CA783 – 図書館とペーパーバック / 林雅樹

カレントアウェアネス
No.149 1992.01.20


CA783

図書館とペーパーバック

ほとんどの公共図書館に文庫本コーナーが見られるようになったが,米国でも大多数の公共図書館がペーパーバックを蔵書に加え閲覧に供している。

Library Journal誌が米国内の公共図書館1,000館に対して行ったアンケートによれば,回答を寄せた館の95%がペーパーバックを所蔵しており,平均すると予算の17%をペーパーバックの購入に充てている。別の統計によれば,1989年度に米国の図書館は6400万ドルをペーパーバックに費やし,いまや公共図書館の購入資料の4分の1がペーパーバックであるという。

米国でも図書館予算は厳しい状況にあり,単価の安いペーパーバックは有り難い存在であるが,必ずしも経済的要因だけで,図書館にペーパーバックが流入している訳ではない。LJ誌アンケートからは,図書館員が利用者の要求を尊重した結果なのだということが見てとれる。結局の所は,出版文化におけるペーパーバックの隆盛,多様化の現状が図書館の棚に反映したということなのだろう。

ペーパーバックには,雑誌のようにドラッグストア等でも売られる大衆的なマスマーケット版と,内容・価格ともに比較的高めでハードカバーと同じ販路で売られるトレード版の2種類があるが,図書館の棚に多いのは前者である。ペーパーバックでしか手に入らないタイトルもあるが,中には人気のあるタイトルはハード,ソフト両版で揃えるという図書館がある。

その一方で,いずこも同じ本の売り上げの伸び悩みに直面している出版界も,ペーパーバック市場としての図書館に注目するようになってきている。図書館への売り込みには,第一に度重なる貸出しに耐えうる丈夫な製本が必要である。そのため,最近のペーパーバックは,比較的質の良い紙や中性紙を使用して,製本も数年前に比べると,かなり頑丈になってきている。また図書館員が選書の際に参考にするのは,専門誌の書評や広告なので,書評に取り上げられやすいハード版を少部数,ペーパー版と同時に発行するという戦術も取られている。

1939年にマスマーケット版の嚆矢であるポケットブックスが登場して,ペーパーバックの歴史が始まった。以来,トレード版の登場や,ハードカバーとの関係の変動を経て,いまやペーパーバックは読書の支配的なスタイルになったと言っても過言ではないが,現在でもサイズや価格,マスマーケット/トレードの区別等は変動しつつある。これは我が国の文庫本と同じく多様化という言葉でまとめられる動きなのであるが,図書館の棚にどういう影響を及ぼすのかは分からない。

林 雅樹(はやしまさき)

Ref: Hoffert, Barbara. The paperback bind. Library Journal 116 (12) 51-55, 1991.7