CA880 – クリントン新大統領は図書館界に吉報? / 佐藤幹子

カレントアウェアネス
No.166 1993.06.20


CA880

クリントン新大統領は図書館界に吉報?

アメリカの図書館関係者は,昨年11月の大統領選挙以来,期待に満ちている。新大統領ビル・クリントン氏はアーカンソー州知事として教育援助の実績があり,教育優先の政策を掲げているからである。American Libraries誌は昨年,大統領候補者を対象に図書館問題に関するアンケート調査を行った(CA827参照)。その中で,クリントン大統領(当時アーカンソー州知事)は,図書館の果たす役割を高く評価し,公共図書館は教育システムに欠くことのできないものであるとしている。

さらに,アルバート・ゴア副大統領は,上院議員時代から米国研究教育ネットワーク(NREN:CA857参照)構想を提唱してきた。今回の当選で,さらに構想を推進していく新たな機会を得ることになる。

NRENを利用するには,コンピュータ,モデム,通信用ソフトウェアなどの基本的設備が必要である。そうした設備を持たない人々にとって,公共図書館はアクセス・センターとしてうってつけの場所と思われる。シラキューズ大学のチャールズ・マクルーア(Charles R.McClure)教授は『公共図書館とインターネット/NREN−新しい挑戦,新しい機会』という著書の中で,NRENと公共図書館の問題をとりあげている。

マクルーア教授は,NRENの発達に伴う公共図書館の対応について述べている。第1のケースでは,図書館は情報伝達の技術的変化を無視し,これまで通りの限られた情報サービスにとどまる。第2のケースでは,図書館はネットワークを利用すると共に,充実した資料を備えて,これまでのサービスも保ち続ける。公共図書館は個人と電子情報資源とを結ぶ仲介者の役割を果たす。こうして公共図書館はネットワークが発達した環境でも,自らをNRENの中に位置づけて生き残ることができる。つまり,公共図書館はNRENの一部として重要な機関となるのである。

マクルーア教授のチームがインタビューした公共図書館職員の多くも,国民はインターネットに対して「権利」があり,設備を持たない人のためには公共図書館が役立つと考えていた。ところが,大部分の公共図書館にはNRENの利用に必要な基本的設備が備わっていない。たとえコンピュータがあっても旧式であったり,時間的余裕のある職員がいない状態である。多くの図書館が,予算の削減,職員の解雇,サービス縮小といった問題に直面している。上院議員時代のゴア副大統領の法案は,こうした問題を解決するものだったが,残念ながら前回の議会では可決されなかった。

米国図書館協会(ALA)は新政権に対し,公共図書館のNRENへの参加を働きかけている。大統領就任に先立つ政権移行期間に,ALAワシントン・オフィスは,15,000に達する公共図書館の本館及び分館に基本的設備を揃えるのに必要な経費の見積りを提出した。

○9,600ボーのモデム及び通信用ソフトウェアを備えたパーソナルコンピュータ
3,000万ドル
○通話料金1年分
3,750万ドル
○州立図書館機関のコンピュータ・通信コンサルタントの給与1年分
325万ドル
○研修の費用
450万ドル

計7,525万ドルが必要とされている。

果たしてクリントン大統領の言葉どおりになるのか,NREN構想が本当に国民に役立つよう実現されるのか,今後の政策が注目される。

佐藤幹子(さとうみきこ)

Ref: Bandelin, Janis M. U. S. Presidential candidates comment on library issues. Am Libr 23 (2) 182-185, 1992
An election victory for libraries. Am Libr 23 (12) 904, 1992
Transition transactions. Am Libr 24 (2) 112, 1993
Polly, Jean Armour. NREN for all: insurmountable opportunity. Libr J 118 (2) 38-41, 1993