はしがき

第4章 米国の図書館に関する研究動向(はしがき)

 本章では、米国の図書館に関する日本国内の研究動向を見ていく。米国の図書館を実践モデルとして掲げてきたわが国では、館種やテーマを問わず米国図書館にかかわる多くの研究が行われてきた。本章では文献レビューの形で、日本におけるアメリカ図書館に関する研究動向を紹介する。

 実践に焦点を当てた研究が多くを占めるなかにあって、図書館史に関しては、米国の図書館の理念的基盤を扱う基本文献の翻訳が精力的に行われてきた。「図書館史に関する研究文献レビュー」では、翻訳された研究業績を中心に、米国における図書館史研究の動向が示されている。米国ではマイノリティ、メディア史、文化の政治的側面を視野に入れた図書館史研究が活発に行われており、図書館史は過ぎ去った過去を記述するものではなく、現在の実践と対峙しつつ参照すべき拠り所として捉えられている。

 「図書館における電子情報に関する研究文献レビュー」では、米国の大学図書館における電子的学術情報サービスの動向を紹介している。実践に直結するこの領域についてはタイムラグをおかず、米国の様々な動向が我が国に伝えられている。研究テーマも短期間で変遷しており、ここでは、近年、議論が高まりつつある電子ジャーナル、機関リポジトリ、大学図書館と情報産業の協同事業などを扱った日本の文献が整理されている。情報技術を駆使した新たなサービスはラーニング・コモンズといった新しい概念を生み出すなど、研究テーマは多様化する傾向にある。

 「図書館における教育・リテラシーサービスに関する研究文献レビュー」では、利用者教育から情報リテラシーの育成という流れに沿って、関連研究の展開を概観している。情報リテラシーは図書館の教育的機能と結びつく最も重要な概念として、米国では多様な研究が行われてきた。日本でも米国の動向を受け、学校図書館を対象とする児童・生徒の情報リテラシーの育成や批判的思考力についての議論が深められている。また大学でもeラーニングにおける図書館の役割が重視される中で、情報リテラシーにかかわる議論が高まっている。公共図書館や専門図書館を対象とする研究は少ないが、情報リテラシーは館種を問わず図書館にとって重要な概念であり、今後の研究が期待される。

 「日本におけるアメリカの図書館研究業績書誌」は、我が国のアメリカ図書館研究についての包括的な文献リストである。リストが示す通り、すでに膨大な研究がこの領域で行なわれてきた。本報告書が明らかにしてきたように、米国の図書館はアメリカ社会を基盤とした社会制度であり、日米の図書館には大きな違いがある。しかしながらその違いを乗り越えてアメリカの図書館サービスの守備範囲の広さや歴史的な蓄積から、日本の図書館が吸収すべき点はまだまだたくさん残されている。ここに挙げられた研究成果の上に、さらに新たな成果が積み上げられていくことであろう。

(吉田 右子)