3.3.4 国会図書館におけるパッケージ系電子出版物の法定納本

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3.3.4.1 はじめに

 

 2008(平成20)年は、1948(昭和23)年の国立国会図書館(以下、NDL)創立から60周年に当たる年であった。そして、国立国会図書館法(昭和23年法律第5号)に基づくわが国の納本制度発足から60年が経過した。

 これまでNDLは、国内で刊行される出版物について、国政審議等の利用や国民共有の文化的財産の保存を目的として、この納本制度の安定的、実効的な運用を図ることにより、網羅的な収集に努めてきた。納本制度60周年を記念し、1948年の納本受付を実際に開始した日である5月25日を「納本制度の日」と定めて各種の広報活動を行うなど、納本制度の普及に積極的に取り組んでいる。

 さて、納本制度の目的に鑑みると、情報通信技術の発達に伴う出版物の変化に的確に対応して、納本制度の対象となる出版物の範囲を定めていく必要があるが、納本制度発足当初からしばらくは、紙媒体による出版物が専らの中心であった。その後1980年頃からの、いわゆる電子出版の導入と広がりに相まって、CD-ROMを始めとする新たな媒体が出現、普及し、また特に1990年代後半からは、パソコンの普及に伴ってインターネットの普及も大きく伸び、膨大な情報量のコンテンツを有するインターネット情報はもとより、電子ジャーナルやオンラインデータベースなど、ネットワークを通じて提供される様々な電子出版物が普及するに至っている。本報告書が調査対象としている電子書籍もその1つであり、書籍のデジタルデータを、インターネットを通じて、パソコンや携帯情報端末(PDA)、携帯電話などでアクセス可能にしているが、近年は特に「ケータイコミック」、つまり携帯電話向け電子コミックのマーケット拡大が顕著である。

 出版・情報流通に係る社会的情勢の変化が著しいなか、NDLはどのように対処してきたか。その大きな足跡として挙げられるのが、1999(平成11)年2月の納本制度調査会答申であり、これを踏まえた翌2000(平成12)年の国立国会図書館法の一部改正である。

 

3.3.4.2 納本制度調査会答申(1999年2月)の概要

 

 電子出版物の増大に対応するため、NDLでは1997年から、館長の諮問機関である納本制度調査会、1999年4月以降は同調査会を改組した納本制度審議会において、調査審議を進めてきた。

 1999年2月、納本制度調査会答申「21世紀を展望した我が国の納本制度の在り方-電子出版物を中心に-」が館長に提出された(1)。本答申の概要は下記のとおりである。

  • (1) CD-ROM等の有形の媒体に情報を固定した「パッケージ系電子出版物」について、従来の紙媒体等による出版物と同様に納本の対象とすること。
  • (2) ネットワークを通じて情報を送受信する「ネットワーク系電子出版物」については、当分の間、納本の対象外として、契約により選択的に収集すること。
  • (3) 著作権者等・発行者と協議の上、電子出版物の利用環境の整備を図ること。

 つまり、様々な電子出版物をその特性により「パッケージ系電子出版物」(以下、「パッケージ系」と略す。)と「ネットワーク系電子出版物」(以下、「ネットワーク系」と略す。)とに定義、区分し、パッケージ系は紙媒体等の出版物と同様に納本制度に組み入れることが適当であるとされ、ネットワーク系はその時点においては納入対象とせず、NDLが契約により積極的な選択収集に努めることを提言しているのである。

 なお、上記(2)に関して、NDLはその後の電子図書館事業の一環として、契約によるネットワーク系の収集と保存、提供に取り組んできている。さらに2004(平成16)年12月には納本制度審議会答申「ネットワーク系電子出版物の収集に関する制度の在り方について」が提出され、そこでは、ネットワーク系を制度的に収集しようとする場合、後述する「納本制度の根幹的要素」を備えることは困難であり、また納本制度には置かれていない著作権の制限が必要不可欠となることから、ネットワーク系を納本制度に組み入れることは困難であるとの結論が出され、別の新しい制度によって収集することの可能性についての検討がなされている。また、上記(3)に関して、NDLに納入されたパッケージ系は著作権法の規定に従って利用に供されることとなるが、紙媒体等の出版物とは異なり、LAN等によるネットワーク利用が可能であるなどの特性を有することから、1999年2月の答申は、NDLに対し、著作権者等の権利保護、発行者が被る経済的不利益にも十分留意し、同時に利用者の利便性についても考慮することが必要であると言及しており、その後の関係団体との協議による合意内容に基づき、利用提供を開始した経緯がある。本稿では以下、上記(1)のパッケージ系の収集に焦点を当てて取り上げる。

