1.3.2 人気ある職業にするには ~How to be popular~

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James M. Matarazzo
Dean and Professor Emeritus at the Simmons College Graduate School of Library and Information Science in Boston
(シモンズ・カレッジ図書館情報学大学院 名誉大学院長・名誉教授  ジェームズ・マタラーゾ)
Joseph J. Mika
Director of the Library and Information Science Program at Wayne State University in Detroit
(ウェイン州立大学 図書館情報学プログラム長  ジョゼフ・ミカ)

(※本稿は著者の許諾を得て、Matarazzo, James M. et al. How to be popular. American Libraries, 2006, 37(8), p. 38-40. を翻訳したものである。)

(1) 二人の著名な教育家が提案する高齢化の進む労働力に代わる新たな労働力確保の方法

 「現代で最も不人気な職」これは2006年3月3日のMSN.comの記事の見出しである。この記事では、米国労働統計局が、ある特定の職業において将来的に能力のある労働力が不足することを予測したとしている。記事に続くリストは、2000年から2012年にかけて特に打撃を受けるであろう職種をあげており、そのリストで機械工とトラック運転手にはさまれ、第3位に位置したのが図書館司書であった。

 近い将来、司書が不足するかどうかについては意見が分かれるところであるが、ALA評議会のオンライン討論リストに意見を寄せる者の中には、そのような考え方をばかにし、大学院の図書館学は積極的なリクルートプログラムを始めるべきだとする参加者の提案をあざ笑う者もいる。対照的に、American Libraries誌およびLibrary Journal誌の読者投稿や編集者への手紙は、求職者の多くが経験している困難な状況を報告している。また現在、在職中の人々の年齢と、近づく彼らの定年が、司書不足を予見させるものと見る人々もいる。

 何が真実なのか?真の統計はどれか?1970年代、労働統計局によると、司書の平均年齢は45歳であった。1980年代のKing Researchによる報告書によれば、平均年齢は45歳であった。また1990年代の正規の司書の平均年齢は、ALAによる調査によれば、驚くことに45歳であったとされている。1970年代から1980年代にかけての各10年には、9,000人の司書が65歳を過ぎても仕事を続けていた。

 これらの1970年代から1990年代に行われた予想では、20年ごとに在職中の司書の半数が退職年齢に達することになる。これらの予想に従えば、9,000人の司書は、これまで何十年もそうしてきたように、65歳を過ぎても仕事を続けることになるかもしれない。ここれらの概算に基づけば、図書館情報学の学生の平均年齢は上がらず、司書は過去においてそうであったように、65歳で退職する傾向になると結論を導くこともできる。

 しかし、現在では、図書館情報学教育協会と合衆国労働統計局の統計報告によると、現実には司書たちは平均年齢62歳で退職をしている(米国における大半の労働者と同様に)。そして65歳を過ぎても仕事を続けている司書の数は激減し、図書館学の卒業生の数は安定しており、過去7年間において目立った増減はなく、図書館情報学大学院の学生の平均年齢はおよそ35歳である。専門職大学院でもロースクール(53.5%)やソーシャルワーク(34.5%)と違って、25歳以下の図書館情報学の学生はたった11.7%であると、Stanley J. Wilderの著書、The Age Demographics of Academic Librarians: A Profession Apart〔Haworth Information Press,1990〕は示している。

 この現実に即して考えれば、北米の56のALA認定校が退職者全員を新たに卒業する労働力でおき代えることは実質不可能であり、退職する65歳以上の司書を補填する方法もないのである。2002年、司書の大半、60%は45歳以上であった。The U.S. Bureau of the Census, Census 2000 Equal Employment Opportunity Commission data toolのデータから作成された次のグラフは状況を如実に表している。

 グラフでは、在職している司書の数は、60歳を超えると大きく減少することを示している。実際様々な理由で、他の職業に従事している労働者の2倍の速さで司書は退職しているのである。何故そうなのか、これはさらなる検証の対象である。

(2) 不人気の理由

 図書館情報専門職に関する労働力の高齢化の一大原因は、過去20年間、図書館情報学をキャリアとして選択する若者が減少していることである。これまで以上に多くの人が図書館情報学をキャリアとして選択しない理由は様々である。この分野では給与に競争力があるとは言えないこと、ネガティブな職種としてのイメージがあること、学士号を出すすぐれた教育プログラムがないこと、就職する多くの人々にとって第一の選択肢となる職種ではないこと、そして一部の図書館情報学の学校が、図書館以外の職業に就くことが期待されている「情報学」の学生を惹き付けようとしていることなどが挙げられる。

