CA895 – 「雑誌と図書館」をテーマに討論:第9回図書館フォーラム開かれる / 江澤和雄

カレントアウェアネス
No.168 1993.08.20


CA895

「雑誌と図書館」をテーマに討論
−第9回図書館フォーラム開かれる−

館種を越えて図書館に関わる様々な問題を討議する場として定期的に行われている図書館フォーラムの第9回フォーラムが7月3日(土)午後,東京神楽坂のエミールにて開催された。今回は,「雑誌と図書館−雑誌資料の活用と可能性」をテーマに,報告と討論が行われた。伊藤宏氏(国立国会図書館)の司会のもと,丸谷洽一氏(東京工業大学図書館)「大学図書館における雑誌の提供」,松下真也氏(早稲田大学図書館)「情報資源としての雑誌資料−大学図書館における雑誌の位置」,田中ヒロ氏(東京都立多摩図書館)「公共図書館サービスと雑誌の活用」,大場誠氏(大宅壮一文庫)「大宅文庫の索引事業を語る」,の4つの報告が行われた。

最初に丸谷氏が40年以上前に「逐次刊行物の時代の到来」を予見したオズボーンの話をまじえながら,西欧では雑誌そのものを図書館業務の観点から研究しようとする動きがみられるのに対し,日本では図書館サイドからの雑誌研究が遅れている現状を指摘し,雑誌自体に対する理解の重要性への注意を喚起した。その上で雑誌提供サービスにとっては,雑誌の十分な理解と提供環境及び提供方法の改善,アクセスツールの整備などが重要であるとする問題提起を行った。次いで松下氏は,新館なった早稲田大学図書館とそこで使われているWINEシステムの現状と問題点を説明し,専門分野での学部自治が中央館の性格に影響を与えている点や,システムにおける検索の不便さや検索手段の不備などの問題に言及して,利用者の実態と利用者からの苦情等を手掛りに雑誌の利用提供の改善に取り組んでいる現状を紹介した。さらに田中氏は,「提供することにより需要を掘り起こす」という多摩地区の図書館活動の実践を背景にもつ多摩図書館の活動を紹介した。地域図書館を通した協力貸出の現状や市町村図書館における雑誌の短期保存と都立への要求の大きさなどにふれ,また,『雑誌記事索引』に収録されていない雑誌の利用提供や提供出来ない資料を減らしていく方策などの問題を取り上げ,『雑索』と『大宅文庫索引』との狭間にある資料群への対応を課題として上げた。最後に大場氏は9千タイトル,40万冊の雑誌をもつ大宅文庫の性格を,大宅壮一の「つまらん本ほどいいんだ。或は一時大衆の間に圧倒的に受けて,今はもうゴミための中にあるようなものがいいんだ」という言葉を引用しながら紹介し,マスコミ関係者の拠り所となっている現状を語った。また,松田聖子が一位を占めた総合人名索引ランキングの話もまじえながら,人名,件名合わせて190万件に及ぶ索引とその作業について説明した。そして,索引の作成,検索についてコンピュータ化に取り組んでいるが,未だ試験的段階にとどまっている現状についてもふれた。

続く討論では,索引に関して,『雑索』や『大宅文庫索引』の存在の重要性を認めた上で,両者の間を埋めるために独自にカードを作成したり,総目次等を集めて活用しているなどの取り組みが紹介され,また公共図書館利用者向けのテーマ別索引の必要性などが指摘された。また,利用の面では,雑誌の利用について利用者がもっと声を大きくして図書館を動かしていくべきではないか,利用の分散という面から,すぐに国会図書館に頼るのではなく市町村図書館を通じた利用を増やしていけないか,総合目録などによる地域的な協力関係の積み重ねが大事,などの意見が出された。さらに,雑誌そのものについて,これまでの図書館は図書を中心に考えて雑誌の対応については十分論議されてこなかったが,これだけ雑誌の比重が高まる中で,質,量,規模に適合した提供利用方法の再検討が必要ではないか,などの意見が出された。

フォーラムでは,もう一度同じテーマで議論を深めたいとしている。

江澤和雄(えざわかずお)