったのは,コンソーシアム形成が価格問題とは別のところで効果をあげているということであった。それは例えば,次の言及に顕著に現れている。


 


 コンソーシアムには,値引き交渉や契約業務の代行というよりは,大学図書館として学術情報のあり方を社会に提示する役割と使命があるのだと思う。[電子ジャーナル・タスクフォース・主査]



エルゼビアとの交渉によって多くのことを学んだ。ローリングの問題,価格のキャップ制といった今ではあたりまえのテーマも当時は明確に意識されていなかった。 これら要求項目のリストアップができただけでもコンソーシアムの効果だといえるのではないか。また,お金の話以外の重要な問題も認識できるようになった。例えば,統計のことやアーカイブについても少しずつ成果が得られている。実際,アーカイブを国立情報学研究所におくことになった。これはつまり,単なる契約交渉だけではなく,それをとりまく周辺状況をも整備したということだ。[電子ジャーナル・タスクフォース・主査]



 これらの発言から言えるのは,電子ジャーナルの提供を媒介として,周辺状況を含めたグループの強化または再構成が効果として意識されているということである。むろん,国大図協,医図協,薬図協というそれぞれのグループは,以前から存在しているものであるが,それらのグループが電子ジャーナル導入という作業をとおして強化されている,もしくは再構成されている,と見ることができるのではないか。そして,その再構成に関わる諸々の活動を評価するからこそ,上記のような発言が出てくると考えられる。


コンソーシアムを通じた活動は個々の図書館の活動にも及んでいる。それは例えば,次の言及に見ることができる。



購入タイトルを決める権限が,図書館ではなく学部や学科の教官にあるところが多いが,コンソーシアムができたことによって,タイトルの選択は大学の知的インフラの整備という大きな目で見る必要があるという認識が芽生え,決定権はインフラ整備を担う図書館が持つべきであるという動きが全国で進んでいる。[電子ジャーナル・タスクフォース・主査]



 3.3において述べたように,電子ジャーナル導入のために,学内での予算獲得や利用者である教員に対する説明を行うという各図書館の努力が,図書館の学内での役割を変化させることにもつながっているのである。


 ただし,コンソーシアムに参加している個々の大学のレベルで,どの程度コンソーシアムに対する帰属意識があるのかということは,また別の問題である。人的貢献をしているところとそうでないところとの間には,かなりの意識の違いがあるようである。コンソーシアムの活動を高く評価する声が聞こえる一方で,新しいシステムに便乗しているだけ,というような消極的な意識の参加館があることもまた確かである。



3.6今後の発展可能性


3.6.1 組織体制


日本の電子ジャーナルに関するコンソーシアムは,米国のそれと比較して,非常に特徴的な存在である。すなわち,一機関が同時に複数のコンソーシアムに参加可能であり,理論的に言えば,費用対効果の観点から各機関がその都度どちらのコンソーシアムの傘下で契約をするかということを選択することができる。米国のコンソーシアムが強固な組織を作り上げる傾向にあるのに対して,日本のそれは非常に緩やかな結びつき方をしているということが言えるだろう。現に,奈良先端科学技術大学院大学では,国大図協のコンソーシアムに参加すると同時に,自らが事務局となって京阪奈ライブラリーコンソーシアムで電子ジャーナルの契約を行っている。国大図協のコンソーシアムでカバーしきれない電子ジャーナルに関しては,自大学で購入することも行っている。同様の考え方をすれば,国立大学の医学図書館は,国大図協のコンソーシアムと医図協のコンソーシアムとに参加し,契約条件に応じてどちらかを選ぶことができる。


コンソーシアムの今後を考えたときに,米国型の強固な組織を作り上げるのか,それとも日本型のゆるやかな組織間連合を維持するのか,という二つの方向性の選択は,非常に重要な問題となる。この選択によって特に変化する可能性があるのは,スタッフに関する問題である。アメリカ型の強固な組織を作り上げることを考えるなら,専任のスタッフをおいて,活動を今以上に活性化させる必要があるし,日本型の形態を維持することを考えるなら,小規模な事務局で交渉を続けていくことになるだろう。


現状では,国大図協が専任スタッフの雇用を視野に入れた議論を行ったうえで,もう数年はボランティアベースで活動することを決定している。電子ジャーナル・タスクフォースほどの規模になると,ボランティアで活動していくのは,構成員にとってはかなり負担になる。しかし,現段階では,専任スタッフに移行して独立した事務所を持つというのは難しいと判断された。今後の方向性として,専任スタッフによる業務遂行という形態が選択される可能性は十分にある。医図協に関しては,ほとんどの交渉がトップに集中している形になっているので,“医図協の中に雑誌委員会みたいなものをつくっていって,今度委員を決めて持ち回りでやろうと考えている。理事会でそういう委員会をつくることまでは決まっている。来年に向けて組織化する段階にきている”[医図協]という状況である。