 図書館情報学分野では、他の分野と異なり、第2、第3のキャリアを探している学生をひっぱってくるということが起こっている。その結果として、学生は30代半ばから後半に大学院プログラムを開始することになる。我々の職業においては、他の職業の新規参入よりも平均して10年以上遅れてスタートを切るのである。

 さらに1946年から1964年にかけて、米国では約7,600万人が誕生した、つまりベビーブーマーの世代であるが、それに続くジェネレーションXではたった4,600万人しか誕生していないという事実を見ると、問題はより明らかとなる。

 すべての職種における労働者は高齢化し、キャリア間の競争は今後益々激しくなる。例えば、ミシガン州では司書の平均年齢は45.9歳(また「45」である)で、この年齢はリストに挙げられた363の職種のカテゴリー中、22位という高さである。リストで1位になったのは交通指導員で、平均年齢が55歳であった。続いて判事と治安判事で51.9歳。牧師は9位で48.3歳、ミシンオペレーターが21位で、46.2歳である。

 10年ごとに基準年を定めて見てみると、さらに興味深い事実が明らかとなる。図書館学の卒業生、つまり図書館情報学スクールの「純粋な」図書館学の卒業生は減少している。1973年、ALA認定の61のプログラムには11,999人の在学生と7,404人の卒業生がいた。1983年になると、64校から8,139人の在学生と3,784人の卒業生が報告されている。さらに1993年には、54校で12,069人の在学生と4,955人の卒業生が報告されている。2003年では16,876人の在学生が56校から報告されており、卒業生は5,175人である(後者は図書館学をとるか卒業する学生だけを数えた数字であり、情報学の学生は入っていない)。

 過去20年間において学生数が劇的に増加したにも関わらず、卒業生数は横ばいである。いったいどういうわけなのか?中には卒業せずに学部を去る者もいれば、多くはフルタイム、またはパートタイムで仕事をして授業料をまかなっているため、学期当たりに取る授業数が少なく、さらに学位取得にかかる費用のため、卒業に時間がかかっている者が多くいる。実際、卒業まで3年から4年間図書館情報学プログラムに在籍する卒業生も珍しくない。中には卒業まで最大の時間をかけることを選択する学生もいる(許可された期間の平均は6年から8年間である)。

 在籍者数は増加しているにもかかわらず、図書館情報学プログラムの卒業生数は毎年5,000人程度でとどまっている。さらに図書館学の優秀な卒業生の中には、伝統的な図書館以外の場所に職を得るものもいる。例えば情報ブローカー、銀行、民間企業、あるいは競争的に調査・研究を行う図書館以外の学術機関などにポジションを得るのである。

 全国図書館情報学委員会では2004年に、1990年から2002年にかけてALA認定の図書館学修士を持つ司書数が増加し、公共図書館に雇用されている職員の数も10万3,685人から12万9,844人に増加したと報告している。この調査に協力している8,095の図書館で雇用されている職員の数は25%増加している。

 合衆国教育統計局では、今後10年間は、好調な経済状況によりこれまでの10年よりも多くの新しい情報関連の就職機会が創出されるであろうと予測している。これには2002年から2012年にかけての司書の雇用が10.1%増加することも含まれている。故に、この分野では同時期に23.9%の交代率が必要となる。労働力が約24%の割合で交代され、職が約10%の増加を示す場合、このニーズを満たすためにはその10年間に5万4,500人の卒業生、すなわち毎年5,450人を労働市場に送り出さなければならない。我々の予測は米国における16万5千人という司書全体の数を基礎にしており(この数字はあまりにも低いと考えている)、誰もキャリアを変更せず、全員が65歳という退職年齢まで勤めることを前提にしている。

(3) 維持による解決

 米国の司書の数については、ALAが推定する16万5千人より多いと考えているため、これまで述べてきた問題はさらに大きくなる。最新の国勢調査のデータでは、米国には190,000人から205,000人の司書がいるとされている。前述のように、我々と同じ職業の人々は平均年齢が高く、多くの人々がより早くそれまでの職を退職し、ある程度年齢を重ねてから修士課程に入り、それまでに多くの場合、1、2のキャリアを積んでいることが多い。いずれにせよ、我々は、司書仲間が直面している課題を過小評価してきたのである。

