4.1 出版社系電子書籍の刊行実態

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 今回実施した、日本書籍出版協会および出版流通対策協議会加盟出版社へのアンケート調査「日本における電子書籍の流通・利用・保存に関する実態・意識調査」によって、電子書籍の刊行について次のような実態が明らかになった。

 

■電子書籍の刊行状況

 現在、何らかの電子書籍を刊行している出版社が27.1%、かつて刊行していたが現在は手がけていない出版社が1.2%、刊行していない出版社が71.8%と、刊行していない出版社の方が圧倒的に多い。そして電子書籍の刊行状況と出版社が扱っている書籍の分野には相関関係があまりなく、刊行規模が影響していると考えられる。

 つまり年間新刊図書刊行規模が大きな出版社ほど電子書籍を刊行している。

 

■電子書籍の刊行実績

 電子書籍を刊行している、あるいは過去に刊行していた出版社では、電子書籍で提供しているメディアは「CD-ROM・DVD-ROMなどパッケージ系電子出版物」63.9%、「PC向け」40.3%、「携帯電話向け」31.9%、「電子書籍専用端末(Σブック、LIBRIeなど)」19.4%、「ゲーム機(DS, PSP,)iPodなど」9.7%、「その他」12.5%となっている。

 すなわち現時点ではパッケージ系電子出版物がオンライン系電子書籍を刊行実績において上回っている。

 

■電子書籍の提供開始年

 出版社の電子書籍の提供開始年については、「CD-ROM・DVD-ROMなどパッケージ系電子出版物」では「1999年以前」が最も多く、「2005年以降」に提供を開始した出版社は少ない。「携帯電話向け」では「2000年~2004年」が最も多く、2008年から提供を開始している出版社も存在する。「電子書籍専用端末」では「2000年~2004年」に提供を開始した出版社が多いが、これ以降新たに提供を開始した出版社はない。「ゲーム機、iPodなど」では2008年になってから提供を開始した出版社が最も多くなっている。

 これらのことから電子書籍を閲覧するための端末は、従来のパッケージ系電子出版物や電子書籍専用端末から、携帯電話、あるいはゲーム機、iPodなどのデバイスに移行している様子が窺える。またPC向けの提供開始年は「1990年以前」、「2000年~2004年」「2005年~2007年」がほぼ均等になっており、2008年から提供を開始した出版社もある。

 

■2007年(1月~12月)追加提供タイトル数

 出版社が2007年1月~12月に追加提供した電子書籍のタイトル数は「電子書籍専用端末」が平均追加提供タイトル数は32.5タイトルと最も多く、次いで「携帯電話向け」が平均26.1タイトルとなっている。

 

■現在提供中の総タイトル数(概数)

 出版社が現在提供中の電子書籍の総タイトル数では「電子書籍専用端末」が平均324.4タイトルと最も多く、次いで「携帯電話向け」が平均189タイトル、「PC向け」平均170.4タイトルとなっている。

 つまり刊行実績と異なり、オンライン系電子書籍がパッケージ系電子書籍を現在提供点数では上回っている。

 

■力を入れているメディア

 出版社が力をいれている電子書籍のメディアのうち第1位と第2位のメディアを一本化して、集計した結果をまとめると「CD-ROM・DVD-ROMなどパッケージ系電子出版物」が最も多く、次いで「PC向け」、「携帯電話向け」の順である。

 

■電子書籍サービスを手がけることになったきっかけ

 出版社が電子書籍を手がけることになったきっかけは、「社内の企画」(43.1%)が最も多く、次いで「社外の企画、または社外からの提案」(29.9%)となっている。

 

■主たるコンテンツ分野

 出版社が提供する電子書籍のコンテンツ分野は「その他」を除いて「ノンフィクション」が最も多く(31.3%)、次いで「フィクション」(9.0%)、「コミック」(6.3%)、「写真集」(1.4%)の順となっている。

 

■コンテンツの元の形態とコンテンツの電子化を担当している業種

 出版社が提供する電子書籍のコンテンツの元の形態と力をいれているメディアとの関係を見ると、「携帯電話向け」と「ゲーム機、iPodなど」では、「出版用に作成した電算組版/DTPデータ」が最も多いが、「CD-ROM・DVD-ROMなどパッケージ系電子出版物」や「PC向け」では、「紙媒体からのデジタル化」が最も多くなっており、各メディアにより、コンテンツの元の形態に違いが見られる。

