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1.4.1 アメリカの出版・書店事情を考察する

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出版メディアパル編集長  下村 昭夫(しもむら てるお)

 本項では、日本で一般的に入手可能なアメリカの出版産業データ(主として『出版年鑑』に収録されている統計)を駆使して、非再販制度下で活躍するアメリカの出版産業の現状を把握し、日本の出版産業の現状との相違点を比較研究する。

(1) アメリカの出版概況

 『出版年鑑2006版』によると、2003年の最終売上規模で224億2,357万ドル(前年比4.6%増)、04年の中間予測規模は237億1,541万ドル(前年比1.3%増)となっている(図1参照;出所『出版年鑑2001年~2006年版』(1)

 なお、このグラフによると、03年からは売上げが下がったように見えるが、これは03年から統計アイテムが変化し、「ブッククラブと通信教育のカテゴリーの統合、予約制参考図書のカテゴリーの廃止」などがあり、02年までとの連続性はない(商務省統計「センサス」の数字をアメリカ書籍出版協会(AAP)が調整を加えた数字)と報告されている。

 この売上データは、ボウカー社の統計年鑑「ボウカー・アニュアル(The Bowker Annual)」に収録されている出版統計からの引用になる。

図1 書籍売上統計(単位:百万ドル)

図1 書籍売上統計(単位:百万ドル)

※2002年と2003年のデータには統計要素の変更により連続性はない

(2) ジャンル別推定売上げ

 2004年の中間集計に基づく推定売上げ237億ドルの内訳をジャンル別に見ると、成人向けハードカバー26億631万ドル(+6.3%)、成人向けペーパーバックス15億640万ドル(+9.1%)、児童向けハードカバー5億8,143万ドル(-16.7%)、児童向けペーパーバックス4億6,564万ドル(+3.8%)など、一般書の合計51億5,979万ドル(+1.9%)に達した。

 そのほか、ブッククラブ・通信販売11億7,953万ドル(-8.9%)、大衆向けペーパーバックス11億963万ドル(-8.9%)、宗教書13億3,251万ドル(5.6%増)、専門書40億5,826万ドル(+2.0%)、小中高教科書42億9,465万ドル(+0.1%)、高等教育関連書34億5,198万ドル(+1.8%)、標準テスト9億2,389万ドル(12.4%)、その他22億515万ドルと前年比1.3%と堅調である。このうち、大きな伸びを示しているのは、教育部門の標準テスト12.4%増などが特徴的である(図2参照;出所『出版年鑑2006年版』)。

図2 アメリカの書籍売上(03年 / 04年)

図2 アメリカの書籍売上(03年 / 04年)

(単位:百万ドル)

(3) カテゴリー別出版点数

 総発行点数は、01年には14万1,703点、02年には14万7,120点、03年は17万1,061点、04年の中間集計では15万7,431点となっているが、最終集計は、03年より8.15%増の18万5,000点を超えると見られている。この統計は、ボウカー社の『ブックス・イン・プリント』(Books In Print)のデータベースに基づいて統計である。

 図3は、『出版年鑑2006年版』に収録されているカテゴリー別の全書籍の03年の出版点数をグラフにしたものである。

 カテゴリー別の増減を見ると、23カテゴリー中22分野で増加しており、ノンフィクション部門では、伝記が7,706点(2,400点、45.23%増)、宗教が1万343点(2,907点、39.09%増)、歴史1万824点(2,895点、36.51%増)教育が6,213(1,490点、31.55%増)がなどが特徴的伸びを示している。

 なお、言語関係書は5,284点(8,168点減、39.28%減)と大幅な減少となっているが、これは、02年にオンデマンド印刷方式で特定ジャンルのタイトルが1万点増加したための反動現象で例年の水準に戻ったことになる。

 03年のフォーマット別の発行点数で見ると、ハードカバー7万9,403点(2万1,618点増、37.41%増)と大幅な増加、トレード・ペーパーバックス(一般書のペーパーカバー本)が8万6,858点と前年比で3.33%、2,802点増加、マスマーケット・ペーパーバックスは5,177点(169点減、3.16%減)となっている。

図3 カテゴリー別出版点数(02/03年)

図3 カテゴリー別出版点数(02/03年)