 さて今や問題、懸念事項、そして関心事がわかったわけであるが、ではそれらをどのように解決するか?まず考えるべきは維持とリクルートである。我々は生産力のある労働力を今後の司書不足に対応するため現在の職にとどめる必要がある。そのためには十分な休暇、行き届いた医療保障・保険を提供する必要があるし、さらに重要なことには、ジェネレーションXとYの職員に対しては、柔軟なスケジュールを提供しなければならない。労働力は資産である。ハードウェアとソフトウェアの両者が必要であることを我々が認識するように、「人的資源」の必要性も同様に認める必要がある。我々は補助スタッフに焦点を当て、我々の顧客にサービスを提供するにあたって、彼らを我々と等しい立場のパートナーとして見る必要がある。

 我々は既存のスタッフ(全てのレベルの)に対して指導を与え、職場に、そしてこの分野に、またサービス業としての職に入りやすくしなければならない。指導は両者に教育的関係を与えてくれる。ポジションがあけばそれにあわせてスタッフがステップアップしてくれるだろうなどと期待すべきではなく、我々は起こり得る状況に見合ったスタッフを準備するべきなのである。我々はスタッフと図書館のためのビジョンを生み出す必要がある。図書館は多大な時間を戦略計画作りに費やしながら、そのビジョン作りの過程においてその職のスタッフを無視しがちである。図書館のための計画に加え、そこで働くスタッフのための計画も必要である。

 内側からの働きかけが重要である。すべての図書館に次の世代の素晴らしいスタッフが必ずいるとは限らないのである。キャリア開発は図書館の人材計画の一部でなければならない。図書館はオリエンテーションを行い、トレーニングプログラムを作成する必要がある。導入のための指導と継続的な教育により、働く人々が職場を理解し、継続的開発により価値を高めていくことになる。労働力を訓練することが重要である。

 すでに図書館になじんでいて、大学院入学を考えるのに優しくあと一押しすればいいような学生アシスタント、アルバイトの若者、時間給の貸出サービススタッフにも働きかける必要がある。専門職に位置づけられていない労働力のことを考えることが望まれる。図書館長や人事部門の人々は、図書館情報学のプログラムに連絡を取り、図書館に実習生やインターンを送るようリクエストし、これらの受入れた学生にはテクニカルサービス、パブリックサービス、システム、アドミニストレーションを含む様々な経験をさせるべきである。理事会やスタッフミーティング、ワーキングチームセッションにも出席させ、彼らを実際のプロジェクトと現場での図書館の仕事に参加させるべきである。

 コンピューターサイエンスの学生をシステムスタッフとして実習に参加させることを考えることも必要である。地元のカレッジに図書館のテクニカルアシスタントプログラムを見つけ、これらの学生にパートタイムの職を提供し、彼らが学士号、そして図書館情報学修士号を取得するように応援すること。学士号を提供する大学と連絡をとり、スタッフとしてその卒業生を採用し、最も優秀なものには大学院の図書館学プログラムを受講するように薦めること。

 図書館における現在のポスト、または将来的に発生しうるポストに照らして、各スタッフの能力を検証し評価し、さらに現在のスタッフを分析する戦略的スタッフ配置を行うこと。スタッフとよく話をすること。新たな経験をする準備が出来ているか、さらなる責任を負う準備が出来ているか、異なる状況に置かれても対処できるか?こうして我々は優秀なスタッフを維持していくのである。

 最後に、我々は自らの職業について決して軽蔑した調子で話してはならないという義務がある。そうではなく可能性が広がっていく機会について話をすべきである。我々の職業、そして我々が日々奉仕する人々に対する我々の行動、そして態度が利用者にも影響を与えることを認識しなければならない。図書館専門職が活気にあふれた、面白い、心躍る職業のひとつであることをあなた自身が信じていれば、他の人もその熱気を感じとるはずである。逆に周囲の人々が希望のなさ、ストレス、不満といったものを感じとれば、ついてくる人はいなくなる。将来を信じれば未来は真に我々のものになる!

 何年も前に、ALAでは“Each one, reach one”という会員のスローガンを掲げていた。もう一度このスローガンを掲げる時が来た。しかし今回は“Each one, reach two”に変更することを提案する。そうすればただ単に自分の代わりを見つけるだけでなく、次の空席や新しいポジションのための未来の会員を惹き付ける手助けをしていることにもなるのだ。