 しかし,米国型と日本型のどちらの形態を選択するにしても,出版社との価格交渉は今後も続けざるを得ない。学術情報流通をどのようにサポートするのか,出版社との関係をどのように維持していくのか,ということを常に考えていくしかない。価格交渉に関して,彼らが現段階で具体的な目標として掲げているのは多年度契約である。単年契約と比較して,かなり安定性が増すことになるため,国大図協や医図協・薬図協では,できるだけ早く多年度契約を実施したいと考えている。また,国大図協では,“各大学が個別に契約するのではなく,第三者機関が出版社と交渉,契約して,大学図書館はその機関と契約することによって多くの出版社と契約したことになるというシステムもできるはずだ”[電子ジャーナル・タスクフォース・主査]という発想も持っている。



3.6.2 コンソーシアム間の連携


 医図協と薬図協との連携はうまく行っている例であるが,それぞれに他のコンソーシアムとの協力・連携に関してたずねたところ,様々な立場や意見が混在しているようであった。例えば,他のコンソーシアムの設定した価格を交渉の材料として,自コンソーシアムに有利な数字を導き出すという戦略が考えられる一方で,他のコンソーシアムに先に高価格で契約されてしまうと,自コンソーシアムの交渉の妨げとなるパターンも考えられる。戦略に利用するかどうかは別として,複数のコンソーシアムが並存している状態でよいのではないかと考えるところもあれば,交渉の妨げとならないように,他のコンソーシアムとの連携をとるべきだと考えているところもある。コンソーシアム参加館の規模が著しく異なる場合,それだけ交渉が困難になる。特に,日本の場合は,国大図協のように組織的な枠組に基づくコンソーシアムと領域に基づくコンソーシアムがあり,規模も契約のありようも全く異なっている。それを考えると,他のコンソーシアムとの連携は,口で言うほど簡単ではないという認識は共通したものとしてあるようだ。


それと関連して,ナショナルサイトライセンスに関してもコンソーシアムの中心となっている人たちの頭には常にある。医図協などでは,出版社からナショナルサイトライセンスのプロポーザルがすでに提出されているそうである。しかし,現状ではナショナルサイトライセンスのプロポーザルにある価格を参加館で割った金額と,今の40数館が入っている金額を比較したとき,後者のほうが安い。あと10館くらい参加館が増えれば,前者のほうが安くなる計算になるが,現状では高額なサービスのほうに切り替える必要性がそれほどない,ということになる。ナショナルサイトライセンスに問題があるというよりは,単純に金額的な比較から現状やっていないということである。国大図協でも,国立情報学研究所で予算をとってナショナルサイトライセンスをとったらどうかという話題は出たようである。しかし,“各大学共通の利益という理解であれば、各大学から予算を吸い上げて一ヵ所に配分して対処することになりかねない。それでは困るので,まず概算要求をして各大学に予算をつけてもらい,各大学が買いたいものを買って,皆でコンソーシアムを作ったほうがいいということに”[電子ジャーナル・タスクフォース・事務局]なり,結局その構想は実現されなかった。また,国立情報学研究所が始めたOUPのサービス(平成16年2月でサービス中止)はナショナルサイトライセンスで契約した例であるが,国立大学も私立大学も含めて印刷版雑誌の購読を中止した分を補填するよう出版社側から要求があったようである。ナショナルサイトライセンスであるが故にかなり高額の費用が要求されるというのが現実であり,簡単には実現できない。さらに,ナショナルサイトライセンスは国家予算で対応することになるので,“政府から急に予算を打ち切られる危険性も考えないわけにはいかない”[電子ジャーナル・タスクフォース・事務局]ということであった。



3.6.3国立国会図書館に対する期待


電子ジャーナルの導入がここ数年急速に進んだのは,コンソーシアムの活動によるところが大であるが,電子ジャーナルの普及が進んでいくと,電子ジャーナルの問題点として指摘されているアーカイブに関する議論が活発になることが予想される。2章の最後にもあるとおり,現在のところ,現場の図書館ではアーカイブ事業に関する意識は薄いものの,コンソーシアムではアーカイブ問題は考えなければならない課題として意識されている。それは例えば次の発言にみることができる。



商業系出版社は統合したり倒産したりするので,図書館サービスとして考えた場合,公的な機関で押さえておくべきだという話はある。教員の中にも,冊子は残るが電子ジャーナルは将来どうなるかわからないという危惧を示す先生がいる。その際,「公的機関にきちんとしたアーカイブがあるので大丈夫だ」と言えるようにしなければならない。[電子ジャーナル・タスクフォース・事務局]



