CA887 – 著作権法改正案とLCの納本制度に対する認識 / 坂本博

カレントアウェアネス
No.167 1993.07.20


CA887

著作権法改正案とLCの納本制度に対する認識

アメリカの連邦議会には1会期に1万前後の法案が提出されるが,成立するのは数百である。法案が提出されただけではニュースにならない。興味深いのは3月4日の公聴会で示された米国議会図書館(LC)の納本制に対する認識である。

現行のアメリカ著作権法では,著作権侵害訴訟を提起するにも(411条),法定の賠償金を受け弁護士費用を侵害者に負担させるにも(412条),当該著作がLCの著作権局に登録されている必要がある。2月16日に下院に提出された法案(HR897)は,この要件を削除するものであった。登録には著作物の納入をともなうが,LCの蔵書にするための納本義務は,別の規定(407条)で定められている。その規定では,アメリカで出版された著作の著作権者は出版後3カ月以内に最良版の完全なもの2部をLCに納本しなければならない。この納本は著作権保護の要件ではないが,書面による督促後3カ月以内に履行しなければ,$250以下の罰金(国庫に入る)と,LCの定める基金(LCが使用できる)に当該図書の小売り価格を払い込まなければならず,故意もしくは常習的にこの義務を履行せず又は拒否した場合には,$2,500の罰金が追加される。秩序罰として小売り価格の5倍以内の過料が国庫に納められるだけ(国立国会図書館の資料購入費にはならない)のわが国の納本強制手段(館法25条の2)よりも厳しい。この納本規定があるにも関わらず,なぜかLCは著作権確保のための登録制の緩和に反対したのである。

第一の理由は分かりやすい。テレビ番組,楽譜,建築設計図,写真など出版されない著作の収集に困難を来すからである。出版されないものに407条の適用はないから,LCが蔵書に加えたければ登録時に納入されたものを回せば購入せずに済み都合がよい。だからビリントン館長は,修正案はLCのこれらの資料の収集を困難にし,LCと納税者に高額の負担を課すものだと指摘している。第二の理由には説明がいる。411条や412条は強制なしに進んでLCに著作物を納めようとさせる誘因になっている,だからその廃止は結果的にLCの資料収集能力に影響するというものである。1992年に蔵書に加えられた図書の85%以上,映画の90%以上,レコード盤の94%近くが著作権登録に伴うものであった。昨年は約65万点が著作権登録され,LCはそのうち必要なものを蔵書に加えることができたのである。登録によってLCが入手できた資料の価値は$1,200万と計算されている。また登録で得られた複本は交換に活用されている。

LCが著作権登録による自発的な納本の無い著作物を法定納本制で確保しようとすると,1万点につき$110万の費用を要すると試算している。これには司法省が法の執行に要する費用は含まれていない。国立国会図書館も自ら過料を徴収することはできず,非訟事件手続法に従って裁判にかけなければならない。その結果が小売り価格の5倍では,高額の罰金を定めた独禁法のように一罰百戒にもならず,実行は困難と思われる。

要するにアメリカ著作権法は,LCに納本すると著作権者が得をするアメと,納本しないと損をするムチを備えているが,著作権者は専らアメの方を意識して納本しており,LCもよくそれを認識していることになる。このアメには今回改正の対象となった規定のほかに,登録があれば誤った著作権表示を信じた善意の侵害者にも対抗できる(406条),出版後5年以内に交付された登録証は侵害訴訟で反証により覆されるまでは有効な一応の証拠となる(410条),違法著作物の輸入差し止め申請には登録証がいる(税関規則)があり,法案が成立しても頼りがムチだけになるわけではない。

ビリントン館長は「いかなる著作権法の大改正も,LCへの影響を総合的に研究すること無く着手すべきでない」と証言したが,著作権法の目的から離れた反射的利益にすぎない蔵書構築のために,LCが法的にではなく政治的にどこまで頑張れるか,その社会的存在感が問われているといえよう。

坂本 博(さかもとひろし)

Ref: Library officials oppose copyright legislation. LC Inf Bull 52 (6) 111, 1993
Proposal to separate Copyright Office from LC opposed. Libr J 118 (6) 19-20, 1993