3.1 図書館運営について~ニューメキシコ州アルバカーキー市ドロレス・ゴンザレス校の場合~

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ニューメキシコ州アルバカーキー市ドロレス・ゴンザレス校・元図書館司書  リーパーすみ子

 我が校は、生徒の98%がヒスパニック系で占められている。これは、アメリカにおいてそう特殊なケースではない。ヒスパニック系、アジア系、アフロ・アメリカンにアラブ系など、同じ人種が固まって一か所に住む傾向があるからである。しかも、我が校は、1日の内の50%は英語で、後の50%はスペイン語での授業を推奨している。これは、推奨で、父兄が全部英語でという希望であれば、英語のみのクラスに生徒をいれることも出来る。ヒスパニック系がアメリカで人口の増加率第1位なので、スペイン語が堪能であるということは、将来、役に立つからである。最近特に見直されているバイリンガル教育の先端をになっている。

 アルバカーキー地区の学校は、高校が11校、中学校26校、小学校79校。ライブラリー・メディアスペシャリストは、小、中、高校のどこへいっても給料の差はなく、小学校から高校まで校種を超えた異動が可能である。要求されるのは、ライブラリー・メディアスペシャリストとしての資格と教員免許を保有していることである。図書館管理の部門(デパートメント)がセントラルオフィスにあり、そこの管理者達が図書館の管理を司っている。蔵書購入の予算は、そこから配分される。

 ライブラリーにおけるコンピュータの数は、小学校12台、中学校24台、高校54台が必要とされている。コンピュータの資金はそれぞれの学校でまかなう。我が校はインターネットの回線敷設はE-rateからの資金でまかない、コンピュータ導入資金は、プロポーザルを書いていろいろな団体に応募し、獲得したものである。

 以上のことを頭にいれて、私の報告を読んでいただきたい。

(1) 概況

 1) 蔵書数

 約10,000冊。蔵書(コレクション)の目標は、生徒1人に対して15冊の本。コレクションの70%は、過去12年以内に出版されているものがふさわしいとされている。それ故、管理部門からは、常日頃古い本のウィーディング(除籍)を言い渡される。ただし、著作権に左右されない、純粋科学、おとぎ話などの本は、古くてもなかなか思いきって、処理できないのが、頭の痛いところである。

 2) 貸出数

 1週間における貸出冊数は約1,050冊をこえる。幼稚園、プリスクールをのぞく1年生から5年生までの20学級の生徒に対して、週に平均2冊ずつ貸し出す。その他、先生や各クラスにいる大学生の教育実習生も利用する。教育実習生は、学期ごとに入れ代わるが、クラス担任に1人は常についている。彼等に対する蔵書に関する指導もライブラリアンの仕事である。

 3) 登録利用者数

 約700名。学年の初めにコンピュータ部門から、クラスごとに分けられた全校の生徒達と教職員の名前が、データベースとして、図書館に送られてくる。その後、新しい生徒が転校してくるたびに、ライブラリアンが生徒の名前をデータベースに加えてゆく

 4) 主なサービス

 本の貸出サービス。コンピュータを利用しての検索指導。

 リテラシーをサポートする指導。児童文学紹介の窓口としてのリーダーシップを取ること。リサーチ指導。各クラスの図書室におけるマナーをグラフで表示することによって、図書館利用のルールとそれに伴う行儀作法を強調。読書クラブの指導と州の読書コンテストに生徒を引率していくことによって、学校における図書館の存在をアピールする。学年ごとのカリキュラムをライブラリーの立場からサポートしていくなどのサービスを行う。

 5) 財政、資金調達(ファイドレイジング)

 • 州からは、約500人の生徒達に対して年約2,000ドルの予算が図書購入費として与えられる。

 • それでは足りないので、ニューメキシコ州の大学、公共、学校図書館が一体となって、Mil Levy(税金配分)の選挙項目のなかに、図書館の本を購入するためのx額を要求することを9年前に考案。以来、選挙民の支援を受け続けている。我が校は、年間、約10,000ドル支給されているから、生徒1人当たりに対し、20ドルあてがわれていることになる。この予算は、本の購入のみに使用することが義務付けられている。ソフトウエアなどの購入は禁止されている。

 • “Reading Is Fundamental”と唱えている政府機関から、約500人の生徒達に対し3,000ドルの資金が出るが、これは低所得地域の児童達に年3回無料のペーパーバックスを与えるためのリテラシー活動の一環であり、ライブラリーの責任者が担当する。

 • 学校の周辺のビジネス団体に寄付を依頼すると、年間600ドル程度の寄付金がライブラリーに支給される。

 • 助成金(Pork Money):州の議員達に収支決算の折に余分な資金が出たら、リテラシーを支えるための寄付を依頼するe-メールを送っておくと、5,000-6,000ドルの資金が毎年送られてくる。議員によっても異なるが、コンピュータや図書の購入にポークマネーを支給してくれる議員が多い。州の人口が増えているという状況からこうした収支決算の結果がでているのであろう。

