CA655 – ポンピドーセンター公共情報図書館前館長ミシェル・ムロ氏の来日講演 / 門彬

カレントアウェアネス
No.127 1990.03.20

 

CA655

ポンピドーセンター公共情報図書館前館長
ミシェル・ムロ氏の来日講演

1983年から昨年12月末日までパリのポンピドーセンターの公共情報図書館(B.P.I.)の館長であったミシェル・ムロ氏が日仏図書館学会の推薦により,日仏会館の招聘で新春早々来日した。氏は美術史とりわけ版画史の専門家として名高く,国立図書館(BN)の写真・版画部長(1981-1983)を務めた経歴を持っており,この分野で多数の業績を残している。近年はこうした学殖を背景に,図書館における画像資料の復権,再評価を唱え,再先端技術を用いた画像ドキュメンテーションの先駆者としてフランス国内はもとより国際的な舞台で精力的な活動を行なっている。また,フランスの図書館界でのムロ氏のもうひとつの大きな役割は一昨年来ミッテラン政府が進めている「フランス図書館」(新国立図書館)の計画策定の中心人物のひとりとしての役割である。大統領がこの新国立図書館建設の構想を発表したのち,政府の委嘱で氏とBNの運営審議会委員長P.カアール氏とが作成したムロ/カアール・リポートはこの計画の叩き台となった。

日仏図書館学会の求めに応じて氏は東京で2つの講演を行なった。

ひとつは1月10日夕,御茶ノ水の日仏会館で,同会館,日仏図書館学会,日仏美術学会,およびアート・ドキュメンテーション研究会の4者共催の「フランスにおける画像ドキュメンテーションとニューメディア」と題した講演で,B.P.I.を始めとするフランス各地の公共図書館や最近建設されたアラブ世界研究所,ラ・ヴィレット科学技術都市の「メディアテック」等々における会話型ビデオディスクシステム,CD-ROMによる蔵書目録,図書館ネットワークにおけるビデオテックス(文字・画像の遠隔通信)の利用,さらには一部の図書館ですでに導入されているロボットによる出納の例,現在フランスで爆発的に普及している家庭用端末機「ミニテル」による図書館目録の遠隔検索の試みや予約出納等々の例を静止画ビデオやスライドを混じえて紹介した。フランスにおける伝統文化とニューテクノロジーの結び付き,ハード面での発達と図書館自らが開発するソフトの豊富さには目を見張らせるものがあったが,それ以上にフランス人の自国の文化に対する愛着の強さを感じさせる講演であった。

もうひとつは前述の「新フランス図書館計画」と題する講演で,日仏図書館学会と国立国会図書館との共催で11日午後,同館の研修室で行われた。この講演においてもビデオとスライドを混じえ,BNの現状と新しい国立図書館の計画の概要が紹介された。新国立図書館がニューテクノロジーを駆使し,かつ映像資料を取り込んで,すべての利用者に門戸を開いた大図書館となることが強調された。1991年1月工事着工,1995年開館を目指して現在,図書館の専門家,建築家,行政当局が新図書館の機能および建物の細部について検討を行なっているとのことであった。

ムロ氏は国立国会図書館の関西館プロジェクトに強い関心を示し,講演の前後に関西館設立本部関係者と熱心に懇談を行なった。席上,氏は日仏の国立図書館間で今後継続的に情報交換を行なっていくことを提案した。

なお氏はこの1月1日付で,文化省,国民教育省,それに研究・技術省が協同で新設したフランス図書館高等評議会(Conseil Superieur des Bibliotheques)の副委員長に就任した。同評議会はこれまで各省がそれぞれの管轄の図書館に対してバラバラに行なってきた政策を改め,一貫性を持たせるべくフランスの図書館行政全般を統括していく機関である。各省から各々6名の委員が出て,予算も等分に負担するということである。

門  彬