CA883 – 衛星通信を利用した文献提供:成果と展望 / 小野左知子

カレントアウェアネス
No.166 1993.06.20


CA883

衛星通信を利用した文献提供−成果と展望−

文献提供の分野では,ISDNを筆頭とする地上系通信ネットワークの発展に押されてやや影が薄くなった感のある衛星通信だが,その技術的な長所は相変わらず有効である。衛星を利用すれば,大容量の情報を高速で一度に複数の受信施設へ伝送できる。受信施設の設置も比較的容易であり,広域への送信も可能である。このような利点を活かした文献提供ネットワークを構築する試みは,西ヨーロッパでもここ10年間続けられてきた。

初期の代表的な実験としては,1980年代初頭に実施されたSTELLA(Satellite Transmission Experiment Laboratories)計画,UNIVERSE(Universities Expanded Ring and Satellite Experiment)計画があげられる。

ほぼ同時期に欧州宇宙機構(European Space Agency)の後援でAPOLLO(Article Procurement with On-Line Local Ordering)計画が開始された(CA521参照)。この実験では,通信衛星による文献伝送システムに,文献リクエストやエラー処理用として地上系データネットワークシステムを連結させることに重点が置かれた。ここで使われた地上系システムは,イギリス電気通信株式会社が開発したX.25である。

このような試みは技術上は一定の成果を収めたと言える。コスト低減の問題は,実用化を進めてシステムを普及させていく中で解決できると考えられ,同種の実験はさらに続いた。大容量のデータを伝送するための技術や,エラーを事前に訂正するシステムも開発された。これらの新技術を組み込んだネットワークシステムには,従来のプロトコル(通信規約)では対応しきれないという事態も生じた。

1991年1-6月に,英国図書館文献供給センター(BLDSC)とBAe/Bishopsgate社との間で,衛星通信をベースとした文献提供サービスが試行された。“Spacetalk”と呼ばれるこのシステムの概要は以下の通りである。文献提供者であるBLDSCからBAe/Bishopsgateの送信ステーションまでは,文献は地上系高速伝送ネットワークを通して送られる。送信ステーションから各地の受信ステーションまでは,衛星通信を用いて高速で伝送する。受信側からBLDSCへの文献リクエストや,送信ステーションヘのエラー処理依頼などは地上系低速伝送ネットワークで行う。このように,数種のネットワークを連結して形づくられたシステムが,全体としてはX.400データネットワークシステムによって統制されている。

この実験は衛星通信を用いた文献提供サービスの実現可能性・実用性を認識させるものであったと言えよう。

衛星通信による文献提供サービスの当面の競争相手は,もちろんISDNである。現在のところ同質のサービスにかかるコストはISDNのほうがかなり小さいため,西ヨーロッパ各地でも大型の通信プロジェクトはISDNを念頭に置いてすすめられているようである。しかし,国家の枠による通信の統制が緩和されてきている状況下では,衛星通信の利点を生かす余地はまだ大きく残されている。進展する通信技術に見合った高度なプロトコルの整備が求められている。

小野左知子(おのさちこ)

Ref: Tuck, William R. Satellite transmission and document supply. Interlend Doc Supply 20 (4) 138-142, 1992
Winfield, R. P. Document transfer by Satellite. Aslib Proc 36 (4) 177-185, 1984