4.1 公共図書館における地域情報の提供

PDF版はこちら

筑波大学大学院 図書館情報メディア研究科  吉田 右子(よしだ ゆうこ)

(1) 地域情報サービスとは

 米国の公共図書館は地域社会と密接な関係を保って発展してきた。個々の図書館はコミュニティに根ざしており、利用者にコミュニティの情報を提供することが、図書館の重要な役割の1つとなっている。図書館はコミュニティに関する情報をコミュニティ・インフォメーション・ファイルとして用意するとともに、利用者のニーズに応じて他機関への照会サービスを行ってきた。公共図書館におけるこうしたコミュニティ情報源に関する情報提供サービスを、米国ではコミュニティ情報・照会サービス(community information and referral service)と呼ぶ。

 地域情報サービスは、すでに1920年代には米国の公共図書館で実施されていた。当時から公共図書館をコミュニティの情報資源提供の拠点として位置づけ、地域情報をもれなく把握し、コミュニティの機関名簿を作成するなど、現在のコミュニティ情報・照会サービスの源流ともいうべきサービスを行っていた図書館もある(1)。1970年代以降にコミュニティへのサービスの重要性がより重視されるようになると、こうした地域情報のサービスは「コミュニティ情報・照会サービス」という名称のもとに、より本格的なサービスとして展開されるようになった(2)。現在では、地域情報の提供は公共図書館の基本サービスの1つであり、住民はコミュニティの情報を探索するために公共図書館を日常的に利用している。

(2) 地域情報とコミュニティ・インフォメーション・ファイル

 各館は地域の諸団体・組織や情報サービス機関などの情報をコミュニティ・インフォメーション・ファイルとして一元化するとともに、各機関が発行するパンフレットやリーフレット、チラシなどの一枚ものの資料からなるファイル資料を地域情報として整理し、利用者に提供している。地方紙の新聞記事やコミュニティの行事に関する情報が含まれる場合もある。

 作成されたコミュニティ・インフォメーション・ファイルは、利用者から照会があったときにすぐに応じられるよう職員の手許に置くとともに、利用者にも提供される。各機関のパンフレット資料は機関別あるいは主題別に分類され、フォルダーに収められていることが多い。コミュニティ・インフォメーション・ファイルには、情報の追加、削除作業が必須不可欠であり、常にその内容を更新し最新の情報を維持する必要がある。

 コミュニティ・インフォメーション・ファイル、郷土史や地元の情報を扱う図書、パンフレット資料等は地域情報コーナーにまとめて置かれ、利用者はコミュニティの情報を様々な情報源から探索することができる。地域情報コーナーは中央館だけでなく分館にも設置され、一般の蔵書とともにアメリカの公共図書館の基本的なコレクションを形成している。

 ところでアメリカは歴史的に多くの移民を受け入れてきた国家であり、多様な文化的背景を持つ住民がコミュニティを構成している。コミュニティ・インフォメーション・ファイルの主題の中に必ず多様な文化的・民族的背景を持つ利用者を視野に入れた項目がみられるのは、こうした文化的多様性が地域情報サービスに直接反映していることを示すものである。

(3) 地域情報提供の実践例

 デトロイト公共図書館(Detroit Public Library)は全米で最も早く情報・照会サービスを手がけた図書館であり、情報コーナー(The Information Place:TIP)コーナーで地域情報の提供を行ってきた。地域情報サービスの情報源は20,000を超える地元の非営利団体の情報が含まれたTIPデータベースである。ここには生活基本情報(食、住、移動手段、経済援助)、消費者サービス、法的支援、教育、カウンセリング、健康相談、家庭支援、娯楽サービス等のコミュニティ情報が含まれている。各機関のデータ項目としては、機関の概要、所在情報、関係部署の情報、提供されるサービス内容に関する情報がある(3)