国大図協,国立情報学研究所と出版社がアーカイブに関する議論を行った結果,国立情報学研究所がNII-REOという事業を立ち上げた。



NIIのほうで概算要求をしてREOという器を作ってもらい,コンソーシアムのほうでアーカイブファイルをREOにおいて欲しいという申請をすると,NIIがそれを受け入れるという形になっている。[電子ジャーナル・タスクフォース・事務局]



国大図協はNII-REOによってアーカイブ問題の部分的な解決に至ったと言える。


一方,医図協や薬図協では,冊子体の保存に関する危機意識が強い。国立国会図書館に対しては,主題分野が重なっていないこと,医学系雑誌のバックナンバーの受け入れに消極的であった経緯などから,その存在を強く意識してはいない。しかし,コンソーシアム外に保存の機能を求めるとすると,国立国会図書館が視野に入ってくる。



 アーカイブ的な保存図書館的なデポジット・ライブラリーを別途持つということであれば医学図書館関係はすごく助かる。いろんなものを皆重複して持っていてしかも満杯で,どこか1カ所持つところがほしい。その調整ができないから目をつぶって捨てている状況だ。[医図協]



 冊子体という現物から受ける印象は電子媒体には代えられない部分がある。一方,電子媒体で間に合う情報もたくさんある。主要なものは電子ジャーナルがあってもオリジナルはとっておきたい。しかし,ほとんどのバックファイルがアーカイブ化されたらかなり捨てることになる。ただ,そうなっても国で現物を一部は保存しておいてほしい。[医図協]



オリジナルを保存しておきたい希望はあるものの,保存のために膨大な賃貸料がいることになれば,結局捨てざるを得なくなるし,電子ジャーナルのバックファイルがアーカイブ化されるようになれば,いくら現物がいいと言っても,捨てる方針に切り替えざるを得ない。そのような状況になると,医図協自身で保存できないとすれば,必然的にコンソーシアムより上位の機関,日本であれば国立国会図書館が保存先として浮かび上がってくる。また,医図協では,バックアップ以外にも国立国会図書館に対する期待はあり,“バックアップ機能に加えて,新しい機能,患者図書館とでもいうべきものを期待している”という意見が出された。


それに対して,京阪奈ライブラリーコンソーシアムは,現段階で他団体ほどアーカイブ問題を意識していないようであった。これはコンソーシアムの設立経緯に起因するものであると思われる。すなわち,京阪奈ライブラリーコンソーシアムは企業と大学の地域的な連合を目的として設立されたものであるため,電子ジャーナル導入が主たる目的のコンソーシアムとは位置づけが異なるからである。彼らが意識しているのは地理的な側面で,近距離に位置する国立国会図書館関西館に対して,利用者に直接来館を勧めることができることをメリットとしてあげている。


以上のように,各コンソーシアムが国立国会図書館に対して抱く認識や距離感はそれぞれ異なっている。バックアップ機能に関連して言うなら,国立国会図書館が収集すべき資料の内容に関して完全に相反する意見が存在した。一つは,国立国会図書館には国内の資料を網羅的に収集して欲しいという要望である。外国の資料であれば,各国の図書館に依頼すれば入手できるのであるし,国立国会図書館と比較して,価格が特別高いとか,届くのが特別遅いというようなことはないから,というのが理由であった。納本制度があるのだから国内資料の充実を,という趣旨の発言である。それに対して,外国の資料は“国が平和なときはいいが,一端こじれると使えなくなる。そういう時にどう保証するかを国レベルで考えておく危機管理の発想が必要だ”[医図協]とする意見もあった。


このように,様々な立場や状況によって国立国会図書館に対する認識が異なるが,最終的には国立国会図書館を俗に言う「最後の砦」として期待していることがわかる。それは国大図協でも同じ認識を持っている。このことを示す言及を引用して,この章の終わりとする。



国立情報学研究所は共同利用機関として大学連携のコアになる組織である。アーカイブなど,どこかの大学が代表してやるということが難しいプロジェクトを実施してもらえることを期待している。また,それぞれの大学の情報を基幹サーバ内にメタデータとして持っておいてほしい。もしかしたら,こういうことはNPOがやれることかもしれないし,国立大学が投資できるような時代になれば,NPOにお金を投資して,そこが自立的に事業として進めることができるようになるかもしれない。


それに対して,国立国会図書館はいろんな意味で学術情報の「最後の砦」だ。ソフト基盤とハード基盤の両方を持っているということで国立情報学研究所とも役割が違う。コンテンツをもっているところが重要だ。スタッフを920人も持ち,コンテンツも自分で持っている国立国会図書館の役割は大きい。国立国会図書館にあるということは,全国民に,かつ世界に開かれていると考えてよいものだ。[電子ジャーナル・タスクフォース・主査]