E1350 – 英国RLUKが設計したEJビッグディールへの代替案<文献紹介>

カレントアウェアネス-E

No.224 2012.10.11

 

 E1350

英国RLUKが設計したEJビッグディールへの代替案<文献紹介>

 

McGrath, Mike. Fighting back against the Big Deals – a success story from the UK. Interlending & Document Supply. 2012, 40(4). (pre-publication)

 電子ジャーナルのビッグディール契約(CA1586参照)には,購読していないタイトルの利用が可能になるというメリットがある一方で,契約開始時の購読規模を維持することが求められるという問題点もある。毎年値上がりが行われる高額なビッグディール契約をどのように維持していくか。あるいは利用可能なタイトル数の激減を引き受けてでも契約を中止するのか。これは国内外を問わず多くの大学・研究図書館において共通の課題となっている。

 上記の文献は,英国研究図書館コンソーシアム(RLUK)加盟館のうち21館が,Elsevier社及びWiley社との2012年契約交渉に向けてビッグディールの代替案を設計した事例について紹介したものである(E1220参照)。著者のマグラス氏はそのプロジェクトマネージャーを担当した人物である。

 この代替案は“Plan B”と称されている。一言で言えば,利用が多く,必要なジャーナルのみを個別に購読し,それ以外のジャーナルに掲載された論文については英国図書館(BL)や図書館間のドキュメントデリバリーを利用する,というモデルである。そこでは電子ジャーナルの購読額とドキュメントデリバリーのコストを合わせて,現在のビッグディール契約額より15%削減することが目標とされている。このモデルの背景には,よくアクセスされるタイトルは全体のごく一部にすぎないという利用実態がある。

 文献のメインとなる部分では,Plan Bを構成する9つの要素―タイトル選択とドキュメントデリバリーのバランス設計,ドキュメントデリバリーワークショップ,設計ワークショップ,ドキュメントデリバリーの増加によって必要となるリソース,ドキュメントデリバリーのコスト,タイトル選択,コミュニケーション,リスク分析,タイムテーブル―のそれぞれについて詳しく説明されている。

 そのうちもっとも重要な「タイトル選択とドキュメントデリバリーのバランス設計」については,Excelシート上に様々な数値を入力して,各タイトルの利用回数当たりの予測単価や,ドキュメントデリバリーの平均コストなどを算出するプロセスが紹介されている。ここでは,予測単価を求めるための調整係数として,“真”に必要なダウンロードの割合(Elsevier社については65%と見積もられた),年間利用数の予測増加率(30%),ダウンロードできなくなった論文に対するドキュメントデリバリーの予測申込数(余裕を持たせて35%),各タイトルの2012年価格予測上昇率(107.5%),が設定された。また,ドキュメントデリバリーの平均コストにおいては,申込先の比率をBLへ50%,RLUK加盟館へ40%とし,残り10%はオープンアクセスで利用可能と想定された。最も困難だったのは,ビッグディール契約の中止に伴って利用不可能になるタイトルを正確に求めることだったと述べられている。

 結果として,2011年9月にElsevier社及びWiley社との間でまとまった契約において,向こう5年間で総額2,000万ポンドの削減を勝ち取るという成功を収めることができたため,Plan Bは導入の必要がなくなったということだが,ここで設計されたモデルは参考になるだろうとされている。

 また,設計の過程でいくつかの教訓が得られたという。そのひとつとして,ジャーナルの契約中止によるドキュメントデリバリーへの影響はわずかであることが挙げられている。ダウンロードできなくなった論文数に対してドキュメントデリバリーが申し込まれる割合は0.3%~5%程度であることが分かり,おそらく多くの論文はダウンロードされても読まれていないのではないかと述べている。論文がすぐに利用できなかったときに利用者がどのような行動を取るかについては更なる研究が必要であるとしている。

 結論部分では,Plan Bは今回のプロジェクトの一要素に過ぎないものの,成功に至った要因のひとつであるのは明らかであるという。このような徹底的な手法を取ることでかなりの緊張感が生じたが,Elsevier社やWiley社の綿密なビジネスモデルに対して衝撃を与え,彼らが,タイトル単位の契約に逆戻りすることはリスクに見合わず,全く不都合であると考えたということが分かったということである。

 現在,Plan BをRLUK以外においても使用できるように扱いやすいかたちにしたものを準備中であるとされている。

(関西館図書館協力課・林豊)

Ref:
http://www.emeraldinsight.com/journals.htm?articleid=17056459
CA1586
E1142
E1220