 

3.3.4.3 パッケージ系電子出版物の収集と「納本制度の根幹的要素」

 

 1999年2月の納本制度調査会答申においては、電子出版物の納入をめぐる法律上の諸問題の検討に際し、現行納本制度の根幹をなす本質的要素と考えられる次の3点について十分留意する必要があるとしている。

  • (1) 納入における到達義務の履行(納入義務者は、その出版物の所有権を館に移転するだけでなく、当該出版物を館に実際に到達させる義務をも負うこと。)
  • (2) 網羅性の維持(内容による選別を行うことなく、納入の対象となる範疇に属する出版物すべてに納入義務を課することにより、国内出版物を漏れなく収集することができること。)
  • (3) 納入義務者の特定(納入義務者が、出版物を実際に製作し、その費用を負担している発行者であること。)

 これらの諸点について、パッケージ系の収集にフォーカスすると、次のように対応する。

  • (1)’ パッケージ系にあっては、著作者等及び発行者の自由意思により、当初から内容が何らかの媒体に「固定」された形で発行される。従って、到達義務との関係でいえば、媒体の質こそ違うものの、従来の紙媒体等による出版物と同様に取り扱うことが可能である。
  • (2)’ パッケージ系については、当該出版物が「物」として流通する必要があるために、発行に至るまでの過程で選別がなされ、発行点数がある程度絞られることになると考えられることから、従来の紙媒体等による出版物と同様に網羅的な収集を予定することが十分可能である。
  • (3)’ パッケージ系は、「物」としての製品流通が前提とされており、発行者が当該出版物に要する費用を負担している場合が多いと考えられることから、代償金との関係でも、納入義務者を発行者とする現行制度の維持が可能と考えられる。

 なお、ネットワーク系については、上記の3点を満たすことはできないため、現時点においてはこれらを納入の対象とはせず、契約により積極的な選択収集に努めることとされた。

 

3.3.4.4 パッケージ系電子出版物の収集に関する他の納本制度審議会答申

 

 1999年7月には、答申「パッケージ系電子出版物の納入に係る代償金の額について」が提出された。納入出版物代償金は、国立国会図書館法第25条第3項の規定に基づき、いわゆる民間出版物の納入者に対し、「当該出版物の出版及び納入に通常要すべき費用に相当する金額」が交付される。パッケージ系の納入に対する損失補償としての代償金の額は、パッケージ系の生産に要する費用(利潤を除いた総費用額を製作部数で除した額に相当する金額)に対する補償の考え方が採られ、これは、紙媒体による出版物の場合と同様の考え方である。

 また、2000(平成12)年8月には、答申「納入すべきパッケージ系電子出版物の「最良版」について」が提出された。「最良版」とは、長期保存及び利用という納本の目的に最も適するものを指す。国立国会図書館法第25条第1項により、民間出版物の発行者に対して「最良版」の納入を義務付ける規定があり、様々な版により発行されることが多いパッケージ系の「最良版」について、明確な決定基準を設ける必要があったためである。

 

3.3.4.5 2000年の国立国会図書館法一部改正

 

 2000年4月7日、国立国会図書館法の一部を改正する法律(平成12年法律第37号)が制定公布され(同年10月1日施行)、新たにパッケージ系がNDLへの納入義務の対象となった。

 この改正法において、パッケージ系は、「電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によつては認識することができない方法により文字、映像、音又はプログラムを記録した物」(第24条第1項第9号)として規定されている。旧法第24条第1項第7号に規定されていた「録音盤その他音を機械的に複製する用に供する機器に写調した著作物」については、改正法の第24条第1項第8号に規定される蓄音機用レコードを除き、この第24条第1項第9号の規定に含まれることとなる。