(4) 本の価格

 本の価格を見てゆくと、2003年のハードカバーの平均価格は63.33ドルで前年の62.84ドルに比べ、0.49ドル0.78%増とわずかながら値上がりしている。マスマーケット・ペーパーバックは6.37ドルで02年の6.39ドルに比べ、0.31%(2セント)減少、トレードペーパバック32.85ドルで4.85%(1.52ドル)値上がりしている。

 ジャンル別の平均価格の推移は一様でなく、価格変動の要因・現象は捉えにくい。

(5) アメリカの書店の推定売上げ

 図4は、アメリカ小売書店協会(ABA)の資料による書店の推定売上げを示しているが、1997年が126.88億ドル、98年が131.79億ドル、99年が139.46億ドル、2000年が159.02億ドル、01年が168.42億ドル、02年が157.99億ドル、03年が168.09億ドル、04年が168.09億ドルとマイナス成長化の日本の書店売上と違い、順調な成長を示している。

 なお、04年の推定売上げのうち、50%に当たる84億ドルを三大チェーン店が占めており、その内訳は、バーンズ&ノーブル(B&N)が42億200万ドル、ボーダーズが37億ドル、ブックス・ア・ミリオン(BAM)が4億6,200万ドルとなっている。独立系書店の比率は年々下がってきているが、ABAには個性豊かな書店が参加し、出版文化を支えている。

 図1で見たAAPの出版産業全体の売上げ234億ドルとABAの書店の推定売上げ168億円との違いは、アメリカでの書籍の販売ルートの多様性にあると思われる。

 成人向けハードカバーの販売ルート別シェアをみると、大型チェーン店22%、独立系・小規模チェーン店15.4%、ブッククラブ19.2%、ディスカウント店2.4%、ウエアハウスクラブ6.8%、ネット書店8.1%、ユーズドブック(古書店)5.0%、大規模小売店5.9%、メールオーダー2.6%、食品・薬局3.1%、マルチメディア0.8%、その他8.7%などとなっている。

 また、日本における書店の商品構成とアメリカの書店における商品構成が大きく違っており、小さな本屋さんは、書籍が中心で雑誌はあまり置かれていない。仕入れ条件については、一社ごとの条件があるが、仕入れ冊数が多くなればなるほど、掛け率が低くなる「ボリューム・ディスカウント制」が一般的で、「1~4冊:7.5掛け、5~49冊:6掛け、50~99冊:5.9掛け」が基本となっており、「返品期限、返品量」の規制は厳しいが返品も許容されている。自らの書店の商品構成をどのようにするのかは、一店一店の「書店のあり方」と大きく関わっている。また、再販制がなく、街の本屋さんは三大チェーン店のディスカウント商法と戦いながら、書店を維持する挑戦を続けている。

図4 アメリカの書店の推定売上(ABA調査)

図4 アメリカの書店の推定売上(ABA調査)

(6) アメリカの雑誌売上げ

 2003年におけるアメリカの雑誌総数は17,254誌あり、創刊点数は949誌ある。そのうち、大手雑誌社160誌の売上げは85%を占めており、寡占状態にある。

 アメリカの雑誌の予約購読数と店頭販売数を2000年のデータで見ると、予約購読数は3億1,877万冊、84.1%に対し、店頭販売数は、6,027万冊、15.9%ときわめて低く、日本における雑誌の売れ方とは、ちょうど逆転している。

 2000年の雑誌の推定年間売上げは99億7,400万ドルとなっているが、予約購読売上げ69億1,500万ドル、69.3%に対して、一部売りの店頭販売額は30億5900万ドル、30.7%となっている(出所:Magazine Publishers America)。

 予約購読者の獲得競争「ナンバーゲーム」が激化しており、再販制度がないため、雑誌のディスカウント商法は厳しい。実際の平均価格で比較すると、店頭販売価格3.83ドルに対して、年間予約購読価格24.41ドル(月額2.03ドル、約53%)となっている。

 また、アメリカの雑誌の広告依存度は極めて高く、50%を超えている。(出所:Hall‘s Magazine Report)。また、広告ページと編集ページの比率は、1980年代から2000年までは50%であったのに対し、2001年には約45%、03年には約48%と広告ページの比率が減少している。新しい広告媒体としてのインターネット広告の比率が高まり、雑誌ビジネスが、「量より質」への転換期を迎えていると分析されている。