 メンフィス公共図書館・情報センター(Memphis Public Library and Information Center)中央館では、レファレンスサービス、コミュニティ情報・照会サービス、雇用情報サービスを1つに束ねた部署LINCが地域情報提供サービスを担当している。住民は9時から18時まで来館、電話、ファックス、電子メールのいずれかの方法でサービスを受けることができる(4)

 LINCにはコミュニティ情報室が併設され、諸機関のちらし、パンフレット、ニューズレターなどが置かれている。ここで衣食住に関わる機関、カウンセリング機関、各種支援組織、市民団体、移民のための語学学習機関等、コミュニティで生活していくために必要な関連機関の情報が利用者のニーズに応じて提供される(5)

 コミュニティ情報・照会サービスは、「LINCコミュニティ情報データベース」と連動している。このデータベースには1,300以上の機関・組織のデータが入力されており、住民は健康情報、子育て、職業訓練、教育や娯楽情報、退職者情報、福祉サービスに関する情報を入手することができる。登録機関の多くは非営利団体であるが、営利団体についての情報も若干含まれている(6)

 データベースは簡単な操作でコミュニティの機関の情報にアクセスできるよう設計され、利用者は地域の選択、主題の選択、条件の追加、検索結果の提示、詳細情報の提示、関連機関へのコンタクトという6つのステップを経て目指す情報を入手する(7)

(4) ウェブサイトでの地域情報サービス

 近年、地域情報サービスはウェブサイト上のデータベースあるいは関連情報へのリンク集の形で提供されることも多くなった。ウェブサイトを利用した地域情報サービスでは、利用者をそのニーズに合わせて各種機関のサイトへ直接導くことも可能であり、紙媒体のコミュニティ情報ファイルの時代にはできなかった新しい形での照会サービスが展開されている。一層進んだ情報提供の実現に向け、各図書館はウェブサイトからの情報発信に力を入れている。

 ウェブサイト上の地域情報は、州、連邦政府、世界の様々な情報の一部として提供されているために、利用者は地域情報に関する情報と同時に、地域情報に限定されないより広い範囲の情報を同時に入手することができる。さらにウェブサイト上のコミュニティ・インフォメーション・ファイルには全世界からのアクセスが可能であることから、図書館や地域のPRの意味合いも持つようになりはじめた。

 とはいえ図書館の地域情報コーナーに置かれたインフォメーションファイルから情報を入手しようと望む利用者が存在する以上、米国における地域情報の提供は図書館での情報提供とウェブサイト上での情報提供サービスが並存していくと考えられる。

 なお地域情報サービスに関しては、アメリカ図書館協会公共図書館部会コミュニティ情報部が定めるガイドライン“Guidelines for Establishing Community Information and Referral Services in Public Libraries”(8)がある。



(1) Learned, William S. The American Public Library and the Diffusion of Knowledge. New York, Harcourt, 1924, p.51-52.

(2) Symour , Whitney North, Jr.; Layne, Elizabeth N. だれのための図書館. 京藤松子訳. 日本図書館協会, 1982, p.154-155.

(3) The Detroit Public Library. “Services: TIP”. http://www.detroit.lib.mi.us/tip/index.htm, (accessed 2007-02-05).

(4) The Memphis Public Library and Information Center. “LINC department”. http://www.memphislibrary.org/linc/index.html, (accessed 2007-02-05).

(5) The Memphis Public Library and Information Center. “Community Information and Referral ”. http://www.memphislibrary.org/linc/comminfo.htm, (accessed 2007-02-05).

(6) The Memphis Public Library and Information Center. “Resource House: Location”. http://www.resourcehouse.com/en/memphis/cgi-bin/location.asp, (accessed 2007-02-05).

(7) The Memphis Public Library and Information Center. “Resource House: Location”. http://www.resourcehouse.com/en/memphis/cgi-bin/location.asp, (accessed 2007-02-05).

(8) Public Library Association. Guidelines for establishing community information and referral services in public libraries. 4th. ed., American Library Association, 1997, 39p.