CA794 – 病院図書館が命を救う / 山田正広

カレントアウェアネス
No.151 1992.03.20


CA794

病院図書館が命を救う

『アメリカ医師会雑誌』1991年9月4日号の投稿欄に,病院図書館から得られる情報が医師の診断や処置にどのような影響を及ぼすかについての調査報告が掲載された。その内容についてはあとで触れるとして,ここではまず,このような調査が実施されるに至った経緯を説明しておかねばならない。

事の起こりはこうである。米国には,社会保障法で定められたMedicare(老人医療保険制度),Medicaid(低所得者医療扶助制度)という二つの公的医療保険制度があり,この制度の適用を受けるために各病院が満たすべき種々の条件が法令によって定められているのだが,1986年の法改正によりこの条件に変更が加えられ,病院に医学図書館の設置を義務づけていた規定が廃止されたのである。この時の法改正は,全体として,連邦法による細部にわたる拘束を緩め,病院側の自由裁量の範囲を広げる方向でのものであったが,図書館設置義務の廃止について,主管官庁である保健福祉省医療費給付管理局は「要求もないのにただ情報を蓄えても医療の質の向上にはつながらない。もし,医療スタッフが図書館を必要だと思うなら,自分たちで理事会に掛け合えばよいのだ」と述べている。

さて,連邦法が改正されたのを契機に,ニューヨーク州が,病院の財政難を理由として,医学図書館設置義務を廃止する規則改正を行った。これについて,同州保健局は医学図書館協会ニューヨーク北部・オンタリオ支部あての1989年3月20日付文書の中で,「図書館設置義務は医療サービスに関わるいかなる問題とも有効な関係を有しないと考えられる」として,州決定の正当性を主張している。

州医師会,アメリカ医師会等は,この決定に対して反対の意を表明したが,それと同時に,病院図書館が医療サービスに与える影響について実証する必要に迫られた。こうして実現したのが,J・G・マーシャル(J.G.Marshall,トロント大学図書館情報学部)らによる今回の調査である。

調査は,同州ロチェスター地区から標本抽出された448名の医師に,実際の診療に際して病院図書館を利用してみるよう依頼し,その影響評価を求めたもので,208名から有効回答を得ることができた。なお,調査にあたっては,同地方の医学図書館員たちの協力を得,費用面では,州教育局図書館振興課の病院図書館サービス・プログラム費からの支出に加え,医学図書館協会からも補助金を受けた。

調査の結果,図書館から得た情報が診療に何らかの影響を与えたと回答した医師が208名中166名(約80%)を占め,中でも,それによって患者の死を回避できたとするものが全体の約19%にもなったことが目を引いた。また,医師たちが,画像診断法,研究所での検査,同僚との討議などよりも,図書館で得られる情報の方を高く評価していることも明らかになった。

下の表は,回答者を1)都市部の病院に勤務するレジデント(研修生),2)巡回図書館員サービスを受けている田園地域の医師,3)都市部の病院に勤務する医師,に分類して集計を行ったものである。

図書館の情報が診療に与えた影響
YESと答えた者の割合
全体
(208人)
レジデント
(52人)
田 園
(43人)
都 市
(113人)
何らかの影響があった
診断を変えた
検査を変えた
薬を変えた
診療時間が短くなった
患者へのアドバイスを変えた
入院が回避された
患者の死が回避された
院内感染が回避された
手術が回避された
余分な検査や処置が回避された
80.4
29.3
50.5
45.2
19.2
71.6
11.5
19.2
8.2
21.2
49.0

88.5
38.5
59.6
42.3
25.0
73.1
7.7
28.8
15.4
30.8
67.3

86.0
14.0
55.8
48.8
18.6
65.1
14.0
14.0
7.0
16.3
37.2

71.7
31.0
44.2
45.1
16.8
73.5
12.4
16.8
5.3
18.6
45.1

連邦法改正時の議論の中で,特に,教育機会に恵まれない田園地域の病院で図書館の必要性が高いとする指摘に対し,政府側は,費用効率性をタテに反論を試みているが,集計の結果は実際にその指摘が正しかったことを示しているようである。

法的な存在根拠を失った病院図書館が,医師および行政の双方に向けて自らの有用性を主張するために,まずは期待どおりの調査結果が得られたといえるのであろう。

山田正広(やまだまさひろ)

Ref: Quinn, Judy. et al. Study shows hospital libraries save lives. Libr.J. 116 (17) 12, 1991.10.15
Joynt, Robert J. et al. Financial threats to hospital libraries. JAMA 266 (9) 1219-1220, 1991.9.4
Medicare and Medicaid programs; conditions of participation for hospitals. Fed. Regist. 51 (116) 22010-22052, 1986.6.17
Raffel, Marshall W., ed. 二宮陸雄監訳 先進14カ国の資料システム 毎日新聞社 1990. 67-69p