0. はじめに

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 急成長する中国と共に、中国国家図書館は急成長を続けている。電子図書館サービスをはじめ、新たなサービスを次々と打ち出し、大胆に、かつ融通無碍にそれを実現する。中国国家図書館の取組みとその成果は、国外からの注目度も極めて高い。国立図書館のあり方を考える上でも、我が国の図書館サービスについて考える上でも、参考になる点が少なくない。

 国立国会図書館(以下、「当館」という。)は1981年から毎年、中国国家図書館との間で業務交流を実施している。約30年にわたる業務交流を通じて、中国国家図書館の業務やサービスについて多くの情報を入手してきた。人的交流の実績も豊富である。中国国家図書館について当館が蓄積している情報は、単なる文献調査や一過性の参観見学では得られない信頼性を有していると言えるだろう。当館では今後、その蓄積をより広く共有できるようにしていきたいと考えている。本書では、そのような取組みの一環として、中国国家図書館の現況と最近の動きを、実地調査報告と最新の公表資料により紹介する。

 本文編は、中国国家図書館の概況、収集整理業務、利用者サービス、電子図書館事業等についての調査報告である。特に、収集整理業務についての体系的な紹介、注目すべき新たな利用者サービスの動向に重点を置いた。実地調査の結果をありのまま記述することを主眼としたので、言及のない業務やサービスもある。所蔵資料の詳しい紹介なども割愛した。また、既出の調査報告等を再構成した部分があるため、記述に若干の重複が生じているが、あえて調整は行わなかった。巻末の資料編・統計編には、本文中で紹介した業務に関係する基本文書や主な業務統計を掲載した。

 本書の執筆は当館の前田直俊(関西館電子図書館課)と岡村志嘉子(関西館アジア情報課)が担当した。前田担当部分は、当人が関西館アジア情報課在職中、2008年10月10日から2009年1月10日までの間、「中国国家図書館の収集組織化と提供サービスならびに中国における書誌作成に関する調査研究」をテーマとして実施した在外研究の調査報告である。在外研究時点の情報を基本とするが、特に必要な場合はその後の動きについても注記した。岡村担当部分は、中国国家図書館ホームページから得られる情報をはじめ中国国家図書館の最新の公表資料を基礎とし、2009年10月の短期間の実地調査、同年11月の両館業務交流などを通じて中国国家図書館側から得た情報をそれに付加している。資料編の翻訳、統計の編集及び全体の調整は岡村が担当した。

 なお、中国国家図書館は中国国内では「国家図書館」と称され、対外的な呼称として必要な場合のみ「中国」を冠するのが通例である。本書においても、本文中では多くの場合、「国家図書館」と表記している。

 中国国家図書館について、また、中国の図書館事情について調べる際の基本資料の一つとして、本書を活用していただければ幸いである。

(岡村志嘉子)

 

凡例

  1. 本文中の統計、金額等の数値で、特に記載のないものは、前田の在外研究(2008年10月~2009年1月)時点のものである。
  2. 本文中の組織人員は、「4. 1. 電子図書館業務」については2010年8月現在、それ以外の章・節で特に記載のないものについては、前田の在外研究時点の人数である。
  3. 本文中の写真は、全て前田が在外研究中に撮影したものである。
  4. 本文中の【 】内は中国語表記を示す。中国語資料の表記は、本文中では原則として日本漢字を用いた。
  5. 1元は約12.4円(2010年9月現在)。