CA670 – アジア・太平洋地域の科学技術情報ドキュメント・サプライのパイロット・プロジェクト――オーストラリア国 / 中野捷三

カレントアウェアネス
No.130 1990.06.20


CA670

アジア・太平洋地域の科学技術情報ドキュメント・サプライの
パイロット・プロジェクト−オーストラリア国立図書館−

<ASTINFO>

アジア・太平洋地域の満足すべき状況にない科学技術情報流通を改善するため,ユネスコは総合情報計画の枠組みの中で,1983年10月「アジア・太平洋地域科学技術情報・経験交換ネットワーク事業(ASTINFO)」を発足させた。その大きな目的は,地域内における科学技術情報の交換・組織化のネットワーク構築にあり,具体的には,1)データベースの開発と拡充,2)特定分野における情報,データ,経験等の交換のための専門ネットワークの開発と拡充,3)協力ヘの一般的枠組みの確立,4)情報専門家および利用者の訓練養成,を目的としている。

本部はタイのバンコックにおかれ,専任職員2名が配置されている。参加国は,オーストラリア,中国,インド,インドネシア,イラン,日本,韓国,マレーシア,ネパール,ニュージーランド,パキスタン,フィリピン,スリランカ,タイ,ベトナム。国内調整機関として各国では国立図書館,科学技術情報機関,担当省庁がその任にあたっている。わが国では,日本ユネスコ国内委員会自然科学委員会総合情報計画分科会が調整ユニット(ASTINFO Co-ordinating Unit; ACU)として,その受け皿となっている。

ASTINFOの目的にそって現在行われている事業としては,ニューズレターの刊行配付,専門家会議(情報マーケティング,CD-ROM等)の開催,CDS/ISIS(Computerized Documentation Service/Integrated Sets of Information System),機械翻訳・電子メールに関するパイロット・プロジェクトの提案,そして次のドキュメント・サプライ事業がある。

<科学技術情報ドキュメント・サプライ事業>

この事業は,ASTINFO発足当時から同国の調整ユニット(ACU)の役割を担っていたオーストラリア国立図書館(NLA)が,昨年(1989)5月からユネスコと共同して開始したもので,地域内におけるドキュメント・サプライの現況を把握し問題点を明らかにするため3年間のパイロット・プロジェクトとして行なわれるものである。

参加国は,バングラディシュ,中国,インド,インドネシア,イラン,韓国,マレーシア,ネパール,パプア・ニューギニア,パキスタン,フィリピン,スリランカ,タイ,ベトナムの15か国。

事業を始めるにあたり,ユネスコはNLAに対し運営費およびコピー代金の一部充当分として11,000米ドルを出している。広くオーストラリア国内の図書館では,コピー代金支払方法としてオーストラリア図書館協会作製のクーポン券(1回につき6豪ドル)が使われているが,ユネスコはそのうち4豪ドル分を負担し,残りの2豪ドルをコピー依頼をした国または機関が支払うこととなっている。

このプロジェクトの真の目的は,文献のコピーを格安に提供することにあるのではなく,参加国内の科学技術情報流通体制の整備を促進することにある。そのため,NLAでは向う3年間各国の実績を詳細に分析・検討するための基礎資料となるべき報告書を作成することになっている。

NLAがアジア・太平洋地域の図書館に対してさまざまな援助・協力を行なっていることは次の文献にくわしいが(「アジアの図書館発展にオーストラリアが果たす役割と貢献」J. Adams. IFLA東京大会ペーパー 203-ASIA-7-J;「南西太平洋および東南アジア地域における図書館間貸出・複写の現況」J. ストーン,『アジア資料通報』27-3 1989. 6)このパイロット・プロジェクトを引き受けたことにより,NLAのこの地域におけるプレゼンスは一層重要なものとなろう。

中野捷三

Ref. Library cooperation in Asia & Oceania; the role of the National Library of Australia. Jan Fullerton. (4th CDNLAO, Beijing, Dec., 1989, Paper)
IFLA Journal 15 (1989) 3
The ASTINFO Newsletters v.4 No.3 Sept, 1989.