 アメリカの雑誌販売ルートは、スーパーマーケットが45%、ディスカウントストアが16%、書店が11%、ドラッグストアが9%、コンビニが6%、ターミナルが6%、ニューススタンドが4%、その他が3%となっており、書店売りの比率が極めて低い。

(7) アメリカの書店・取次

 『出版年鑑2006年版』によると、2004年のアメリカの総書店数2万2,321店(03年は2万3,643店)と日本ほどではないが、書店数の減少が見られる。

 この資料は、『ジ・アメリカン・ブック・トレード・ディレクトリー』(The American Book Trade Directory)2004年-2005年版によるもので、特徴的なのは、一般書店5,238店(03年は5,700店)に対して、大学・一般3,226店(03年は3,329店)、宗教専門店2,812店(03年は3,515店)と多いのが目立つ。日本流にいえば、総合書店数が少なく、特化型の書店が目立つのは、委託制がなく、仕入れに関しては、書店の責任販売制が当たり前のように確立しているからであろう。国土が日本の24倍もあるアメリカ全土で考えると、書店数は、極めて少ないといえる。

 なお、同資料によると、「古書店」とは、古刊本、稀覯本などを扱う古書店であり、いわゆるセカンドハンド本を扱う「古本店」と区別している。「大学」は、大学構内、構外を問わず大学レベルの教科書、参考書、専門書等を扱っている書店である。「コミックス」「料理」等等の専門店は在庫量の50%以上がその間連書であることを要する。「ペーパーバックス」はそれが80%以上である。「フェデラル・サイト」は国立公園、国が維持、運営する史蹟、遺跡に付属する書店である。「新聞販売店」「事務用品店」等はそれぞれの商品と併せて書籍、雑誌を販売している場合のみ収録となっている。

 


 

 1990年に発足したABAの会員数は、1993年の5,200店がピークで、1998年には3,300店、2001年には2,300店、2005年には2,115店と減少しているが、ABA加盟書店の推薦図書リスト「ブックセンス」などのマーケティング・キャンペーンを展開するなど読者へのサービスを強化して生き残りをかけた努力を積み重ねている。

 アメリカの書店界では、出版社からの直接購入が一般的な仕入れ方法で、出版社と書店の間に介在する卸売業者は地方卸売業者が主であったが、近年、全国規模のイングラム・ブックスやベーカー&テーラー(B&T)を利用するケースが増えてきた。卸売業者がたんにディストリビューター(配送業)にとどまるのでなく、全国規模の卸取次業(ホールセラー・ディストリビューター)に発展することが望まれている。

(8) アメリカの書籍販売と公共図書館

 アメリカの図書館が新規に受入れている資料がアメリカ出版産業の売上げにどの程度貢献しているかについては、直接それを明らかにする統計資料はなさそうである。たとえば、アメリカの一流大学の図書館は相当程度外国語資料を受入れており、上記「ボウカー・アニュアル」に記載されている大学図書館総体の資料購入費から輸入資料に要した経費を減じて具体的な数字を得るのは難しい。

 ここでは、アメリカ国内に1万7,000館程度存在する公共図書館について、国内販売図書売上げにおいて、その新規受入図書がどの程度の割合を占めているものか、大づかみの数字を探ることにしたい。関係統計の操作により、明確な数字を得るのは困難なようである。そこでまず公共図書館コレクションの大多数を占めるであろうハードカバーとペーパーバックの成人向け図書、およびハード、ソフトの児童向け図書の2005年の国内販売額を確認すると78億2,805万ドル(A)となる(出所は、上記「ジャンル別推定売上げ」と同じ)。一方、2004年度におけるアメリカの公共図書館全体が図書館資料として新規に購入した図書の総額は3億8,206万5,742ドル(B)とされている。公共図書館といえども他のジャンルの図書を購入しているし、ここで求めた成人向け、児童向けの図書売上額を母数とすることにも論理的には躊躇がある。しかし、一定の傾向をあらわすものとしては(B)を(A)で除し、アメリカの公共図書館の図書費が国内図書販売額に占める割合としても許容される余地があるように思われる。おおむね5%という数字が得られる。



(1) 出版年鑑編集部編. 出版年鑑. 出版ニュース社.

(本稿では2001年~2006年版を参照した。なお2002~2004年版は『日本書籍総目録』と共同刊行である。)