E2038 – 図書館への資金拠出に関して有権者の支持を得るには(米国)

カレントアウェアネス-E

No.349 2018.06.28

 

 E2038

図書館への資金拠出に関して有権者の支持を得るには(米国)

 

    2018年3月,公共図書館(以下「図書館」)への資金拠出を活発化させるため,誰に,どのように働きかけることが有効かという問題意識のもと,米・公共図書館協会(PLA)・米国図書館協会(ALA)・OCLCが共同で実施した調査の報告書“From Awareness to Funding: Voter Perceptions and Support of Public Libraries in 2018”が公開された。OCLCが2008年度に行った調査(E818参照)のその後の変化を把握し,今の時代に即したアドヴォカシー活動を提案することが目的である。

    調査は,前回と同じ調査会社により,2017年9月29日から10月4日にかけて,人口規模が30万人以下の地域の18歳から69歳までの有権者2,000人を対象にオンライン調査で行われた。前回と調査項目は同一項目であったが,近年の新しい図書館サービスへの理解や利用状況,地域社会発展への図書館の貢献に対する認識,図書館の運営資金に関する考え方,図書館の資金調達活動に対する寄付状況,等といった追加調査も行っている。なお,前回実施した質的調査や,地方公務員を対象とした調査は行なわれていない。

    報告書では,今回の調査結果の特徴や,前回との比較を述べた上で,全般的な傾向として,図書館が,引き続き多くの有権者から地域社会にとって有用で価値あるものと肯定的に捉えられていることがわかったとする。一方で,前回より下落傾向の項目が多く,地方政府が拠出する運営資金への依存度が高まるなか,税金の拠出に関する支持が減少していることに言及し,ベビーブーマー(1940年代後半から1960年代生まれ)の図書館支援者の高齢化・人口減少や,情報へのアクセス方法の変化がこの傾向を加速し,将来の運営資金に影響を与えると指摘している。

    ところで,前回調査では,図書館への考え方に基づき,住民を,積極的支援者,潜在的支援者,不支援者,不投票者の4層に分類し,さらに,10の区分((1)積極的支援者:6.5%,(2)図書館は公益物:6.7%,(3)図書館員に期待:5.9%,(4)図書館を仕事に活用:3.4%,(5)図書館は子どもの教育資源:5.2%,(6)図書館は娯楽施設:4.5%,(7)ウェブ万能主義:12.1%,(8)図書館に無関心:17.7%,(9)貧困:9.5%,(10)不投票者:28.6%。なお,数値は今回調査における割合。)にセグメント化している。本報告書では,前段落で述べた課題に対応するため,今回調査におけるこの10区分ごとの特徴や前回からの変化を概観したうえで,図書館への資金拠出への支持を拡大するための要点を以下の通り提案している。

    1点目では,コミュニケーションの手段が多様化した社会においてアドヴォカシー活動を実施するうえで,上記10区分ごとの効率的で適切な広報手段を検討すべきとする。そして,これまでの手法に加え,近年普及しているSNSも活用し,最近の図書館サービスは地域社会の改善に貢献することを周知すべきとする。2点目は,図書館への態度が好意的な区分への対応で,貸出・複写等伝統的な図書館サービスの利用が減少しているなか,個人の能力向上や交流の場といった近年の新しい機能への支持を拡大させる必要性をあげる。3点目は,「潜在的支援者」層(区分(2)(3)(4)(5)(6))のうち,これまで図書館が重視してきた図書館を子どもの教育資源と考える区分(5)の支持が減少していることに危機感を持つべきとする。子どもにとって図書館が重要と考える親の割合は依然高いことから,将来の図書館利用者でもある子どもの放課後活動の動向やニーズを把握すべきとする。4点目は,前回から割合が不変で,利用も多く,税金を追加で支払うことにも好意的な「積極的支援者」層である区分(1)の支持拡大をあげる。また,政策決定者や,「不支援者」層(区分(7)(8)(9))への働きかけ等での協働の必要性も指摘する。5点目は,「潜在的支援者」層のなかで図書館を仕事に活用している区分(4)への関与拡大である。占める割合は少ないものの,図書館の情報源を信頼するヘビーユーザーでもあり,「積極的支援者」層である区分(1)よりも年齢層が若く,図書館への寄付も多い。同区分に対して積極的に働きかけることで,若年世代のなかでギグ・エコノミー(インターネットを通じた単発・短期の仕事)が拡大すれば,図書館利用や資金拠出の拡大が見込めるとする。6点目は,コミュニティの課題に対応し,安全で,多様な人々を結び付ける「第三の場」としての図書館の重要性を主張することをあげている。7点目は,前回調査(34.0%)から39.3%へと拡大している「不支援者」層を減少させることである。同層が重視することを理解してプログラムに取り入れ,特にインターネット上の情報を重視する区分(7)に対して,デジタル社会における社会的包摂の実現に不可欠な物理的な空間としての図書館の役割を速やかに提示すべきとする。8点目は,地域社会の改善を目的とした図書館への資金拠出に関する有権者の支持が減少していることから,図書館への投資が地域社会を改善させることを明瞭に示すことの重要性を指摘する。

   前回調査では,調査結果を受けて,人々に図書館の価値を認識してもらうこと等により長期的に図書館の運営資金を増進・確保するための全国活動“Geek the Library”(図書館に夢中)が実施された(E1822参照)。今回の調査結果を受けた米国の図書館界の今後の活動に注目しておきたい。

関西館図書館協力課・武田和也

Ref:
http://www.ala.org/news/press-releases/2018/03/new-national-study-reveals-voter-perceptions-libraries
https://www.oclc.org/research/awareness-to-funding-2018.html
https://www.oclc.org/research/publications/2018/oclcresearch-awareness-to-funding.html
https://www.oclc.org/content/dam/oclc/reports/awareness-to-funding-2018/2018_From_Awareness_to_Funding_Report.pdf
https://www.oclc.org/content/dam/oclc/reports/awareness-to-funding-2018/2018_From_Awareness_to_Funding_Infographic.pdf
E818
E1822