 コンテンツの元の形態とコンテンツの電子化を担当している業種との関係を見ると、「ベンダー」の場合、「紙媒体からのデジタル化」が「出版用に作成した電算組版/DTPデータ」よりもかなり割合が高くなっている。一方で、「印刷・出版」、「自社」でコンテンツの電子化を行っている場合は、「出版用に作成した電算組版データ/DTPデータ」の割合が「紙媒体からのデジタル化」よりも多くなっている。

 

■エンド・ユーザーに提供している電子版コンテンツのフォーマット

 出版社がエンド・ユーザーに提供している電子版コンテンツのフォーマットについては、「PDF形式」が最も多く(26.4%)、次いで「テキスト形式」(18.1%)、「HTML形式」(15.3%)、「XMDF形式」(13.2%)、「.BOOK形式」(4.9%)、「コミックサーフィン形式」(4.9%)、「FLASH形式」(3.5%)、「携帯書房形式」(1.4%)の順となっている。

 なお「CD-ROM・DVD-ROMなどのパッケージ系電子出版物」や「PC向け」では「PDF形式」の割合が最も多いが、「携帯電話向け」や「電子書籍専用端末」では「XMDF形式」の割合が最も多くなっており、メディアによって採用されているフォーマットに違いがあることが分かる。

 さらにエンド・ユーザーに提供している電子版コンテンツのフォーマットとコンテンツの電子化を担当している業種との関係を見ると、「印刷・出版」や「ベンダー」では「PDF形式」が最も割合が多くなっているが、「自社」の場合、「XMDF形式」が最も割合が多くなっているといった違いが見られる。

 

■エンド・ユーザーに提供している電子版コンテンツの保護方法

 出版社がエンド・ユーザーに提供している電子版コンテンツの保護方法では、「複製の限定や禁止の設定」が最も多く(44.4%)、次いで「利用方法・利用期限の限定」(22.9%)、「電子透かしなどの埋め込み」(6.9%)となっているが、「特に対策を施していない」という回答も11.6%となっており、1割程度の出版社ではコンテンツ保護の対策が講じられていないことが分かる。

 

■コンテンツの有償/無償

 出版社が提供する電子書籍のコンテンツの提供について「有償」が66.0%、「無償」が5.6%と圧倒的に「有償」が多い。

 

■ビジネスモデルとしての電子書籍の見通し

 ビジネスモデルとしての電子書籍の現時点における見通しについては、「積極的な展開を図りたい」が最も多く(34.7%)、「静観している」(28.5%)、「懐疑的に感じている」(0.7%)、「わからない」(5.6%)となっている。

 なお「CD-ROM・DVD-ROMなどパッケージ系電子出版物」や「電子書籍専用端末」では「静観している」との回答の割合が「積極的な展開を図りたい」とする割合よりも多い、もしくはほぼ同等といった結果になっているが、「PC向け」や「携帯電話向け」では逆に「積極的な展開を図りたい」との回答の割合が、「静観している」の割合をかなり上回る結果となり、メディアにより電子書籍の見通しに差があることが窺える。

 

■電子書籍への関心状況

 電子書籍を刊行していない出版社は、「刊行を検討していない」(64.5%)と電子書籍分野への進出には慎重な姿勢となっている。

 

■書籍の一部分を電子的に検索、閲覧できるサービスへの参加状況

 書籍のテキスト検索への参加状況は、「参加していない」(60.0%)が最も多く、次いでアマゾン「なか見!検索」(27.1%)、グーグル「ブック検索」(8.6%)、その他のサービス(7.1%)と続くが、電子書籍を刊行している出版社の方が刊行していない出版社より参加率が高い傾向が見られる。

 

■電子書籍の普及と紙媒体への影響

 電子書籍が普及するにつれ、紙媒体書籍が売れなくなると考える出版社は、「その通りだと思う」(10.2%)、「やや思う」(37.6%)を合わせて47.8%と約半数を占め、「あまり思わない」(33.7%)、「全く思わない」(9.8%)の43.5%をやや上回っている。