E1523 – 農業関連の文献データベースAGRISとそのリニューアルについて

カレントアウェアネス-E

No.252 2014.01.23

 

 E1523

農業関連の文献データベースAGRISとそのリニューアルについて

 

 国際連合食糧農業機関(FAO)が構築し無償で提供している文献データベース,AGRISが2013年12月4日にリニューアルし公開された。

 AGRISは農業と関連する科学技術情報を世界的に共有するために1975年から構築されている書誌情報のデータベースで,現在では世界65か国の150以上の機関の協力の下,書籍,会議録,学術論文,学位論文などの文献情報約760万件以上を収録するに至っている。その収録範囲は食糧,栄養,畜産業,林業,漁業,環境など農業とその関連分野に渡る。日本では,農林水産研究情報総合センターがインプットセンターとして国内で刊行される学術雑誌や大学紀要,国公立試験研究機関の報告類より毎年約7,000件の原著論文を採録しFAOに提供している。

 オープンアクセスの進展もAGRISの理念に合致している。AGRISには,農業関連の科学技術情報に限らず,各国で作成された灰色文献の書誌情報も収録されている。AGRISから各国のインプットセンターのリポジトリへリンクすることで,これらの全文へのアクセスをより容易にし,特に発展途上国における農業研究への貢献を目指している。

 FAOではインプットセンターに対して,AGRISへのデータ提供と同時に,自機関の情報資源の構築や管理,提供と集約までを一元化できる環境を整えるため,AGRISの入力支援ツールを無償で公開している。そのうちの一つ,AgriOcean DSpaceは,DSpace(CA1527CA1639CA1690参照)をベースにカスタマイズされたソフトウェアで,AGROVOC(後述)のキーワードを参照しつつ容易にデータ入力を行えるほか,さらに自組織のリポジトリとしても利用できる。このリポジトリに対してFAOからOAI-PMH(CA1513参照)でメタデータをハーベストすることにより,AGRIS構築用のデータとしている。このような各国のインプットセンターとFAOとの関係は,大学等で構築している機関リポジトリと国立情報学研究所が提供するJAIRO及びCiNiiの関係とそのネットワークをグローバルに展開したものといえよう。

 今回のリニューアルでは,Linked Open Data(LOD;CA1746参照)の活用により,検索結果に関連する情報を表示するなどの機能強化が図られた。FAOでは,2011年から OpenAGRISとして,AGRISの検索結果である書誌情報とFAOが提供する統計情報など他の情報資源とをリンクするサービスを試行的に提供していたが,これをAGRIS2.0として正式に公開したものである。

 AGRISのデータには,FAOその他で共通の語彙として利用されている農学分野のシソーラス,AGROVOCのキーワードが付与されている。このほか書誌情報は,共通的な事項はダブリンコアで,AGRIS独自の項目はAgMES(Agricultural Metadata Element Set)と,二つのメタデータスキーマを使用するAGRIS APにより記述されている。AGROVOC,AGRIS APのいずれもデータ形式としてRDFが利用されており,今回のリニューアルで実現された「他の情報資源とのリンク」はこれらの技術要素の採用により実現している。

 例えば,「稲」の学名である“Oryza sativa”で検索した結果からは,以下のような情報を表示する。

  • 検索結果一覧表示でのファセット表示(絞り込み項目)
    • 使用されているAGROVOCのキーワード上位10件とそれぞれのヒット件数
    • 入力を行った国とヒット件数
    • 書籍,会議録,学術論文,学位論文など文献の種類
  • 検索結果詳細表示から他の情報資源へのリンク
    • 同じ掲載誌のその他の論文
    • Googleの検索結果を基にした本文PDFまたは関連文献へのリンク
    • 世界銀行のデータを出典とする国別の穀物収量
    • 地球規模生物多様性情報機構(GBIF)のデータを出典とするイネ科品種の分布図
    • DBpedia(Wikipediaから構造化された情報を抽出してLOD化したもの)のデータを出典とする用語集

 この他,“Tuna”(マグロ)の検索結果からはFAO Fishery Statisticを元にした年ごとの漁獲高統計が表示される。このような関連情報は,AGROVOCをキーとして,あるいはRDFで記述された書誌事項を元に機械的にリンクを生成している。このため,AGRIS自体のメタデータ記述と内容の精粗により,関連情報そのものの表示の有無や精度が異なる。

 一口に「農業関連」といえども,その主題分野は植物学,生物学,獣医学,経済学,社会学と幅広い。近年では,「6次産業化」といわれる第1次産業と第2次,第3次産業との融合や,「スマート農業」としてロボット技術やICTを活用した超省力・高品質生産を実現する新たな農業の実現が目されるなど,様々な分野との連携が進んでいる。一方で,日本政府においては,「電子行政オープンデータ推進のためのロードマップ」に基づき,2013年12月20日に「データカタログサイト試行版」が公開されるなど,オープンデータ活用の気運が高まりを見せている。このような状況下において,AGRIS2.0はこれまでの文献検索サービスの枠を大きく超え,ディスカバリサービス(CA1727CA1772参照)のようにリンクをたどり関連する情報を発見できるツールとしてのニーズと可能性を秘めているといえよう。

農林水産研究情報総合センター・林賢紀

Ref:
http://agris.fao.org/
http://aims.fao.org/
http://www.slideshare.net/faoaims/agris2
http://www.fao.org/docrep/008/ae909e/ae909e00.htm
http://aims.fao.org/standards/agrovoc/about
http://aims.fao.org/agriocean-dspace
http://dx.doi.org/10.1108/14684520810897359
http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.52.710
http://dx.doi.org/10.3173/air.17.42
http://www.data.go.jp/
CA1513
CA1527
CA1639
CA1690
CA1727
CA1746
CA1772