E2091 – あらゆる人が集う場所に:英・公共図書館建築の優良事例から

カレントアウェアネス-E

No.360 2018.12.20

 

 E2091

あらゆる人が集う場所に:英・公共図書館建築の優良事例から

 

   英国では,ユニバーサルデザインの考えが重視され,公共図書館(以下「図書館」)においても,「認知症にやさしい」「自閉症にやさしい」施設となるための職員向け研修の実施や,自閉症を抱える住民とその保護者等向けの図書館利用ガイドの作成(スコットランド),認知症を含めたメンタルヘルスの不調を抱える住民を対象とした読書療法の取組“Books on Prescription”への政府助成の開始(ウェールズ)等,数多くの施策が実施されている。

   世界図書館情報会議(WLIC):第84回国際図書館連盟(IFLA)年次大会(E2078参照)の「図書館におけるユニバーサルデザイン」に関するセッションで発表した英国のストックトン=オン=ティーズ市図書館のフリーマン(Mark Freeman)氏は,上記のように近年の英国の状況を概観したうえで,図書館建築においてもユニバーサルデザインの考えに即した変化が見られるようになり,障害者のための専用空間を設けるような館は減少し,より幅広いニーズを組み込んだ柔軟な空間設計を行うようになってきていると報告している。

   本稿では,同氏の発表予稿等をもとに,地元の建築協会との建物共有により低コストでの改修を実現したヤーム図書館(イングランド・ダラム),家庭支援センターの職員と連携して改修を行ったチェルムズフォード児童図書館・家庭支援センター(イングランド・エセックス),「認知症にやさしい」施設を目指し関係団体・研究機関と連携して建設されたグレート・サンキー地域拠点図書館(イングランド・チェシャー),館内の未使用空間にメイカースペースを設置したアンマンフォード図書館(ウェールズ・カーマーゼンシャー)の4館の事例を紹介したい。

●施設のバリアフリー化

   図書館をバリアフリー化するための改修は各種取り組まれているが,その取組は,エントランスへのスロープの設置や自動ドア化・トイレの改修(ヤーム図書館)といった身体障害者への配慮以外にも広まっている。

   例えば,館内の見通し確保に加え,閉所恐怖症の利用者に配慮した低書架の導入や,認知症の利用者や色覚障害者のための色彩計画の採用(ヤーム図書館),自閉症児等特別なニーズのある子どもに配慮した色彩・材質・照明の導入(チェルムズフォード児童図書館・家庭支援センター),認知症の利用者に配慮した導線・照明・音響・空調・色彩・什器・サインの採用(グレート・サンキー地域拠点図書館)といったような,精神障害・知的障害を抱える利用者にとっても使いやすい図書館となるような工夫が行われている。そして,このような配慮は,障害者のためのみでなく,優れた公共施設の条件を満たすためにも必要なことであるとされている。なお,グレート・サンキー地域拠点図書館の成功は,同館が所在するウォリントンの他館を「認知症にやさしい」図書館に改修する契機となったとのことである。

●図書館に馴染みのない住民の利用促進

   ユニバーサルデザインの概念を考えた時,障害を抱えていない住民にとっても図書館が利用しやすい施設である必要があるだろう。今回取り上げた4館では,施設のバリアフリー化に加えて,これまで図書館に馴染みがなかった住民の図書館利用の「壁」を下げ,利用を促すための工夫も行われている。

   例えば,図書館スペースへのキャスター付きの書架導入による閲覧室の柔軟な利用や,屋外読書スペースや自動貸出機の設置のほか,役所の証明書自動交付機の設置や金融サービスを提供する地元建築協会の支部開設による,双方の利用者数・顧客数増の実現(ヤーム図書館),明るい児童エリアとは異なる,ソファ・テーブルやコンピューター・タブレット・充電用USBポート等を備えた,落ち着いた色彩のヤングアダルト(YA)エリアの設置によるYA層の利用増(チェルムズフォード児童図書館・家庭支援センター),児童スペースでの図書館サービスに加え,娯楽・文化・体育施設との複合館として長時間開館している施設内に図書館を分散配置することで,各施設の利用者が図書館サービスに触れる機会を増やす取組(グレート・サンキー地域拠点図書館),メイカースペースの設置による,これまで図書館を利用したことがない住民の図書館への誘導による登録利用者増(アンマンフォード図書館)といった事例が紹介されている。

   日本でも,近年,図書館が賑わい創出のための拠点や,「第三の場」として期待されている。あらゆる人が集える,真の出会いの場・交流の場となるためには,また,多様な職員が働きやすい職場となるためにも,計画段階からこのようなユニバーサルデザインの観点に立脚しておくことが必要であろう。

関西館図書館協力課・武田和也

Ref:
http://library.ifla.org/view/conferences/2018/2018-08-26/902.html
http://library.ifla.org/id/eprint/2251
http://library.ifla.org/2251/1/094-freeman-en.pdf
https://librariestaskforce.blog.gov.uk/2016/12/12/yarm-library-co-locates-with-newcastle-building-society/
https://librariestaskforce.blog.gov.uk/2018/03/28/a-new-space-for-children-and-families-in-chelmsford-library/
http://www.designinglibraries.org.uk/?PageID=1508
http://newsroom.carmarthenshire.gov.wales/2018/03/ammanford-library-leads-the-way-in-digital-technology/
E2078