CA925 – 逆境を乗り切る図書館もある:ライブラリー・オブ・ザ・イヤー / 小林昌樹

カレントアウェアネス
No.174 1994.02.20


CA925

逆境を乗り切る図書館もある−ライブラリー・オブ・ザ・イヤー−

1993年のライブラリー・オブ・ザ・イヤーは,テキサス州オースティン公共図書館が受賞し,5000ドルの賞金を受け取った。

この賞はLibrary Journal誌とゲール・リサーチ社が主催するもので,今回が2回目である。1回目は昨年,カリフォルニア州レッドウッド市公共図書館が受賞した。受賞の要件は 1) コミュニティに対する卓越したサービス,2) 市民のニーズの変化に対応する創造性と改革,3) 図書館界におけるリーダー的役割,の3つである。

レッドウッド図書館の場合,l988年の新館への移転が活動の発展,ひいては受賞のきっかけになった。老朽化した施設の補修に力をそがれていたからともいえるが,一つには移転をきっかけに新たな活動方針を策定したことが発展の原因となった。

当時,レットウッド市は社会的に大きな変化をとげつつあった。ヒスパニック系市民が過去10年間に倍増し,全人口の20%を占めるまでになり,彼らに第二言語としての英語を教える必要が増大した。このことが図書館の新しい活動方針に大きな影響を及ぼし,新しい方針で図書館は基本的に「一般読書センター」として機能する方向が定められた。新館は,書店などの実地見学をもとに書店のようなレイアウトを施され,蔵書内容も実用書主体に複本が多く備えられたものとなった。なかでも特色あるのは,図書館サービスおよび建設法の補助を受けて構築したスペイン語コレクションであり,過去3年間で3倍に増加させた。

このような準備に加え,利用者サービスに重点を置いた結果,1992年には貸出件数が47%増加した。また,小学校とも密接な協力関係を持ち,児童サービス担当が各校を訪問し,お話し会や図書館のお知らせを行っている。この時にもスペイン語を話す割合の多いクラスへは,バイリンガルの職員を派遣するようにしているという。レッドウッド図書館の場合,このように奉仕対象となる社会階層を意識的に変え,その結果として劇的な成果を上げたことが,受賞の原因となったといえよう。

オースティン公共図書館の場合,一般市民と市政当局とのよい懸橋となったことが受賞理由とされた。まず図書館側が市当局の始めた「創造性プログラム」を受け入れた。このプログラムは市職員に新しい発想を促すというものであった。また,これも市当局が行政に導入したトータルクオリティマネジメント(TQM)とがあいまって,図書館もリスクの高い改革を導入できるようになった。例として図書館内に設置された職業情報センターがあげられる。これは,多くの市民に利用されている。

このような革新的なサービスが展開できたのも図書館にTQMを導入した結果とされる。これによって組織内のコミュニケーションが活性化し,アイデアも生かされるという。

市当局や市民もオースティン図書館の活動を評価した結果,図書館にl639万ドルが計上され,6分館の新築や改装がなされることとなった。

オースティン図書館の場合,厳しくなる予算削減の圧力を,経営改革の導入によりサービスを改革することで乗り切った点が評価されたといえる。

以上2つの「ライブラリー・オブ・ザ・イヤー」の受賞例は,どちらも現代米国の図書館界が対応を迫られている状況を象徴したものであろう。従来の図書館の枠組みを越えた対応をしなければならないほど米国の図書館界は変化の波を受けているといえる。

小林昌樹(こばやしまさき)

Ref: Berry, John. Redwood City Public Library. Libr J 117 (11) 32-35, 1992
Berry, John. Austin Public Library. Libr J 118 (11) 30-33, 1993