CA798 – 旧ソ連共産党秘密文書の公開 / 岩澤聡

カレントアウェアネス
No.152 1992.04.20


CA798

旧ソ連共産党秘密文書の公開

英国の出版社Chadwyck-Healeyが明らかにしたところによれば,モスクワの旧ソ連共産党の文書庫に保管されている秘密文書のうち,十月革命の代表的指導者に関するファイルがこの秋公開されることになった。マイクロフィルムで公開される文書は,トロツキー,モロトフ,ジダーノフ等に関して党機関によりきわめて厳密に収集された私信,警察記録等の詳細な個人情報である。

同社はロシア共和国政府から,約7,500万点とも推定されるモスクワの共産党文書庫の資料を全てマイクロフィルム化する契約をとりつけた。秋に販売が予定されているのは,このうち約30万点のコレクションで,価格は8,000〜10,000ドル。ロシア側は,マイクロフィルム販売に際して著作権料の支払いを受けることになる。

これらの共産党文書については,すでに昨年10月にソ連を訪れた米国議会図書館のビリントン館長一行が,その研究利用を促すために,西側の学者や図書館人からなるタスクフォースを組織することでロシア共和国側と合意していた。ビリントン氏によれば,党指導部の報告書や覚書を含むこれらの膨大な文書は,前史を含めて約1世紀にわたるソ連共産党史の完全な記録であると同時に,政権下の74年間におけるソ連外交に関する貴重な史料でもあり,歴史家にとって「金脈」である。

文書は,まず学者らを中心とした整理および目録作業が必要であるため,秋以後の公開スケジュールは今のところ立っていない。資料の一部には,エリツィン大統領が差し押える前に,反古にされてしまったり,持出されてブラックマーケットで売却されてしまったものもあるが,全体としては意外なほどに良く保存されている。いくつかの個人情報ファイルには詳細なインデックスが作成されていたが,トップシークレットであったトロツキーのファイルについては,文書庫職員がインデックスを作ることさえ許されなかったという。

また,関連する話題として,かつて共産主義イデオロギーを支える学者たちの聖域であったモスクワの「マルクス・レーニン主義研究所」の中央党アルヒーフが,「ロシア現代史文書研究センター」と名称を変更し,旧共産党中央委員会のために収集・作成された秘密文書を研究者に公開し始めた。同アルヒーフの保管文書には,4,000通にのぼるレーニンの未公開書簡やコミンテルンの会議の速記録が含まれている。

(最近の報道から補足すれば,ビリントン氏を議長とする国際委員会が,共産党文書の目録とマイクロ化のために優先順位を決定する作業に現在とりかかっている。一方,米国のフーバー研究所とロシア共和国公文書委員会が共同で,300万ドルの旧共産党文書保存プロジェクトを今年4月から開始するとの情報もある。)

岩澤 聡(いわさわさとし)

Ref: LC Inf. Bull. 50 (23), 451, 1991.
New York Times 1992.1.22; 3.11