CA951 – スラブ・東欧関係資料の滞貨をどう減らすか / 兎内勇津流

カレントアウェアネス
No.179 1994.07.20


CA951

スラブ・東欧関係資料の滞貨をどう減らすか

「スラブ・東欧諸語や旧ソ連邦の非スラブ系諸語で書かれた資料の整理滞貨は,死や税金と同じく避けられない」という,インディアナ大学図書館でスラブ資料の目録を担当するジャックリーン・バード(J. Byrd)女史の見解は,われわれ日本の図書館員を安心させてくれる。

ロシア語資料の持つ価値の講釈はともかく,ラテン文字を見慣れた目には異様にうつるキリル文字で表記され,ゲルマン系でもロマンス系でもない語彙と文法を持つこの言語にかかわることは歓迎できないと思う図書館員は少なくはあるまい。1950年代以降,ロシア研究者の増加,低廉な資料価格,国際交換の隆盛といったこともあり,大学図書館を中心に多数のロシア語資料が受け入れられるようになったが,これに堪能な図書館員を整理部門に擁する日本の図書館の数はそう多くないものと想像される。ましてやロシア語以外のスラブ系言語(チェコ語,ウクライナ語など)や,東欧・ソ連の非スラブ系言語資料(グルジア語,カザフ語,ハンガリー語など)への対応にはさらなる困難がある。

アメリカの大規模な学術図書館では,スラブ部門が組織としてあったり専任目録担当者がいることが普通とはいえ,やはりこうしたすべての言語に対応することは難しい。ロシア語以外のもう一つの言語能力のある職員を置くようにしているところが多いというが,しばしば受け入れが整理能力を上回り,滞貨が生じてしまう。この問題は1991年にマイアミで開かれたアメリカスラブ研究学会でも取り上げられた。ここでは,1)コピー・カタログできないものが後回しにされる結果,どこでもスラブ・東欧関係資料が滞貨となること,2)スラブ・東欧関係資料の整理業務の優先順位を引き下げたり,整理を殆ど停止してしまっている図書館があること,3)コピー・カタログ出来るかどうか調べる職員がヒットするレコードを発見しそこなって,オリジナル整理のグループに入れられる資料がしばしばあり,滞貨を増やしていること,といった問題点が指摘されたという。

オハイオ州立大学で行われた滞貨資料の分析においても,スラブ資料,特に1945年以前に刊行された図書は,OCLCなどからコピー・カタログできる割合がそれ以外の滞貨資料に比べてはっきり低かったと,サリー・ロジャーズ(Sally A. Rogers)が報告している(OCLCにヒットする割合は,1945年以前刊行のスラブ資料が22.8%,1945年以後のスラブ資料は42%,それ以外の滞貨資料では65.8%)。

ロシア・東欧での出版点数の減少,出版物価格の高騰などにより,受入資料は当面は減少傾向にあるものの,旧ソ連・東欧地域では出版物の国際交換を希望する機関が増加しそうな情勢である。また,予算削減のあおりでスラブ資料の目録担当者が削減・配置転換されたりしては,滞貨解消どころの騒ぎではない。

さて,その解決策としてバードが提案するのは共同目録プロジェクトである。それぞれの参加館が責任を持って一定領域の資料の整理を分担する。たとえばセルビア・クロアチア語は得意だがチェコ語は苦手という館では,セルビア・クロアチア語図書を優先的に整理する。こうして得意の分野を生かして目録源として使えるデータを効率的に増やそうというのである。

こうした共同目録事業としては,例えば1988年以来LCが中心となって推進してきたNCCP(CA523参照)がある。このプロジェクトは,LCの図書データベースに,いくつかの学術図書館が作成する書誌レコードも受け入れることにより,その充実とタイム・ラグの縮小をねらったものだが,LC以外の参加館に負担に見合ったメリットを提供するまで至らず,順調に発展しているとは言えないようである。

バードはLC中心のNCCP型でなく,参加館が対等のパートナーとして協力しあうCONSER 型をよいとする。また,このプロジェクトのために作成された書誌レコードは,OCLCとRLIN の両方で使えるようにすること,参加館がこのプロダラムのために別個の体制を組まずに済むようにすることが重要だと指摘する。(*)

目録規則というものは,資料の書かれた言語を知らない人が目録を作成できるようにするためにあると言った同僚がいたが,発想の筋としてはよくとも,現在の目録規則はそうではない。

今回の提案の実現可能性について筆者はコメント出来ないが,日本でも例えばアジア諸国との交流の進展により,アジア諸言語の資料を大量に収集することが必要となる時が来るであろう。そうした時の対処について今から思い巡らすのも無駄なことではあるまい。

兎内勇津流(とないゆづる)

(*)バードはこのように言うが,CONSERでは,LCは単なる参加館ではなく,センターとしての役割を果たしていることに注意したい。マンデル(Mandel)の論文を参照。

Ref: Byrd, J. A Cooperative cataloging proposal for slavic and East European languages and the languages of the former Soviet Union. Cat Classif Q 17 (1/2) 87-96, 1993
Wiggings, B. The National Coodinated Cataloging Program. Cat Classif Q 17(3/4) 163-188, l993
Rogers, S.A. Backlog management: estimating resources needed to eliminate arreareges. Libr Resour Tech Serv 35(1) 25-32, 1991
Mandel, C.A. Cooperative Cataloging: models, issues, and Prospects. Advances in Librarianship 16,33-82, 1992