CA757 – 図書館でもセクハラ!!―あなたもねらわれている― / 山本由美

カレントアウェアネス
No.144 1991.08.20


CA757

図書館でもセクハラ!!−あなたもねらわれている−

残念なことだが,今日の図書館ではセクシュアル・ハラスメント(性的嫌がらせ)はめずらしいことではない。セクハラには,上司と部下といった職員相互のセクハラと,利用者の関与するものとがあるが,以下に紹介するのは,米国における後者の例である。

利用者によるセクハラとしては,図書館の女性職員に見せつけるために,出納台に羞恥心を感じさせるような図版資料を卑猥なメッセージ付きで開けておく,図書館のあちこちをうろつき,女性職員をじっと見つめ続ける,あるいは男性の利用者が女性の利用者をしつこく誘って勉強の邪魔をする,等の事例が報告されている。

こうした図書館におけるセクハラには,次のような共通点が挙げられる。第一に,問題の行為がセクハラかそうでないかを見極めるのが難しい場合が多い。第二に,そもそもセクハラに対して行動を起こすことと図書館サービスを提供することとは矛盾し,また行動を起こす時間も無い。第三に,セクハラの犠牲になった職員は対処の方法や誰に報告すべきかわからず,孤立感,不安感を持つ。最後に,このようなケースは我々が考える以上に広く起きている。

アイオワ州立大学(ISU)はこの問題の解決に真剣に取り組んでいる。セクハラは,本来高潔であるべき大学の環境を脅かし,それと同時に学生としての,研究者としての,また図書館員としての可能性を阻害し,個々人の相互関係まで壊してしまう。こういった理由から,図書館はセクハラの撲滅のためにあらゆる努力をしなければならないとするのである。具体的には,ISUは以下の三つの措置をとった。

  1. セクハラを,故意に身体的,心理的に不快を催させるような行為,およびそうした状況をつくることと定義し,利用者に対して図書館がセクハラの無い環境づくりに取り組んでいることを明らかにするため,ハラスメント・ポリシーを作成した。
  2. 図書館は学内に協力を求め,大学は図書館によって報告された事件を調査することに同意した。必要があれば,告訴することもできるので,セクハラの犯人に刑罰が課せられることもありうる。
  3. 図書館員に図書館のセクハラに対する姿勢や,セクハラが起きた時の対処の仕方を知らせるために会議を開く。

ISUのこうした努力にもかかわらず,今だにセクハラはなくなっていないが,状況は徐々に改善されつつある。ISUの目標はセクハラの全く無い環境をつくることである。

こうした背景には,セクハラが最近ようやく社会的問題として取り上げられ始めた日本と異なり,米国では15年も前の70年代から問題とされているという状況がある。米国では,セクハラに対して公民権法を柱とする法体系をもっている。一方,今のところ,日本の法体系では,セクハラを取り締まる明確な規定はない。わが国でも,『本の雑誌』8月号の投書に見られるように,利用者によるセクハラは現に存在しているようである。しかし,図書館でセクハラの被害にあったとしても,実際には訴える手段もなく,泣き寝入りしなければならないのが現状である。

山本由美(やまもとゆみ)

Ref: Goodyear, M.L. et al. Combating sexual harassment : a public service perspective. Am. Libr. 22 (2) 134-136, 1991
Cates, Jo. Sexual harassment : what every woman and man should know. Libr. J. 110 (12) 23-29, 1985. 7
特集セクシュアル・ハラスメント問題を考える 労働法律旬報 (1228) 1989. 11. 25