 なお、音楽CDや磁気テープ(カセット・テープ等)について、NDLは、旧法第24条第1項第7号に規定されたレコード類の延長との解釈で納入対象としてきたところであったが、この法改正により、パッケージ系の一種として取り扱うこととなった。

 

3.3.4.6 パッケージ系電子出版物の収集実績等

 

 2000年10月の改正法施行後、2008(平成20)年9月末までの8年間における、パッケージ系の受入点数は約225,000点に上る。ただしこれは、図書館資料受入・所蔵統計の上での数値であり、すなわち物品としての資料管理上、パッケージ系の種類品目は、「非図書資料」のカテゴリーのうち、「映像資料」や「録音資料」、「機械可読資料」に分類されており、その総計である。図書や逐次刊行物本体の付属物としてのパッケージ系の場合には、ここには分類されない。

 2007(平成19)年度の受入・所蔵状況は表1のとおりである。

 

  表1. 図書館資料受入・所蔵状況(2007年度)

表1. 図書館資料受入・所蔵状況(2007年度)

 

 また、同じく2007年度の納入出版物代償金交付状況は表2のとおりである。図書とは異なり、取次経由の納入は少なく、従って納入出版物代償金は発行者へ直接交付されるケースがほとんどである。

 

  表2. 納入出版物代償金交付状況(2007年度)

表2. 納入出版物代償金交付状況(2007年度)

 

 なお、国立国会図書館分類表(NDLC)における分類上は、「YH」(電子資料・機械可読資料)、「YL」(録音テープ・映像資料)、「YM」(楽譜・音盤)、「YU」(組み合わせ資料)の一部などがパッケージ系に該当する。

 東京本館では、パッケージ系は主として電子資料室及び音楽・映像資料室において利用に供されており、新館書庫内に保管している。

 パッケージ系の利用には、データそのものを記録した媒体の保存とともに、再生環境(アプリケーション・ソフトウェア、OS、再生用機器など)を維持していく必要がある。しかしその再生環境は多種多様であり、規格の変化も早いので、長期的な再生可能性の確保が大きな課題となっている。

 

3.3.4.7 2007年度実施の納入率調査結果

 

 2007年度にNDLでは、国内出版物の納入率を推定するとともに、納入促進のための対応策の検討に資することを目的として、納入率調査を実施した。調査対象は、2005(平成17)年中に刊行された出版物である。

 音楽・映像資料については、音楽出版社が提供する国内最大の音楽・映像資料のデータベース・ソフト「HY-SFY(ハイ・スフィー)」を使用して、当館所蔵資料とマッチングさせるサンプル調査を行ったが、サンプルデータ数14,655に対して、その納入率は39.1%にとどまった。国内出版物全体の納入率が、販売ルート等に流通しているもので8割以上という調査結果からも、他の資料群に比較して音楽・映像資料の納入率の低さが浮き彫りになった。この納入率調査に先行して2006(平成18)年度に実施した調査(ハイ・スフィーのデータを元に当館所蔵の有無をチェックしたサンプル調査)においても、やはりほぼ同様の結果であった。

 音楽・映像資料の場合、例えば、いわゆるインディーズなどの多種多様な音楽資料をいかに納入していただくか、その流通経路の把握と、納本制度の普及にさらに積極的に取り組んでいく必要がある。

 

3.3.4.8 おわりに

 

 パッケージ系を納入対象とする制度改正について概観したが、1999年2月の納本制度調査会答申にも言及があるように、納本制度の実効性を確保し、円滑な利用を促進するためには、著作権者等、発行者、利用者各々の便益の均衡を図ることが重要である。パッケージ系、ネットワーク系を問わず、電子出版物の収集及び利用を考える時、とりわけ著作権者等及び発行者の理解と協力が不可欠となる。

 NDLは、納本制度の十全な運用に引き続き努めるとともに、デジタル情報社会における出版・情報流通の変化に的確に対応して、デジタル情報の収集と保存、利用提供の実現に尽力していきたい。(倉橋哲朗)

 

(1) 納本制度審議会における調査審議の経緯、答申・議事録等は、NDLホームページの「納本制度審議会」ページを参照のこと。
“納本制度審議会”. 国立国会図書館. http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/deposit_council_book.html, (参照 2009-02-19).