 • ブックフェア:図書館のファンドレイジングとして、またリテラシー運動の一環として毎年2回、ほとんどの学校はブックフェアとうたって本を売る。スカラスティックなどの信頼できる出版社と契約を結ぶ。生徒達に新刊を紹介するよい機会でもある。

(2) 職員、ボランティア、業務の委託状況

 1) 職員

 • アルバカーキ地区全体で約60人。

 • ライブラリー・メディアスペシャリスト:フルタイム1人

注:生徒600人以上の小学校にはフルタイムのライブラリー・メディアスペシャリストが配置されるが、低所得地区では、生徒数にかかわらず、リテラシー運動の一環としてフルタイムのライブラリアンを1人おくシステムになっている。

中学校は全校フルタイム1人、高校はフルタイム1人、それにアシスタント1人がつく。

 2) ボランティア

 1人ないし2人の保護者が手伝ってくれる。中流階級地区の学校では、50人位の保護者が30分交代で毎日手伝い、コンピュータによる本の貸出、本を書棚にもどす業務、コピーを取る、図書室の掲示板(bulletin board)の飾り付けなどの事務的な仕事の一切を受け持っているようである。地域によって、ボランティアの数に大きな差があることに注目していただきたい。

 3) 業務の委託状況

 ライブラリー・メディアスペシャリストは、教師の一員としての業務がまず要求されるため、カタロギングの業務は、図書管理部門のカタロガーに委任されている。アメリカの場合、出版社から直接本を購入するのではなく、図書館用の装備をもかねている業者から購入することが多いので、最近では、その業者がカタロギングサービスとして、本のバーコードとカタログのステッカーを送ってくることが多い。このような状況なので、外部に委託されている仕事はない。

 新規受入図書をデータベースに入れる仕事は、図書管理部門が行なっている。

(3) アドヴォカシー、広報

 数年前に、図書管理部門の要請で、校長、教師、生徒達に対して図書サービスについてのアンケート調査を行い、その結果を分析したところ、各学校に求められているのは、図書館のサービスを教師や保護者にもっと知らせるべきであるということであった。つまり、コミュニケーションの重要性に気がついたのである。

 管理部門がとった手段は、各々の学校のライブラリー・メディアスペシャリストが隔月ぐらいに校長、職員、保護者に対してニュースレターを発行することであった

 1) 校長に対してのレター

 州が公表している基準に照らしてライブラリー・メディアスペシャリストがどのようにその基準に適合したカリキュラムを作っているかの報告書を出す。奴隷解放のストーリー紹介の折には、州の基準の何番に該当する、地理の勉強の時には、その基準の番号を書き、どのようなアクティビティでクラスの教師のカリキュラムを支えているかという内容の指導案の報告でもある。

 2) 教師に対してのカリキュラム表とニュースレター

 私の場合、教師が教室で教えていることをサポートすることの重要性を考え、図書室の壁に表を貼ることにした。その表に、教師が現在、何を教えているかを記入してもらう。惑星、動物の生息環境(ハビタット)、大統領、ナチスによるユダヤ人虐殺などの課題を書き入れてもらう。それにそって、図書室のカリキュラムを作成するのである。また、こちら側としては、図書室が主催する無料の本の配布の日、詩やバトル・オブ・ブックス(読んだ本のコンテスト)、ストーリーデイなどのプログラムを知らせる。

 3) 保護者に対してのニュースレター

 ストーリーデイに絵本作家などを招く場合には、保護者も招待する。ブックフェアへの招待、また手伝いなどを依頼する。無料の本の配布への案内など。何時でも気楽に本の貸し出しをして、子どもに本を読んであげるようにうながす。

 4) 他の機関、協会などとの連携・協力

 公共図書館の児童サービス担当司書とは、たえず連絡をとりあう。公共図書館の土曜日の児童向けプログラムは、校内にアナウンスしたり、生徒達によるポスターを作成したりして、協力する。夏休み前には、公共図書館の児童サービス担当司書を招いて、夏休みのリーディング・プログラムや新刊図書のブックトークを依頼。

 ニューメキシコ大学の学生達がリサーチに来ることが多いので、彼等の選書の相談役になること。

(4) 課題として認識していること

 学校のサポートチームの一員として、いかにクラス担任に協力してあげられるかは、常に認識していることである。しかし、一番の課題と意識していることは、ライブラリーに来ることによって、生徒達に読むことの楽しさ(love of literature)を知ってもらうことである。それは、新しい本のイラストからでもよいし、ライブラリアンが読んであげる本から、皆で一緒に声をあげて読む詩から、あるいは辞引き大会などライブラリーのプログラムからでもよい。未来を背負う子ども達にガイダンスを与え、相談役になってあげることである。