CA749 – 統計に見る東西ドイツの図書館事情 / 金子縁

カレントアウェアネス
No.143 1991.07.20


CA749

統計に見る東西ドイツの図書館事情

昨年9月,西ドイツのヴォルフェンビュッテルにおいて「統一ドイツの図書館」と題する記者会見がおこなわれた。その席上で,ドイツ図書館連盟連合(BDB)の年次報告が発表された。内容は,統計からみた旧東西ドイツ図書館事情とその問題点である。

  1. 公共図書館

89年度の西独の図書館数(専任職員をおくもの)は,81年当時の4/3倍に達した。開館時間は週あたり平均26.8時間と,これも延長する傾向にある。職員数は増えつつあるが,80年度当時と比べると96.5%であり,貸出数が多いため,職員あたりの負担は年間1万9,000冊を越えている。受入図書数は4,500万冊であるが,実質購売力でみると,上向きの傾向とはいえ,80年当時の81.3%の状態にとどまっている。

一方,東独の図書館については,正確な比較統計はないものの,明らかに非常に多くの図書館があり,ベルリンを中心として各地の図書館を結ぶネットワークが整備されている。住民1人あたりの購入費も,東は3マルクと西の2.69DMより名目上多くなっている。

しかし問題は,東の図書館は費用は豊かでも東側の資料ばかりで,西側のものが不足していることである。東側の住民が急激な変化に対応するには,新しい知識を吸収しなくてはならない。共産党時代の資料は役にたたなくなり,西側のあらゆる資料−実用書・専門書から文学まで−が求められている。それに応えるため,基本的蔵書をそろえるプログラムに9,000万DMの投入が必要とされている。

また,緊縮財政の影響で図書館が犠牲にならないようにしなくてはならない。市町村レベルの図書館や企業・組合の図書館は維持できなくても,大規模な図書館を残し,ネットワークを確保する必要がある。

2. 学術図書館

89年度の新規受入図書数は,西独では学生あたり2.4冊であり,改善されてきているものの,81年当時の3冊には回復していない。東独では学生あたり5.2冊と,西をかなり上回っている。人員面でも東の方が充実している。西独では職員あたりの学生数が176人であるのに対し,東独では54人と1/3以下の人数である。一方,貸出数では,西独は職員あたり約5,000冊であるのに対し,東独では約3,500冊と,西側の1/3を超えており,学生数と比べると東の方が利用度が高い。もっとも,利用数の伸びからみると,東独の36%増よりも西独の45%増の方が大きく,これは機械化の成果と考えられる。

東独の統計では,西側では統計対象としない小図書館も含めている。また東独では学生数が低く抑えられていたし,出版物の多くが割引価格で購入されていた。そうした事情も統計結果の良さを生んだと考えられる。

東独の学術図書館にとっての問題点はやはりまず西側文献の不足である。外貨割りあてが少ないため,西側の重要文献を入手することができなかったのである。援助プログラムとして,新聞の無料提供やパートナー関係にある図書館からの援助,州・連邦・民間基金によるプログラムがすでに実行されている(CA712参照)。教育学術省のプログラムは,学生1人あたり10〜15DMの資金を各大学に与え,大学図書館が自分で書店に注文するシステムになっているため,蔵書充実だけでなく購入ノウハウの獲得や書籍流通の整備に役立っている。また,学術協議会(Wissenschaftsrat)の3億DMの援助は,蔵書の遡及的充実に役立てるため,今後12年間にわたって分割して使用されることになっている。

その他,機械化の推進(大学中央図書館の目録作業機械化のための設備など)や,急増する蔵書に対応できるスペースの確保などが問題となっている。

3. 地域外貸借

西独では,80年代の大学図書館の資金難に加え,東独からの貸出要求によって,地域外貸借の負担が大きくなっている。中央専門図書館が遠距離貸出を処理できるよう,追加資金が必要と思われる。また,旧東独の図書館からの貸出要請は,地域ごとに分担して受けもつことになっているが,文献供給を根本的に改善するためには,貸借システムの機械化や蔵書の充実を進めなくてはならない。

以上の発表から,旧東独の図書館は,組織や職員数では比較的良かったようである。しかし西側の資料が不足していたため,新しい知識を求める住民や学生に応えられずにいる。蔵書購入資金を得るため,BDB他の図書館連盟は,連邦・州・市町村,及び市民の協力を呼びかけている。なお,公共図書館については,西の公共図書館による援助が行われている他,作家の呼びかけで購入費寄付の市民運動も始まっている。

購入図書の選択のためには,旧東側の中央研究所(ZIB)が公共図書館向け選書リストを定期的に配布している他,遡及的な蔵書充実のために,ZIBと書籍取次会社の共同プロジェクトとして,86〜90年に西側で出版されたものについての選書リストを作成中である。

金子 縁(かねこゆかり)

Ref: Mittler, Elmar. Bibliotheken imzusammenwachsenden Deutschland, Bibliotheksdienst 24 (10) 1325-1340, 1990
Jonas, Gisela et al. Bestandserneuerung durch Titel aus der westdeutschen Buch-produktion der Jahre 1986 bis 1990. Der Bibliothekar 44 (11) 642-646, 1990