E2454 – 第17回電子情報保存に関する国際会議(iPRES2021)<報告>

カレントアウェアネス-E

No.426 2021.12.09

 

 E2454

第17回電子情報保存に関する国際会議(iPRES2021)<報告>

関西館電子図書館課・松永しのぶ(まつながしのぶ)

 

  第17回電子情報保存に関する国際会議(iPRES2021;E2211ほか参照)が,2021年10月19日から22日の4日間にわたって中国・北京の中国科学院国家科学図書館でのオンサイトおよびオンラインのハイブリッド形式で開催された。開催時間はアジア時間で夕方からであり,欧州からも参加しやすい時間帯に設定されていた。17回目のiPRESは当初,2020年の開催を予定していたが,新型コロナウイルス感染症の感染拡大により延期された。2020年は代わりにオンラインイベント#WeMissiPRESが行われ,iPRESの正式な会議としては2021年が2年ぶりの開催であった。

   2004年に北京で「中国・欧州電子情報保存ワークショップ」として始まったiPRESは,電子情報の保存に係る政策や具体的な事例の紹介等,さまざまなトピックを幅広く扱っている。2021年は図書館員や学芸員,アーキビスト,大学関係者やIT技術者など,36か国から462人が参加していた。国立国会図書館(NDL)からは筆者を含め2人がオンラインで参加した。

  初日は『PREMIS保存メタデータのための辞書』およびMETS(Metadata Encoding and Transmission Standard)のメタデータ標準のチュートリアルが開催された。2日目にオープニングが行われ,以降,講演,事例報告,パネルディスカッションがなされ,最後にクロージングと賞の発表が行われた。

  筆者が参加したセッションの中で印象的だった発表は,独・フライブルク大学による,過去に作成されたインターネット上のインタラクティブな形式のデータベース等の保存方法に関する発表であった。データベースの周辺システムの陳腐化やメンテナンスの対象外になることにより,従来のウェブハーベスティングだけではデータベースにアクセスできなくなるという問題に対して,エミュレーション技術を用いてコンピュータシステム自体を保存することで対処するという内容で,今回のベストペーパーにも選ばれた。今後の活動として,インターネット上でアクセスできない外部データとの連携関係を維持できるようにすること,サーチエンジンからのアクセス等の発見可能性を増やすことや他のエミュレートされたウェブサイトとの連携があげられた。

  各国立図書館のデジタルコレクションの管理をめぐるパネルディスカッションでは,ニュージーランド,メキシコ,オランダ,米国,英国の国立図書館がそれぞれどのように資料のデジタル化やボーンデジタル資料の収集,ウェブアーカイブに対応していったかが振り返られた。2000年前後から本格的にデジタル化を始め,2010年代にボーンデジタル資料を対象とした納本法の制定が進められ,それと同じ時期にウェブアーカイブの正式開始をした国が多かった。近年は電子納本やソーシャルメディアへの投稿の保存,新しいフォーマットへの対応がどの国でも課題となっているとのことであった。またさまざまな機関とのネットワーク構築も積極的に進められている印象を受けた。チャット機能を用いた質疑では,NDLで行っている「国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(WARP)」(CA1893参照)で収集したインターネット資料からPDFなどの電子書籍・電子雑誌を抽出して「国立国会図書館デジタルコレクション」で保存・提供する事業についても言及された。世界からのNDLへの関心を実感するとともに,英語での発信の重要性を改めて認識した。

  全体として,開催地である中国のデジタル化やその活用に関する意気込みを感じた。例えば北京の故宮博物院からはデジタル化やウェブサイト構築についてのスピーチの他,デジタル化した資料のキュレーション,保存と利用に向けたインフラの整備や,書籍などとは違い検索ワードが固定化されていない美術作品にタグを付けることで検索を容易にするプロジェクトについての発表がなされた。コロナ禍による閉館で,故宮博物院にとってますますデジタル技術を活用していくことが不可欠となったという。大量のデータを作成,保存,管理しつつ,利用者のアクセシビリティも高めたインフラを構築していこうとする積極的な姿勢がうかがえた。また,国家科学図書館のスピーチでは,デジタルデータの保存と研究データのオープン化を通じ,中国が科学技術分野で国際的な躍進を目指す旨の発言が何度もなされた。

   3日目の基調講演では,新型コロナウイルス感染症のパンデミックの中で研究者と一般利用者がデータを利用していくための基盤をいかに構築していくかというテーマが扱われ,4日目には“COVID-19 and Digital Preservation”をテーマとするセッションが設けられた。新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴うさまざまな問題を受けて,デジタルに関する政策は世界的に新たな段階に入ってきている。年々増加していくデジタルデータを,正確性や安全性を担保しつつどのように管理・保存して提供していくかが,今後ますます課題になっていくと感じられた。

  第18回となるiPRES2022は英国・グラスゴーで,2022年9月12日から9月16日までオンサイトおよびオンラインのハイブリッド形式で開催される予定である。

Ref:
iPRES2021 17th International Conference on Digital Preservation.
https://www.ipres2021.ac.cn/
“#WeMissiPRES”. Digital Preservation Coalition.
https://www.dpconline.org/events/wemissipres
Emulation-as-a-Service. GitLab.
https://gitlab.com/emulation-as-a-service
国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(WARP).
https://warp.ndl.go.jp/
国立国会図書館デジタルコレクション.
https://dl.ndl.go.jp/
国立故宮博物院.
https://www.dpm.org.cn/Home.html
iPRES2022 18th International Conference on Digital Preservation.
https://ipres2022.scot/
工藤哲朗. 第16回電子情報保存に関する国際会議(iPRES2019)<報告>. カレントアウェアネス-E. 2019, (382), E2211.
https://current.ndl.go.jp/e2211
前田直俊. ウェブアーカイブの利活用に向けた動き―世界の潮流とWARPの取組― . カレントアウェアネス. 2017, (331), CA1893, p. 9-13.
http://doi.org/10.11501/10317594