CA745 – ラオスの近代史を映す未整理のフィルム資料群 / 宮島安世

カレントアウェアネス
No.142 1991.06.20


CA745

ラオスの近代史を映す未整理のフィルム資料群

ラオスの首都ビエンチャンにある国営フィルムビデオ株式会社(SFVC)は,最近ドキュメンタリーの膨大な遺産を継承した。それは,16ミリフィルムの未整理資料だが,ラオスの近代史を知る上で貴重なものである。内容は,王宮の儀礼から民族儀式,農業拡大の訓練や,戦闘ニュースに至るまで様々な分野が含まれている。ビエンチャンに500リール,旧都ルアンプラバンに3トン近く,また,どういう経緯を経たか解らないが,1975年以前から,国際フィルムアーカイブ連盟(FIAF)の指示のもとにラオスのフィルムを管理しているベトナムの,ハノイに6トンのリールが分散して,その多くが湿気のため劣化したまま所蔵されている。SFVCは,情報文化省の下で海外のラオス人に国内状況のビデオを,国内むけには,中古の外国映画フィルムを買い提供していた。最近,情報文化省から独立し,1989年にはラオス語の長編映画も製作するなど,一本立ちにむけて奮闘中であるが,その矢先にこの記録物の管理をひきうける任務を与えられてしまった。

その背景には,400万近くの人口をかかえ,困難な経済下にあるラオス政府が,1975年新政権発足当時,とりこわしたり,その後も軽視していた伝統的文化を,最近になってみなおし,文化的財産の復興に力をいれてきたという状況がある。2年前には社会科学委員会ができ,ユネスコの援助の下,ワット・プーという古い寺の修復を行った。やしの葉に書かれた18世紀半ばの写本(まだ目録化されていないが)の修復もなされるはずである。「このような改修活動が始まったのは,この3,4年の経済自由化に伴って起ってきた地方分権傾向に由来する」とアジア基金の副代表者ジェームス・クレイン氏は語る。SFVCには68人のスタッフがいるが,それらのフィルムの収集と分類に従事するには,人材も財源も不足している。資料の維持費については今まで無料だったベトナムから,今後は維持費を払うか,現物を引きとってほしいと言ってきているが,金不足で出きない状態であるという。仮りに全ての資料をビエンチャンに集めても,湿気の多い気候は保管に不適で,フィルム劣化を防ぐには,かなりの配慮と技術が必要である。ラオスの政府と,海外援助機関が,何か方策を用意するかもしれない。しかし,ドム・スクオン氏(7年前,バンコックに,ほとんど自力で国立フィルムアーカイブをつくった,タイのアーキビスト)は,次のように述べている。「ラオスのフィルム・アーキビストたちが,当面必要なものは,エアコンの設備と,フィルム修復のための簡単な機器類であり,SFVCがこの段階で必要とするものは,それらのものと,何らかの具体的な第一歩である。」

宮島安世(みやじまやすよ)

Ref: Murthy, S. Reeling back the past. Far Eastern Economic Review 151 (9) 28-29, 1991. 2. 28